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Merfana ーメルフェマー  作者: 八神あき
異世界サバイバル
3/19

仮説

 目を覚ました正亜は、樹上からあたりを観察。

「……あそこ、たぶん川だな」

「どこ?」

 指差した場所を晴人が見るも、ただ木々があるだけ。

「あそこの、影が線になって走ってるとこ。川に沿って木がないから、そこで森が途切れて影みたいに見えるんだよ」

「ほーう。さっぱりわからん」

「とにかく川だ。行こう」

「なんで?」

「お前、喉乾いたって言ってなかったっけ?」

「僕が自分の言ったこと覚えてるわけないだろ。舐めるなよ?」

「海馬ちょっとは仕事しろよ。喉乾いてなくても、水は必要だろ」

「ああ。僕お魚食べたい」

 晴人は納得し、木から飛び降りる。正亜も四苦八苦しながらも、木を降りた。

 太陽で方角を確認しながら、川の見えた場所へと歩く。

「昨日、考えたんだが」

「考えんほうがいいよ。僕みたいにぽけーっとしてたほうが人生楽しい」

「ここが異世界だと仮定した場合」

 晴人の軽口に構わず話を続ける。

「異世界の定義は地球ではない場所、とする。だがそれだとこの世界はあまりに地球と似過ぎている。生物が生息可能な環境があるし、植物も茂ってる。昆虫や、昨日の火鼠も火を吐くことはともかく、見た目はまんまネズミだ。地球とまったく関係のない惑星でここまで地球と似た環境になるってのより、地球と何かしら関係がある世界だから似てるってほうが可能性は高い」

 言うと、晴人は顎に手をやり、思案する。

「…………地球じゃないんか地球なんかはっきりしろ。言ってることめちゃくちゃだぞ」

「地球じゃないつってんだろ。でも、無関係じゃないってことだ」

「やっぱり意味わからんぞ」

「たとえばもとは同じ惑星だったが、どこかで二つに分かれた、とかだな。その時期が白亜紀以降なら哺乳類や、そこらへんに咲いてる花が生息してる説明ができる。まあ、世界が二つにわかれる、なんてファンタジー現象が起きた理由はわからんが。逆に言えばそこさえ究明できればそれ以外の部分は筋が通るだろ」

