第七十六話 初心者パーティのダンジョン攻略
翌日から早速準備を整えてダンジョンにもぐり始めることにした。ニーアが選択したダンジョンはオスティアの南西にある初中級者向けのダンジョンである。
ジュリアはレストランの仕事はしばらくお休みさせてもらうことになった。事情を説明し、人助けのためということで店長のデニーも快諾してくれた。元々、冒険者を店員として雇っていることもあり、突発的なクエストで不在になることには理解があるようだ。
「しっかりと救ってやりな!」
そう言って送り出してくれたので、ジュリアとしても気合が入った。
初日は全員の実力の把握とレベルの底上げを目的として、行けるところまで行ってみようということになった。リズとマリベルのジョブはそれぞれ、戦士と狩人で、マインとジュリアを合わせるととてもバランスの良いパーティーとなる。
リズとニーアが先頭に立ち、じめじめとした洞窟を歩いていく。その後ろに遠距離攻撃での支援役としてマインとマリベル、最後尾に回復役のジュリアという陣形である。但し、下の階層では、敵も弱いこともあり、撲殺魔術師(見習い)ことマインを前方に配置し、ニーアは見守り役という形もとることにした。
最初は緊張からか攻撃のタイミングなどがバラバラだったが、低階層ではメンバー同士の連携を特に強く確認しようというニーアのアドバイスにより、徐々に互いの動きに慣れていった。そして4階層につくころにはよい連携を見せ始めていた。
「思ったよりみんないい感じね。この辺のモンスターの強さだと私の出番はないかもね。」
ニーアが特に手出しすることもなく安心してみていることができる。もっぱらの仕事は、みんなが倒した魔物の素材や魔石を集め、自分のマジック収納Boxに入れていくことである。シンイチを育てたときや、ユータたちを連れての修行、さらにはタカキのときの経験が生きていて、みんなの実力に対してどの程度まで手助けなしにできるかという見極めがうまくなっている気がする。それもそのはずで、後ほど自身のステータスを確認したところ、スパルタ熟練指導者という称号がついていた。
初級ダンジョンということもあり、基本的には帰還石がすぐにドロップするので、無理せず日帰りで稼ぐをモットーとして潜っていた。いや、むしろ帰還石がすぐにドロップすることが魔物の強さのわりに初級~中級のダンジョンという扱いの理由なのかもしれない。このダンジョンは時間の流れが通常の外の世界の2倍程度で、ダンジョン内で2日間過ごすと、外の世界で1日が経過しているといった具合である。ダンジョン内の時間で日帰りとしているため、1日過ごして戻ると昼過ぎ、数時間昼寝休憩などして、夕方からまたダンジョンに行き、1日過ごし、夜遅くに戻ってくるといったスケジュールとなった。初日の2回のチャレンジこそ5階層までだったが、二日目で9階層まで踏破することができた。モンスターの素材を売り払った報酬とクエストでの報酬を合わせてダンジョン内の時間で1日当たり金貨1~5枚くらい稼げるようになっていた。
「結構いいペースなのかな?こんなに稼げるなんて信じられないよ。」
マリベルとリズが嬉しそうに顔を見合わせる。
「モンスターがドロップする魔石は私の方で買い取るわ。魔石を欲しがっている知り合いがいるから。」
そう言ってニーアが市場引き取り価格の5割増しで魔石を買い取っていた。それほど強い魔物のものではないため小粒の魔石だが、タカキが弾丸として使うだろうからいくらあっても困らないだろうという考えと、リズとマリベルの稼ぎが少しでも多くなるようにというやさしさからである。
