ヌータン
見ていただいてありがとうございます。
海の中にもぐってごらん。
海底まで沈んでいくと、扉があるだろう。
扉を開けてごらん。
その扉は、君をとっても素敵なところに連れてってくれるよ。
本当さ。扉を開ける前に、注意しておきたいことがあります。
扉は、ほんのちょっと、そうほんのちょっと開けて。そうすべり込むように…
ちょっちょっと待って!そんなに全開にしないで!!やつらに知られちゃうから。
それじゃあ、素敵な世界に行こう。
気が付くと、奈々加はどこか知らない所にいた。
「ここはどこだろう?」
奈々加は呆然とした。
さっきまで学校からの帰り道を歩いていたはずなのに、突然強い光が光ったと思ったら、ここに立っていたのだ。
「やあやあやあ、初めまして。」
奈々加の近くに、円盤型のロボットに乗った白衣を着たリスが、やってくる。
「ぼくちんの名前は、リス野だよ。リス野博士と呼んでくれ!!」
「私の名前は、ノーロックと言います。よろしくお願いします。お嬢様。」
「うるさい。ぼくちんの勝手だよ。あーあついに、ついに。若い女の子に抱っこされるって夢がかなうんだ。」
「おやめください。博士。」
「うるさいな。お前は、黙ってなさい。」
「でも博士。」
「うるさいってば!!」
リス野博士は、奈々加に飛びつこうとした。だが、奈々加にまであと、リスの手一つ分までの所で、ノーロックにしっぽを捕まれ、頭から地面に突っ込んでしまった。
「昨日より、体重が五キロほど増えています。このまま奈々加様に、飛びついた場合、奈々加様が腕の痛みをうったえる確率90%。」
「それじゃあ。ぼくちんが、怪我してもいいわけ!?」
「いいです。」
「こんのぽんこつロボット。ぼくちんを誰だと思ってるのさ。お前を作ってやった世界一……」
「小さい!」
「大天才発明家!て、小さいってゆうな!」
「申し訳ございません。お嬢様。」
「いえいえいえ。」
「お召し物が汚れております。」
ノーロックがブラシで服の汚れを落とす。
奈々加はふとノーロックについている赤い木の実や松ぼっくりでできたブローチに気が付く。
「あのノーロックさん。」
「なんでしょう?お嬢様。」
「そのブローチ素敵ですね。」
「ありがとうごさいます。ただいまお部屋にご案内いたします。」
その日は、何事もなく一日が過ぎた。疲れていた奈々加は、部屋に入るなり、ベットに倒れこみ寝てしまったので、それ以外のことはなかったと言うのが最適かもしれない。
次の日は、リス野博士の発明品を見て過ごした。
リス野博士の作る発明品は、どれもこれもがいかにも小動物らしい物ばかりで奈々加は苦笑いをしながら話を聞いていた。
「次に説明するのは、自動クルミ割り機だよ。こう自動でクルミを割ってくれて食糧庫の中にいれてくるんだよ。」
「あのお手洗いに行きたいので、言ってきてもいいですか?」
「えーーーー次のがおもしろいのに。」
「お花摘みでございますね。ではご案内……」
「いえいえいえ。自分で行けますから!!」
「そうですか。それではお伴いたしますのは、無粋でございますね。お場所は、ご存じでございますか?」
「はい。ご存じでございます。」
「待ってるよ。早く帰ってきてね。」
「はい。」
そう言って奈々加は、勢いよくドアを閉めた。
ドアに寄り掛かるとため息が漏れる。
「ふぅ発明品はいいんですけれど、全部小動物の皆さんが使うように作られていて、全部小さかったです。どれもたいしたことがないと言いうか……このまま戻るのは嫌ですし。まだ見てない部屋もあります。よし探検してみましょう。」
こうして奈々加は、歩き出した。
それから数分後、奈々加の目の前には、ドアがあった。装飾が施された木製の茶色いドアには、ほこりがつもり何年も掃除がされていないことがわかる。
「このままこうしていてもしょうがありませんね。」
奈々加は、ドアを開けた。
その部屋には、中央に置かれた寝いすの他には何もなかった。その代わりあったのは、無数のクモの巣と積もったほこりだけだった。
寝椅子には、人形が座っている。
