第九十三話 獣魔貴族(2)
「やれやれ、参ったな。取りうる策としては他のメンバーの合流まで時間を稼いで、そのあとで一斉に攻撃って感じか。」
ダミアンの提案は通常であればオーソドックスでまっとうな作戦のように思えたが、正直、ニーアはその案には同意し難かった。
「どうかしら、援軍が来たとしてもダミアンの魔法でさえあまり通さないあの強靭な体にまともにダメージを与えられるのは数えるくらいしかいないわよ。」
だがそれでも、今よりも手数が多くなる分、ましになるはずというのは確かにある。攻撃が通用する可能性があるのはツォーガとジェイミーくらいだろうか。タカキの銃は未知数だが意外とあり得るのか?シンイチは上級魔法を時間をかけて練ってもらうくらいしないと通用しないだろう。それくらいの相手であるのは間違いなかった。
「まあ、それはそうなんだよなぁ。。とはいえ、このまま続けていてもいずれじり貧にならないか?」
「まずは私の魔法剣技を試してみる。ダミアン、攻撃魔法で適当に陽動してくれる?中級魔法でいいから。」
「オーケー、付き合うぜ。」
ニーアはいつも使用している剣に持ち替えて駆け出し、べライグとの距離を詰めていく。ダミアンがすぐに炎属性の中級魔法を放つが、べライグはよけるまでもないと意に介さず腕で防御している。その隙をついてニーアが風属性の魔法剣技エアブレイドで切りつける、さらに炎属性のフレイムスラッシュ、光属性のホーリースラッシュ、雷属性のライトニングスラッシュと続けざまに攻撃をしていく。躱されても手数を増やして攻撃をヒットさせていく。どれも大ダメージを与えているとはいいがたかったが雷属性が最も効果的かもしれない、攻撃を受けたときべライグの顔が少しゆがんだように見えた。そして、確かに炎属性も良く効いているようだ、その次は光だろうか。ダメージが入る、傷がつけられるという点ではこの3つの属性はありだが、風属性に至っては全くのノーダメージだった。ただし、総じてあまり良くない、さっきのクイーンクエカットの方が深く攻撃が入っている手ごたえだった。仕方なく再び剣を物理攻撃力特化のウルティアに持ち替える。
何度だってやるしかない、そう思って、剣技スキルを繰り出していく、どこか弱い部位はないかといろいろなところに攻撃を当てるよう工夫をしてみるが、特段致命的に弱いというところはなさそうだ。再び
ダミアンからの援護射撃となる中級火属性魔法フレイムバーストがべライグに襲い掛かった。
「無駄だ、そんな攻撃効かんわ。ふんっ!」
べライグが右腕に魔力を籠め、ダミアンの炎属性魔法をたたき返す。さらに闇属性魔法の魔力弾のようなものまで放つおまけつきだ。二つの魔法が融合して一つの大きな塊となって飛んでくる。ニーアはとっさに躱したがダミアンは予期していなかったようで魔法をまともに食らってしまった。
「ダミアン!」
「大丈夫、心配するな!」
ダミアンが返事をする、その体のあちこちに焼け焦げた跡ができている。
「くそっ、かわすかガードしかしていなかったから油断していたぜ。まさか魔法を跳ね返すこともできるとはな。自分の魔法をまともに食らうのは久しぶりだ、中級魔法でよかったぜ。」
ダミアンがつぶやいた、タンク系のジョブには及ばないが、ダミアンの防御力は物理魔法ともに高い。
すぐさまノノが近づき回復魔法を唱え始める。状況の判断、回復力ともに優秀なヒーラーである、ダミアンのやけど跡がきれいに消えていく。
「ダミアンさん、大丈夫ですか。」
「ああ、まだまだこれからだぜ。ヒールすまねえな、助かるぜ。」
それを見ていたべライグが低い声でいった。
「悪くはない、が、回復してだらだらと長引かせる戦いってのはつまらねえな。」
「傷ついたら回復するのは当たり前じゃない、あんたも自然に回復しているじゃない。」
ニーアが反論する。しかし、べライグはその反論は気にかけていなかった。
「この先を考えるともう少し手下も残しておくべきだな。他の戦いもそろそろ見に行かないとな。ティグロムがやられたってことは他の奴らも荷が重かろう。まあ、お前たちほどの強者が他にもいるとは思えないがな。」
「もう遅いんじゃない、私たちクラスのメンバーはまだ他にもいるわ。」
「ふん、そうかな。俺たちの強さを測った上でメンバーを当ててきている、違うか?」
見透かされている、ニーアはそう思ったがなるべく表情に出さないように努めた。
「さて、回復も終わったようだし、そろそろこっち行かせてもらうぜ。」
そういうとべライグ大きく咆哮した。闇属性魔法かと思いきやただの物理的な衝撃破である。それでも、一瞬、地に足をつけて踏ん張る必要があるほどのインパクトがあった。その一瞬の隙をついてべライグがダミアンに攻撃を仕掛ける。ダミアンはボディブローを受け吹き飛ばされた。ダミアンは魔法職に似つかわしくない鍛え上げられた筋肉質な体であるが、それでも相当のダメージだった。
すぐに立ち上がろうとしたダミアンだったが、血を吐いて再び膝をつく。
くそっ!内臓をやられたか。ダミアンは心の中で舌打ちをした。もちろん油断をしていたわけではないが、一瞬の隙を突かれた形だ。殴られる瞬間、自分で後ろへとんだおかげで、まだ胴体と足がつながっているといっても過言ではなかった。
「ちっ、まともに入ったと思ったがしぶとい魔法使いだ。」
そう言いながらダミアンに追撃を加えようとするべライグに対し、ニーアは慌てて間に入り攻撃を受け止める、そこから反撃に転じてダブルスラッシュを命中させるもやはり剣が通らない。再び距離を取った。その隙にノノが再びダミアンに近づこうとするが、べライグが魔力弾を放ちけん制をする。
「おっと、お前はちょろちょろと動くなよ。この二人と比べて耐久力がだいぶ劣っていることはわかっている。」
「ノノ、じっとしてろ!」
ダミアンもノノを制するがその声にいつもの力強さがない。
このタイミングでノノたちを狙われると自分が防ぐことができないため、
自分で治癒するしかない、ダミアンはそう思いべライグにばれないように治癒魔法を自身にかけ始めた。あまり派手にやるとばれてしまうので回復量を抑え少しづつやっていくしかない。その間、ニーアが時間を稼いでくれるはず。
ニーアはダミアンを心配しつつも一つの疑問が浮かぶ。なぜ、ダミアンを狙ったのだろう?距離的には私の方が近かったはず、奇をてらうため?さっきの魔法攻撃でダミアンの方がスピードがないと判断したのか?
今の攻防でべライグはニーアをほとんど気にしていなかった、ダミアンの方に注意を払っていたように感じたのだ。ちょっと前まではそんな感じはしなかったのに、、変化点は武器を変えたとき?
ダブルスラッシュを平然と受けられたことでニーアは一つの仮説を立てた。
べライグは物理攻撃より魔法攻撃の方が耐性が弱いのではないだろうか。そのため、ニーアよりも魔法火力の高いダミアンを狙ったのでは?
仮にそうだとして、それが何か突破口になるだろうか。先ほど試した通り、自分の魔法剣技はかすり傷をつける程度だ、あの硬い外皮を何とかしないと。
やはり手数が足りない、結局ダミアンの提案通り他のみんなを待った方いいのかもしれない。
それよりも今はダミアンが回復できるようあの魔族を一人で食い止める必要がある。
ニーアは覚悟を決めることにした。