「ふん。むずかしすぎて1ミリもわからん。僕相手に話す時はちゃんと幼稚園児でもわかる言葉で言えよ。日拳部では常識だぞ」

「お前それバカにされてんだよ」

「そもそも、そんなん考えてなんの役に立つんだ? 役に立たないこと考えるとかバカなのか?」

「だれがバカだ、ぶっ殺すぞ」

「こわ」

 晴人がずざっと距離をとる。正亜はそれを見ながら考え、改めて口を開いた。

「なあ、俺たちが生き残る一番手堅い方法ってなんだと思う?」

「チート能力を手に入れて無双する」

「もとの世界に帰ることだ。異世界についてわかれば、もとの世界に帰る方法だってわかるかもしれないだろ」

「あ、お水!」

 晴人が叫ぶ。正亜も解説の途中だったがそのことは一旦おいておき、晴人の視線の先を追った。たしかに50メートルほど先に川がある。

「ほんとだな」

「ひゃっほーう!!」

「あ、おいバカこら」

 晴人が走り出す。正亜も後を追うも、まったく追いつけない。

「飲むなよ! ちゃんと飲めるかどうか俺が見るから!!」

「この世界に飲めない水はない。そのあと腹を壊すだけだ」

「それ飲めねえんだよ!」

 川の手前で晴人は立ち止まり、一瞬で全裸になった。

 まさか、と正亜はとめようとしたが、遅かった。全裸の晴人は川へ飛び込む。

「気持ちいー! つめてー!!」

「バカがよおおお!」

「ふははははははは! 何がバカなんだ? お水気持ちいぞ」

「ピラニアとかワニとか、危険があるかもしれんだろうが! 日本の川じゃねえんだぞ!」

「食べる」

 それだけ言って、晴人は潜る。

 ようやく正亜も河岸にたどり着いた。流れはそれなりに速い。水深は深いところで3メートルほどだろうか。水は澄み、川底までしっかりと見える。

 ——この水質なら飲んでも死にはしない、か……? 見る限り危ない生き物はいなさそうだし。杞憂だったか。

 飲むのは抵抗があるが、顔でも洗おうと、正亜が近づいたときだ。

「いでー! いでっ痛い!」

 晴人が川から飛び出してきた。

「どうした。ピラニアに食われたのか?」

「蜂みたいなんに刺された!」

「蜂?」

 晴人は自身の太もものあたりを指差す。見ると、確かに虫刺されのように赤く腫れていた。

「吸い出してよ」

「は?」

「おばあちゃんが言ってた。蜂に刺されたら毒吸い出すって」

「てめえの汚え足とか吸いたくねえよ」

「汚くないわ! 今水浴びしたところだぞ!? 貴様こそ臭いんじゃないのか!? ……って、あれなに?」

「どれだよ」

 晴人が指差すほうを見る。

 滔々と流れる川。その水面が揺らぎ、盛り上がり、透明の球体が這い出てきた。触手を使って地面を移動し、晴人のほうへ向かってくる。

 透明でぷるぷるとした体、それを見て、2人が同時に叫ぶ。

「スライム!」

「クラゲ?」

 互いの顔を見合わせた。

「どう見てもスライムだろ。攻撃してくるぞ」

「いや、ゼラチン質の体で脳とかの器官もなく、触手まで持ってる。クラゲに近い」

「知ってるか? クラゲは海にいるんだぞ、痛い!」

 言い合ってるうちにスライムもどきは近くまできており、触手で晴人をさした。そのあとは赤く腫れている。

「ぬー! 貴様だったのかあ!」

 晴人は近くにあった太い枝を折り、クラゲを殴りつけた。馬鹿力でクラゲはひしゃげて真っ二つになる。

「いいか、クラゲは海にいるんだぞ。スライムだろ」

「スライムってなんだよ。たしかに川に住んでて陸上も動くから俺たちの知ってるクラゲではない。けど、クラゲと似た系統の種ではあるんじゃないか? 少なくとも刺胞動物門に属する動物」

「わー! うるさいうるさい! 僕がわからんのをいいことに難しい言葉ばっか使いやがって! ひねりつぶすぞ!」

「ちなみにクラゲは食えるぞ」

「これクラゲ」

 晴人はあっさりと前言を撤回し、クラゲの死体に近づく。

 傘の部分の大きさは50センチほど。触手は2メートル以上ある。

「触手は食うなよ。毒があるかもしれん」

「うい」

 晴人はクラゲの死体を拾い、川で地面の汚れを洗うと、かぶりついた。

「んー。味なし」

「だろうな」

 正亜も真っ二つになったクラゲのもう片方を洗い、食べる。

「……うん。クラゲって感じの味」

「お前、クラゲ食べたことあるん?」

「大量発生のニュース流れるたびに親にクラゲとってこい! って言われてな。冬とかだとくそ寒い中、手の感覚消えるまで取りまくってたよ。あんなに苦労してとってもたいして栄養ないとか、ひどい話だよな」

「貧乏な家ってやべえな」

 晴人が若干引いていた。

「ま、おかげで食える草とかには詳しくなったけどな」

 栄養はなくとも、胃にものを入れたことで満足感は得られる。

 一息ついた正亜は改めてクラゲの死体を観察。

 傘の部分にはこれといった特徴はない。面白いのは触手だ。全体としては傘と同じ透明なゼラチン質だが、中に銀色の球体がある。直径は1センチほど、見た感じは金属のようだ。それが触手の中にいくつも並んでいる。

 ひとつ取り出してみた。

「なにそれ?」

 晴人が覗き込んでくる。

「さあ。クラゲの中にあった。金属っぽいけど、もしかしたら真珠みたいなものかもな。体内に入った異物を膜で覆って球体にしてるとか」

 正亜はいくつか球体をとってポケットに入れておく。

「なあ、川の中の、光ってるのってそれ?」

 言われ、正亜は目を凝らす。

「……あー、たしかに見えるな」

 小さいのでさっきまでは気づかなかったが、よく見れば水中に光るものがある。クラゲの中の球体が陽の光を反射しているのだろう。

「で、どうする?」

 唐突に晴人が聞いてくる。

「そうだな……。まあ、このクラゲは刺してくるが死にはしないし、さっきお前を追ってきたの以外上陸してくる気配もないから気にしなくていいだろ。川からは離れず……。上流へ行くか。もしかしたら人が住んでるかもしれないし」

「おー、異世界人」

 ファンタジー好きの晴人は異世界人との邂逅に心くすぐられ、さっさと上流へ歩き始める。

 正直、人がいる可能性はかなり低い。だが晴人にいちいち全てを説明するのは面倒だしどうせ理解もできないだろう。正亜は仮説を胸の内にとどめ、晴人を動かす餌に使えそうな情報だけを随時出すことにした。

