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ある王子の場合

 「もう怒ったぞ。お前とは結婚しないからな!」

 「分かりました。婚約解消ですね。っ、危ない、殿下!」


その時閃光と共に、執務室の窓から何かが入ってきた気配がした。とっさに王子キャンベルを庇う婚約者アーミン。


「なんだったんだ、今のは」

キャンベルが眩しさから閉じていた目を開ければ、そこには黄色くて大きなスライムがいた。


「うあぁー!! 何だコレ!」

恐れおののくキャンベルに、黄色いスライムの方から声が聞こえた。


「もう。何ってスライムでしょ! さっき窓から殿下を捕食しようと入ったようです。私が捕らえましたので、騎士を呼んで来てくださいな」

「え、アーミンが中にいるのか? お前大丈夫なの?」


急にオロオロしだしたキャンベルに、アーミンは答える。

「ああ、問題なしです。ただこいつ雷属性みたいで、触れた時ちょっと火傷しました。その後すぐに私が石化して、スライムの表面膜を挟みましたから、逃がしませんよ。だから人を呼んで………」


「馬鹿、もう馬鹿! 女の子が火傷なんかしちゃ駄目だろっ?」

「何ともないですって、これくらい。これ込みの婚約者なんで。でも解消したんでしたっけ?」

「っく、もう。お前なんか嫌いだ。ぐずっ、ぐすん……」



その後すぐ、異変に気づいた近衛騎士が訪れて、スライムをどけてくれた。雷属性のスライムは相手を電気で麻痺させて捕食する怖いモンスターだ。ただヒットポイントは少ない。


おそらく王子の膨大な魔力に目がくらみ、隙を狙ったのだろう。女1人くらい数に入らないと思い。


近衛騎士が魔法でブリザードを浴びせたことで、呆気なく死んだ後、石化したアーミンが姿を現した。石化しても声が聞こえたのは、魔力で思念を音に変えたからだ。


石化を解く前に、キャンベルが大泣きして彼女に縋りついた。

「もう、お前はいつも無理をして。怪我したり、死んだらどうするつもりなんだ! お前が傷つくのは見たくない。けど婚約解消はイヤだよ~」



それを見た近衛騎士達は空気を読み、スライムの残骸を片付けて、そっとその場を後にした。


アーミンはまだ石化したままだ。




◇◇◇

この国の王族は魔力が強く、成人する18才まで魔力が封印され使えない為、一番身近な婚約者を強き者が担当する。あくまで仮の婚約者である。

美醜関係なく、年齢の釣り合った強者がなる為、無事成人すると婚約解消をすることもある。それは婚約証明書に盛り込まれていた。


そもそも女性の方が強いので、貞操の危機はなく。逆に王子の貞操が心配されるので、その辺も考えて婚約はなされていた。権力に振り回されぬ家門で、本人も王子妃なんて興味がない人材に。


なので家柄は低くとも、貴族ならOKにしていたのだ。


キャンベルも例に漏れず、彼が10才、アーミンが6才の時に婚約した。辺境伯家の次女で、既に騎士と共に魔獣を屠る腕を国王に見込まれたのだ。辺境伯は大事な戦力を奪われることを嫌がるほど、アーミンは強かった。


「すまん、辺境伯よ。王子が成人したら褒賞金をたくさん持たせて帰すから、王子を守ってくれ」


そう言われたら断れない辺境伯。王女は2人いるが、王子はキャンベル1人だからなおさらだった。きっと王子も淑やかな女性を好むだろうから、アーミンはここに帰ってくると言う目論みもあった。


聡い王子は自分の立場を分かっていたが、女性に守られることがどうしても不満だった。自分だとて剣技には自信があると思っていたから。

でも………。彼を狙うのは人よりも魔物なのだ。剣技だけでは太刀打ち出来るはずもなく、寝室も一緒で常に守られる状態だった。


キャンベルは自分より年下で、夜も寝ないで自分を守るアーミンに申し訳なさを感じていた。はじめは反発だけだったが、滅私な様子に心を動かされていた。時々うたた寝するあどけなさに、気持ちが温かくなるのを感じてもいた。