「こんにちは。ってあなたが答えるわけありませんよね。」
奈々加の声に反応するように、人形の頭が、ギギギっと動いた。
「誰?あんた。」
「わっ人形が動きました。」
突然動き出した人形に驚いた奈々加は、腰を抜かす。
「大丈夫?」
人形は心配の声をかけてくるが、言葉とは裏腹に何もしない。
奈々加の心は、悲しいという気持ちと、人形とはこういうものかという諦めの気持ちでいっぱいになった。
「あんた本当に大丈夫?」
「はい。大丈夫です。」
「でも本当に大丈夫?」
「本当に大丈夫ですったら!!」
言い合っているうちに奈々加の中でマグマのような苛立ちがふつふつと沸いてくる。
「いい加減にしてください!心配してくれるなら、立ち上がって手を貸してくれも良いんじゃないですか?」
「うっそうね。けど私は、立てないの。」
「どうして立てないですか?やっぱり人形だから?」
「うるさいわね。前は、立ててたわよ!」
「じゃあどうして今は立てないですか?」
「わかった。話すわよ。私はね、椅子取りゲームに負けたの。
それもあのリスに!!その時に足を壊したのよ。」
人形は、ドレスの裾をあげる。そこには、陶器で出来た足であったはずのものがあった。体から伸びる太ももの部分がひび割れ、そこから先の部分が欠けてしまっている。
「うわあ酷い。けどリス野博士が、とてもそんなことするようには、見えませんけど。」
「あなたは騙されてるわ。あのリスわね。とっても悪いリスなの!」
「この星には、一年に一度椅子取りゲーム大会が行われるの。優勝者には、何でも願いが叶うのよ。リスは去年優勝して、科学の力を得たわ。」
「科学の力って?あの発明品たちのことですか?」
「そうよ。それも明日で終わり。ちょうど一年たつわ。」
「はぁ。」
「それであなたにお願いがあるの。」
「なんですか?」
「ここを出たいから足の代わりを探してきてほしいの。」
「わかりました。」
奈々加はそう答えた。
ガチャーン
廊下の方で何かがぶつかる音あする。
「なんの音でしょう?」
「さあね。」
「見てきます。」
奈々加は、廊下を覗く。だがそこに何者かの姿はなくただ銀色に輝く車いすがあるだけだった。
「これ、使えますね。」
奈々加は、車いすを押し部屋に戻る。
「ごめんなさい。足の代わりは見つかりませんでした。けど、車いすを見つけてきましたよ。」
「やった!これであたしは自由よ。」
奈々加はドアを少しだけ開け外をのぞく。
「よかった。誰もいません。」
「さぁ早く。早く。悪いリスの研究所を脱出よ。」
出口まであと数十メートルといったところで、リスの博士が現れた。
リス野博士の手には、二つに重ねた円盤に糸を付けた武器が、握られている。
「ぼくちんの目を盗んで、そいつをどこに連れていくつもりなんだい?」
「ちっめんどくさいのに見つかったみたいね。」
「リス野博士この子に、新しい足を作ってくれませんか?」
奈々加は頼んだ。本当のリスの博士は、人形に聞いた話とは違う良いリスなのだと、信じていたからだ。
「やなこった。そいつに新しい足をやったら明日の椅子取りゲームで、ぼくちんが負けるかもしれないじゃないか。」
「博士その武器は……。」
「うるさい。ぼくちんに口答えするな。」
リス野博士は、武器を構えると、奈々加達めがけ、二つに重ねた円盤を投げつける。
「危ない逃げなちゃ!!」
「いや。逃げなくてもいいですよ。だってあれヨーヨーですし。」
「ヨーヨーってなによ。」
「逃げろ、逃げろ。この糸には、しびれ薬が塗ってあるんだ。」
「お嬢様。」
二つに重なった円盤は、伸び切るとリス野博士の手に戻っていった。
「あーやって遊ぶんですよ。あれ。」何とも言えない空気の中奈々加の声がむなしく響いていた。
「それじゃあ。私たちはこれで。」
車いすを押した奈々加は、ノーロックにのったリス野博士のそばを通り過ぎる。
「これからどうしましょう。」
リス野博士の研究所を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。
空には星々がキラキラと輝き、二つ重なった月が浮かんでいる。