 歩いても歩いても景色は変わらず、話題もないので無言の時間が続く。

 変化が訪れたのは日が暮れ始めてから。

 水中で何かが光ったのだ。暗くなるにつれ光は数を増していく。白い光だけでなく赤や青、黄色とさまざまな光が入り混じり、さながらイルミネーションのよう。

「なんだこれ、すげえ……」

 正亜は感歎の息を漏らす。

「なあ、晴人、すごくね?」

 尋ねるも、晴人は仏頂面で、まったく興味を示さない。

「どうでもいい。歩くん疲れた。寝よ」

「どうでもいいってお前」

 疲れたのは本当らしく、晴人はその場に座り込む。正亜も疲れてはいたが、水中で繰り広げられる光のパフォーマンスでテンションがあがっていた。

 光は一箇所にとどまらず、水中をふわりふわりと漂っている。

 漂う様を見て、正亜は納得した。

「ああ、クラゲか」

「は?」

「クラゲだよ。光ってるの。つか、あの大きさって多分この球じゃね?」

 ポケットからクラゲの触手にあった金属球を取り出す。

「へー。これ、電球だったん」

「電球ではないな。クラゲのバイオルミネッセンスの原理ってたしか特定のタンパク質が刺激に反応して光を出してるから、そのタンパク質を蓄える器官なのかもな」

「タンパク質!?」

 それまで眠たげだった晴人が飛び起き、正亜から金属球をひったくる。

「そんなに欲しいか、タンパク質……」

「これがクラゲプロテイン」

 球体を口に入れ、噛んだ瞬間晴人は歯を押さえてうずくまった。

「どうしたバカゴリラ」

「硬すぎ! 食えんて」

 ぺっと吐き出す。

「やっぱバカだよな、お前」

 しみじみ呟いた。

「うるさい。こんなんどうやって光るん?」

「お、お前も科学に興味持ったか。すばらしいことだ。けど残念ながらわからん。まあ、外界の刺激に反応して光ってはいるんだろうが、さすがに詳しい原理までは覚えてない」

「使えんなあ。普段自分のこと頭いいとか言ってるくせに」

「悪かったな」

 晴人はしげしげと球体を眺め、手に握りこんだ。

「うおー! 光れー!」

「お前ってほんとに高校生か?」

 今時小学生だってもっと頭いいだろう。

 そうバカにしていた。だが、晴人の指の間から光が漏れ出した瞬間、正亜の顔が驚愕に染まる。

 握っていた手を開くと、たしかに球体が光っていた。真っ白い光を強く発している。

「え!? マジで!? どういうこと!?」

「ぬわっはっはっは。僕の気合いが通じた結果だ。お前もやる?」

 晴人が球体を差し出してくる。受け取ろうとして、正亜はすぐに手を引っ込めた。

「いや、これさっきお前が口に入れたやつだろ」

「だからなんだ」

「汚ねえよ。触れるか。明日もう一匹クラゲ倒してくれよ」

「なんで僕がお前の言うこと聞かないといけないんだ。普段さんざん僕のことをバカだアホだ言ってるくせによお」

「お前がバカなのは事実だろ」

「もう絶対言うこと聞かん」

 晴人はいかにも拗ねてます、といった顔をし、三角座りして顔を膝に埋める。

「そんな子供みたいなことしたって可愛くないぞ、筋肉だるま」

「僕筋肉。頭ない。言葉わからん」

「蹴っ飛ばすぞ」

 意固地な晴人に腹を立てるも、すぐに正亜は考えを切り替える。

 ——強制して従うようでもないな。なら、なにか使えそうな情報……。そういや図書館で昔ラノベ読んだな。たしか、ゲームの世界に入って、モンスターを倒して強くなれる、みたいな……。

 思考がそこまで到達し、正亜は晴人の肩を叩く。

「なに」

「あのクラゲ型モンスター、たくさん倒せばレベルアップするかもよ?」

「……ほんとに?」

「ほんとほんと。今よりもっと強くなれる」

「……………………」

「……………………」

 数秒の沈黙ののち、晴人ががばっと立ち上がる。

「うおー! 僕は吉田沙織を越える!!」

 そして、川にダイブした。

「おい、ちょ、今じゃない! 昼、昼やろう! さすがに夜は危ない!!」

「ふはははははは! 僕は吉田沙保里を越える男だ!」

 が、晴人は聞いちゃいない。

 身体中を刺されながらもクラゲをちぎっては投げちぎっては投げる。

 このあと、めちゃくちゃクラゲ乱獲した。

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