ダンジョンにもぐり始めて4日目(ダンジョン内で1週間ほどレベルアップをしたのち)、ついに10階の階層ボスとの対決となった。このダンジョンの中の1週間で、マインとジュリアもかなり経験を積み、それぞれ、Lv19とLv16まで上がってきた。まだ推奨レベルの目安である階層×2のLv20には届いていないが、リズとマリベルはLv23と推奨レベルを超えている。そのため、マインたちのレベルが低くても問題ないだろうと考え、ボスモンスター挑戦の許可を出したのだった。勿論、いざという時にはニーアが間に入ってフォローすることを想定している。
階層ボスはギガントフラワーという巨大な植物型モンスターだった。花粉での状態異常攻撃に悩まされたが、ジュリアがLv15になって状態異常回復魔法のキュアウォータを使えるようになったため、ひっきりなしにみんなにかけることにより、状態異常攻撃の影響を最小限にすることでほかの三人は攻撃に専念することができた。マインはエアインパクトという風魔法を駆使して、敵の動きを止めつつ、植物系のモンスターに効果が高い火属性のファイアボールでダメージを与えるという魔法アタッカー役をこなしている。レベルが上がってきて魔力が高くなってきたこともあり、さすが今回は得意の(?)打撃は封印し、魔術師らしい戦闘スタイルになっている。それでも、ボスモンスターがシードミサイルというスキルでジュリアを狙い来た時は、さすがにニーアもあせって間に入って攻撃を防いだ。十数発のミサイルをすべて切り落とし、ジュリアの元まで到達させることなく撃墜する。
「すっご、さすが。。。」
ジュリアも思わず絶句する。
「ジュリア、大丈夫?ほかのみんなも攻撃にばっかりで守りがおろそかになっているわよ。パーティでの戦闘なんだから自分のことばかり考えていてはだめ。お互いカバーしあってね。」
ニーアの言葉にマリベルが分かったとうなずき、ボスへの攻撃だけでなくシードミサイルの迎撃に回った。弓矢でシードミサイルを迎撃し、すべて撃墜とまではいかなくとも、ジュリアに届く攻撃の手数が減ることでジュリアも容易にかわすことができるようになった。
「うんうん、いいわね。安定してきた。」
マリベルが攻撃していて反応が遅れたときには逆にリズが盾となりジュリアを守る。マインは性格上あまり周りを見るのが得意ではないようで、攻撃に特化している。。
「うーん、、マインは、、まあ、しょうがないか。。。」
ニーアも苦笑いするしかなかった。あまり無理にフォローさせようとして今の火力が半減してしまっては元も子もない。そういう意味ではリズとマリベルが器用な立ち回りができる子たちだったのが幸運である。
その後は安定した立ち回りを続け、数十分ほどで10階層のボスを倒すことができた。
ニーア抜きでの階層ボス討伐を終え四人は充実感に包まれた。
「いやーよかったねえ、ニーア抜きでもボスを倒せるようなるなんて私たちもやるもんだね。」
「私たちが階層ボスを倒したなんていまだに信じられません。」
マインが喜びを爆発させるとリズも同意して感激している。ジュリアもみんなで協力したとはいえ、自分で選んだ道で結果が出たことがうれしかった。
「いぇい!私たちサイコーのパーティーじゃん。」
マインも大はしゃぎでリズとマリベルとハイタッチをしている。ジュリアのほうにもテンション高めで来たので、逆にジュリアとしては冷静になってしまった。
「確かにいい戦いができたと思うけど、ニーアが盾役で相手の攻撃を受けてくれたおかげってこともあるんだからね。」
マインをたしなめるようにジュリアが言った。マインは不安そうな顔でニーアのほうを見る。
「確かに、敵の攻撃の一部を私が受けていたってのはあるにしても、ボスを倒すだけの火力がこのパーティにはあるってのはすごいことだと思うよ。最後は私が防御しなくてもしっかり連携もできていたし良かったよ。みんなで力を合わせたおかげね。この分だと15階層くらいまでは行けそうね。」
ニーアも少しだけ褒めた。
