9
あれからムスビは『俺がこの国にいるってことはまだ秘密ね!言ったらヒドいんだから!家族は大事でしょ!』と、悪ふざけ混じりに、国の重鎮たちに言うと、全員が顔を青くして、神に誓ってとまで言って口を閉ざすことを約束してくれた。
これで権力者の情報防波堤は完成っと。これで多少、【禁糸】のシオンとしてオイタをしても問題ないだろう。
うん、別に言ってくれてもいいんだけどね、たぶんすっごくこの国にとってデメリットだろうけど…。
具体的にいうと、たぶんこれから下手をすると…というか、何もしなければ今すぐ滅ぶことはないにしても、あの王子が王になった辺りで確実にこの国は攻め滅ぼされる的なことが起こるだろうけど…。
でも、そんなことはムスビは言いはしない。
不安を煽らないため?いや、単にそれほどこの国に興味がないのだ。
なにせムスビからすれば、まだこのリースという国に対してそれほどの思い入れも、投資もないのだから。
要するに、アーキテクト王と王子に嫌がらせができれば、それでいい!!キリッ!
…それがムスビのプライオリティである。
さてさて、実のところ、魔王討伐も付き合いであり、大して興味なく、アーキテクト王国前王が崩御し、楔から解き放たれていたムスビは、ずっと次なる目的意識、目的地を探していたのだと今更自覚したわけだが、今はそんな話はいいだろう。
現在、ムスビはリース王と2人、階段を降りていた。
そこは王都…王城の地下だろうか、王の自室の何重もの個別認証をクリアし、ようやく解かれたそれをくぐり抜け、一本道を行く。
明かりは代々伝わっているという手持ちの魔道具のみであり、ムスビとしてはバーッと光属性魔術なりで照らしてやりたい気分になるが、それはやらないでいる。
なにせこれだけのセーフティロックが掛けられているのだ。
下手なことをしようものならば、この階段が崩壊するなりしかねない。
このようなレベルの仕掛けが成されているということは、間違いなくアーキテクトなどとは違って、龍脈は正統に受け継がれており、現在、ムスビは少しばかりリースという弱小国家の印象を改めた。
この階段はかなり長く、無言で目的地までと言うのは流石にない。暇を持て余した2人は共通の友人であるアーキテクト前王の話をするのだった。
「…ところでムスビ殿はどうやって前王と知り合ったので?」
「確か何だったか忘れたけど、たぶん恩賞を貰った時少し話して…。」
それから前王が会うたびに話しかけてきて、時折寂しそうな顔しているから、茶のついでに話を聞いていたんだっけ?
息子や娘がどうとか、孫まで野心家でギラギラとした目で玉座を見ているだとか…。
そんな家の事情から、昔、かみさん…妃に浮気がバレて殺されかけたこととか…。
そんな王としてではなく、完全に個人的なことをメインで話された記憶がある。
なぜムスビにアーキテクト前王がこんな態度を取っていたのかというと、もちろんムスビがSランクで政治的な…というのが、あったのは間違いない。
でもそれは本当に最初の方のみであり、個人的な会話などする前のことだ。
そんなふうになったのは、ムスビが自分の手には負えないと諦めてからのことである。
なにせムスビは若くして…いや、幼くしてSランクという立場になっており、それ故にかなりやらかしていたのだから。
それからというものの、爺さんこと、アーキテクト前王は、単的に言って、実の孫よりムスビのことを可愛がっていた。
まあ、ムスビからすれば、知ったことではないが…。
なにせ…。
もうあの爺さんが死んで3年か…そういや墓どこにあるんだろ…。
…もしかして墓参りに来るの期待してたりして?
…まあ、そんなことは今はどうでもいいか…。
…とにかく…と、はっきり言ってしまえるのだから。
「…なんかよくわからないけど、懐かれたんだよね。」
「……(いや、爺さんを小動物みたいに言うのはやめろ。)…そうか…そうだったか…うむ…。」
まあ、家族のことをそんなふうに言っていた爺さんもかなり性格がねじ曲がっていて、国のためになるならと、無関係…自分が傷つかなければ、ムスビ以外の友人相手にかなりエグいこともしていたとムスビも知っているわけだけど…っと。
そんなふうに悪巧み顔の爺が頭に浮かんだ辺りでうっすらだが青い光が視界へと入ってきた。
「そろそろだ。」
そんな王の言葉を聞くなり、少しばかり速りだした気持ちを抑えつつ、数分。
ようやく目的地たるこの地域…いや、国の龍脈の中心地たるところへと辿り着く。
ここはムスビが見てきた龍脈の中心地からすれば、かなり保存状態がよく、壁や床などのどこにも戦闘跡がなかった。
ただそれほど強い力がないのか、引き出す設定がされていないのか、はたまた精霊たちが通らないのかはわからないが、その蒼き光はそれほど強くない。
さて…と、ムスビはマジックバッグから1つの光り輝くクマのぬいぐるみを取り出し、その光の側に置くと、要件は終わったとばかりに王に告げる。
「もういいぞ、帰ろう。」
「む?もうよろしいのか?」
「ああ、もう終わり。」
ムスビがそう告げると、王はガキの使いでもさせられたとでも思ったのか、なにか言いたげだったので、彼はなんの意味があるのかだけ伝えた。
「これは俺がこの国にいる証。あっ、ちなみにもう俺、ここには1人で来れるから、次になにか頼むことはないから安心して、ちょ。」
「……。」
どうやらムスビのこの言葉はより王を不安にさせたようだ。
王はなにを言うでもなく、ムスビに先行する。
それから幾ばくか…もし10分かそこらここに留まることがあれば、王も安心…いや、これからのことに期待に胸を膨らませたことだろう。
…なにせそこには小さな様々な色の光が集まり始めていたのだから。
そして、とあるこの空間の全てを照らし出すほどの光を秘めた少女が真っ先にそれをかき抱き、それで遊び始めた。