第八十五話 再戦
がれきばかりの町の中に入ったメンバーたちは、作戦通りタカキの作った大型扇風機を街の西側4か所に設置し、発生させた風の風上になるように主力部隊を配置した。遠距離攻撃部隊のメンバーも所定の位置についた。
ドラゴンは以前と同じ広場に陣取っており、今回は風上の方向(つまり西側)に顔を向け目を開けているため奇襲は難しそうだ。ただし、最初は遠距離攻撃メインでダメージを与えていくので特に大きな障害ではないはずだ。
シュッタウの手振りで早速シンイチとエレンが魔法で攻撃を始めた。前回アトゥーサの光属性が効果的だったということで、シンイチは光属性中級魔法シャイニングインパクト、エレンは前回と同じく風属性上級魔法ストームキャノンで攻撃を仕掛けた。
タカキも50口径と大型の銃で普通の金属で錬成した弾丸を用いてドラゴンの目玉を狙う。属性の付与された弾丸は弱点属性であれば威力も大幅にアップするが、カースドラゴンの弱点属性を正確に把握していないこともあり(光属性には弱そうだが確証はない)、序盤で弾丸を使い切ってしまうことで最後の集中砲火を浴びせるときに使えないとならないように考慮しての温存となった。
最初の攻撃は有効だった、シンイチとエレンの魔法攻撃を受けてカースドラゴンは悶えて体を大きく振り回している。しかし、一方でタカキの弾丸はいまいちで、狙い通り目に命中したもののあまり効果的ではないようだ、目にゴミが入ったかのようにまばたきをする程度の反応だった。
「くそっ、金属弾じゃあだめか。」
タカキは弾丸をミスリル製に入れ替え再び狙いをつける。質量や硬度が異なり、通常の金属弾よりも威力は格段と大きくなる。しかし、ドラゴンが暴れているため目玉を狙うのが容易ではなかった。
「ほら、こっちだトカゲ野郎!」
シュッタウが攻撃しドラゴンの意識を自分の方へ向かせる。それでも、魔法で攻撃してくるエレンに攻撃を加えようとするため、さらにジェイミーが投擲スキル、シルバートマホークをドラゴンの顔に命中させる。
「よし、ようやくこっちを向いたか。」
そう言ってジェイミーがにやりと笑った。体の向きを変えてジェイミーとシュッタウの方に襲い掛かってくる。そのタイミングでタカキがようやくミスリル弾を命中させた。今度はダメージを与えたらしく大きくのけぞるドラゴン、そこに再度シンイチとエレンが魔法攻撃を浴びせる。
「順調ね。」
ニーアは中距離からエアスラッシュで攻撃をしながら全体の状況の把握に努める。シュッタウとジェイミーがタゲ取りをしてくれているため、ニーア自身は大きく動くことはせずドラゴンの体力を削る程度の攻撃に留めている。二人が危なくなったら、ある程度威力大きめの攻撃で気を引かないといけない。しかし、絶妙なバランスで遠距離攻撃組とシュッタウたちの間でどちらに攻撃するか的を絞らせないように立ち回っており、今のところニーアの出番はなさそうだ。
「さすがはAランク冒険者、攻守のバランスが完璧ね。うちの二人も、、、まあまあかな。」
ニーアはシンイチとタカキの方に目をやった。戦う前は不安そうな顔をしていた二人だったが、戦闘が始まると自分の役割を全うすることに集中できているようだ。
「まあ、まだ遠距離だし、そんなにプレッシャーはかからないはずよね。」
問題はブレスを吐く直前に実施する集中攻撃だ、シンイチには色々と
重たい役目を任せている。正直、経験不足といわれると否定はできない。それでもシンイチはここ一番でいい活躍をしてきた、今回もそれにかけたいと思った次第である。
そこから十数分は同じ戦いが繰り返され、順調にドラゴンの体力を削っていく。そしてついにその時が来た。
ドラゴンがのけぞり、そして大きな咆哮をした。ブレスを吐くための準備態勢に入った。口の中にエネルギーが蓄えられていくのがわかる。
「いまだ、いくぞ!」
「はいよ!」
シュッタウとジェイミーが大技を繰り出すために一気に距離を詰める、それと連動してニーアもドラゴンに近づいていく。シュッタウとジェイミーがドラゴンの首の付け根辺りに自身の最大火力の攻撃をぶつけた。それとほぼ同時にシンイチが上空から槍技スキル「エクスインパクトフォール」でドラゴンの鱗を貫いた。連続での攻撃でかなりのダメージを与えていることは間違いないが、それでもドラゴンはそのままブレスを吐こうとエネルギーを充填している。その間にニーアは、ドラゴンの背中を駆け上りより顔に近い部分に攻撃をしようとしていた。ドラゴンがニーアに気を取られないよう、シュッタウが長剣スキルの水平薙ぎから連続の振り下ろしで攻撃をしてくれた。おかげでニーアは狙い通りのポイントであるドラゴンの頭に到達することができた。
