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魔王の伝承、勇者の誕生

作者: くだか南

1.


(ああ、これが)

ああ、これが、死ぬという事か。

体が、精神が、活動をやめようとしている。

ただ淡々と……

それが解る。

認識できる。

その時は、不意に来た。

それを、少し離れた場所から、僕自身が感じていた。

体と精神から、僕だったモノから、僕が離れた。

導かれた気がした。

呼ばれた気がした。



2.


男は白銀の鎧を身に纏っていた。

その鎧はすでに輝きを失っていた。

全身に傷があり、所々へこんでさえいた。

しかしそれが、この男が、長い間、何度も何度も戦い続けて来た証明でもあった。

鎧が傷だらけであっても、男の気高さは、何一つ損なれなかった。

逆に、男の揺るがない勇気を表しているようだった。

男は腰の鞘から剣を抜く。

両刃の細い剣だ。

鎧と違って、この剣には刃こぼれ一つ無い。

男は両手で剣を構える。

男の闘気が高まる。

それに呼応するように、剣が光に包まれる。

その剣は、選ばれし者だけが真価を発揮出来る、伝説の剣だ。

男は抗う者と呼ばれている。

また、勇ましき者、勇者と呼ぶ人達もいる。

世界を滅ぼす事象に抗う事の出来る、唯一の存在だ。

選ばれし者だ。

男が光る剣の切っ先を、真っ直ぐ前方に向けた。

そこに、厄災があった。

厄災は、人の形をして立っていた。

小さな女の子。

少女と言うよりも、幼女と言った方が良いような、小さな女の子だった。

厄災は、生まれながらに、魔の存在を従え、統べる力がある。

人々は、その厄災を魔王と呼び、怖れ嫌悪した。

魔王が、世界を滅ぼす為に生まれ存在するように、勇者は、そのカウンターとして生まれ、存在する。

それが、この世界の理だ。



3.


勝敗は一瞬だった。

勇者が剣を振り上げる前に、勇者の胸には穴が開いていた。

穴が、胸から背中まで貫通していた。

魔王の四肢は少しも動いていない。

ただ、軽くウインクをしただけだった。

胸に穴が開いた勇者は、大量の血を吐き、無様に倒れ、やがて、動かなくなった。

「今度の勇者も、これでは…、奴等は、本気で世界の滅びに抗っているのか?」

魔王が、勇者だったモノを見下ろしながら呟いた。

「ところで」

魔王が顔を上げた。

「お前は、そこで何をしているんだ?」

魔王が、僕を見て、そう言った。



4.


「お前は、勇者に憑いていたゴーストか」

僕は誰からも見えない。

勇者でさえ、僕がずっと憑いていた事に気付かなかったのに、さすがは、勇者を瞬殺する魔王だ。

「勇者が現れた時から、ずっと気になってたんだ、何で勇者が、無力なゴーストを連れてるんだろうって」

魔王が僕を見ながら首をひねる。

その、幼女の大人びた仕草が、少し可愛い。

「ま、いいか…」

あの日、病院のベッドの上で、僕は死んだ。

自分が死んだ事を、僕は知覚した。

そして、何かに導かれるように、何かに呼ばれるように、この世界に生まれ変わった。

いや、正確には生まれ変わってはいない。

僕は、生まれながらに、この世界の幽霊だったのだから。

誰からも見えない、誰からも認識されない。

僕は幽霊として、何が出来るのか考えたが、何も出来る事はなかった。

ある日、魔王の伝承と、勇者の誕生の話を耳にした。

僕は、流れ流れて勇者を見つけ、その勇者に憑いてみた。

勇者は僕に気付かなかった。

僕は勇者達と一緒に、魔王討伐の旅をした。

そして、今、その旅は終わった。

魔王の圧勝という形で。

「目障りだから、お前も、な」

魔王がウインクした。

僕の存在が…


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