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Merfana ーメルフェマー  作者: 八神あき
異世界サバイバル
4/19

石器

「……よし、この辺ならいいだろ」

 言って、正亜は川辺に座り込む。

 上流までくると、川幅は狭くなり、クラゲもいなくなった。

 透き通った川には小さな魚が生息している。正亜としては種の同定、あるいは地球上でどの種と似ているか調べたいのだが、疲労と空腹でそんな気力は残っていない。

 が、晴人は違う。

「じゃ、僕探検してくるわ」

 そう言って森に入って行こうとする。正亜はずざざっ! と地面を這い、裾を掴んで晴人をとめた。

「なに? 僕忙しいねん」

「頼む、頼むから、1時間でいいからじっとしててくれ!」

「1時間!? 1分でも難しいのに1時間!? いやー、それは無理やね」

 強制しようとしても無駄だ。正亜は何か引き止める材料がないか頭を絞る。

 正亜の苦悩など梅雨知らず、晴人はやたらダンディな顔をし

「森が僕を呼んでる…………」

「呼んでねえよ、くそが! 異世界よりお前のほうがめんどくせえ……」

「おー、さすが僕。世界を越える男」

 正亜は話している間にも思考をとめてない。なにか晴人の気を引けるものはないかと探し続け、目に入ったのは落ちている石。

 一見すると白いだけのただの石。だが割れた面は黒く、綺麗な平面となっている。地球でも、というか日本でも採れる石。

「なあ、晴人。武器欲しくないか?」

「欲しくない。僕は素手のほうが強い」

「じゃ、じゃあ、俺はいるから! 俺は弱いから素手だと死んじゃうから! 武器作るの手伝ってくれ!」

 いかにインドアとはいえ、正亜だって男の子。部屋で腕立てをしてみたりと、それなりにプライドはある。

 そのプライドさえかなぐり捨てた懇願。正亜はこれでダメならその辺の岩でこいつの頭をかち割ってやろうという覚悟で晴人を見上げる。

 果たしてゴリラ並みの知能の持ち主は「うむ」と一呼吸おき、にかっと笑う。

「いいよ」


ーーーーーーーーー


 正亜と晴人は向かい合って座る。正亜は白い石と、手頃な大きさの石を用意。

「まず俺がやるから、見てろ」

「うん」

 白い石を地面に置き、大きめの石で殴りつける。

 かっと音が鳴り、表面が擦れた。

 もう一度殴る。結果は同じ。

 三度、四度と続けても、石は擦れるだけ。

「…………なにがしたいん?」

「っるーせな! 非力なの! 石を割りたいけど力が足りないの!!」

「貸して」

 晴人は白い石を受け取ると、近くにあった巨大な岩のほうを向いた。

「うがー!」

 掛け声と共に、石を投げつけた!

 岩にぶつかると、無数の小さな破片に砕け散る。

 晴人がドヤ顔で見つめてくる。正亜は無視して割れた破片をいくつか拾った。

「で、こいつを……」

「おっとぉ、お褒めの言葉がないぞぉ?」

「こんな感じで整形していく」

 晴人のことは無視。石を膝に乗せ、手頃な大きさの石で縁を叩いて形を整えていく。

 できあがったのは淵が鋭利な刃物となった、雫型の石器だ。

「なんだこれは? いたっ」

 晴人が石器の縁で指を切った。しっかり刃物として機能している。

「よし、切れ味は十分だな」

「僕でテストすんな?」

「お前が勝手に握って自滅しただけだろ。その辺の木の枝折ってきてくれ」

「おい、木さんがかわいそうだろ? 貴様に優しさの心はないのか?」

 晴人と話すのが面倒だったので、面倒だが自分で枝を見繕う。枝に力を加えるも、意外と折れない。しばしの苦戦ののち、木の棒を獲得。ぜえはあと肩で息をして戻ってくる。

「お前、枝に負けてんのか?」

「勝ったよ。ぎりぎりで。こいつに靴紐で……」

 正亜はスニーカーから抜き取った靴紐で、棒の先端に石器をくくりつける。

「これで槍の完成」

 見せびらかすと、晴人は「おお!」と感嘆の声をあげ、槍をひったくった。槍を振ったり、構えたりして遊び始める。

「よき」

 満足げにうなずき、森に入ろうとする。槍を持って。

「……もう槍返せとは言わんから、せめてそれで魚でも採ってくれ。今日の晩飯、調達できたら好きに探検していいから」

「魚介、よき」

 晴人はくるりと回れ右して、じゃばじゃば音を立てて水に入って行った。川の中ほどで立ち止まると、両手をいっぱいに広げ、天を仰ぎ見た。

「…………大地を感じる」

「お前が今いるの、川だけどな」

 晴人は無言で振り向き、槍の先端を正亜に向け、

 こっ、と舌を鳴らした。

 無性に腹が立ったので石を投げつける。読書家の投げた石は格闘家のもとには届かず、ばしゃんと音を立てて川に落ちた。

 晴人は今度は「しー」っと、人差し指を口元にあてる。

 ——もうダメだこのバカほっとこう。

 正亜は次の行動に移ることにした。

 次に作るのは拠点だ。

 片方だけ刃にした打製石器と、拳大の石を持つ。5センチほどの細い木を見つけると、石器の刃を当て、背の部分を石で叩く。わずかに刃が幹に食い込んだ。何度も繰り返し、3分の一ほどまで刃が進むと、木に体重をかけてへし折った。

 他にも細い枝をたくさん拾い、さらに葉のついた枝も用意する。

 川辺に戻り、すべての材料を並べた。

 川の中の晴人はさっきの姿勢のまま、大地を感じている。

「家作るから、突っ立ってるだけなら手伝ってくれよ」

「お家なんて僕には狭すぎる。自然の開放感」

「夜も自然の中で寝んのか?」

「お星様綺麗」

「あっそ」

 晴人はバカなのでひとりで作業に取り掛かる。

 太い木を地面に突き刺した。そこに細い枝を立てかけ、円錐を作る。蔦で頂点をまとめて固定。その上に葉つきの枝をかけ、葉っぱ同士を編み込んで隙間を埋めつつ補強する。

 工程は単純だが、作業は大変だった。できあがるころには黄昏時。

 完成した家を見て、正亜はふうと息をはく。中に入ると、壁に囲まれた安心感があった。やはり正亜には雄大な自然よりも狭い室内のほうが向いている。

 晴人はいまだ川の中で突っ立ったまま。一時間どころか五時間はじっとしている。

 今度から晴人を黙らせたい時は川に沈めよう。そう決意し、声をかけようとしたときだ。

 紫電一線。

 晴人の腕が目にも止まらぬ速さで動いたかと思うと、槍がまっすぐに水面を貫いている。

 そして、槍を天に突き上げた。穂先には50センチはあろうかという大魚が突き刺さっている。

「すげえ!」

 思わず正亜が叫ぶと、晴人は魚つきの槍を正亜に向け、

「こっ」と、舌を鳴らした。

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