「なにあの光。」
人形の声に奈々加は目を凝らす遠くの方で、小さな明かりが見えた。
「追手でしょうか?」
「まさか。あのりす。ここまで執念深いとは。」
近づくにつれそれが提灯を持った人間と同じ背丈をした巨大兎だと言うことが分かった。
「あの、私たちは、その……」
奈々加は声を詰まらせた。
見知らぬ兎にどうして言い訳しようと思ったからだ。ただこの兎とはどこかで一回会ったことのあるような懐かしい感覚に、包まれていた。
奈々加は何か言おうとして声が詰まる。
緑の大きな兎は、何も言わずに奈々加を抱きしめた。
「あのーーーーあなたは雌、女の子ですか?」
おそるおそる奈々加は、巨大兎を見上げ尋ねる。
緑の大きな兎は親指を立て、その通り!とサインした。
「その通りと言う意味ですか?」
緑の巨大兎は奈々加と人形を、洞口に案内した。
「考えたんだけど、やっぱり私たちがあの性悪リスの代わりに優勝するしか方法はないと思うの。」
月明かりの中人形は、そう言った。
「そうですね。そうするしかありませんね。」
奈々加は、頷く。
「それじゃあ。」
「明日は…」
『絶対に優勝ですね
ね!』
その日の晩は、巨大兎の巣で子兎たちに包まれて眠った。
次日椅子取りゲーム会場は、にぎわっていた。惑星中から集まった動物たちが、準備運動をして開始の合図を待っている。
「負けるんじゃないわよ。」
言い出しっぺの人形は、頑張れと観覧席で手を振っている。
「あの人形は。」
「とうとうこの日がやってきたんだよ!今年も優勝したら僕ちんの二連勝!絶対勝つよ!」
とっさに奈々加は、リス野博士に見つからないように緑色の兎のかげに隠れる。
「そっそれでめぇーは、これから、お願いをかけた椅子取りゲームを開催しめぇーす。」
木箱の上で、よぼよぼのふるえたやぎが、開会宣言した。
「でっでは、はお配りしたルール表を見てください。」
動物たちは、配られた葉っぱを見る。
「第一に……」
「そんなもん見なくていいから。早く始めるんだよ!」
リス野博士からヤジが飛ぶ。
「では、はっ始めましょうか」
よぼよぼのやぎは、横にいた狸に合図する。
狸は、指揮棒替わりの木の枝をとると振り出した。
途端に合唱団が歌い出す。
『ラッラッラッ、狸の六兵衛~嫁さん逃げられた~』
「さあ回って、回って。」
「でもっ、」
「いいから。いいから。」
結果奈々加は三回戦で、負けてしまった。
今は決勝戦。決勝戦は、リス野博士とみどり色の兎の一騎討ちだった。
奈々加は、観覧席で、
「どうか兎が勝ちますように」
と見守る。
「では。」
狸の指揮者が木の棒を振るおうとする。
「たんまだ!」
甲高い声とともに狸の指揮者に何かが当たった。狸の指揮者は、頭にたんこぶを作って伸びている。
「えっ!?」
奈々加は、円盤を見たなんとそれはいつもリス野博士が乗っているノーロックだった。
「酷いです。マスター」
ノーロックは、煙をあげながら文句を言う。
「たんまだ。対戦相手がこんなにでかいんじゃ勝負にならないよ。」
リスの博士は、胸のポケットから紫色の液体が入った瓶を取り出し、一気に飲み込む。途端にリス野博士は、胸を押さえ苦しみだし巨大化した。
「これでぇぼくちゃんは、そこの醜い兎なんかよりもでかいリスになったんだ。」
「あの、あれ反則じゃないですか?」
思わず奈々加は、隣にいる人形に聞く。
「反則じゃないわよ。ほらルール表八-一を読んでみて。『体の小さな動物が大きな動物に挑むときは、どんな秘伝の薬を飲んでもゆるされます』ってちゃんと書いてあるでしょう。」
「うわぁここ直した方がいいですよ。」
「そうね。私も直した方がいいと思うわ。」
「では。」
狸の指揮者は再び指揮棒を振りだし、合唱団が歌い出した。
『ラッラッラ狸の六兵衛~起業したら嫁さん帰ってきた~』
リス野博士と緑色の兎は回り始める。
音がやんだ瞬間、一斉に椅子に座ろうと飛び出した。
「ふんどるぼっと~」
すると巨大化したリス野博士は、椅子に腰かけようとして、押しつぶしてしまった。
「こんのーなんじゃくな椅子め。」
