第九話 冒険者クエストと修行(2)
それからしばらくの間は、ギルドクエストの受注と魔法の練習、それに加えてニーアとの戦闘訓練という日々が続いた。クエスト達成と魔法の練習は一週間もすると慣れてきた。
そのため、徐々に難易度を上げ、強いモンスターを討伐するクエストを受注したり、初級魔法だけでなく中級魔法に挑戦したりと順調にステップアップしていた。一方で、ニーアとの戦闘訓練ではいつもボロボロになっていた。
「ちょっと待って、たんま!きついって。」
「まだまだ、こんなもんじゃないでしょ!ほら立って!」
ニーアの連続での剣戟を受け吹き飛ばされたシンイチが、よろよろと立ち上がる。ニーアは鞘に納めたままで打ち合っているが、それでも当たるとかなりのダメージがある。
「見えないんだから防げるわけないよ。」
「見るんじゃなくて感じないと。」
「そんなどっかの達人みたいなこと言われても。。」
シンイチはあきれ半分ふてくされ半分といった感じだ。確かに一理あるとニーアも思い、少し話をする。
「言い、見えないなら見えないなりに防御はしないと。右なのか左なのか正面なのか。どこかを護れば相手はそこじゃないところを攻撃しようとする、その分攻撃が遅れるわけだから動きが見えやすくなるじゃない。」
「気にせず攻撃してきたら?」
「そのときはあれよ、防御したところに攻撃が来たら防げるじゃない。」
「そうじゃないところだと?」
「まあ、攻撃を食らうわね。」
「それじゃあだめじゃん!」
「それは・・・」
シンイチはこんなことで大丈夫だろうかと不安になった。確かにニーアの強さは認めるが、あまり人に教えるのが得意ではないのではと思ったのだ。
何かを思いついたような表情になったニーアからアドバイスがあった。
「そうならないように、良く相手の動きを見て癖とか、攻撃のパターンとかの情報を蓄積しておくのよ。あとは、自分が防御しているところに攻撃が来ないってことは他の部位が攻撃されそうになっているってことだから、そう考えればよけやすくなるでしょう。」
確かに言っていることはそれらしいことを言っているような印象を受ける。だが、本当に実践できるのだろうか?そんな疑問がシンイチの脳裏をよぎったが、考えていても仕方がない、まずは試すのみだ。
「リョーカイ、じゃあ少し休ませてもらったことだし試してみるかな。」
そう言って立ちあがって構え、槍での攻撃を繰り出していく。ニーアがしゃがんで突きを躱したところに、シンイチはそのまま切り下ろしていった。シンイチ的には刺突のあとすぐに切り下ろしたため隙も無く良い攻撃だと感じた。
防御は間に合わない、これは当たるはず! そう思った瞬間、腹部に鈍い衝撃を受け後ろに吹き飛ばされた。
すぐにニーアが間合いを詰めてくるのが見えた。とりあえずどこかガードしなくては。そう思って槍を両手で持ち頭の上にかざした。すぐに衝撃が槍に伝わってきた。
「お、今の防御はなかなかいい反応じゃない。」
何とか防御できたようだ。完全にまぐれだがニーアのアドバイスも捨てたものではないかもしれない。
シンイチはそれよりもニーアの動きが納得できなかった。
「なんで、その前の僕の攻撃は当たらないの?」
「ふふっ、秘密よ。」
うーん、くそ。何とか一泡吹かせてやる! そんな想いで再び立ち上がりニーアに向かって行く、そしてまた反撃に遭いという繰り返しであった。
合間合間で回復魔法で回復してくれるので擦り傷や打撲といった目に見える怪我は回復するが、装備品や着ている服は直らない。戦闘訓練の後は自己治癒能力を高めるためという理由でよほどの大怪我でもしない限りは回復してもらえないため、いつもボロボロになってギルドに行くことになるのであった。
そんな日々が二週間ほど続き、シンイチが疲労困憊の状態でクエストの完了報告に冒険者ギルドに来るという風景が日課となっていた。
そのため、他の冒険者からはニーアは恐怖の存在と認識されており、シンイチには同情の視線が向けられるというのがお決まりになっていた。
