第九十四話 VS中級魔族
「くそっ、手強いな。」
クワッドヴァルキリーのシュッタウは、ここまでの戦闘を振り返ると思わず唸った。
戦闘が始まってから既に1時間近くは経過している。中級魔族が最初に飛び出してきたこともあり一番最初に戦闘を開始していた。上級魔族に対応しているダミアンやニーアたちと違って、4体いるものの中級魔族が相手ということで無意識に少し油断しているところがあったのかもしれない。しかし、戦いが進むにつれそんな慢心は既に吹き飛んでいた。
中級魔族1体1体の能力はどうにもならないというほど高いわけではないが、4体の連携がとにかくよかった。前衛2体、中衛と後衛が1体ずつという編成で、一流の冒険者パーティー並みのコンビネーションを見せていた。こちらが前衛の魔族にダメージを与えても中衛の闇属性魔法のアブソーブにより体力を吸収し、闇属性のシェアドバイタルという魔法でダメージを受けた仲間へ体力を分け与えることで回復されてしまう。その魔法攻撃を食らわないように気を取られると前衛と後衛がそれぞれ別方向からの攻撃を仕掛けてくる。それらの攻撃の火力が高いため、どうしても前衛・後衛の攻撃に対する優先度が高くなりアブソーブを食らってしまい、力押しで前衛をつぶそうとしても、今度は防御に特化した戦闘す体に変更されなかなか押し切れないという状態だった。
とはいえ、ここまでの戦いで大きく押されているわけではない、むしろ、こちら側の連携も悪くなく、互角以上の戦いをしているといえる。後ろでサポートしてくれているBランク冒険者パーティのメンバーたちも頑張ってくれている。
「このままじゃらちが明かんな、何かを変える必要があるか。」
シュッタウは少し考えたあと、すぐに作戦をみんなに伝え始めた。
「よし、もっと攻撃の手数を多くするぞ。まずは、この4体のうちの1人を片付けよう。俺とジェイミー、エレンで前衛の2体を抑える、そのすきにアトゥーサはBランク冒険者とともに中衛の魔族を攻撃してくれ。」
「わかった、前衛のあいつらね。」
「オッケー、頑張っちゃうわ。じゃあ君たちよろしく頼むわね。えっと何て名前だったかしら?」
「Bランク冒険者パーティ、フェアリーサークルのカルンだ。作戦はわかった、俺はパラディンだから前衛を担当しよう。」
「いいね、じゃあ任せるわよ。私はその後ろから狙っていくからさ。」
「私は後衛としてサポートしますね。回復魔法と、少しだけ強化魔法が使えますので。」
「僕も自慢の弓で後方からあいつを射抜いてみせるよ。」
フェアリーサークルのヒーラーのテリアとスナイパーのメアリが言った。
「頼むぞ、アトゥーサ。お前たちがこの作戦の肝だからな。」
そう言い残して、シュッタウがジェイミーと共に突撃していき、前衛の中級魔族とそれぞれ1体1で対峙し、近接戦闘を開始した。後ろに控えるBランク冒険者の支援魔法によるバフもありここで押し負けることはなかった。すぐに中衛の魔族からアブソーブが連続で飛んでくるがそれも何とかかわす、この時点で少し優位に立っていた近接戦は互角になってしまう。闇属性魔法アブソーブは仲間に当たっても吸収しないらしく、彼らは気にかけることなく万全の態勢で攻撃ができる。それでもアブソーブをもらうことなく何とか立ち回れていた。
しかし、その膠着状態を打ち破るべく後衛の魔族から闇属性上級魔法ブラックフレイムバーストが襲ってくる。今まではこれを躱していたが今回はこれを気にしないことにした。アブソーブだけは集中して躱し、他はある程度くらってもかまわず前衛の魔族を攻め続ける、向こうの体力が尽きるかシュッタウとジェイミーが動けなくなるのが先かの我慢比べである。
後ろのエレンと、Bランク冒険者が回復魔法をかけてくれるが回復量を上回る攻撃力のため徐々にダメージが蓄積していく。
「く、これはさすがにきついな。長くは持たないかも。」
「アトゥーサ頼むぞ、急いでくれ。」