その様子を見た奈々加は力いっぱい叫んだ。
「失格です!!」
「失格?なんでぼくちんが?そもそもそんなルールなんてあったけ?」
首をかしげる巨大なリス野博士に、奈々加はルール表を見せた。
しかしルールが書かれた紙は、博士には小さかったので、巨大な虫眼鏡で見る。
「この葉っぱに書いてあります。
ルール3 椅子をこわした出場者は、失格です。」
「なんだこのルールは、ぼくちんは知らないぞ。こんなのいつ作ったんだ。」
様子をうかがっていたやぎが手を挙げた。
「あの去年大会の後に、皆で話あいめぇーで作りました。これいじょおぉー怪我獣が出ないようにって。」
「なに勝手にルールなんて作ってんだよ!」
「あのーあのーちゃんと言いめぇーしました。リス野さんが、話し合いに来なかっただけで……」
どなるリスの博士に、やぎは涙目で答える。
「これで分かりましたよね。ルールは最後まで読んでないと、駄ですよ。」
「うるさい!ぼくちんの言うことは絶対なんだ。」
突然リス野博士にたらいが落ちた。
「ご無事ですか?」
「うーう知識が、とっておきの発明のアイディアが……」
リス野博士の体から、薄緑色の何かが、シャボン玉のように抜け出していく。次第に博士の体も小さくしぼんでいった。
「マスターがご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「どうして助けてくれたんですか?」
奈々加は、驚いた。ロボットが制作者を攻撃するなんて信じられなかったからだ。
「それは、マスターが」
「はいはい。注目!」
会場に聞き覚えのある甲高い声が響いた。奈々加達は一斉にそちらの方を見る。
そこにいたのはやっぱりリス野博士だった。
「見るがいい!この頬袋に仕込んだ。爆弾を。」
「どうしましょう!!」
リス野博士の脅迫にも似た爆弾発言に奈々加は慌てた。本当にリス野博士の頬袋に入っているのが、爆弾だったらどうしようと思ったからだ。
だが人形とノーロックはたいして気にもしてないといった涼しい顔で答える。
「どうにかなるんじゃない?」
「ご勝手になさってください。」
「本当にやるぞ!」
リス野博士が、頬袋から取り出したものは、普通のくるみだった。
「なんだよ。これは。」
「一年が過ぎると願い事は、緑にお戻りいたします。」
「じゃあ今まで、リス野博士が、発明したものは?」
「はい。発明品は土に返り、薬品ならば澄んだ水になります。研究所は、ツリーハウスになります。」
「それは、つまり……」
「はい。自然に還るということですね。」
奈々加は、ちらりとリス野博士の方を見た。リスの博士は、うなだれている。
「ぼっぼくちんは、とんだピエロだったよ。一年でお願いの効力が切れるだなんて。」
「じゃあひとつだけ質問してもいいいですか?」
「はい。なんでございましょう?」
「さっき椅子取りゲームの願い事は、一年で自然に還ると言いましたよね?」
「はい申しました。」
「じゃあなんであなたは、消えないんですか?あなたはリス野博士に、作られたロボットだったはずなのに。」
「私は、申し遅れました。私の名前は、根月。皆さんがいらっしゃるこの惑星『ヌータン』の管理者でございます。」
「惑星ヌータン!この星に名前なんてあったんですか?管理者なんていたんですね。」
「えーえ、いますよ。ただ奈々加さんが来た地球とは違うのは、この星は生きているということです。」
「生きているの?」
「はい。生きているのです。自分で回り続けているのです。」
「すごいですね。」
「ただ自分で回っているので、偶に酔ってしまって、回るのをやめてしまう時がありますが。」
「そうそう。朝がずっとこないとか、反対に夜がこないとかね。」
「それじゃあ困りません?」
「困らないわ。そう言うものだってずっと思ってきたもの。」
「地球にも、太陽が沈まない白夜や、その反対に太陽が顔を出さない極夜がありますが。」
「ははは……」
奈々加は、笑ってごまかした。
笑いながら奈々加は思った。
(違う。私があの時あったのは、もっと違う生物だった。)