「おい、あれ見ろよ。また、鬼教官に絞られたみたいだぞ。」
「かわいそうに、、あの少年に同情するぜ。ニーアって確かB級冒険者だったか。長年、Aランクに上がれないからって八つ当たりか。。きっと兜の中はムキムキの筋肉女だぜ。」
フルフェイスの兜で顔が隠れたニーアの姿を見て、他の冒険者からはいかつい脳筋冒険者だと思われているようで、ニーアの耳にさえそんな噂話が聞こえてくる。
全くこっちの事情も知らないで好き勝手言ってくれるわね、そこまで大きくない身長なのだからそんなムキムキなわけないでしょ、それに私はもうAランク冒険者だし!いつの話をしてるのよ!とニーアは憤りを感じつつもそれらの声は無視することにしていた。
いっそ正体を明かして、土下座で謝らせられたらどんなにすっきりするだろう。そんな妄想をして気を紛らわせていた。
とはいえ、声も風魔法で声を発した際の空気振動を変化させることで声の高さを変え、元の勇者アイの声とは別人の声となっていたため、兜を取ったとしてもすぐに勇者アイと気付く者はほとんどいないだろう。(少なくとも今のフルフェイスの兜をかぶっていたとしても、目の部分は細く空いているので、じっくりと見れば中身が「かわいい」女性だとはわかるはずだ。しかし、みんなビビッてじっくりと目を合わせようとしてくれなかった。)。
ボロボロのシンイチを見て、昔からニーアを知る受付のエミーでさえも、
強い口調でニーアに怒ったのも一度や二度ではなかった
「ニーアさん!こんなにシンイチさんを追い込まないでください。強くなる前に死んでしまいますよ。」
「分かってるって、分かっているわよ。エミー落ち着いてよ。」
何とかなだめるニーア。そんなこわもてニーアを叱る姿を見て、他の冒険者がエミーの前では態度が素直になるという現象まで起きていたのだった。
しかしニーアとの猛特訓のおかげもあり、シンイチはこの短期間で著しく成長した。訓練の開始から3週間がたったころには魔法を駆使しながらの戦闘ができるようになっていた。自分自身に身体強化魔法をかけることで槍術や体術(蹴り)による物理攻撃の威力を高めつつ、距離をとる相手に対しては魔法で遠距離攻撃することもでき、キラービーやキラーラビットであれば、集団であっても一人で難なく討伐可能になっていた。
「的が多いと、魔法攻撃がはかどるね。」
と言いつつ、ファイアボールやアイスバレットといった初級魔法を連発している。初級魔法とはいえ、その速度と威力、そして継続してこの数の魔法を撃ち続けることができる魔力量(MP)はとても初心者の戦い方ではない。
このレベルだと何年も活動しているベテラン冒険者じゃないときついはずなんだけどな、、、と思いながらニーアは眺めていた。
中級魔法もまだ完全ではないが、加護がある火、氷、土の属性についてはかなりの精度で駆使できるようになりつつある。火属性の中級魔法であるファイヤーストームを使うと、オーガのような大型モンスターを焼き尽くすことができるようになっていた(たまに失敗して初級魔法以下の威力で発動してしまうことも有ったが、、)。
「まだ一か月弱なのに、、やっぱ、チートだよなあ。」
シンイチの成長の速さを目の当たりにしニーアは思わず独り言をつぶやいた。
「ん、なんか言った?」
シンイチは無邪気に魔法を連発しながら聞いてきた。
「いや、何でもないわよ、それよりほら集中が切れているから魔法の練度が下がっているわよ。」
「あ、いけねっ!ちょっと待ってよ。」
そう言って再度集中しなおしたあとに完璧な中級魔法を放ったのだった。
「どおどお?」
「うーん、今のは良かったわ。でも集中力にムラがあるし、まだまだ経験不足ね。」
「えー厳しいなー。」
確かに辛口なのはニーア自身も認識してる。わずか1か月足らずで今のレベルまでできるのは異常と言えるくらい凄いことだろう。それでもこの世界だといつ何があるかわからないこともあり、油断することのないようにという戒めの意味も込め甘やかすことはなかった。
