第八十二話 出立
少し時は遡り、ニーアがジュリア、マインたちとダンジョンでモンスター討伐をしていた時、セルディス王国の国王の下に一報が入っていた。
「国王様、冒険者ニーアこと、勇者アイ様より手紙が届いております。先ほど、冒険者ギルドマスターのアンドレイが持ってきました。」
「おお、そうか! では、さっそく聞こうではないか。メンバーを集めてくれ、気にしている者たちもたくさんおろう。」
10分後、大広間には王妃と姫を含めた王族の三名と大臣たち、勇者パーティメンバーのアストレア、オスカー、トォーリィ、そして王都にいる騎士団の団長、副団長が集まった。つまりは冒険者ニーアの正体を知る者たちである。
「では、頼む。」
王の合図を受け、大臣のハーストルがアイの手紙を読み上げ始めた。
地道な説得により帝国に味方しないと約束をしてくれた冒険者たちを数十名確保したこと、帝国側の冒険者の工作の妨害および撃退、ラニキス王国との協力関係の構築などが書かれており、みなが安どの笑顔を浮かべる。
「さすがアイ殿だ、素晴らしい成果ですね。」
第一騎士団副団長のセーラがつぶやくと、その隣で団長のクロムウェルもうなずいた。
「うーん、まあまあかな。俺が行っていたらもっといい成果を上げていただろうな。なんか手柄をSランク冒険者に横取りされてるみたいだし。」
魔物の群れを退けながら上級魔族ができなかった点について、トォーリィがちょっとおどけたような形でアイをディスる。セーラが不満そうに冷たい視線を送る。さすがにこの場で勇者メンバーのコメントに異を唱えて反論することはできない。
「はいはい、そうかもね。でも、冒険者になったばかりの自分の弟を守りながらなんだから大したものだわ。」
アストレアがトォーリィをたしなめた。オスカーもそれに同調する。
「そうだな、アイはオスティアでもSランクモンスター討伐の功績を上げたと聞くし、よくやっていると思う。」
トォーリィが二人の言葉に肩をすくめる。それ以上反論する気もないという意思表示だった、決してトォーリィもアイの活躍を全く認めていないというわけではない。
「しかし、ラニキス王国でまた魔族が活性化しているというのは気になりますね。」
クロムウェルが話題を変えた。
「そうだな、アイ、ニーアたちが護衛任務で上級魔族を退けた後はおとなしくしていると思っていたが、、セルディス王国内でそれ以降に魔族の襲来の報告はなかったはずでは?」
「はい、ご認識の通りでございます。魔族たちが狙いをラニキス王国に変えたのかもしれません。」
「今回討伐されたのは藍たちがセルディス王国内で戦った同じ上級魔族でしょうか?」
「うーん、わからんな。いろいろな国が魔族に襲われていると聞くから、別の勢力ということも十分考えられるな。」
「何はともあれ、討伐されたのは良かったのだろう。」
「そう、ですね。」
セルディス王の言葉に同意するアストレア。しかし、その返事とは裏腹に小さな不安を覚えていた。上級魔族が出張ってくることが多くなっている?なにかおかしい気がする、その上に立つ魔貴族が何かにあせっているのだろうか?しかし、魔王もいない今、彼らにプレッシャーをかけるようなものはいないはずでは。。?
アストレアが考え事をしている隣でクロムウェルが発言する。
「それにしてもアイ殿もラニキス王国からオスティアまで戻ってきたなら、常駐しているセルディス王国軍部に顔を出してくれればよいものを。。」
「オスティアにいるのは第三騎士団、ザンナートのところです。私も第三騎士団は回避というアイさん達の考えには同意しますね。」
セーラが冷たく言い放つ。
「おいおいそう言ってやるな、性格に難はあるがやつも騎士団長だ。」
クロムウェルがフォローを入れるも、フォローになってないとセーラに言い返され一同が笑った。
「アンナはどうしているのかしら?アイみたいに連絡をくれるといいのだけどあの子の性格じゃあちょっと期待するのは難しいわね。」
アストレアの言葉にトォーリィがすかさず反応する。
「じゃあ俺が様子を見に行ってきてやるよ。俺も冒険に出たいし。」
「えっ、トォーリィ?それは許可できないわ。」
「えーなんでだよ。アイの報告だと、帝国も少しおとなしくなっているって話だから別にいいじゃねえか。あいつらだけ良くてなんで俺たちはダメなんだ?」
その問いに対する明確な答えをアストレアは持っておらず思わず言葉が詰まった。セルディス王には出来れば王国に常駐してほしいとは言われたが、結局二人旅立ちを認めているのも事実。自分たちの意思を尊重すると言われているのに旅に出たいと言われそれをとがめるのは矛盾している。
それからしばらく議論を続けたが、結局トォーリィは旅立つことになった。セルディス王も本人の意思を尊重するという姿勢を改めて示したのも一因である。トォーリィはリトゥという名で冒険者をすることとなった。目的はアンナの捜索。見つけても無理やり連れ戻すようなことはせず、どんなことをしているか、今後どうしていくのかなどを確認し、それが王国の利益に背かない限りは止めることはしないというわけである。
「そんな心配そうな顔するなって、俺はセルディス王国が好きだからさ、終わったらまた戻ってくるって。ただ、たまには外に言ってみたくなるんだよ。おまえも冒険者だったならわかるだろ、アストレア。」