「あの本当は、貴方は、誰ですか?」
「えっ誰と申しますと」
「私ここに来る前に誰かと会ったんです。貴方じゃありませんでした。それにそのブローチは、なんなんですか?」
「……やれやればれてしまったか。その通り俺様は、阿保リスから作ったわけでもましてこんな田舎臭い自然しかねぇ星のうまれでもねえ。地球よりも化学が進んだ星アカシヤの生まれのぉーーー宇宙最強のロボットノーロック様よ!!」
奈々加の追及に観念したノーロックは変形すると、今までの円盤型のかわいらしい見た目とは、別のいかつい見た目になった。
「さっきまではだまされていましたが、製作者のリス野博士を雑に扱ったり、なにより今まで科学のかの字も知らなかったリスが、貴方のようなロボット作れるはずがない!」
「そりゃあそうだ。リスとは、去年の祭りの前にあったんだ。みんなより賢くなって、友達が欲しかったんだとよ。友達を作るなら別な方法があるっつうの。」
「そっそれしか思いつかなかったんだよ。」
「リス野って名前も俺がつけてやったんだぜ。ただリスに野を付けただけなのにさ。笑っちゃうぜ。」
「ううううどうせ僕ちんなんて。」
ノーロックの言葉に涙を流すリス野博士の姿を見た奈々加は、内側からこみ上げる怒りを感じていた。
「なんででしょう。私ノーロックの事殴りたくなってしまいました。」
「きぐうね。私もよ。私の代わりに一発殴ってきて。」
「プップッ!」
見るとそこにいたのは、森で迷っていた奈々加達を巣に泊めてくれ、リス野博士と決勝戦で対決した巨大な緑色の兎だった。緑色の兎は、よほど怒っているのか、まっすぐにノーロックを睨みつけ、足を踏み鳴らしている。
「なんだ。お前は、お前なんかにッかまっている暇はねえ、アンジェリカに……」
「プップッ!!」
巨大兎の鳴き声とともに、つむじ風が、現れ周囲の木々を巻き上げ、ノーロックの視界をさえぎる。
「わあなんだ。これは、」
次々に木のつる達がお次とばかりに、ノーロックを縛り上げた。
「こんなつる。俺様自慢のレーザー光線で焼き切ってやるぜ!」
ノーロックは、次々とを焼き切っていく。
ただこの時のノーロックは木のつるを焼き切る作業に夢中だったようで、周りが見えていなかった。
「これが最後だ!!」
と、言う間もなく沼に落ちてしまった。
最後に小鳥たちがおまけとばかりに、羽をはばたたせつつく。
「ぬおおー助けてくれ!!」
「助けた方がいいんじゃない?」
「大丈夫ですよ。宇宙最強のロボットなんだったら防水加工がしてあるはずですから。」
「防水?防水っなんだよ?」
「後でお話しますから。自力で上がってきてください。貴方には、きっと防水加工がついているはずです。」
「そっそれが俺には……防水加工なんて……ちっとも……してな……ごぼごぼごぼごぼ。」
「大変です!!」
奈々加は慌てたまさか宇宙最強のロボットに、防水加工がされてないなんて思ってもみなかったのだ。
弦が伸びノーロックに巻き付く。それを奈々加や動物たちみんなで引っ張った。
「おーえす。おーえす。おーえす。」
やっとノーロックの機体を岸に引き上げるとふとため息が漏れる。
「はあ私の常識って何だったんでしょう?」
「大丈夫だよ。僕ちんもよく失敗するし。」
「そうよ。リスは、失敗が多いのよ。」
「むきーお前に言われると余計に腹が立つ。」
「なによ!」
リスは、人形に飛びついた。それから始まったのは、リス野博士と人形のたたきっこ合戦が始まった。
「あーあもうもう。」
「っけこんな田舎居られるか。」
「ちょっと待ってください!!」
捨て台詞を残して飛び去ろうとするノーロックの腕を、奈々加は力いっぱい引っぱった。
「のぉーーそれはやめてくれ。」
「どうしてリス野博士に意地悪したんですか?」
「それは、アンジェリカにリスがいじめやがったからで。」
「私に名前なんてないわ。」
人形がふんと鼻を鳴らし答える。
「と言ってますが……。」
「そうかい。前は、あったんだけどよ。」
ノーロックは、ポツリと呟く。
あたりを優しい風がさわさわと、吹いていた。
「悪かったな。」