褒めすぎて調子に乗られても困るのだが、折角ボスを倒したのだし今日くらいはいいだろう。リズとマリベルも階層ボスを自分たちで討伐したことで少し自信がついたように見える。パーティのバランスは良かったので連携さえよければこれくらいはできると思っていた。今までは回復役もいなかったため階層ボスのような相手との長期戦になると、途端に不利になってしまっていた、というのがニーアの見立てで、それが正しかったと証明できたことになる。
「よし、じゃあ今日はここまでにして、続きはまた明日からにしましょう。」
帰還石で街に戻る。その足で素材買取をしてもらいにギルドに向かった。
「ちょっと、魔道具屋さんに寄っていくから先に行ってて、すぐに追いつくから。」
そう言ってニーアは別のお店に入っていった。
残された四人はニーアに言われた通り先にギルドに入る。
「お、ままごとの帰りか。」
ギルドに入ると他の冒険者からのヤジが飛んできた。どうやら酔っぱらっているようだ。こういった絡まれ方は女の子だけのパーティーだとありがちなことである。
「相手にしないで行きましょう。」
キッと睨みつけるマリベルをジュリアがなだめる。ジュリアもマインも普段、ニーアといるときは経験したことがないので若干おびえている。そのまま通り過ぎようとするとさらにヤジが飛んだ。
「次の仕事は、貴族の家の掃除か、それともお相手かな、ついでに俺たちの相手もしてくれよ。」
その男の周りで、笑い声が起こる。これにはマインも我慢ができなかった。怒りが恐怖を上回り、その男の前に向かって行く。そこへちょうど、ニーアが遅れて入ってきた。
ヤジを飛ばしていた連中もすぐにやむ。全身鎧のAランク冒険者の存在感は伊達ではない。
「ん?どうしたのマイン、そんな怖い顔して。」
マインが事の経緯を説明する。それを聞いてニーアの怒りのボルテージが上がってくるのがフルフェイスの兜越しにも伝わってくる。
「ふーん、次に私の仲間に何か文句付けるようなことがあったら、ただじゃおかないわよ。」
「す、すまねえ。まさかあんたの仲間だと知らなかったんだ。」
ヤジっていた冒険者の男も酔いがさめたように声が震えて謝っている。
ふん、という感じで振り返りみんなと合流する。
「おい、ニーアってたしかおっさんと、若い男の3人パーティじゃなかったのか?」
その男が周りの仲間に確認する。
「馬鹿だなあ、お前。今はあのパーティらしいぜ、5人になったのは1週間前くらいだったかな。」
他の冒険者がその男に教える。
「そうか、あのおっさんと坊主は首か。俺たちのパーティに誘ってみようか。かなり腕は立つって話だよな。」
こうしていつの間にかシンイチとタカキがパーティをクビになったという話題が広がっていくのであった。
「素材の引き取りお願いします。」
いつものようにカウンターで手続きを済ませる。
「はい、かしこまりました。あら頑張りましたね、10階層のボスモンスターの素材ですね。では手続きしますので少々お待ちください。」
ボス討伐を指摘してもらい少し得意げなリズと、マリベル、
査定を待っている間、次の予定について話し合うことにした。
「今のペースだと、ダンジョン内の時間で1週間で金貨30~40枚ってところね。外の時間であと2週間弱(ダンジョン内だと3週間分)で金貨160枚以上なんて無理なんじゃない。最初の1週間で金貨40枚近く稼げたのでさえ、私たちにとっては奇跡に近いわよ。このあと1週間あたり金貨50枚以上稼がないといけないわ。」
マリベルが心配そうに言った。
「10階層以降で稼げるようになっていけば一回で稼げる金貨も多くなっていくから、これでいいかなと思うけどどうかな。あと、階層ボスの素材は結構高値で引き取ってもらえるはずよ。確か3日くらいで復活するはず。でね、提案なんだけど、明日からは10階層から始めましょう。あのダンジョンは転移ゲートがあって10階層ごとにワープできるようになっているの、時間の節約もできるし、体力のあるうちからボスと戦いになるから倒すのも楽になると思うし。」
