第九十話 VS三獣士(2)
「ぐおぉお!」
ティグロムが大きな叫び声をあげた。ニーアがそのすきを見逃さず魔法剣技エアスラッシュを連続して放っていく。最初の二発は命中したが、それ以降はティグロムが立て直しかわされてしまった。エアスラッシュが直撃してもそれほど大きなダメージになっていないようだ。斬撃耐性があるのかあるいは風属性耐性なのか、それにしても硬い。以前戦った上級魔族もそうだが、やはりその防御力は他の魔物と比べても段違いである。
「くそがっ!上になにか居やがるのか!」
そう言って上空を見上げるティグロム。ニーアはそのすきを逃さず距離を詰めてさらに攻撃を仕掛ける。上からの攻撃に対して反撃されると、空中にいるタカキの回避手段が限られることもありタカキに危険が及ぶかもしれない、そうはさせない!という意図もあった。
ダメージを負ったせいか、心なしかティグロムの動きが鈍くなっているように感じた。ここでもう一度マイティストレングスで能力を底上げして一気に勝負に出てしまおうか。いや、ただ単に必要最低限の動きに抑えているだけかもしれない。
ティグロムは久しぶりに肉体にダメージを負ったことにより焦っていた。まさかこんなことになるとは。王都に着くまでは楽に蹂躙していく予定だったが、間違いなくここが山場だろう。目の前の金属鎧の剣士の攻撃もかなり強力だ。先ほど2発風属性の斬撃を受けたが、まだ痛みが残っている。風属性耐性を持っていてもこれだけ協力だとすると、耐性のない他の攻撃を持っていた場合に耐えられる保証はないだろう。ステップを踏みながらその場に立ち止まらないようにする。もちろん上からの攻撃に備えてである。本来であれば撃ち落としてやりたいところだが、目の前の剣士がそうはさせてくれそうもない。先ほど少し上を見たときに小さなにかが見えた。あれば人族ということはかなり上にいるということで、広範囲攻撃ではなく小さい何かが体を貫いたということはシビアに狙いをつけないといけないはずである。その距離でも精度よく狙えるならばこの対策は無駄かもしれないが、そうであればもっと数多く攻撃してくるはず。そんなことを考えていると、目の前の剣士がどんどんとペースを上げて攻撃をしてくる。
「ぬぅ!」
怒りとともに爪で大気を切り裂くマッハクローという技を繰り出す。ニーアのエアスラッシュと同様に風の斬撃を飛ばすことができる。ただし、狙ったのは他のメンバーだった。
「危ない!」
ニーアが間に入ってマッハクローを受け止める。
「クックック、どうやらそちらの方たちはお荷物のようですね。」
ティグロムはそう言ってマッハクローを連発する。
「ニーア!私たちは大丈夫、自分たちで何とかする。構わず攻めて!」
ユニテアの言葉にうなずいて、再びティグロムに攻撃を仕掛けていく。ティグロムはニーアの攻撃を受ける合間を突いて再びユニテアたちを狙った。
「ウォーターバリア!」
ユニテアが防御魔法を展開する。ダメージをゼロには出来ないまでも耐えている。
「くそ、まずいな。早くフォローをしなくては。」
ユニテアたちが攻撃されているのを見てタカキはつぶやいた。1回攻撃を当ててから少し上に上がって待機していた。そして反撃がないことがわかるとまた徐々に高度を下げて狙える位置まで下がっていたのだった。
「効率は良くないが仕方ない、相手はニーアと互角に戦うくらいの強さだ。下手にこっちが狙われたらまず勝てない。」
タカキは今の自分の実力を把握していた。
拳銃の有効射程距離は40,50mが限界だが、そこから狙うとなると相手が体長が2、3メートルの魔物でも、見え方としては数センチの的を狙うことになる。空で安定していない状態でその小さな的に当てるのは難しいため、距離を半分くらいの20~25mから狙うことにしていた。これなら的の大きさも10㎝以上に見えるため何とかなる。
近づけば近づくほど狙いがつけやすいのは当然だが、近づきすぎると向こうにもばれやすくなるため、なるべく遠くから狙いたい。見つかりにくさと命中精度の両立を考え、この距離としていた。
「これで終わりです、クローサイクロン!」
巨大な竜巻を発生させ、その竜巻がユニテアたちを襲う。さすがにこれは、とニーアが助けに行こうとしたとき、シンイチの声が聞こえた。
「ニーア、こっちは大丈夫!」
シンイチが自身の盾に魔力を籠めて防御するようだ。ユニテアの魔法と合わせて2重のバフがかかっているといえる。
「よし、それなら。」
ニーアは一瞬だけマイティストレングスを開放する。距離を詰めてフレイムスラッシュを放った。