「シュッタウありがとう。これで決めるわ!インフェルノスラッシュ!」
ドラゴンの口の中でため込んでいたブレスのエネルギーごと叩きつぶし、ドラゴンの頭部が地面に思いきりたたきつけられた。。
「ニーア、ナイス!これでブレスは来ないな。もう一回仕切り直して攻撃を仕掛けるぞ。」
追撃を加えようとシュッタウとジェイミーが近づく。シンイチは少し距離を取り魔法での攻撃の準備をする。その時、ドラゴンの体から瘴気があふれ出し始めた。
「何っ!いかん、ジェイミー、シンイチ、下がるぞ。おい、ニーア!お前もすぐドラゴンから離れるんだ。」
ブレスを防いだと思ったら体から瘴気が出てくるとはな、予定外のことばっかりだ。そんなことを思いながらシュッタウはドラゴンから距離を取る。
瘴気が広がりはじめている。近距離攻撃で倒しきるつもりだったが、まだ息があるようだ。あとは、遠距離攻撃組に任せるしかない。シンイチはすでに距離を取り終えて遠距離攻撃組に再度加わっているようだ。
ドラゴンの背にいたニーアも瘴気の広がりを確認していた。かなり手ごたえはあった、ドラゴンの動きも鈍くなっている。
もう少しだと思うのだけど、、、ニーアは諦めきれず雷属性魔法剣技「ライトニングスラッシュ」で追撃していく。
ニーア自身は状態異常への耐性は持っており、防具にも耐性効果が付与されているためもう少し耐えられるはず。そう考えて、辺りが瘴気が漂い始めても攻撃を続けていた。遠距離攻撃組も追加の攻撃を始め、それがドラゴンの体に命中するたびに振動がニーアにも伝わってきた。
そろそろ、潮時かしらね。そう思って、最後の一撃を打ち込もうとしたとき、すでに手がしびれて感覚がなくなっていることに気づいた。状態異常耐性があってもこうなるのね、急がないと、そう思ってドラゴンの体から飛び降りる。シンイチたちの遠距離攻撃の巻き添えとならないようなるべく遠くに着地して距離を取るつもりだったが、思いのほか飛距離が出ない。着地もうまくできず、その場に転び転がってしまう。
すぐに体を持ち上げその場から離れようとするがうまく進めない。これはちょっとまずいかも。。もはや体を動かすことが難しい、考えもまとまらなくなって意識が途切れそうだ。
その時、急に体がふわっと持ち上がり動いている感じがした。
「おい、大丈夫か!?ニーア!」
シュッタウが息を止めてニーアの助けに来ていた。いったんドラゴンとの距離をとっていたが、ニーアが戻ってこないことを危惧して戻ってきたのだった。そして抱きかかえすぐにその場から離脱する。
その間にもドラゴンは再びブレスの準備を整え、遠距離攻撃をしているタカキ、シンイチ、エレンに狙いを定めようとしている。
「みんな!逃げろ!ブレスが来るぞー!」
ジェイミーが三人に向かって大声で伝える。その声が三人に届き慌ててその場から離脱を始めた。その直後、ドラゴンのブレスが吹かれ、辺りの瘴気がさらに濃くなっていった。
「よかった、みんな戻ってこれたのね。」
キャンプ地に戻ったエレンとシンイチは自分たちが最後だったと理解し安堵した。
シンイチはすぐにニーアとシュッタウが倒れていることに気づき、声をかけた。
「ニーア、大丈夫?すぐにエリクサーを使うよ。」
シンイチはニーアから預かっていたエリクサーをマジック収納Boxから取り出し迷わず使った。隣で寝ていたシュッタウにも使ってあげる。
「ちょっと、そんなポーションみたいな感覚でエリクサーを使っていいの?」
アトゥーサが少し心配したように言う。いくら共闘中とはいえ自分のパーティ以外のメンバーにそんな気楽に何個も使えるものではない。そもそも入手するのも容易ではないはず。
「うん、大丈夫。元々、こういう時のためにニーアから預かっていたからね。」
「ああ、さっきニーアを鑑定スキルで見たが、状態異常は自然治癒しないものだったから使って正解だったと思うぞ。」
タカキが手を止めて横から助け船を出してくれる、どうやら何か薬を錬成していたようだ。タカキの言葉を聞いてそれならとアトゥーサも納得した。
エリクサーを使って一時間もしないうちに二人が目を覚ます、ニーアに助けてくれた二人にお礼を言った。
「シュッタウ、助け出してくれてありがとうね。ちょっと粘りすぎたみたい。シンイチも想定通りエリクサーを使ってくれて助かるわ。」
