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第九十五話 獣魔貴族(3)

すぐに辺りが正常さを取り戻す。シンイチは周りを見渡すと思わず動揺が走った。つい先ほどまで笑顔を浮かべていた周りのみんなが倒れている、

「これは、一体、、」

シンイチの後ろにいて事なきを得たタカキがつぶやいた。体が重い、マジックシールドで防御していたにもかかわらず、体がむしばまれているようだ。

「うぅ、今のは闇属性魔法なの?」

シンイチの数メートル横で倒れていたエレンが体を起こした、どうやらエレンはマジックシールドの展開が間に合ったようだ。エレンの近くにいた面々も起き上がるがシンイチたちよりも深刻な影響がありそうだ、つらそうな表情を浮かべている。

「とりあえず、みんなの回復を。エレンも行ける?」

「少し待ってもらえるかしらまずは自分自身を回復する必要がありそう。体を起こすのもつらいわ。」

「じゃあ僕がエレンを回復するよ。」

「俺も錬成したポーションでみんなの回復を手伝おう。」

こんな遠くまで影響を与える魔力の強さ、近くで戦っているニーアたちは大丈夫だったのだろうか。。ニーアやダミアンの強さならきっと大丈夫だ、そう信じるしかない。みんなの回復に努めながらシンイチは祈るような思いを抱いた。


優位に立っていた戦況が一瞬にしてひっくり返された、ニーアはそんな気分だった。

遡ること数分前、ダミアンの回復の時間を稼ぐためにニーアは一人戦う覚悟を決めた。

ダミアンの回復の時間を作るにはあいつが他の方に攻撃する余裕を奪うしかない。

「マイティストレングス。」

ニーアは固有スキルのマイティストレングスを発動しべライグに向かって行った。さらに魔法剣技フレイムスラッシュで連続で攻撃していく。身体能力を強化していることもありフレイムスラッシュは効果的なダメージを与えているようだ、先ほどまでとは変わりニーアも手ごたえを感じていた。しかし、さすがは魔貴族というだけあって、ベライグもその状況下でも反撃してきた。闇属性を帯びた体術攻撃と闇属性の魔力をぶつけるエネルギー弾を織り交ぜた連撃は、マイティストレングスで強化したニーアであってもすべて躱すことはできず、何度も攻撃をもらってしまう。

その攻防がしばらく続いた後、二人は距離を取った。

そこにダミアンに向かって火属性の上級魔法が飛んで行った。

「待たせたな、ニーア!回復したぞ。」

ダミアンの元気そうな声が聞こえた、どうやらニーアが相手委をしている隙にノノが急いで回復してくれたようだ。良かった、と安心したのと同時にマイティストレングスを一旦解除する。かなりのダメージをもらったので体力の回復が必要だ、残り時間が限られていることを考えると万全の体調で使用するべきとの判断からだった。もっとたくさんもらっておけばよかったと思いながら、タカキに作ってもらったMPポーションを使用し、回復魔法をかける。ノノも近づき回復魔法をかけてくれた。

「ふざけるな!何度も何度も面倒な奴らだ!」

ベライグが大きな声で叫ぶ、その迫力にノノは一瞬おじけづいた。

そこからは一転して、ニーアとダミアンに目もくれずノノを標的にし始めた。

まずい、完全に逆鱗に触れたようだ。今まではBランク冒険者パーティなんて見向きもしていなかったのがそちらに対しても執拗に狙ってくるようになった。必死に間に入り防御をするニーアとダミアン。標的が次から次へと変わっていくため防御がどうしても後手後手となってしまう、二人とも回復したばかりだというのにあっという間にボロボロになっていく。

「お前たち、ここから離れろ!」

ダミアンが叫ぶ、これ以上は守り切れないという判断である。皆急いでその場から離脱し始めた。それを追うべライグをニーアがマイティストレングスを使用して割って入り足止めをする。温存しておきたかったが仕方がない、これ以上はノノたちを追わせるわけにはいかない。ニーアの剣がべライグの肩に深く刺さり、その攻撃によりべライグの足を止めることができた。さらにそこにダミアンが魔法攻撃を重ねていく、ニーアも連続で切りつけ、勢いを増していく。このまま押しきる!その思いで一気に攻勢を強めていった。

しかし、そのダメージによりさらにべライグの怒りを増長させることになった。

「ぬぉおおお!」

べライグが雄たけびとともに魔力を爆発させた。

周囲に衝撃波が広がる、ダミアンはとっさにマジックシールドを展開したが、それでも影響をゼロにはできずにかなりのダメージを負った。ニーアはマジックシールドを使用したうえで両腕を前にガードの体制を取っていたが、自慢の全身鎧のアーム部分破損して腕が露出してしまっている。マジックシールドがダミアンよりも練度が低く、ダメージが大きい。鎧がなければためおそらく、立っていられなかっただろう。Bランク冒険者パーティの方も無傷では済まないだろう、残念だが、確認しに行く余裕はなさそうだ。ニーアやダミアンよりも距離が離れたところにいたのでその分ダメージは小さいはずと思いたかった。


ニーアは体を動かそうとするも動かすことができずにいた。何とかしないと、その思いで必死に自身の回復を試みる。

べライグは無防備になったニーアを見てにやりと笑い、魔法を放とうとしていたが、突然その腕を下ろし、ゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。

今の動きは!?