アトゥーサとフェアリーサークルの面々は中衛の魔族への攻撃を強めていた。
「ブレードスマッシュ!」
「サクセッシブアロー!」
カルンとメアリがそれぞれのスキルで連続的に攻撃を仕掛けるも、魔族の回避能力が高く攻撃が当たらない。その間にも絶え間なくアブソーブを放ち、シュッタウたちを狙い続けていた。さらには物理攻撃で目の前のフェアリーサークルの面々に対しても反撃をしてきたが、その攻撃はパラディンであるカルンがしっかりと防御していた。
「くそ、さすがに強い!」
「僕たちだけでは攻撃を当てるどころか、アブソーブの発動すら止められないよ。」
カルンとメアリ弱気な声を上げる。テリアの支援魔法で能力を底上げしているにもかかわらず二人の攻撃が当たらない。
「うーん、なるほどね。じゃあここから行ってみようかしら。」
しばらくフェアリーサークルの戦いを観察していたアトゥーサはそう言うと、一瞬だけ相手の死角に入るとそこからホーリーチャージで突進していった。
「何っ!」
意表を突かれた中級魔族はとっさにガードをしたが、大きく吹き飛ばされる。その影響で継続して使用していたアブソーブも止まったようだ。アトゥーサは攻撃の手を緩めることなくさらに攻め立てていく。
「ほらほら、君たちも攻撃の手を休めちゃだめよ。」
アトゥーサに言われはっとしたカルンとメアリは再び攻撃を仕掛けていく。
「全力でスキルを使い続けるのよ。」
「はい。」
中級魔族は再びアブソーブは維持しながら戦いを続けるが、アトゥーサの死角からの攻撃により魔法を発動できないことが増えてきた。先ほどまでかすりもしなかった二人の攻撃が直撃とはいかないまでもガードされるように変わっている。
すごいなさすがはAランク冒険者だ、たった一人はいるだけでこんなに戦いが変わるなんて、俺たちが中級魔族と互角以上に戦えているなんて信じられん。
カルンは心の中で素直にアトゥーサを称賛した。
「君たちも可愛いね、この戦いが終わったあとで仲良くなろうね。」
緊迫した戦闘中にもかかわらず、テリアとメアリに声をかけている姿を見て、まだそんな余裕があるのかと感心するとともに、ちょっと変なところはありそうだ、、と思うカルンだった。
「クロススラッシュ!」
アトゥーサの剣技スキルがついに中級魔族を捉え、その羽を切り落とした。それによりスピードが落ちたことでカルン、メアリのスキルも命中し、大きなダメージを与えた。
一度は立ち上がったが、飛べなくなり深手を負った中衛の魔族はその場に座り込んだ。
「くそ、お前強いな。俺の負けだ。」
そう言って両手を上げている。
アトゥーサとフェアリーサークルのメンバーは勝利を確信し魔族に近づいた。そのとき、これまで前衛の2体をサポートしていた後衛魔族が急遽向きを変え闇属性魔法を放つ。アトゥーサは何とかかわすことができたが、カルンが後ろの2人を守る形で受け止めていた。すぐさまテリアがカルンにヒールをかけ、メアリが後衛魔族の追撃を防ぐべく反撃をしていく。
このタイミングで中級魔族への意識が薄れるのはまずい!アトゥーサそう思ってすぐに追撃したが一瞬遅かった、シェアドバイタルを使われ回復されてしまったようだ。
くそっ、あと少しだったのに。。悪い攻撃ではなかったが最後の詰めまで行けなかった。アトゥーサは心の中で悔しがったが、すぐに切り替える。完全回復には至っていないはず、まだチャンスはある。立ち上がり余裕の笑みを浮かべる中衛の魔族に対して再度ホーリーチャージで間合いを詰めて攻撃をする。
アトゥーサの判断は正しかった。魔族の笑みはすぐに消え、回避に専念するもいかんせんスピードがない。アトゥーサの剣を躱せずにダメージをこのまま通常の剣技で押し切れそうだ。
「どうやら余裕に見えたのははったりだったようね。今度は仕留める!」
その時、アトゥーサは後衛の魔族の魔力が大きくふくれあがるのを感じた。どうやら闇属性魔法でさらに追撃を準備をしているようだ。カルンは先ほどの魔法を受け止めた際のダメージが残っており、次の攻撃を防ぐのは難しいかもしれない。後衛の魔族の魔法を阻止するにもこの距離では間に合わない。
