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第八十八話 開戦

その声の主はSランク冒険者のダミアンだった。

「あら、ダミアン?! クラーケンキングの討伐以来ね。ここに来たってことは手伝ってくれるって期待していいのよね?」

ニーアは思わぬ援軍にうれしくなりテンションが上がった。オラキ島での修行のときにSランクモンスターを一緒に討伐したSランク冒険者のダミアンであれば、その実力は折り紙付きである。

「ああ、任せろ。オスティアの冒険者ギルドによったら、魔族の襲撃の話を聞いてな。ニーアたちが向かったっていうからあわてて駆け付けたんだ。俺って一途だろ。」

「はいはい、そういうのはいいわよ。ところでスタークは来ていないの?」

「あー、あいつは別任務でオスティアには戻ってきていないんだ。代わりにというわけじゃないが、頼りになる助っ人を連れてきたぜ。」

そういうと、その後ろから現れたのはAランク冒険者パーティのライジングサンだった。

「お久しぶりです!けがはもう回復したのですね?」

シンイチが驚きまじりに聞いた。帝国側についた冒険者に襲われ数か月療養していたはずだった。

「ああ、ばっちりだ。魔族でもなんでも任せてくれ!」

ツォーガが力強く答える。それを見てシンイチも嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「人が足りないところだったから助かるわ!期待しているわね。」

ライジングサンと他のメンバーがあいさつをしている間、ニーアはダミアンに呼ばれて少し話の輪から離れた。

「あいつら、ああは言っているがまだ精神的には完治したとは言い切れない部分があると思っているんだ。圧倒的な実力差を見せつけられて、絶望的な状況を味わったって話だからな。モンスター相手にリハビリはしていたようだが、命を懸けたギリギリの戦いになると影響が出る可能性も否定できない。人手が足りないのは理解しているが、あまり無理をさせないでやってくれ。」

「わかったわ。中級魔族一体くらいは任せられるわよね。あとは、B級冒険者パーティ一組を必ずフォローにつけるようにしましょう。」

「ああ、助かるぜ。ほんとは来ること自体を止めたかったんだが、お前たちがいると聞いて絶対に行くと言ってきかなくてな。その分俺が倍以上の働きをするからよ。」

「ふふ、言ったわね。期待しているわよ。」

ニーアとダミアンが離れてこそこそ話をしているのを見て、タカキはダミアンがニーアになれなれしいことに父親としての不快感を感じていた。しかし、その体格のごつさもあり強く言えそうもなかった。何よりもそんなことで、これから魔族に立ち向かおうという士気を下げる訳にもいかない。あとでちゃんと話しをしよう、そう考えてモヤモヤした気持ちを心の奥にしまい込んだのだった。


一通りの挨拶も終わったところで、加勢に来てくれたメンバーを踏まえ改めて12体の魔族にどう対峙するかの再検討を開始する。ダミアンとニーアたちはそれぞれ上級魔族1体と中級魔族1体ずつ担当し、ライジングサンは中級魔族1体、残りはクワッドヴァルキリーという隊形でいくこととなった。

それぞれのチームにBランク冒険者パーティが1組ずつ入り、残りはクワッドヴァルキリーとともに戦う形である。同じAランク冒険者パーティのクワッドヴァルキリーが中級魔族複数を相手にするのに対し、ライジングサンのメンバーが自分たちの負担の軽さに不満そうだったが、

ライジングサンには確実に1体ずつ仕留めてもらう役目で、クワッドヴァルキリーは防衛的な食い止め役だということで納得してもらった。当然、一体仕留めた後はそれで終わりではなく、クワッドヴァルキリーの対峙している魔族を倒すのを継続することになる。

「俺たちは最初は7体の中級魔族か、なかなかハードな戦いになりそうだな。」

シュッタウが作戦の全体像を聞いてつぶやいた。

「いいじゃないか、やってやろうよ。」

ジェイミーを始め女性陣は気合十分だったが、シュッタウは冷静に自分たちのパーティーの実力の範囲を見極めようとしているようだ。

ライジングサンに限らず、他のパーティーが自分たちの担当が終わり次第クワッドヴァルキリーに合流する予定だが、手こずって長時間7体の相手をするとなるとかなり厳しいだろう。