「うーん、大丈夫かしら。。」
不安そうなマリベル。その時ギルドの受付から声がかかった。
「お待たせしました、本日の素材引き取り分は金貨10枚です。階層ボス分が金貨5枚で、他のモンスターの分が5枚となります。」
「えっ、凄い!」
思わず声を上げる、リズ。マリベルと顔を見合わせ思わず笑みがこぼれた。
「ニーアさん、さっきの案で行きましょう!目指すは20階層のボス討伐ですね。」
報酬を受け取り戻ってきたとたん、声をそろえ二人、階層のボスの報酬が良いと理解してすっかりやる気になったようだ。10~15階層くらいを1日中回っていれば、金貨7,8枚くらいにはなり1週間だと50,60枚となる。それに加えて階層ボスを1週間に2回くらい討伐できれば金貨10枚となる。それで1週間で6,70枚になるはずだ。ダンジョン内時間で三週間順調に稼げれば金貨160枚は十分届く計算となる。万が一足りない場合も、買い取った魔石の分で補えるはずだ。階層が上がってくれば質の良い魔石もとれて買取の金額も大きくなるだろうとニーアは考えていた。
「さあさあ、明日からまた厳しい戦いになるわよ、早く帰って寝ましょう。」
リズ、マリベルたちと別れて宿に戻る。
部屋に戻るとジュリアが心配そうに話しかけてきた。
「ねえ、明日から10階層より上に行くのよね、私たち大丈夫かな。あと、このペースで金貨200枚って貯まるのかしら。」
「そうねえ、まあ、金貨200枚ってのは楽な数字じゃないわね。でもいざとなったら私が何とかするわよ。今回はリズとマリベルに自信をつけてもらうためにやっているところもあるからね。あと、ジュリアとマインは心配ないと思うわ。二人ともこの1週間の戦いでかなり強くなっているし、リズとマリベルも二人の先輩として守ろうとしている感じもあるからね。それに、本当に危ないってなった時は私がちゃんと助けてあげるからね。あれくらいの階層なら全然問題ないわよ。とは言ってももちろん油断するのは駄目だけどね。」
「へー、さすがニーア、頼りになるぅ。あんまりわかってないけど、本当に強いのね。」
「へへん、まーね、こう見えても一応勇者様ですからね。」
そう言って少し得意げな顔をするニーア。そこにマインが後ろから飛びついてきた。
「えい、勇者の後ろをとったぞ。」
「ちょっと、マイン!」
「よし、ジュリア、私が抑えているから今のうちに攻撃よ。」
「分かった!」
そう言ってニーアの脇をくすぐり始めた。
「ちょっとくすぐったいわよ、わきは弱いんだからやめてよー!」
くすぐったがるニーア、さらに攻撃の手を緩めないジュリアとマイン。
「分かった、分かった、私の負けでいいから~。」
ニーアはジュリアとマインが内心、少し不安な気持ちがあることを理解した。ジュリアも自分から言い出したものの、未知への挑戦だ、不安がないはずがない。こうして3人で仲良く戯れることで少し気持ちが楽なっているのが分かった。
じゃれ合いがひと段落したところで、改めて座り直し真面目な顔で二人に向かい合った。
「二人とも、ごめんね。本当はもっとお気楽で楽しく3人で遊びまわれると思ったんだけど、、結構ヘビィな状況に巻き込んじゃったなって反省している。」
急に真面目な話になって少し驚くマインとジュリア、しかしすぐに気を取り直した。
「むしろ私の方がごめんねだよ。二人を手伝いたいっていう話の言いだしっぺは私の方だし。」
ジュリアが反論する。
「私も問題ないよ、これはこれで刺激があって楽しいし。なんか今までいかに親に守られていたかが実感するよね。こっちでは自分の身は自分で守らないといけないからさ。」
マインも不安はあるものの不満はなさそうだ。
「といいつつ、本当に危ないときはニーアに守ってもらっているけどね。」
「確かにー!」
そう言って笑いあうマインとジュリア。ニーアも二人を連れてきてよかったとようやく思うことができたのだった。




