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魔王の伝承、勇者の誕生

作者: くだか南
掲載日:2023/09/02

1.


(ああ、これが)

ああ、これが、死ぬという事か。

体が、精神が、活動をやめようとしている。

ただ淡々と……

それが解る。

認識できる。

その時は、不意に来た。

それを、少し離れた場所から、僕自身が感じていた。

体と精神から、僕だったモノから、僕が離れた。

導かれた気がした。

呼ばれた気がした。



2.


男は白銀の鎧を身に纏っていた。

その鎧はすでに輝きを失っていた。

全身に傷があり、所々へこんでさえいた。

しかしそれが、この男が、長い間、何度も何度も戦い続けて来た証明でもあった。

鎧が傷だらけであっても、男の気高さは、何一つ損なれなかった。

逆に、男の揺るがない勇気を表しているようだった。

男は腰の鞘から剣を抜く。

両刃の細い剣だ。

鎧と違って、この剣には刃こぼれ一つ無い。

男は両手で剣を構える。

男の闘気が高まる。

それに呼応するように、剣が光に包まれる。

その剣は、選ばれし者だけが真価を発揮出来る、伝説の剣だ。

男は抗う者と呼ばれている。

また、勇ましき者、勇者と呼ぶ人達もいる。

世界を滅ぼす事象に抗う事の出来る、唯一の存在だ。

選ばれし者だ。

男が光る剣の切っ先を、真っ直ぐ前方に向けた。

そこに、厄災があった。

厄災は、人の形をして立っていた。

小さな女の子。

少女と言うよりも、幼女と言った方が良いような、小さな女の子だった。

厄災は、生まれながらに、魔の存在を従え、統べる力がある。

人々は、その厄災を魔王と呼び、怖れ嫌悪した。

魔王が、世界を滅ぼす為に生まれ存在するように、勇者は、そのカウンターとして生まれ、存在する。

それが、この世界の理だ。



3.


勝敗は一瞬だった。

勇者が剣を振り上げる前に、勇者の胸には穴が開いていた。

穴が、胸から背中まで貫通していた。

魔王の四肢は少しも動いていない。

ただ、軽くウインクをしただけだった。

胸に穴が開いた勇者は、大量の血を吐き、無様に倒れ、やがて、動かなくなった。

「今度の勇者も、これでは…、奴等は、本気で世界の滅びに抗っているのか?」

魔王が、勇者だったモノを見下ろしながら呟いた。

「ところで」

魔王が顔を上げた。

「お前は、そこで何をしているんだ?」

魔王が、僕を見て、そう言った。



4.


「お前は、勇者に憑いていたゴーストか」

僕は誰からも見えない。

勇者でさえ、僕がずっと憑いていた事に気付かなかったのに、さすがは、勇者を瞬殺する魔王だ。

「勇者が現れた時から、ずっと気になってたんだ、何で勇者が、無力なゴーストを連れてるんだろうって」

魔王が僕を見ながら首をひねる。

その、幼女の大人びた仕草が、少し可愛い。

「ま、いいか…」

あの日、病院のベッドの上で、僕は死んだ。

自分が死んだ事を、僕は知覚した。

そして、何かに導かれるように、何かに呼ばれるように、この世界に生まれ変わった。

いや、正確には生まれ変わってはいない。

僕は、生まれながらに、この世界の幽霊だったのだから。

誰からも見えない、誰からも認識されない。

僕は幽霊として、何が出来るのか考えたが、何も出来る事はなかった。

ある日、魔王の伝承と、勇者の誕生の話を耳にした。

僕は、流れ流れて勇者を見つけ、その勇者に憑いてみた。

勇者は僕に気付かなかった。

僕は勇者達と一緒に、魔王討伐の旅をした。

そして、今、その旅は終わった。

魔王の圧勝という形で。

「目障りだから、お前も、な」

魔王がウインクした。

僕の存在が…


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