「よし、じゃあ最初は俺の魔法で奇襲を仕掛けよう。中級魔族何体かであれば削ってやるよ。」

ダミアンが自信ありげに言った。

「さっすがSランクね! 2,3体はやってくれるんでしょうね、期待するわ。」

アトゥーサが、ダミアンの腕をたたきながら調子のいいことを言った。

「いや、最低4体だな。」

「!!!」

「さすがだな、Sランクは。俺たちの想像の上を行ってやがる。中級魔族3体になるんだったら何時間でも持ちこたえてやるぜ。」

絶句するアトゥーサを横にシュッタウとダミアンが握手した。


そのあとは各々ペアとなるBランク冒険者パーティと会うことになった。

「ニーア、よろしく頼むよ!」

そう言って近づいてきたのはラニキスに入国して最初に知り合ったエルフ族のユニテアだった。相棒のジェイニスも一緒である。

「私たちのペアはユニテアたちなのね!よろしく。知っている人だとやりやすくて助かるわね。」

「足を引っ張らないよう一生懸命フォローさせてもらう。残念ながら新規メンバーは増えていなくて二人だけだが。」

「そんなことは気にしなくていいさ、よろしく頼む。早速、お互いの得意不得意を合わせておこう。」

タカキの提案でそのあとは5人でのフォーメーションなど実戦での立ち回りを話し合い、全てが終わったのは夜の9時過ぎだった。


「いよいよ明日か。なんかあまり実感がわかないな。」

「そうだね、そもそもこの世界がって話もあるけど。でも、明日になれば否が応でも認識することになる。たくさんの被害者が出ないようにしないと。」

シンイチの語気が強まる。ユニテアたちとの打合せ後、夕食も済ませあとは寝るだけとなったが、シンイチは気持ちが高ぶってなかなか寝付けそうもなかった。

「そうだな、だけど、そんなに気負うな。俺たちが世界のすべてを救わなきゃいけないってわけじゃないんだ。まずは目の前のやれることをやるだけだ、そうだろ。」

「それはわかってるんだけどね。」

「俺なんか、お前たち二人をしっかり守ることしか考えてないぜ。この世界の俺の実力じゃあそんなもんだ。いや、お前たち二人だったら、俺に守られるまでもないかもしれないけどな。現実世界でだって同じさ。俺の仕事で世界を大きく変えてやるとか、誰かを救ってやるって考えて仕事をしているわけじゃない。家族を守る、そのためにお金を稼ぐってのが目的なんだよ。結果的に人を救えたってこともあるかもしれないけどな。だからまずは自分のベストを尽くすことだけを考えるんだ。」

実際の仕事では、結果を求められることは多々あるが、それを言ってしまうと変なプレッシャーを与えかねない。これが正解なのかタカキ自身もわからないところはあるが、自分の言葉で語りかけることに終始した。

「うん、タカキありがとう、なんか気が楽になったよ。じゃあお休み。」

そう言ってシンイチは布団に潜り込んだ、その姿を見届けタカキも目を閉じた。


翌朝、天気は良く、晴天が広がっていた。

「こんなに天気が良くて穏やかなのに、数時間後には戦闘が始まるのか。。」

やりきれないという思いで遠くの地平線を見守っている。


昼近く、見張りをしていたシュッタウが声を上げた。

「見えたぞ、2キロほど先だ。あと数十分ってところか。」

その声を合図に全員が配置についた。

「よし、じゃあいっちょ始めるか。」

ダミアンがウォーミングアップをしながら言った。そして急速に魔力を練っていき、魔法を唱えた。

「マグクインフレアストーム!」


魔族達はゆっくりと歩いていた。先の方に木に囲まれた街が見えてくる。

「ようやく次の街が見えてきましたね、べライグ様。」

「ここにもかなりの人族がいそうだな。また、簡単に終わってしまいそうだが。」

そんな話をしていたところ、突然、五つの大きな炎の塊が弾ける。

「これは!?」

炎の塊の中で小さな爆発が何度も起こる、4体の中級魔族が灰になったようだ。

ティグロムもこうげきをうけたが、傷を負ったものの何とか耐えきった。

「べライグ様、ご用心を。どうやらここが最初の山場かもしれません。おそらくはSランク以上の冒険者がいるかと。」

「なるほど、楽しくなってきたな。」

そういうとべライグはにやりと笑った。


「うぁー、さすがダミアンさん!」

シンイチが興奮して大きな声を上げる。他のメンバーは驚きのあまり声を失っているようだ。しかし、ダミアンは厳しい表情を崩さなかった。

「ちっ、さすがに上級魔族は無理だったか。まあ、でも約束通り4体は仕留めたぜ。さあ、一気に行くぞ!」


それを合図に四チームに分かれた冒険者は、それぞれ別の方向から距離を詰め攻めていった。

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