第七十七 初心者パーティのダンジョン攻略(2)
次の日から再びダンジョンにもぐる生活が始まった。
朝一から10階層のボスを討伐という少し厳しいメニューであったが、前日の討伐経験も手伝い、今度は完全にニーアの手助けなし倒すことができた。勢いをそのままに一気に13階層まで探索を続ける。11階層から13階層までは水辺が多い地形で、水棲のモンスターが多く出てきた。
「カニとかエビの形をしたモンスターが出てくるけど、これって海水なのかな。」
マインが疑問を口にする。
「カニやエビは川にもいるよ。」
すかさずジュリアが突っ込みを入れる。
「そっか、じゃあ淡水でいいのかな。海水だったらどっから引っ張ってきてるんだろうって思ってさ。」
「いや、でもあれ見て、あそこにいるのクロダイっぽくない? ってことは海水なんじゃない。しかもすごい大量。」
ジュリアが指さした先には大量の魚影が見える、ニーアにはあれが黒鯛なのかはわからなかった、ジュリアの意外な知識に関心しつつ、パパが聞いたら喜びそうだなと考えていた。タカキは釣りも好きで、近年、クロダイが増えて釣れやすくなっているというような話を嬉しそうにしていた。但し、増えているのは水温が高くなっているからで、地球温暖化の影響かもしれないので手放しに喜んではいけないとも言っていた。
「じゃあ、やっぱり海水なのか、だってここ13階層だよね、」
ニーアとしては、そんなことは考えたこともなかった。この世界の仕組みを自分たちの世界の常識ではかろうとした時点で負けだ、というのがこれまで勇者の旅の経験から導き出した結論である。
14階層に到着すると、前方向は一面、水に囲まれており、後ろは岩肌の絶壁小さな小島に出てきた。手すりのない幅2メートルくらいの橋をひたすら進むところがあり、そこでは両脇からピラニアのような肉食の魚が襲い掛かってきた。大きさは全長20,30㎝と普通の魚くらいだが、れっきとしたモンスターでピラニアよりも獰猛で攻撃力もある。
「ジュリア、今度はピラニアだよ!やっぱり淡水なんじゃない?」
「こら、どうでもいいこと言ってないで油断せずちゃんと対応して!」
ニーアも思わず、大きな声を出す。
「ごめんて、ニーア。わかったよ。」
そう言ってマインはファイアーウォールを使い周りに炎の壁を作りだした。飛び出してきた魚型モンスター、キラーバイトが次々と焼かれていく。焼かれながらも中に侵入してくるものもいて、それらはそれぞれ武器で対処しなければならない。20分ほど歩き続けようやく陸地が見えてきた。
「意外としんどいですね。何か所か噛まれてしまいました。」
リズがそう言って右腕を見せると肉がえぐられ血が出ている。マリベルも足をやられたようだ。
「ああ、傷口見るのきついです。すぐ治しますね。」
マインはそう言いながら顔をそらしつつヒールXXをかけてみんなを治療していった。
15階層に入った。あたり一面に水が広がっている。モンスターの気配がしない。この嵐の前の静けさといった感覚は以前にも経験があった。
「みんな、油断しないで、大物が来るわ!」
ニーアが全員に声をかける。ダンジョンではまれにある変異種の出現。初中級者向けのダンジョンとはいえ、イレギュラーなことは当然起こる。そしてこういった場合、通常の階層レベルとは比較にならないほど強い魔物が出る。この間のエルフィリア大迷宮のときに戦ったアークキラータイガーのように不意に現れるのはレアで、通常はこのように他の魔物が出てこない状況、つまり、階層ボスと同じような状況になって現れる。湖のような水面が広がっているから水棲モンスターなのは間違いないだろう。また、Sランクのクラーケンキングだったらどうしようと想像したが、こんな小さなダンジョンの低階層で出るはずもないと思い直した。
急に水面が揺れたかと思うと長い何かが飛び出してきて、ニーア達一行に体当たりをしてくる。ニーアが前に出て剣でその巨体を受け止めた。長さは20mくらいだろうか、体の太さがニーアたちの身長ほどある巨大な蛇のような魔物だった。
「これは、シースネークね。動きが速いけど、防御力はそんなにないから、敵の攻撃を躱すなり受けるなりして懐に潜り込むことができれば切り刻むのはそんなに難しくないはずよ。」
ニーアが冷静に分析する。タカキがいれば鑑定のスキルでもっと正確にわかるんだけどな、とちょっとだけ不便に感じる。
すかさず、マインが、アースプロテクトでみなの防御力を上げる。ニーアもウィンドムーブという魔法でみんなの速さをアップをしてあげた。
これなら最初はみんなのお手並み拝見かな、そう考え、自分は攻撃をせずに守りに徹することにした。その意図を感じ取った残りの4人は奮起する。高レベルなものになると魔法攻撃もしてくるのだが、このダンジョンに出現するレベルだと巨体を生かしての体当たりが主な攻撃方法となる。とはいえ、階層ボスなのは伊達ではなく、攻撃範囲が広いため今のみんなではかわすのが難しそうだった。
まずはセオリー通りリズが敵の攻撃を受け止める。しかし、質量の大きさからその場に踏みとどまることができず大きく後ろに下げられた。
「これ結構きついね。」
「どうしよっか。」
「攻撃こそが最大の防御ってやつじゃない!」
そう言ってマインの攻撃魔法を起点として仕掛けていく。マリベルも弓で遠隔から攻撃しダメージを与えていく。
「火属性の魔法が効かない!?私の中で一番強い魔法なのに。。」
「普段水の中にいて体が揺れているからかもしれません。ほかの属性を試しましょう。」