ニーアとの戦闘訓練も内容が変わってきた。二段階での特訓を実施しており、まずは身体強化やほかの攻撃魔法を使わない状態での戦闘、そのあとに身体強化含め魔法の使用がありでの訓練である。
「身体強化無しだと敵う訳ないじゃん、基礎パラメータが全然違うんだから。」
「そうね、それでも基礎筋力を鍛えることは重要よ。」
「分かってるよ、身体強化した時でもその効果が変わってくるんでしょ。もう何回も聞いたよ。まあ、そういう意味なら身体強化しても勝てないってことだけど。」
シンイチの言う通り、同じ身体強化魔法であっても、基礎が違うと効果が異なる。例えば身体強化で2倍する場合だと、基礎能力が1を倍にすると2だが、基礎能力を3にすると6,5にすると10と大きい効果が得られるということである。
「まあね、でも身体強化は戦士系のジョブの中でも高位のジョブじゃないと使えないことが多いから覚えておいて損はないと思うわよ。」
まだまだ絶対的なレベルは低いにも関わらず身体強化魔法も覚えることができ、上級職を選択できることの恩恵を得ているという訳である。
身体強化魔法の効果を高めるために、魔法無しの戦闘訓練で先に基礎身体能力を鍛えた後に、総合的な戦闘経験を積むために何でもありの戦いをする。
何でもありの戦いでは、シンイチは自分が今持っているすべてを総動員してニーアに攻撃を当てるというのが目標だった。
ニーアは本気を出して攻撃を避ける、そして反撃する際は手加減をするという形の演習である。
防御面においても大幅な能力アップがあった。日々の訓練で装備がボロボロになるため、魔力を通しやすい素材を使った盾に新調したところ、敵の魔法攻撃や属性攻撃に対して、反属性の魔法(例えば炎魔法に対しては氷といった形)を盾に付与することで大幅に敵の攻撃魔法の威力を減少させることもできるようになり、対魔法タンクとしての道が見えてきたようだ。勿論、対物理の防御力も大幅に上がっているのは言うまでもない。
さらに一週間の訓練を終えたころには、少し森の奥に入って大型の動物型モンスターをソロで討伐できるようになっていた。
「ええ、一人でなんてまだ無理だよ。」
と弱気なことを言っていたシンイチだったが、いざモンスターと対峙すると素早い動きからヒットアンドアウェイでローキックを何発も叩きこみ敵の動きを止め相手がローキックを嫌がったところでミドルやハイキックに切り替えて圧倒していた。仕上げは、高くジャンプしてモンスターの顔面に蹴り落とすことで意識を刈り取った。
「凄いじゃない、シンイチ。まさか体術だけでやっつけるなんてね。」
これにはニーアも驚きを隠せず素直に褒めるしかなかった。
「自分でもよくわからないけど、相手がよく見えていて、体が思ったように動くよ。」
と自信ありげに言った。
このころには、武器防具も初心者向けを卒業し、中級冒険者向け(中級はB, C級冒険者を指す)を装備できるようになっていた。
「3週間前には重くて動けなかったのが嘘みたい。今だと、何もつけていないみたいに軽いよ。」
そう言って試着しながら体を動かし、嬉しそうに目を輝かせるシンイチを見ているとニーアも思わず笑みがこぼれる。この数週間の自分の指導法は間違ってなかった、そんな気にさせてくれるのであった。
ギルドのクエストの受注はそれほどペースを上げていないため冒険者ランクは変わっていないが、強さだけで言えば既にCランク冒険者に相当するといってよいだろう。毎日、戦闘だけでなく限界まで魔法の訓練もしていたため、これでもかというくらいMPの上限も伸びている。このまま成長すると、ニーアと同じくらいのレベルになるころには間違いなくニーアの魔力量を上回るだろう。この3,4週間の成長は指導したニーアとしても満足のいくものであった。(ただし、クエストの討伐証明用の部位の剥ぎ取り作業は相変わらず慣れておらず苦手なままだったが。。)
最低限のレベルという意味ではだいぶ仕上がってきたわね、そろそろ頃合いかしら?、そんな気持ちがニーアの中に浮かんできたのであった。