そういって城を去っていった後ろ姿を見ながら、アストレアは私はどうしたかっただろうかと自問する。しかし、考えることをやめた。その答えを出すことに今は意味がないと思ったからだ。自分はハーフエルフで人族よりも寿命が長い。その差が刹那的に冒険に駆り立てられない要因なのかもしれない。
「あなたも行きたかったのですか、オスカー。」
隣で見送っているオスカーに声をかける。アストレアに問われ少し考えこむオスカー。
「うーんいや、僕は別にどっちでもいいかな。また次の機会があれば。」
「そうですか、私たちの存在意義って何なんでしょうね。勇者としての戦力を敵国にけん制をすることだけが役目なのでしょうか。」
「そういう役目もあるのかもね、でもそれは義務じゃない、他にも役目はあると思いますよ。」
オスカーの言葉に心からそうあってほしいと思うアストレアだった。
目を覚まして再び異世界に来た三人は、早速、オスティアからラニキス王国へと向かった。かなり急いで移動したため二日でラニキスの王都エルファリアに到着することができた。
「おお、お前たちか。来てくれて助かるよ。」
ラニキス王都の冒険者ギルドに入るなり、ギルマスが待ち構えていた。
ギルマスから詳細な説明を受けるとよりひっ迫した状況であることがわかってきた。数日前に急にドラゴンが城塞都市イスエールトに攻め込んできて、ものの二日で堅牢な都市を陥落させてしまったようだ。
「なぜドラゴンは急に襲ってきたのでしょう?」
「それがわかっていないのだ。その存在は以前から知られていたが、北野山脈に住んでいて人里に出でてくるなんてことは今まで一度もなかった。」
「誰かが何か刺激をしたのかも。。。」
「まあ、細かいところはわからないが、今はドラゴンを追い払うか何かしないといけない状況だ。」
ギルマスの言葉に三人も頷いた。
「そういえば、クワッドヴァルキリーはどうしている?」
「ああ、惜しかったな。彼女たちは数日前に城塞都市に向かって出発している。ドラゴンの一匹くらい私たちだけで充分と息巻いていたが。。。大きな都市を二日で落とせる規模のドラゴンとなると、やはり心配ではあるな。」
タカキの問いにギルマスが答える、やはり少し遅かったようだ。事前に意識合わせをしてドラゴンとの戦闘に挑みたかったが仕方あるまい。他に戦いに参加できそうな強力な冒険者を募っておくとギルマスが約束をしてくれた。我々とクワッドヴァルキリーだけだと心もとないと思ったのかもしれない。なんにせよ援軍は助かるのでお願いをしておくこととした。
王都に一泊して翌日の朝から旅立つことにした。王都から北方の城塞都市イスエールトまでは一週間はかかる、旅の準備も必要だった。カンナのマジックアイテム屋で必要な道具を仕入れようとしたが、不在で店に入ることができず、仕方なく普通の道具屋で代替品で間に合わせることとなった。
「この間の発言の真意を聞いてみたかったけどな。」
タカキが残念そうにつぶやいた。
「この戦いが終わったら、また寄ってみましょう。根気強く通うのが大事よ。」
「そうだな、無事に帰ってこれますようにと。」
「そういうことは縁起でもないから言わないでよ。」
シンイチが二人のフラグ立て発言をとがめる。二人はごめんごめんと笑った。
冗談を言いながら和らいだ空気での旅立ちとなったが、すぐに苛烈な戦いが始まるであろうことはみな心の奥に留めているのであった。
時を同じくして、獣魔貴族、三獣士の一席であるティグロムがべライグに進言をしていた。
「べライグ様、予定通り人族を操ってエンシェントドラゴンをおびき出すことに成功しております。奴らの都市一つを破壊してさらに他の場所へ攻め込まんとする勢となっておりまして、今こそ我々も出陣するときかと。」
「いよいよ、準備が整ったか。エルファンスが多くの魔物を率いてしくじったときはどうしてくれようと思ったがな。おかげで我々の保有する戦力の大半を失ってしまった。今回は初手はうまくいっているようだな。」
「わたくしの準備に失敗はございません。エルファンスは口先では調子のいいことを言っていましたが実行力に欠けていたのかと。」
「ふん、まあいい、奴は相手を見くびり、準備をおろそかにしていた。そんな奴は足を掬われて当然だ。」
「全く同感でございます。万全を期すべくべライグ様も今回は出陣していただきたく、よろしいでしょうか?」
「ああ、行こうじゃないか。久しぶりの現場も悪くあるまい。ところで、アドベニアスはどうした?」
「奴は引き続きワシュローン帝国側の監視をしております。一度負けたような奴は今回の作戦には足手まといですよ。」
「しかし、奴の戦闘力は使えるのではないか?」
「今回は中級魔族も全員、10名ほどになりますが連れていきます。」
「まさに総力戦というわけか、まあいいだろう。ではいくぞ!われら獣魔貴族の力を思い知らせてやろうではないか。」
「ははっ、エンシェントドラゴンによる陽動が効いているとはいえあまり目立っては対策を打たれてしまうので、少し時間はかかりますがゆっくりと静かに進軍し、ラニキス王国の極東の街であるイーストコートを目指していきます。その旨ご了承を。」
「いいだろう、ゆっくりと蹂躙を楽しもうじゃないか。」




