第八十九話 VS三獣士
「まずは中級魔族を仕留めましょう。私とユニテア、ジェイニスで一気に片をつけるわよ。」
戦闘開始直前のニーアの言葉が頭に浮かぶ。ユニテアは全力で前に出た。自分とジェイニスで先行しなくてはいけない、二人が陽動として最初に仕掛け、ニーアの追撃で確実にとどめを刺してもらう算段だった。
しかし少し焦りすぎたようだ、二人の攻撃のタイミングが合わずバラバラとなってしまう。中級魔族は難なく二人の攻撃をいなし、反撃してきた。闇属性魔法で銃弾のように小さな魔力の粒を打ち込んでくる。ジェイニスはその反撃をかわしたが、ユニテアはかわしきれず足に傷を負ってしまった。動きの落ちたユニテアに狙いを定めにやりと笑みを浮かべる中級魔族、とどめの一撃を撃とうとした瞬間ジェイニスが後ろから弓で三連射を放った。三本の内一矢は魔族に命中するもそれほどダメージを与えられなかったようで、少しこちらを振り返っただけだった。
「くそっ、ダメか。」
攻撃が効かず、魔族の攻撃を止める手立てがなくあせるジェイニス。
しかし、二人の緊迫した表情が中級魔族の気のゆるみを引き出した。反対方向から一瞬のスキをついてニーアが、魔法剣技スキル「エアーブレード」で切りつけた。
「ぐあっ!」
中級魔族がひるんだところにさらに追撃を加えていく、切り刻まれた魔族はあっという間に霧消していった。
すごい、中級魔族をこんなに簡単に倒すなんて?!先ほどのダミアンの先制攻撃といいAランク、Sランクの冒険者が桁が違いすぎる。ユニテアは自分と一つしかランクが違わないはずのニーアがとても遠い存在に感じた。
ニーアが強いのは知っていたが、ここまでだっただろうか、以前より格段に強くなっているのかもしれない。他のチームのどこよりも早い撃破である。これならいけるかも、ユニテアはジェイニスと目が合い互いに頷いた
「ユニテア!傷は大丈夫?」。
ニーアが駆け寄ってくる、先ほど攻撃を受けたところを気にしているようだ。
「ああ、大丈夫だ。そんなに深い傷じゃない、初級の回復魔法は使えるから自分で治せるよ。」
「そう、それならいいけど。傷だけじゃなくて、毒とか呪いとかもかかっていないのね?」
「心配性だなニーアは。この通り問題ない。」
そういいながら笑って足を動かすユニテア。
カースドラゴンと戦ったばかりだったので少し神経質になっていたか、と自分を諌めるニーアだったが、
この戦いは長くなるという予感もあり二人には万全の状態で長くいてもらわないといけない。
ジェイニスも特に怪我は無いということを確認し、急いでシンイチの方へ向かうことにした。なんせ実質一人で上級魔族を食い止めているはずだ、タカキの上空からの奇襲が決まっていることを祈るしかない。距離にして200mくらいのところで戦っていたので1分もかからず到着することができた。
「シンイチ、お待たせ!よく耐えてくれたわね。中級魔族は片づけたわ。」
その声に反応して振り返ったシンイチは、すでにボロボロの状態で立っていた。
「やあ、ニーア。ちょうどいいところに。僕も頑張ったんだけどほんの数分でこのざまだよ。」
そういうとふらついて倒れそうになったので、ジェイニスが慌てて支えてやった。
「え、うそ、大丈夫なの?!」
「まだ何とか立っていられるよ。」
シンイチはひっかかれたような傷だらけの顔で笑顔を浮かべた。
「私が回復をしてあげるって言いたいところだけど、素直に回復させてくれそうもないわね。」
そう言ってにらんだ視線の先にはティグロムが常にから殺気を飛ばし隙を狙っている。
ニーアとユニテアたちが中級魔族の相手をしている間、シンイチは上級魔族と対峙していた。
「僕は大丈夫だよ。みんなであいつの相手をしてくれれば、その間に自分で回復できると思う。でも、悔しいな。。くっそー、あの時から比べてだいぶ強くなったつもりだったけど。まだまだ、防戦一方だ。」
「あなたはちゃんと強くなっているわよ、私が保証する。簡単に敵の情報を教えてくれる?」
「エルフィリア大迷宮で戦った、アークキラータイガーってモンスターを覚えている?あいつみたいに素早くって、しかもパワーもある。ただ突っ込んでくるでもなく、立ち回りもちゃんと計算された前衛の戦士の動きって感じなんだ。」
