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第七十九話 帰還と報告

手紙を開くと、そこにはドラゴンの脅威から助けてほしい旨が書かれていた。丁寧な小さな字で長文が記載されているが、要約するとラニキス王国の北方に位置する城塞都市イスエールトがドラゴンに占拠されたらしく、さらに南下してきそうな気配もあり予断を許さない状況とのことだ。

差出人はラニキス王国の王都にある冒険者ギルドからであったが、おそらく国からの指名依頼とみるべきだろう。宰相のラルフが危惧していた通りの展開となったわけだ。あの時はまだそれほど鬼気迫っているという話ではなかったはずだが誰かがドラゴンを刺激したのだろうか。

先日、ラニキス王国の国王とワシュローン帝国の脅威に対して備えるということで共闘を約束したばかりということもあり、帝国がらみではないからと言って無視するわけにもいかないだろう。このままドラゴンに都市を破壊されてしまっては帝国どころではないからだ。

とはいえ、マインとジュリアの二人でドラゴン討伐に向かうわけにもいかない。

誰か他の冒険者に協力を要請できないかと交渉したが、ドラゴン討伐はAランク以上の冒険者でないと受け付けられないということだった。

ビースツガーディアンはニーアの依頼した案件にかかりっきりで、ライジングサンは襲撃を受けたけがから回復はしたものの、精神面も含めてまだ完全復活とは言えない状況ということなので難しそうである。Sランク冒険者のスタークとダミアンの二人も最近はここオスティアでは姿を見せないとのことで、どこかほかの町に行ったのではないかと言われてしまった。協力してくれる冒険者探しは諦め、準備ができ次第、向かう旨伝えて冒険者ギルドを出た。ギルド経由でラニキス側にも伝えてくれるだろう。


せっかくセルディスに戻ってきたのにまたラニキスに行かないといけないということを考えると少し憂鬱になる。できるところの準備を済ませて置き、来週、タカキ、シンイチと向かうしかない。

いや、途中までならもう移動を始めてもいいかもしれない。

そんな話をマインとジュリアとしながら、その足でポーションなどを買いに行った。

「なんかこういう買い出しっていいね、遠足の準備みたいでワクワクしちゃう。」

マインが買うものを選びながら気楽なことを言っているが、ニーアとしてはわくわく感よりも不安しかない。

明日から出発するということで早めに就寝することにしたが、それは杞憂となるのだった。


目を覚ますと見慣れない日本家屋の天井や壁、自分の家ではないがとても懐かしい感じがする。そうだ、珠莉のうちに泊まりに来ていたんだったと思い出す。ようやく現実世界へ戻る時間が経過したようだ、ギリギリのところで帰ってこれて本当によかった。藍は二人を危険な旅路へ向かわせることにならずに済んでほっと胸をなでおろした。とはいえ、勝手に解決するものではないので、次はしっかり準備して多佳棋と慎一を連れて行かねばならない。帝国が少し落ち着いたと思っていたのに、次はドラゴンか、せわしない世界である。。まあ、この地球の日本という国が平和すぎるのかもしれない。二人にはいきなり修羅場だということも事前に説明してどういう形で動くかも意識を合わせておこう。そんなことを考えていると隣で真唯と珠莉が目を覚ました。

「はっ、何、凄い夢だった。」

「マイン、じゃないや、真唯、夢じゃないのよ。」

藍が冷静に言った。

「え、マインってその呼び方!ほんとに記憶を共有しているの?信じられない。あれって何?どうやって戻ってきたの?」

真唯が矢継ぎ早に質問攻めにする。

「うーん、向こうの世界でも最初に説明した気がするけどなあ。異世界なのかな一応。」

藍は悩みながらも答えを絞り出した。

「よかった、戻ってこれて。」

ほっとする珠莉と、少し残念そうな真唯で対照的なリアクションだった。真唯はかなり乗り気でさらに質問をしてくる。

「やっぱそうなんだ、凄いね。ところで、大丈夫なのかな、いろいろあわただしくなってきていたけど、、隣の国なんかドラゴンに襲われてやばいんだよね?」

「まあ、そうなんだと思う。でも、ほかの冒険者にも同じように連絡していると思うから、意外と他の人が対応してくれて終わっていたってこともありうるかな。とりあえず次行けるのは来週の週末だから、それまでにうちの弟とパパに相談しておくわ。次行ったときは、ちょうどあの次の日から始まるはずだから大丈夫よ、たぶんうまくいくって。」

藍は真唯と珠莉を安心させるように少し楽観的に言った。

「来週はその三人で行くの?」

「そうよ、それが普段のパーティだからね。こっちでの準備もしっかりできるし。」

「何々、何の話をしてるの?ゲーム?」

いつの間にか目を覚ましていた亜美が横から会話に加わってきた。

「え、えーと。そ、そうなのよ。最近MMO RPGにはまっててさ。」

「へー、マニアックね。私ゲームとか全然やらないからよくわからないけど、面白いの?」

「ま、まあね。」

何の事情も知らない亜美が聞いてきたので、あまり話を広げない方がよさそうだと思いとっさにごまかした藍であった。亜美と珠莉が顔を洗うため洗面所に行くと部屋を出たすきをついてすかさず真唯が迫ってきた。