どうする、アトゥーサは悩んだが、非情な決断をしなければならなかった。
ここでフェアリーサークルを守ればまた回復の機会を与え振出しに戻ってしまう、いつまでもこの戦いを長引かせるわけにはいかない。
しかし、その心配は不要となった。ちょうどのタイミングでタカキが現れ、後衛の魔族を打ち抜いたのだった。闇属性魔法はキャンセルされ、アトゥーサはそのまま中衛の魔族を仕留めることができた。
そしてその勢いを止めることなく後衛の魔族に向かって行く。
タカキは一度命中させた後も打ち続けた。通常の弾丸だったため、一発で仕留められるとは思っていないかったためだ。しかし、最初の攻撃が当たってからは回避に注力しているのか当たらない。そこに別方向からメアリの弓スキルでの攻撃も襲い掛かる。その二方向からの攻撃に意識が向いたところにアトゥーサがホーリーナイト剣技スキル、フラッシュスプリットで仕留めたのだった。
「ふぅ、何とか倒せたね。これで向こうも大丈夫でしょ。」
アトゥーサはすぐにフェアリーサークルのみんなの無事を確認しに行った。
「アトゥーサ、やったな。一人で魔族2体も倒すなんてさすがだ」
カルンが、ねぎらいの声をかける。
「私一人の力じゃないわ、みんなのおかげよ。それよりも上級魔法直撃してたようだけど大丈夫?」
アトゥーサが心配そうに聞いた。
「ああ、何とか自分で歩けるくらいだな。テリアに魔法で回復してもらったがちょっとこれ以上の回復は厳しいみたいだ。」
足を引きずりながら歩きだそうとするカルン、メアリが肩を貸して支えてやる。
カルンの明るい表情とは対照的にメアリとテリアの表情は暗い。
「タカキ、今回ばかりはあんたには礼を言っておくわ。」
アトゥーサは、二人の表情を見て後ろめたさを覚えるとともに、タカキが魔族の魔法の発動を阻止してくれたことに心から感謝したのだった。
途中から中衛の魔族からの闇属性魔法アブソーブが途切れるようになり、さらには後衛の魔族の攻撃魔法も来なくなったことで、シュッタウとジェイミーは一気に優勢になっていた。
「どうやらアトゥーサがやってくれたようだな。」
「そうね、こっちもそろそろ仕留めるわ。これで終わりだ、ダウンストライク!」
ジェイミーが斧技スキルを発動させ、魔族のガードの上から叩きつぶす。シュッタウが相手をしていた魔族をジェイミー側の魔族に吹き飛ばし、ぶつけたことで回避できなくしたおかげだった。さらにシュッタウも残った魔族に対して安定した剣さばきによる追撃することで、力で押し切り仕留めたのだった。忠勇魔族は塵となって消えていった。
「かなりしんどい時間帯もあったが、、何とか倒せたな。」
「ああ、強かった、だけど私たちの連携が上回ったね。魔族は憎んでも憎み切れないが、奴らの戦いっぷりには少しだけ敬意を覚えたよ。」
「そこは私も賛成ね、魔族がこんな、洗練された戦いをするなんて初めて見たかも。」
ジェイミーの言葉にエレンも同意する。今までこんな戦いを経験したことがなかったので、戸惑っている自分がいた。
ジェイミーたちがアトゥーサやタカキと合流したところに、ようやくシンイチも到着した。
負傷している者もいるが、みんな無事のようだ、シンイチはほっと胸をなでおろした。
「シュッタウさん、中級魔族全て倒したんですね。さすがです。」
「ああ、何とかな。今回はアトゥーサが大手柄だったよ。タカキに少し手伝ってもらったらしいけどな。」
「向こうも片付きました、あとはダミアンさんのところがどうなっているかですね。ニーアも向っているのでもう終わっているかも。」
そんな軽口をたたき、そろそろニーアの元に行こうかと思った時、遠くの方で黒い闇が広がってくるのが見えた。
シンイチは思わず叫ぶ。
「みんな、マジックシールドを張って!」
辺り一面が一気に闇属性魔法に包まれた。