だからあまりにも前線に出て、傷つく彼女を見ていられず喧嘩になっていたのだ。


でも黄色いスライムから声が聞こえた時、アーミンがスライムにされたのだと思った。一瞬で呪いをかけられ変化させられたのかと。


瞬時に思ったのが、「スライムになっても良いから、共に生きたい。死なないでくれ」と言う思いだった。


それを石化のままのアーミンに伝えるのだから、聞いている方はたまったものではない。


(えー、どうなってんの? いつも喧嘩ごしで突っかかってくるから、嫌われていると思ったのに。こんな告白ズルいよ)

石化のまま照れているアーミンは、気まずくて元に戻れず、キャンベルは心配のあまり恋情をぶつけ続ける。


アーミンのヒットポイントは、戦いの時より激減りである。

心配で駆けつけた美しい婚約者候補達も、これを聞けば諦めた。

「なんて馬鹿馬鹿しいこと。父上に言われて城まで婚約者教育を受けに来ていましたが、もう決まりではないですか」

「ええ、そうですわ。こんな熱い2人を邪魔するなんて、当て馬以外の何者にもなれませんわ」

「ね、言った通りでしょ? 王子はツンデレですのよ。普段は肝心なこと一つ伝えないから、アーミン嬢から1ミリも意識して貰えなくて悩んでいるようですし」


「「「もう帰りましょ」」」

婚約者候補達は、父親にこのことを伝えるべく帰宅した。


残されたキャンベルとアーミンは、その後も暫く遠巻きに放置されていた。


「やっと言えたようですね、殿下」

「ああ。だけど石化のまま言われるのもどうかと」

「まあ良いんじゃない。熱い告白!」

「でもさ、いつ戻るんだ石化?」

「いつでも戻れるわよ」

「………あ、あー、そうなんだ。う~んと、じゃあどうする?」

「そろそろ殿下を剥がすか?」

「そうだな、もう30分経つし」

「アーミン様が、くふっ、可哀想だからね」


キャンベルは告白に真剣で周囲の声は聞こえないが、アーミンには届いていた。

(あー、もう。この辺で許して。殿下の気持ちは分かりましたから。恥ずかしい)


そして石化を解いたアーミンは、ぐったりしていたので寝室で休むように促された。今日のキャンベルは、他の護衛と共に眠りに就く予定である。


その後少しだけぎこちない2人であったが、すぐにいつも通りとなり、キャンベルもツンデレに戻っていた。



アーミンの父、辺境伯だけが反対したが、成人後もキャンベルはアーミンを離すことなく結婚した。


「ねえ、キャンベル様。たしか一度、結婚しないと言われませんでした?」

「………怒ってるのか?」

「いいえ、まさか。殿下の気持ちは、さんざん聞かせて頂きましたから」

「……………。そうか」

赤面するキャンベルと、それを見て微笑むアーミン。

アーミンが主導権を握ったようだ。


アーミンは石化を解いた後、殿下の気持ちに気づいていないのは自分だけだったと聞かされ、再びダメージを受けていた。


今は魔力漲るキャンベルが、今度はアーミンと生まれた子供達を立派に守っている。



キャンベルは時々思うことがある。

もしアーミンがスライムになっても、中味がアーミンなら共に生きられたと思う。あの時に彼女に出来た火傷は今も腕に残っているが、彼女が気にしても自分は気にならない。


きっと、そう言うことなんだろう。



外で遊ぶ子供達の、楽しそうな声が聞こえる。

そしてまた、王子には強い婚約者が選ばれていくのだ。



これで完結ですが、また続きが書きたくなったら書こうと思い、連載にしました。最強の婚約者的な。

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