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「つまり手柄を寄越せ…そう言っていると認識してよろしいか?」
糸音ムスビは王前でそう発言した。
いや、そう発言したというのは、主導的に彼がそう口にしたように聴こえるか…失礼、正確にはそう受け答えた。
糸音ムスビは冒険者である。
彼は長年連れ添った友人が勇者として選ばれたこともあり、現在Sランクという最上位冒険者の1人である彼もまた、もう1人と同様に、その同行者として選ばれた。
「まったく通りで、魔術のみの使用などという縛りに加え、こんなフードに仮面なんてものを着けさせたのもそれが理由ですか…。」
ムスビはフードを取り、仮面を中央から真っ二つに割った。
「フフフ、儂の息子が勇者一行だった。それだけのことだ。」
王の返答は芳しくない。
それどころかなんともきな臭い雰囲気がこの場に流れている気がする。
これはなんとも面倒なことが起こることが予測され、そんなことは避けたいからと、揉める時間すら惜しんだムスビは頭をかくと、王に向かって片手を手を差し出す。
「はあ…もう手柄とかはそれでいいんで。じゃあちゃっちゃと報酬だけくれません?」
ムスビは譲歩した。それも大いに。
それはそうだろう。この手柄というものはこの国…いや、世界的に見ても多大なもの。
魔王討伐の手柄。
その名誉を何もしていない王子へと譲るのだ。間違いなく、この国の王族のブランド力というものは跳ね上がる。やり方次第では大国と肩を並べるほどのそれへと駆け上がることさえ難しくはないだろう。
それほどに大きな利益をこの国にもたらす。
ムスビは内心少しくらい色を付けてくれるくらいのことを期待してもバチは当たるまいと思っていた。
しかし…。
「報酬?なんのことだ?」
そう王が口にした瞬間、時が止まったように感じた。
隣りにいた大臣なんかも大口を開けてぽかんとしている。
「………は?」
その短い一文字はムスビのそれ。
「それはどいういう…。」
そうムスビが声を上げるなり、王が手を振るった。
ガチャガチャという音があちらこちらからと鳴り響く。
そして、彼の周りを囲った。
「……これはどういうことだ、王?」
これは王の護衛たち確かにいつもより数が多い気がしたが…。
「……客人がおかえりだ。」
…コイツ…。
ムスビは冒険者である。これをしつこいだろうが、もう一度言わせてもらう。
冒険者とは、金で依頼を受ける仕事である。
どんな危険な依頼であれ、その金額に見合えば受ける。
それで死んでも文句を言うのは間違いだ。そうムスビは誰であろうと断言できる自信があった。
そんな彼相手に王は…この無能な禅譲王は舐め腐ったことを言ってきたわけだ。
フフフ、やってやったとばかりに笑う王。
…コイツ…本気で俺相手に踏み倒す気か…。
そりゃあ抵抗する。まあ、それが普通だろう。
しかしながら、ムスビはそんなことは一切せず、ただただその無駄に整った顔に冷笑を貼り付けた。
「……後悔することになるぞ。」
「フッ、それはどうかな?」
そうして、謁見の間を後にした。
「…ニコッ。いい加減その手を離せ、兵ども。」
「貴様何を…っ!?」「っ!?」
両脇でムスビの腕を持っていた2人の兵は見てはいけないものを見てしまった。
彼らが腕を掴んでいた相手が殺気を放っていたのだ。
いや、確かに城勤めなんてしていれば、そんな相手は慣れたものである。しかしながら、その相手は両手を封じられているというのに、自分たちなど一瞬で亡き者へとできるような気がして…。
2人はムスビの手をすぐさま離すと、彼の顔がまるで見えないほど、しっかりと頭を下げた。
「「も、申し訳ございませんでしたっ!!」」
「……わかればいい。それじゃあもう2度と来ることはないだろうが…いつまでもこの国が持つといいな…。」




