第八十三話 合流
ニーアたちが王都エルファリアを出発して二日後、先日、魔物の大群から救った村に到着した。
「今日は村の近くで一泊させてもらいましょうか。」
ニーアの提案に二人も同意する。
村に入ると村長が迎えてくれた。
「これはこれは、先日の冒険者様、あの時はありがとうございました。」
「いいえ、私たちとしてもできることをしただけよ。あの後も大変だったみたいね?」
「ええ、魔族が攻め込んできまして、王国軍には被害が出ましたが、何とか撃退できましたよ。」
まるで自分たちが達成したような口ぶりである。笑うのはこらえてさらに聞き込みをする。
「Sランク冒険者が倒してくれたと聞いたのだけど、何ていう冒険者パーティ名だったか聞いている?」
「ええと、何と言っていましたかのう、、パーティー名は名乗っていなかったような気がします。四人パーティーで、二人のSランク冒険者は、、そう、ジルゴフとラルフマンと呼ばれていました。」
「ありがとう、Sランク冒険者はやはり心強いわね、この村が無事でよかったわ。」
嬉しそうに話す村長を見て、ニーアも笑顔を浮かべた。
「今の二人の名前、聞いたことあるのか?」
「いいえ。」
タカキの問いにニーアは短く首を振った。
スタークやダミアンに聞けばSランク冒険者同士でわかるのかもしれない、いや、あるいはクワッドヴァルキリーでもいいかもしれない。アトゥーサ辺りはそう言った情報に詳しそうではある。どうも、魔王討伐後に出てきた冒険者はわからない。たった三か月でこんなにもたくさんの冒険者が出てくるなんて不思議、と思わないこともないが。。
翌日、村を出て再び目的地を目指し出発した。まだまだ村も再興途上ということで、こじんまりとした歓待を受けたが、村が元に戻ったらまた来てくれと熱心に言われ送り出されたのだった。
「早く元通りになるといいね。」
「そうだな、こういう緊急事態じゃなければ復旧を手伝ってもいいんだけどな。」
「さっさと終わらせて、復旧の手伝いに来れるといいわね。」
そういいながらも、城塞都市イスエールトもひどい状態だと聞いているので、そっちも復旧の手助けが必要なのでは?その場合、どっちを先に復旧させるべきなのだろうか、とぼんやりと考えていた。まあ、平和にさえなれば、そのあとはボランティア活動のような形でゆっくりと町の修復を手伝うのはありだろう。別に常に戦いを求めて旅をしているわけではない。
強大な魔物との遭遇もなく、順調に旅路を進め北上していく。目的地が近づくにつれ、シンイチは少し不安になってきた。
「ちょっと、このままドラゴンと戦う気じゃないよね? 今回こっちに来てからまともにモンスターと戦っていないよ。リハビリもなしはきつくない?」
シンイチの悲鳴に近い主張にニーアももっともだと思った。何せ相手はドラゴンだ、油断できる要素は1ミリもないだろう。
今回は時間との勝負でとにかく移動することを重要視して道をふさぐ魔物以外は素通りしてきたのだった。結果小型のモンスターと数回戦っただけとなっている。ただ、エルファリアのギルドで聞いた情報では、城塞都市イスエールト自体はもう壊滅状態で、今はそこに留まっているということなので、急いで行って準備不足になるというのもあまり意味はないかもしれない。
「そうね、そろそろ目的地も近いから、ここらで少し魔物狩りをしてウォーミングアップと行きましょう。ただし、猶予は二日よ。あまり時間をかけてもいられないから。」
イスエールトまでは残り三日くらいのところまで来た。ここで戦っておいて、移動しながら回復に努めればちょうどベストの状態で到着できそうだ。万が一ドラゴンが南下してきてもニーアたちよりも北に村はないと聞いているので、ここで迎え撃つことになるだろう。
マジックアイテムのコテージを出し、キャンプ地とすることにした。西に森林、東に沼地があり、人里はなさそうなのである程度の魔物はいそうではある。沼地だと汚れそうで嫌だということで三人の意見が一致し、森林に入ってみることにした。シンイチもタカキもやる気にあふれているようで何よりだが、リハビリになるほどの手ごたえがある魔物がいるだろうか、いなければ気乗りはしないが沼地の方にも行ってみるしかない、ニーアはそんなことを思いながら木々の中に入っていった。
「なんか暑くなってきたな、ちょっとおかしくないか?」
シュッタウはみんなに尋ねた。最後に立ち寄った村から出発し移動し続けて、はや六日が経とうとしている。すでにイスエールトと最寄りの村は出発しており、近隣の人里はない。
クワッドヴァルキリーの面々は違和感を感じていた。
