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第八十一話 通常業務

多佳棋は月曜から朝早くから出社した。新入りなので早めにという日本人的な悪い癖が出ている。もっと自分に強いメンタルがあればと思わないこともないが、一朝一夕で身に着くものではないと諦めている部分もあるのは確かだ。

会社に着くと、自分のチームのメンバーはまだ誰も出社していなかった。すぐに仕事を始める気にならず席に着いて向こうの世界のことを考える。向こうで得た力を活用しているという点では今の仕事に全く無関係ではないので、仕事を開始していると言えなくもないかもしれない。だが、傍目にはボーっとしているようにしか見えないため、やはり仕事と言い切るのは難しいだろう。


「おはよーございまーす。」

「ああ、おはようございます。」

しばらくすると徐々にメンバーが出社してきた。まだ入社して一週間しか経っていないこともあり、部下とはいえ多佳棋自身にも変な緊張感がある。まだ互いに気心知れていないせいか、いや、この緊張感はこの仕事の特殊性からくるものかもしれない。

「じゃあ、そろそろ始めるぞ。」

九時になり、上司の眞武の一声で朝ミ(朝のミーティング)が始まった。各チームから先週の報告がされていく。多佳棋もチームのリーダーとしてまとめた報告スライドをWeb会議システムに投影し説明をした。

「新幡君、先週はご苦労だった。メインチームではなかったとはいえ、入社していきなりで大変だったろう。」

初任務だった多佳棋を気遣い声をかけてくれる、こんな特殊な仕事なのに上司はいい意味で予想を裏切りまともな印象を受ける。もっと無茶ぶりをして、当局は一切の関知をしないと言い捨てるものかと思ってたが今のところホワイトな職場といえるだろう。

「いえ、メインを務めてくれた、晴峰さんのチームが引っ張ってくれましたし、私のチームのメンバーのサポートもしっかりしていたので何とかやり切ることができました。」

「まあ当然ですね、あの程度の相手であれば私たちのチームだけでも問題なかったです。」

隣のテーブルに座っていた晴峰という女性がすまして言った。暗に多佳棋たちのチームが役立たずだったと指摘しているようで、ちょっと腹が立つ言い方ではあるが実際その通りかもしれない部分もあり多佳棋は何も言い返せなかった。

「なんか模倣犯が出てるってネットニュースで見ましたけど?」

別の男が割り込んでくる。この男は雪平という名前で、別のチームのリーダーである。

「まあしょせん、調子こいた雑魚の集団でしょ。」

雪平がそう言ってこき下ろした、自分で話題を振っておいて相手に意見を求めず自分で話を完結させるスタイルである。雪平に限らず各チームのリーダは癖の強い人が多い。

「調子に乗りすぎないように早いうちにしっかり片付けたほうが良いのではないですか?」

晴峰が反論する。

「いや、雪平君の言う通り、模倣犯のほうは能力者ではないということが新幡君の調査でわかっている。なので我々の管轄外だ。あとは警察が何とかするだろう。」

眞武の言葉に晴峰は納得いかないという表情だったが、それ以上の反論はせず次の報告に移っていく。そのあとも他のチームからの報告は続き、一時間ほどでようやく朝ミが終了した。


多佳棋は会議後の午前いっぱいは先週の任務の残務処理に追われた。部下と手分けして書類を作成していく、一次報告書はすでに先週提出済みだが、関係省庁からそれの直しの依頼が来ているということだ。報告書は、世間一般用と内部用の二種類に分かれており、世間一般向けにはこの特殊な能力に関することは公開できないため取り繕う(現実の事象で矛盾がないような説明をする)必要がある。省庁からの直しがきたのはこちらの報告書であった。

一方、内部向けには相手がどんな能力者だったのか、自分たちがどんな能力を使用し、どんな反応があったかなど細かに書かなくてはいけない。多佳棋自身も、鑑定スキルをいつ、誰に使用し、どんな情報が得られたかということを細かく書き出していく。といっても完全には思い出せない部分もあることは確かだ。まあ、間違いがあったとしてもそれが間違っているというのは他の人には確認のしようがないわけだが。

昼休み前に何とか仕事を片付け大きく体を伸ばした。周りを見ると、他のメンバーもおおむね終わっているようなので落ち着いた昼食をとれそうだ。

「事務仕事は肩がこるな、研究で実際に手を動かしてたころが懐かしいな。」

そう呟いて食堂に向かった。


昼食後少しの休憩をはさみ、筋トレのためにジムに向かう。

先週は入社初日だけこの建物にいたが、それ以降は外に出ずっぱりだったため、久しぶりの感じがした。

「さーってと筋トレの時間か、今日は何のトレーニングをしようかなっと。」

サラリーマンで仕事として事務仕事に加え筋トレをするのはなんだか新鮮で面白い。企業所属のトップレベルの実業団選手とかがそんな感じだろうか。とはいえ、オリンピックや何かの晴れ舞台を目指してトレーニングをするわけでなく、通常業務で生き残るために必要という位置づけなので特殊なのは間違いない。