「まあ、上級魔族だからそうよね。よく耐えたわね、私たちが相手をするからその間にゆっくり治癒魔法で回復していて。」
そう言った瞬間、ジェイニスへの攻撃をニーアが防ぐ。そしてティグロムの前に出る。シンイチを傷つけられて怒っているようだ。ユニテアはティグロムの殺気よりもニーアの怒気に気押された。
中級魔族を早々に倒したけど、シンイチが一時的に戦闘不能に追い込まれたことで、状況としてはイーブンかもしれない。時間が経てばシンイチが回復しこちらが優位になるはずだが、その前にユニテアとジェイニスがやられないという保証もない。
「二人とも、自分自身の身とシンイチを守ってくれる。私が仕掛けてなるべくそっちに気を向けられないようにするけど、そっちに攻撃されたら私が間に入ることができないかもしれない。」
二人は黙ってうなずき、シンイチを守るように立った。
よし、一気に片をつけよう、そう思いニーアから攻撃を仕掛けていく。エアスラッシュを連射し、それらを躱したところに、マイティストレングスで全ての能力を強化した一撃を叩き込む、上級魔族は吹き飛ばされた。しかし、ニーアは攻撃の手を緩めることなく次から次へと攻撃し一気に押し込んでいった。
「す、すごい。」
「ニーアさんは、こんな化け物なのか。」
ジェイニスと、ユニテアがあっけにとられている。そして1分ほど攻撃が続いた後、静寂を取り戻した。
ニーアが立っている、その先に吹き飛ばされ地面に座り込んでいる魔族がいた。
「ふっふっふ、素晴らしいですねえ、あなた。」
そういうと、立ち上がりさらに話を続ける。
「あなたの強さに敬意を表して自己紹介させていただきましょう。私は上級魔族 三獣士の一人ティグロムと申します。以後お見知りおきを。まあ、ここで死ぬあなたたちには無駄かもしれませんが。」
ニーアは護衛任務の時の上級魔族アドベアニスを思い出した。あいつも確か三獣士とか名乗っていたような? 三獣士っていうくらいだから3体はいるってことよね。ダミアンが相手している奴が残りの一人かしら? マイティストレングスのスピード、パワーに耐えられる分だけ、アドベアニスよりもこいつの方が強いってことかしら。さらに、ダミアンが相手している奴はさらに強そうな気がするわ。
それにしてもアドベアニスも名乗っても無駄みたいな似たセリフを吐いていたような。。所詮は魔族、ワンパターンな煽り文句しかないのかしらね。
そんなことを考えていたが、いやいや、と首を振ってティグロムに意識を戻した。
「ふん、何言ってんのよ。私の攻撃に対して手も足も出てないようだけど、そんなんで私を倒せるとでも。」
「確かに、スピード、パワー何から何をとっても私を上回っているようですね。ただ、それがいつまで持ちますかね、私も反撃できないまでも守りに専念すればある程度の時間は耐えることはできそうですよ。どちらが先に力尽きるか試してみますか。」
ちっ、と心の中で舌打ちをするニーア。今のステータスが時限的な能力によるものだと見破っているようだ。仮にこっちが勝てたとしてもかなりの時間を要するのは間違いない。先ほどの攻防で1分間くらいマイティストレングスを使用したので、まだ9分くらいは使えるだろう。だが、その時間内に倒せないとかなり追いつめられた状況になってしまう。仮に倒せたとしてもニーアはもう戦えないかもしれない。もう一匹の上級魔族をダミアンがしっかり倒してくれたら問題ないが、その保証もないためできれば加勢に言ってあげたい。
シンイチの回復を待って協力した方が確実か、さらにはこれは人任せな考えだが、もしかするとダミアンの方が先に上級魔族を倒してこちらに加勢しに来てくれるかもしれない。そう考えてニーアも時間稼ぎに付き合うことにした。
「なるほどね、ただ力に任せて立ち回る脳筋魔族ってわけじゃなさそうね。じゃあ確実に仕留めさせてもらおうかしらね。」
そう言って剣を構え慎重な姿勢を取る。ゆっくりと間合いを詰めるニーア、それに合わせてティグロムの方も先ほどの動きとは打って変わってゆっくりとなった。
その時、天空から上級魔族の右肩を何かが貫いた。