「んーずるい!私もまた行きたかったのに。」

真唯は不満そうにほっぺたを膨らませて見せた。

「ごめんね、また落ち着いたら一緒に行きましょう。来週チャチャっと片づけてくるからさ。」

「ほんとにー、頼むよ勇者様、来週中に解決しといてよ、期待してるわよ。あ、でもあまり危険なことはしないでよ。怪我とかしたらヤダよ。」

「うん分かってる、そこもあるからあなたたちを連れていけないんだからね。」

心配してくれているその割に、ドラゴンをさっさと片づけてきてと要求が高いなということは思ったが口には出さなかった。

ふと思い出したように真唯が質問をしてくる。

「ところで、少し話が変わるけど、向こうに行けるのってやっぱニーアがいないとだめなの?」

「今のところそうなのよね。ほらみんなにも指輪がついているでしょ。これ、他の人には見えないらしいのだけど、これが光った時に行けるみたいなんだ。私は毎週末の金曜夜に一番光が強くなって、その時に向こうに行けるのよね。でも私以外で、今まで光ったことがあるのを見たことないかなあ。といってもパパと弟の二人しか調査対象いないけど。」

そう言って自嘲気味に笑う。真唯も言われて自分の指に指輪がはまっていることに気づく。

「きっとなんか発動条件があるんだろうね。」

「へー、それのやっぱ勇者の力なんじゃない?」

「うーんそうかなあ。」

藍が首を傾げちょっと考えるようなふりをした。

「でも毎週こんなことしているなんて知らなかったよ。藍も大変だね。もう何回も向こうの世界に行っている訳?」

「んー、いや、まだ3,4回くらいよ。慎一と二人で2回言って、パパも入れて3人で2回かな。」

そんな調子で暫くの間、真唯と異世界話で盛り上がった。

そのあと、珠莉にも感想を聞いたが総じて好評でまた行きたいとのことだった。二人の友人の希望をかなえるためには、帝国を早急になんとかしなくてはならない、元勇者の責任は重大ねと一人思うニーアであった。

そのあと、みんなで朝を食べているときもなんだか不思議な感じが抜けず、まだ、異世界の延長のような、感覚になる。珠莉と真唯も同じ気持ちなのか心なしかにやにやしている。亜美が不思議そうにしているのが対照的だった。朝食のあと少し(と言いつつ2,3時間だが)話をして解散となった。


家に帰るとパパが疲れた顔をしてソファに座っている。

「あ、お帰り藍ちゃん。無事に帰ってきたか。」

「うん、無事、無事。とっても楽しかったよ。ちゃんと人助けもしたし、みんな少し強くなったよ。」

「そうかそれは良かった。」

多佳棋も笑顔で応える。

「次行く時もまったりとできるかな。もしも時間があれば、せっかくだから何か作ろうかなと思ってな。」

「うん、そうだね、私もそれ思ってたとこ。移動手段とかあるといいなあ。ところで、なんかパパ疲れた顔してるけど大丈夫?」

「ああ、ちょっと職場でいろいろあってな、ずっと泊まり込み対応で、一週間ぶりに家に戻ってこれて、ようやくリラックスできたって感じなんだよ。いずれ落ち着いたらお前たちにも話すよ、藍にも少し関係する話もあるし。」

「ふーん、そうなんだ、りょうかい。」

異世界から戻ったばかりということも有り、その場はそれほど多佳棋の言葉に気に留めもせずためさらっと流した。藍もやはり疲れていたのか、ドラゴン襲来の話をすぐにする気になれずそのままリビングで二度寝をしてしまった。

その日は珍しく家族四人そろっての夕食となった。また、ママが来週から出張ということで、家族のだんらんが土日くらいになってしまっている。だからと言って寂しいとか親が世話をしてくれないとは全く思わない。

「子供ってのは、ある程度大きくなったら勝手に育っていくよ。」

と多佳棋が以前言っていたが、本当にその通りだと思う。慎一はまだ甘えん坊気質なところがあるが、学年も差があるし、弟というところもあり仕方ないのかもしれない。


夕食のあと、藍はついに意を決して二人に状況の説明をすることにした。

「実は、今回の向こうでの活動なんだけど、最後に大きなお土産があります。」

「お、なんだそれは、楽しみだな。」

「いやなことじゃないといいけど。」

多佳棋は楽しみ、慎一は不安と対照的な反応を示す。

藍はラニキスからの救助要請の手紙について話をした。

「ほらー、やっぱり面倒なことだ!」

「ドラゴンか、、、ロマンはあるが俺たちで倒せるのか?」

「ちょっと、どのランクなのかわからないから何とも言えないってのが正直なところね。」

タカキの質問に藍は歯切れが悪くなる。

「でも、勇者時代に倒したことがあるから、その時より私は強くなっているし何とかなるんじゃないかなって。」

「それは周りに強い勇者パーティの仲間がいたからでしょ。」

慎一の指摘に対してはその通り過ぎて反論も思い浮かばなかった。

「わかってるって、とりあえず一緒に戦う仲間を探しつつッて感じだけど、少なくともオスティアにはドラゴン討伐に参加できそうな人はいなかった。ラニキスの冒険者ギルドに期待ね。」

「そうだな、さっそくまたクワッドヴァルキリーとの共闘となりそうだな。」

「シュッタウさん、怪我が完全に治っているといいけど。。」

そのあとも、細かいルートや、ドラゴンと戦う前の目標レベル、レベル上げの場所など議論を続け夜は更けていった。


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