トレーニングメニューが書かれた紙を選び、それに沿って運動を始めていく。

しばらくマシンを相手に体を動かしていると、自分のチームの蒼場という青年が声を掛けてきた。

「新幡さん、調子はどうですか。先週はほとんどトレーニングできていないので、あまり無理しないでくださいね。」

「ああ、そうだね。今まで、週末のお遊びテニスくらいしかしていなかったから、こういった本格的な筋トレは10年以上ぶりだよ。体がなまっているからじっくりやっていくつもりだよ。」

「はい、今週は今のところ通常業務っぽいからしっかり鍛えられそうですよね。ちょっとウエイト軽くないっすか?もう少し重くしましょうか?」

「いやいや、おじさんはこんなもんでいいよ。」

「そうですか、でも、新幡さんのLvってかなり高かったですよね。」

確かにLvは高いかもしれないが、20代と若い蒼場と比べて、アラフォーの多佳棋では基礎体力が違う。多佳棋自身がごりごりのアスリートということであればまだしもだが、ちょっと運動好きのサラリーマン程度である。

「あんまり強度を上げすぎるとこの後の業務に支障が出ても困るからね。」

そんな言い訳をしながら、6~7割くらいの負荷で二時間のトレーニングを終えた。

そのあともリーダー間での会議などをこなしたが、蒼場の言う通り平和な一日となり、定時での帰宅となった。


翌日も同じように日常業務をこなしていると、昼休み直前に眞武から呼ばれる。

「新幡君、ちょっと一件依頼が入った。ある会社の調査だ。主にそこに出入りする人の調査かな。君のチームが適任だと思うから頼む。詳細はさっきメールで送ったよ。全員で行くほどでもないからメンバー選定含めて任せたよ。」

「はい、承知しました。」

わざわざご指名ということは、鑑定スキルが役に立つということだろう。チームというよりは多佳棋自身に適任という意味ではと感じたが、すぐにメールのチェックをすることにした。

眞武の口頭での説明の通り、ばれないようにとある会社の建物を出入りする人をすべて把握し報告するものということだった。そこがどんな会社か、何の目的でやるのかなどは書かれていない。会社のパソコンから調べる訳にもいかないのであとでその会社をスマホで調べてみようと思った。隠れての調査なら、カップルを装って若者二人で行かせた方が警戒心は持たれにくいだろう。だが、多佳棋自身が出る必要があるとなると男女にするのが良いかは悩ましい。部下の女性は若い子しかいないため、不倫カップルみたいになってしまう。そんないらぬ心配をしながら、メールの内容をもう一度眺めながら計画を考え始めた。


最終的には多佳棋についていくもう一人は日替わりとすることにした。木曜日から開始で、土日も稼働するような工場ではなく、平日だけのかつ営業時間が夕方までの会社だったため、それほど苦にならない仕事となった(それでも連続で鑑定スキルを使用しないといけないときは頭痛がしてくるが、、)。

最低1週間継続という指示だったため、少なくとも来週の水曜まで実施する必要がある。金曜の夕方にその会社が閉まったことを確認した。

「さってと、じゃあ今日は上がろうか。」

「わかりました、特に動きのない二日間でしたね。」

「そうだね。来週は水曜日が担当だっけ?またよろしくね。」

「はい、承知しました。」


部下と別れそのまま直帰で家に戻ると藍が夕食を作っていた。

「ただいまー。って、あれ?ママは今日から海外出張だっけ?」

「あ、パパおかえりー。今週はずっと帰りが早いね。ママの出張は来週からって言ってたよ。今日も遅くなりそうだからってことで私が作っています、カレーだけどね。」

「いや、カレー最高じゃん!」

慎一の言葉に多佳棋も同意する。作ってくれるだけありがたいというものだ。

夕食を取りながら出発に向けての話をする。

「いやあ、結局あまり調べものができなかったなあ。車の構造についてと、武器をいくつかってところだ。」

「十分じゃん、車が作ってくれるなら大助かりだよ。」

「まあ、でもかなり期間が必要だから、すぐにってわけにはいかないけどな。まずはドラゴンだよな。。。ドラゴンキラーみたいな武器はないのか?」

「あるにはあるけど、今の私の持っている武器のほうが基礎攻撃力が高いから、トータルで与えられるダメージとしては優位性はないかも。」

藍が考えながら言う、無自覚の自慢だなとタカキは思った。

「なるほどな、そりゃしゃあないな。」

「あ、でも慎一用の武器ってことならいいかもね。ドラゴン特効のある槍。」

「そんなもんあるのか?」

「いや、わかんないけど、、、タカキが錬成スキルで作るんじゃないの?」

「そんなこといわれてもなあ、、さすがにこっちの世界でそんなことを調べることはできないし。せめて向こうに行った後で時間があれば情報収集とかできるんだろうけど、そんな暇はないんだよな?」

「そうね、なんせ町が一つ襲われているから悠長にしている暇はないわね。」

「まあ、そうだよな。」

そしていよいよ就寝時間となった。なんだか会社に行く時よりも緊張感がある。

「二人ともそんな緊張してて寝れるの?」

藍が笑いながら言った。

「ドラゴン特効のある槍ほしかったな。。」

慎一がボソッとつぶやいた。

まあ、やはり不安だよなと慎一に同情しつつ多佳棋も布団に入り目を閉じたのだった。

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