「ああ、それは全然かまわない。1回目はニーアのエリクサーに救われているしな。まあ、今回もお世話になってしまったが。。それにしてもまいったな、まさかニーアたちが来ても倒せないとは思わなかったな。」
シュッタウが頭をかきながらぼやく。
「僕らも何とかなると思っていたよ。」
「まあ、あの体力は想定外だったわね。以前倒したドラゴンはもっと簡単だった気がするのだけど。」
ニーアも考え込む。
「簡単というよりは、今の方が自分が強くなっているし、人数も今回の方が多いから相対的にってことだけど。。まあ、ドラゴンの種類も違うしそういうこともあるわよね。」
「作戦を、一から練り直しか。。。とりあえず今日は寝よう、回復が優先だ。」
リベンジを果たせず悔しさを噛みしめたまま眠りについた。
翌朝、ジェイミーは早く目を覚ました。昨日の戦闘が思い出される。自分個人としては大きなけがもなく、攻撃も手ごたえはあった。他のメンバーも全力を尽くしていたと思う、特にニーアは自分の防御も顧みず攻撃に重点を置き戦ってくれていたが、それでもドラゴン討伐には届かなかった。その事実が重くのしかかる。
「おはよー。」
アトゥーサとシンイチが起きてきた。
「ああ、おはよ。見て、すごい瘴気だわ。町の外にまで広がっているみたい。」
ここからでは街自体は見えないが、瘴気が立ち上っているのが見える。
「実質、ブレス二回分だもんね。そりゃあ、ああなるか。」
「またしばらくは街の中に入ることができなさそうね。まあ、戦略の練り直しが必要だからそんなすぐに戦う必要はなさそうだけど。」
「でも、そうでもないかもしれないよ。ほら、瘴気の流れがすごく早い。」
シンイチの指摘の通り、瘴気がかなりの勢いで特定の方向に流れていく。タカキの大型扇風機の恩恵だということを後ほど知るのだった。
急に人の気配がした。
「おっと、お邪魔するぜ、ドラゴン討伐に苦戦してないか心配になってね。」
「誰!?」
ジェイミーたち三人がすぐさま戦闘態勢に入る。相手は四人、みんなが起きてくれれば数的な不利はなくなりそうだ。
「まあまあ、待てよ。おまえたちと戦う気はないよ。悪いな、おどらかせるつもりはなかったんだが。。スプリームオブスカイって冒険者をやっている、俺はカイネってもんだ。」
「スプリームオブスカイ、ってあのSSランク冒険者パーティか。」
ジェイミーが驚きながらつぶやく、アトゥーサもじろじろと彼らを観察し間違いないと太鼓判を押した。
その騒ぎに気づきシュッタウとニーアも起きてきた。改めて敵対する意図はないという説明を受け話をすることになった。
「あいつはカースドラゴンで、体力は相当あったよ。かなりのダメージを与えていたと思うのだけど、、もしかして不死身なのかも。。」
ジェイミーがこれまでの戦いの説明を一通り終える。それを聞いてカイネが口を開いた。
「いや、奴は不死身じゃない。ちゃんと倒すことができるぜ。」
「もしよければですが、あのドラゴンのことは任せてくれませんか。伊達にドラゴン討伐特化のパーティなんてやっていないので、いろいろとノウハウもありますので。もちろん、無理に横取りする気はありません。倒しきれるということであればお任せしますが。」
スプリームオブスカイ唯一の女性メンバーセリスが提案してきた。シュッタウとジェイミーが顔を見合わせる。そしてニーアに確認を求めてきたのでニーアも頷いた。
「ああ、じゃあお願いするとしよう。今の俺たちでは難しそうだ。ただ一つだけ条件を付けさせてもらいたい。俺たちも戦闘を近くで見させてもらうってことだ。もちろん自分たちの身は自分で守る。たぶん一緒に戦いたいといっても、すぐに連携できるとも思えないし、邪魔になりかねないからな。」
「そうだな、見ている分には構わない、ただ、知っての通り、奴はカースドラゴン。カースブレスは状態異常を引き起こし、下手したら死に至ることもある。射程範囲も広いぜ。まあ、すでに戦って生き残っている時点で分かっているとは思うが。」
「ああ、もう何度も死にかけたよ。エリクサーに救われたが。」
シュッタウが笑ってニーアの方を見る。
「エリクサー持ちかよ、うらやましいこった。」
アンガスが横から口をはさんだ。
まったくだ ともう一人のメンバーであるライオニールも同意する。
「残念だけどもうストックはないわよ。」
「だってよ、お前たちは状態異常にかかっても自分たちで何とかしろよな。俺はセリスに何とかしてもらうけどな。」
カイネの言葉に二人は肩をすくめ、他のメンバーは笑った。
その翌日、早速戦いを始めるということで現地に向かうことになった。