通常であれば北上していくほどに気候は涼しくなっていくものである。ラニキス王国のさらに北にある魔族の住む北領地は氷の地であるのは有名な話だ。イスエールトも夏はあるものの気温は低く、冬は雪が降る。
「気温の暑さはさておき、そろそろ着くはずよ。」
エレンが言う。
「あ、なんか見えるぜ、煙だ。何かが焼けるにおいと、、あとはなんか変なにおいだ。」
ジェイミーが獣人らしく視覚、嗅覚の鋭さを発揮する。
「どうやら到着したようだな、やれやれ、城塞都市の面影もなさそうだ。」
シュッタウの言う通り、本来であれば城壁に囲われているはずの都市がむき出しとなっており、高い建物が破壊されつくされ遠目には平地のように見える。
「よっしゃ、さっそく行ってみるか、ドラゴン狩りに!」
「ニーアさんたちをほんとに待たなくていいんですかぁ? また一緒に戦いたかったのに。。」
「そんなこと言っていると、ますます町が破壊されちゃうだろ、アトゥーサ。移動し始めた日にはさらに厄介なことになるし。」
「ま、そこはジェイミーの言う通りだな。俺たちは仲良しグループじゃねえ、冒険者としてすべきことをしないとな。」
城壁(があった場所)まで近づくとその被害の大きさが良くわかる。高さ10m以上あったという城壁が今や自分たちの背丈ほどしか残っていない。
「ひどいわね、こんな分厚い城壁なのに粉々になってしまって。。」
「奴はどこにいる?ここからは慎重に行こう。」
街の中に入り慎重に歩を進める四人。数分間が何時間にも思えるような緊張感が続く。
「いたわ。」
エレンが小声でささやく。
ターゲットのドラゴンは町の中央広場に居座っており、ちょうど頭は反対側を向いている。
「でかいな、、」
「向こうはまだ気づいていないようだ、奇襲をかけてやろう。」
「オーケー。」
「今から15分後に攻撃だ、なるべく三方向からの攻撃のタイミングを合わせるんだ。奇襲した後は、エレンとアトゥーサは俺たちに合流だ、いいな。」
こちらの位置がばれた後はバラバラになっているよりも戦力を一点に集中した方が良いという考えだ、支援魔法や回復魔法もかけやすい。シュッタウの言葉に三人もうなずいた。
三方に散らばり攻撃の準備をする、シュッタウとジェイミーが中央の主力部隊で、そこから左右に30度ずつ開いた方向にエレンと、アトゥーサが配置する。10分後にはみな所定の位置についた。
「よし、もうすぐだな。初撃から全力で行くぞ、いいなジェイミー。」
「ああ、わかってるよ。私の最大威力の技を叩き込む!」
残り1分を切って、二人はそろそろと近づいた。心の中でカウントダウンを始める。5,4,3,・・・
「いけっ!」
ジェイミーとシュッタウのスキルがドラゴンの後ろ足に炸裂する。それと同時にエレンの風属性魔法ストームインパクト、アトゥーサの光属性剣技スキルホーリーチャージがそれぞれ前足と胴体に命中した。
ものすごい咆哮とともに暴れだすドラゴン、そこそこダメージは入っているようだ。さらに二撃目、三撃と追い打ちをかける。
「よし、いいぞ。」
シュッタウがつぶやいたその瞬間、ドラゴンがその巨体の尻尾を大きく振り回した。
「いかん!いったん下がれ!」
シュッタウが大声を出す、エレンは距離を空けての魔法攻撃だったので影響はなかったが、他の三人は慌てて下がる。直接の被弾は逃れたものの、アトゥーサがその風圧で吹き飛ばされた。
「大丈夫よ。」
建物の陰に隠れてアトゥーサがジェイミーたちに合図を送った。ドラゴンは受けたダメージが大きかったシュッタウとジェイミーの方向を気にしているようだったため、さらにすきを見て前進して追撃を与えるアトゥーサ、ドラゴンの反応を見る限りこれもダメージを与えているように見える。しかし、ドラゴンはお構いなしに尻尾での猛攻を続け、その何回目かの攻撃によりジェイミーとシュッタウが隠れていた建物が一瞬にして吹き飛んだ。
「おいおい、まずいぞ。」
「ここで待っててもだめだ、攻めこそが最大の防御よ。」
「まて、ジェイミー!」
シュッタウの制止を振り切り尻尾に向かって攻撃を仕掛けるジェイミー、斧技スキル、ダウンストライクを尻尾に打ち込んだ。その威力はさすがというべきで、かなり深くまで斧が刺さっている。
そこに合わせて、エレンとアトゥーサも遠距離から攻撃を加える。
「どんなもんだ! ん、なんで?」
ジェイミーは突き刺さった武器を抜こうとするがドラゴンの肉に挟まり抜けなくなっている。ドラゴンがその痛みから尻尾を縦に振り下ろし、ジェイミーは床にたたきつけられた。
「く、くそ。。」