「うん、わかった!」
マリベルに言われて即座に土魔法のストーンバレットに切り替える。こちらだとダメージが通っているようだ。マインの魔法攻撃で傷を負ったところに狙いをつけて、マリベルが追い打ちをかけていく。
シースネ-クの反撃が来ると、攻守を入れ替えリズが前に出ては敵の体当たり攻撃の防御し、マインがそれをフォローするという形である。
3時間に及んだ戦いを制したが、皆へとへとになった。
「みんなお疲れ様、よく頑張ったわね。」
「もうへとへと~」
「私もー、でも、身体が軽くなったからレベルアップしたんだと思う。」
うんうん、みんな頑張ったもんなー、結局、ほとんど私抜きで倒せちゃったし、と思いながらうなずくニーア。(手助けは、本当に危ない場面での防御を数回と、ジュリアのMP切れを抑えるためにマジックポーションの供給)
「凄かったよ、ジュリアと、マイン。二人の連携技みたいのを編み出していたじゃない。」
「うん、とっさだったからよく覚えていないけど。」
「大丈夫だよ、一度発動させたら、次からは簡単に再現できるようになっているはずだよ。あとでステータスウインドウで確認してみるといいよ。」
うん、わかった、とマインが頷いた。マインの土属性攻撃魔法ストーンバレットに呼応してジュリアの水ウォーターボールが後ろから後押しすることで、重量、スピードの両方を強化することで威力を上げる連携技だった。魔法の連携技をこんな低レベルで出せるということはニーアも知らなかった。
「あれ、これなんだろう。」
シースネークの体を回収しているとき、不意にジュリアが何かを見つけた。よく見ると古いメダルのようなものだった。
「あら、それさっきのボスが落としていったんだよ。ボスのドロップだから結構値打ちものかもね。」
「やったあ、じゃあまたギルドに戻ったら調べてもらおう、楽しみー。」
他にもいくつかあったシースネークのドロップアイテムを回収した後、暫くの間、休憩をとることにした。みんなが休んでいる間、ニーアは一人、剣の修行をすることにした。ボス戦でほとんど体を動かしていなかったので物足りない感じがするということもあった。この辺の敵であれば相手にならないのだが、純粋な剣技を磨くために魔法は一切使わないという縛りをつけている。ニーアは基本的には魔法剣士のため、剣技といっても剣に魔法属性を付与したり、身体強化などの自己バフをかけて戦うスタイルが普通である。そのようなブーストが無い状態なので、筋トレに近いものがあった。それでも物足りないため、デバフをかけて自分のスピード、攻撃力を落として戦闘を繰り返す。中学生男子がパワーリストやアンクルをつけて運動する気分はこんな感じだろうか、などと考えながらひたすら剣を振った。
一時間ほど汗を流しみんなのところへ戻ると、4人とも疲れたのか眠ってしまっていた。
全く不用心だな、ダンジョンの中で眠るなんて。自殺行為だぞ、と思いながら、そこに座る。
さらに30分ほどしてようやく目を覚ました。
「あ、起きた、おはよー。駄目だよ、ダンジョンの中でみんなが寝ちゃうなんて、ここが特殊階層だからって理解しているならまだいいけど。。」
「ごめーん、ニーアが守ってくれていると思ってつい。」
「まあ、確かに守るって言ったけど。」
まったく、仕方ないなあ、とニーアも笑顔になった、マインのこういうところはこっちの世界でも健在だ、なにかの特殊スキルなんじゃないだろうか、今度聞いてみよう思うくらいであった。その日は結局、亜種モンスターの討伐の疲れが響き、16階層までとなったが、その次の日からは20階層のボスの直前、つまり19階層までモンスターを討伐して、稼ぎながらで登ってこれるようになっていた。亜種モンスターのドロップしたコインも金貨15枚という高額で引き取られ、19階層まで登るようになってからは一日7枚~10枚は稼げるようになってきた。19階層までの討伐マラソンを15日間ほどこなし、支払い期限前に目標の金貨枚数200枚を達成することができたのだった。
その日の夕方、ギルド内の隅にあるテーブル席に、5人はいた。対面には例の奴隷商。
「いやいや、さすがはニーア様、約束通り金貨200枚ご準備いただけるとは。」
「私じゃないわ、リズとマリベルが自分たちの力でしっかり稼いだのよ、私たちはその手助けをしただけ。」
「そうですか、確かにお二人もこの短期間で随分とお強くなられたようですね。」
二人を一瞥して奴隷商が言った。
「では、確かにこの通り、お二人は晴れて自由の身となります。これからはまた奴隷とならないよう頑張ってください。」
差し出された書類を手に取って眺めるリズとマリベル、その顔には充実感がにじみ出ていた。
それを見て、この件を解決できて本当に良かったと改めて思った。助けようと提案したジュリアの顔を見ると、ジュリアも充実感に包まれているようないい表情をしていた。
「では私はこれで、ニーアさん、奴隷が必要な時はいつでもお声がけください。色々と取り揃えておりますので。」
奴隷商はそう言ってギルドから出て行った。
「ふん、嫌な奴、ニーアがあんたの世話になるはずないじゃない!ねぇ、ニーア?」
「う、うん、そうね。」
そう答えつつもニーアはまたどこかであの奴隷商とは会うことになりそうな予感がした。
無事にリズとマリベルの奴隷堕ちの危機を脱出できたことをみんなでお祝いすることになり、この街の中でも一、二を争う高級レストランで食事をする約束をしていったん解散となった。