完全にやられると思ったのだが、べライグは攻撃してこなかった。余裕を見せているということだろうか、いやそれならBランク冒険者パーティを狙ったりする行動と矛盾する。ベライグ自身も大きく消耗しているのかもしれない。いずれにしろこの時間はチャンスだ、そう考えながらニーアは必死に回復魔法をかけ続けた。

それでもやはり間に合わず、べライグが攻撃の間合いに入ってきた。その顔は笑っているものの必死の形相だった。

「よくぞここまで俺を追い詰めた、だがこれで終わりだ!」

その言葉と同時にべライグの鋭い爪がニーアに向かって振り下ろされる。

そこにダミアンが間に入ってべライグの攻撃を受け止めた。ニーアを守ることができたもののダミアン自身は大きく吹き飛ばされた。

「くはっ、、」

どうやら一撃で腕の骨と鎖骨が折れたようだ。体を動かそうとすると激痛が走る。

ニーアはその間もヒールウォータをかけ続けていた。ようやく少しは動けそうなところまでは回復できたが、それでも魔貴族のべライグを相手にするには十分には程遠いようだ。しかし、これ以上ダミアンを見殺しにすることはできない。

掛け声とともに切りつけるニーア、しかし攻撃は無情にも通らない。ニーアはカウンターで殴られ吹き飛ばされる。

「ふん、もはや回避したり、防御したりする必要すらない。これ以上は無駄だな。まずはこいつからか。」

そう言って、べライグはダミアンにとどめを刺そうと振りかぶる。その間もニーアは何とかべライグを止めようと剣をたたきつけ続ける。

もうだめかと思ったその瞬間、べライグの右腕が切り離され地面に落ちた。

「!!?」

一瞬何が起きたかわからなくなり、動揺するべライグ。

一方ニーアはこの感覚に覚えがあった、この領域に入れたのは久しぶりだ。

「ゾーンオブモレキュラー。」

もう余計なことは考える必要はない、ただ剣を振るのみ。2撃3撃と攻撃を続ける。べライグの左腕も切り離され、劣勢になったべライグ必死に攻撃をかわそうとするも完全に回避はできず胸に大きな傷を負った。息が荒くなっており、明らかにかなりのダメージを受けている。

「くそっ!」

苦し紛れに口から魔力弾を放っていく。先ほどの一撃ほどの威力ではないがさすがは魔貴族という魔力量である。ニーアは難なく躱していたが、そのうちの一つが倒れているダミアンに命中した。

「ダミアン!」

ニーアははっとして思わずそちらを振り返った。

「こっちは大丈夫だ、俺のことは気にせず一気に決めてやれ!」

ダミアンが満身創痍の中何とかマジックシールドを展開しダメージを緩和できたようだ。自分を守るためにべライグの攻撃を受けたダミアンの献身を無駄にするわけにはいかない、ここで決める、そう心に決めてさらに攻撃の回転を高めていく。

次の瞬間、キーン、と嫌な感触が手に伝わった。


斬撃がはじかれる最初の感触だ。注意が逸らされ集中が途切れたことでゾーンオブモレキュラを発動できなくなったようだ。必死に再度発動させようと攻撃をするが全てダメージが入らない。

「くっくっく、頼みの綱の必殺技の効果も尽きたようだな。俺はこのまま時間を稼げば回復できる。おまえたちの負けだ。」

「いや、まだよ!」

ニーアは剣を取り換え、再び距離を詰め攻撃を仕掛ける。

「武器を変えたところで無駄だというのがわからんのか。」

べライグは疲労困憊ながらも少し余裕を取り戻した声で言った。

「外側は確かに硬い、だけど内側はどうかしら。ライトニングスラッシュ!」

先ほどつけた大きな切り跡に沿って魔法剣技を叩き込んだ。

さらに、その切り跡に剣を突き刺していく。

ありったけの魔力を籠める、トールスティング。雷属性を帯びた魔法剣技の刺突スキルである。

べライグの全身に電気が走り内部が焼かれ、肉を焼いたような焦げ臭いにおいがあたりに漂った。

しかし、べライグはまだ立っている。

これでもダメなの?さすがにもう打つ手が、、ニーアはMPを使い果たし立っていられなくなりその場に膝をついた。

それとほぼ同時にべライグが後ろに倒れた。


「見事だ。俺の負けのようだ。」

「そうね、私たちの勝ちよ。でも、一つだけ聞かせてほしいわ、なぜ、急にラニキスに総攻撃を仕掛けてきたの?」

「お前に詳細を言う気はない、が、しいて言うなら俺のプライドだ。」

「そう、まあ、今となってはどうでもいいわね。」

ニーアも力を使い果たしていたこともあり、深く追求はしなかった。

「思い出したことがある。魔王様が勇者パーティに敗れたとき、俺はその居城に向かった。少し離れていた領地にいたこともあり、俺がついた時には勇者パーティはすでにその場を去った後だった。ただ、魔王様がいたその部屋は電気を帯びた大気が充満していた、すべての毛が逆立つような。今この体を焦がしたのと同じような雷属性だ。お前はまさか勇者パーティの一員なのか。」

「さあね、今となっては意味のないことよ。」

「ふっ、魔王様と同じ相手にやられるのはある意味光栄なことか。」

実力だけならあなたの方が強かったわ、と言いかけてニーアは思い留まった。そんなことを伝えてもそれも無意味なことだ。

べライグは満足そうに笑みを浮かべ目を閉じ、そのまま塵となって消滅していった。

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