ノーロックは、ブローチを緑兎に返した。
緑兎は、ブローチを胸元につける。奈々加は、直接つけるのは痛くないのか心配になった。
「あっあーうん。しゃべれる。奈々加ちゃんブローチを取り戻してくれてありがとう。」
なんと緑兎は、しゃべりだした。
「あなたは誰なの?」
「改めまして僕の名前は、ヌータン。
この星そのものだよ。前にも一回話したことあるけど夢の中だったしきっと覚えてないね。」
「はい。全然。」
「そんなきっぱりと……」
「ヌータン様。元気だして。」
「あたしがいるわよ。」
一体と一匹に慰められるヌータンの姿を見たとき奈々加は、言いすぎたと後悔した。
「いや。参ったよ。ブローチは盗まれるわ。星のみんなには言葉が通じないわで奈々加ちゃんが来るまで一年かかっちゃった。」
「いやいやいや。もっと早めに解決したんじゃありませんか?」
「無理。ブローチ(けんげん)盗られてたもん。」
「あらリスへの怒りに夢中で全然気がつかなかったわ。」
「ぼくちんも!発明に夢中で気が付かなかった!!」
「はっはっはは。こういう子たちだよ。」
「ドンマイです。」
奈々加は力なく笑うヌータンをなぐさめた。
「それじゃあ俺は行くぜ。」
「ちょっと待って!」
奈々加は今にも飛び立ちそうなノーロックの腕を引っ張っり、ノーロックを引き留めた。
「だから、そこ(腕)はだめだって!もげるから。後二回目ね。このやり取り。」
「どうしてあの時私たちを助けてくれたんですか?」
「そいつは簡単さ。そのアンドロイドが……」
ノーロックは、人形の方を見る。
「アンドロイド!?」
「私も知らなかったわ。」
「言葉を話す人形がどこにいるんだよ。そいつは、俺と同じアカシヤ産のアンドロイドだ。」
「私あんたの事知らないわよ。」
「その通りだ。一度初期化してあるから俺のことを覚えてるわけねえ。」
「そいつとは昔馴染みだったんだ。ついおせっかい焼いちまった。」
「アカシヤもね。前はここと同じ自然豊かな星だったんだけど、いつの間にか機械がいっぱいの星になっちゃったんだね。」
と、ヌータンは、少し寂しそうにつぶやいた。
「さあそろそろ奈々加ちゃんを送っていかないと、明日の学校の時間に間に合わなくなるよ。」
「でも、帰る方法が……」
「大丈夫!!方法はあるよ。」
ヌータンは、ブローチの木の実の部分を押す。すると地面がぱっくりと割れ七色に輝く泉が現れた。
「ここに飛び込めばいいんだよ。」
「本当にここに飛び込むんですか?」
「うん。」
「不思議ちゃんになったりしません?」
「しないよ。」
「まあいいんじゃないの?なったらなったで、別に死ぬわけじゃあるまいし。」
「よくありませんよ!!不思議ちゃんはとても困るんです!!」
「まあ良いから、良いから。」
ヌータンは笑顔で、奈々加を泉に押し込もうとする。
「あっちょっと待ってください!」
奈々加は、ヌータンから逃げ出すとリス野博士の方に行った。
「なんだよ!まだ僕ちんに用があるのか?とっとと家に帰れよう!!」
「ねえ良かったら。私と友達になろうよ。」
「いいの?もう僕ちんはただのちっぽけなリス。悪のロボットにだまされた間抜けな道化師、もう発明品とか作ったりできないのに?」
「いいよ。」
奈々加は、そっとリス野を抱き上げる。
「いいんだよ。ただのリスで。発明ができなくたっていいの。私も出来ないから、一緒だね。」
その言葉を聞いたリス野は、目に涙をためふるえる声で答える。
「うん。一緒だね。ぼくちん誰かと友達になったの……初めてだ。」
こうして奈々加は、家に帰った。
奈々加は、もうヌータンに行けないのは、寂しいなと思った。
けど、ヌータンも同じ気持ちだったようで、偶にヌータンからお誘いが来るようになった。
そんな時、奈々加は嬉しそうに出かけていく。新しくできた友達に会うためにかけあしで。
この作品の原品は、丁度中学生の頃、大学ノートに書いた童話になります。今でも下手ですが、当時は今以上に下手だったのでかなり恥ずかしいです。これでもかなり直したほうなので多めに見てもらえると嬉しいです。