「ぐっ。」
今度はだめーを受けた反応があった、風属性よりはよさそうだ。ティグロムがいったん距離を取ろうとしたとき、後方から支援攻撃が届く。
「ムーブバインド!」
ジェイニスの弓技スキルがティグロムの動きを止めた。シンイチとユニテアがクローサイクロンを防ぎ切った直後、ユニテアの固有スキル「スキルエンハンサー」によりジェイニスのスキル自体をの威力が高められていた。
「小癪な真似を、こんなスキルすぐにほどいてやりますよ。」
ティグロムはスキルに抗い動こうと力を籠める。少しの抵抗ををもらうも数秒でジェイニスのスキルから逃れた。
しかし、ニーアにはその一瞬の隙で十分だった。
以前の修行で覚えた5連撃の剣技「クイーンクエカット」を叩き込んだ。そのあとで、下から上に切り上げることでティグロムを上に吹き飛ばした。
「助かるな、慎重に狙いをつける必要がなくなったか。」
上空にいたタカキが、そう言いながらありったけの銃弾をティグロムに向けて撃ち込んだ。
全ての銃弾が体を貫通し、銃撃のダメージによりバランスをとることも忘れたティグロムは地面にたたきつけられ、そのまま倒れた。
「まいりましたね、ここまでですか。」
最初の剣士の攻撃ですでに勝負は決していたが、とどめを刺された感じである。
ニーアがその前に立ちふさがった。
「あんたが、見下してきた人間に手も足も出ずやられるのはどんな気分よ。」
「全く、最悪ですねえ。だが、まだわれらがベライグ様がいる。貴様らには勝てないでしょう。せいぜい地獄を見てください。先に待っていますよ。」
そういうとティグロムの体は消失していった。
タカキがエースとともに上空から降りてきた。
「ナイス、タカキ! でも、一発目を当てるまでにずいぶんと時間がかかったじゃない。もっと早く当ててくれたら私たちも楽になったのに。」
「僕もずっと待っていたのに。」
シンイチが近づいてきて不満そうな顔で言った。回復も完了して、ティグロムの攻撃で新たに負傷したということもなさそうだ。
「いや、すまんな。ずっと狙っていたんだが、動きが速すぎて撃てなかった。最初の一対一のときでも上からだとシンイチがしっかりガードできているように見えたんで確実に当てたくてな。一回警戒されちゃうと、多分厳しいと思ってさ。なんにせよ、動きが止まったから当てれて良かったよ。」
「ガードができても、防御の上から削られていくんだよ。」
シンイチはまだ不満そうである。
「そうか、それはすまなかった。」
「上から攻撃があると思わせるだけで、そっちを警戒しないといけなくなるから、その分攻撃力も落ちると思うのよね。そうなっていたらシンイチもこんなにボロボロにならなくても済んだかもしれないのに。」
攻撃というのは当てるのはもちろん大事だが、相手をけん制するための攻撃というのもあってしかるべきである。特に格上相手に時間を稼がないといけないというときに一発必中を狙うのは作戦としては疑問が残る。
「わかった、わかった。悪かったよ、その辺の戦闘経験が浅いから考えが及ばなかったんだ。この作戦も直前で話して決めたからそんなに深く練れていないんだ。」
「それはそうだけど。。」
ちょっと言い過ぎたかなと思ったニーアだったが、先ほどの傷だらけのシンイチを思い出すとやはり怒りが収まらない。
「僕はもういいよ、タカキを許すよ。自分が格上を仕留めないといけないって託された時のプレッシャーは気持ちはわかるし。」
「シンイチがいいならまあいいけど。まあ、タカキに仕留めてもらうなんてはなから期待していないけどね。」
「おいおい、それはひどいな、俺の貢献だってあるだろうに。」
「まあそうね、スピード感持って戦えたのは良かったわ。相手の力を出させずに勝つってのは大事よね。」
実際、一人で絶対に倒せないかと言ったら倒せたと思う。しかし、自分もかなり消耗しただろうし、時間ももっとかかっていただろう。この短時間で上級魔族をほぼ無傷で倒せたのはみんなの協力のおかげなのは間違いない。
「さあ、私たちの分担を終えたから、回復をしたら他の人のサポートに行くわよ。私はダミアンのサポートに。他のみんなはクワッドヴァルキリーの手助けをお願い。」
ユニテアとジェイニスはわかったとうなずいた。
そう言ってからふとダミアンの言葉を思い出す。
「あ、やっぱり、シンイチは少しライジングサンの様子を見てからにしてくれない。」
「え、わかったけど、戦っている場所反対方向だよ?」
「いいから、お願いよ。」
数分の回復魔法タイムのあと、すぐにちりじりとなって他の戦いに向かって行った。