叩きつけられる前に武器から手を放して致命傷は避けたもののダメージはゼロではない。ジェイミーの武器はまだ尻尾に刺さったままである。何とか体を起こそうとするところに、さらに尻尾での一撃を加えてくる。ジェイミーはまだ体勢を戻せておらず、ぼそりとつぶやいた。
「まずい、これはかわせないな。」
その時、シュッタウがすかさず間に入り防御スキルを発動した。
「剛体!」
自分の体を鋼鉄のように強化し物理攻撃に対して高い耐久力を持たせるスキルである。しかし、ドラゴンの尻尾の一撃は強大でそのまま吹き飛ばされ、建物の残骸に吹き飛ばされた。そのすきにジェイミーは体勢を立て直す。
「シュッタウ!」
エレンが急いでシュッタウの方へ向かう、
その間にアトゥーサがジェイミーを引き起こし、ドラゴンから距離を取った。
「大丈夫、シュッタウ!?」
エレンが回復魔法をかける。
「くそ、なんていう力だ。まさか剛体のスキルの上からこんなにも物理ダメージを負うとは。。」
ドラゴンがシュッタウとエレンのほうに攻撃を仕掛けようとしてくる、そこをけん制するようにジェイミーがサブウエポンの投げ斧でスキルを発動した。
「シルバートマホーク!」
ドラゴンの目元付近に当たり、これもダメージは与えているようだ、ドラゴンは悶えそして攻撃の対象を切り替えた。顔の向きをジェイミーたちの方へ変え、その視線で目標を捉えた。エネルギーを口の中に充填していく。
「なんかまずそうだよ!」
アトゥーサが叫ぶ、ジェイミーと一生懸命走って距離を取るが、射程範囲から逃れられなかった。ドラゴンのブレスがジェイミーとアトゥーサを包み込み、二人は吹き飛ばされ倒れた。
それを見てすぐさまエレンとシュッタウは行動を始める、ジェイミーが時間を稼いでくれたおかげでシュッタウは動けるまでに回復することができた。
「エレン、お前はアトゥーサを頼む、俺はジェイミーだ。」
「わかったわ。このブレス、、あまり吸わないほうがよさそうよ。」
ブレスの煙が辺りに充満して霧のようになっている。
ジェイミーとアトゥーサのところに行くと、ピクリとも動かなくなっている、二人を担いで急いでその場を離れる。ドラゴンはまだ怒りが収まらないらしく、さらに広範囲にブレスを吹き始めた。瞬く間に街中がブレスに包まれ、やがて辺りが静かになった。
「駄目ね、体力は回復したけど状態異常かしら。」
ドラゴンの猛攻を受けて逃走から丸一日が経った。四人は、イスエールトから2キロほど離れた場所に避難していた。
エレンがアトゥーサとジェイミーの二人の治療を終えて、シュッタウに話しかける。
「ご苦労だったな、エレン。少し休め。どうやらあれはカーズドラゴンか。そのブレスは普通のドラゴンとは異なり、炎ではなく、呪いや状態異常を引き起こすという、即死はしないが、一瞬で戦力低下を起こすためかなり厳しいな。」
「まだ、街をブレスが包んでいるな。あれじゃあ、しばらくは街の中に入ることもできないだろう。」
「シュッタウも大丈夫?あの尻尾の一撃を食らってあなたも万全ではないんじゃない?」
「まあ、あれはあくまで物理攻撃だからな。エレンが回復してくれたこともあるし、即死さえしなければ回復魔法でどうとでもなる。」
シュッタウはそう言ってジェイミーとアトゥーサに目線をやった。二人とも今は眠っている。ジェイミーは麻痺と力が低下、アトゥーサは睡眠状態からずっと覚めていない、そして体の一部が紫色になり腐食し始めている。その他に毒を受けていたがそれはエレンが治療することができた。
「アトゥーサがかなりまずい状態ね。状態異常を回復しないと後遺症が残っちゃうかも。」
「アトゥーサの光属性スキルで何とかできる可能性がある、まずは目を覚ましてもらわないとな。それにしても、何回もダメージは与えていると思うんだが、全然余裕そうだったな。」
「厄介な相手ね、二人が目を覚まさないと次の手が考えられそうもないわね。他にもまだ見えていない状態異常がかかっているかもしれないし。。」
「一旦撤退するには距離が離れすぎだな。さて、どうしたものか。。」
「それでも今の状態では戦えないわ、一旦引くべきじゃない?」
シュッタウも判断に迷っていた、エレンの言う通り戦える状態ではないのは確かだ。だが、このまま二人を背負って戻るにしても1週間以上かかってしまうだろう、その間に状態異常のまま二人を放置していて大丈夫という保証はない。
「くそっ、打つ手がねえ。」
「苦戦していそうね。」
突然、後ろの森から声がした、エレンが振り向くとそこには全身鎧の冒険者の姿があった。




