第七十五話 大型任務
「仲間の知り合いだったのね。」
ニーアたちが帰ったあと、同僚のラミに声をかけられる。
「はい、そうみたいです。怪しい人とかじゃなくて良かった。」
ジュリアもほっとした様子で笑みを浮かべた。
「で、どうするの?結構いい物件なんじゃない?問題はパーティメンバーの女の子かしらね。ロザ―ティアって言ってたっけ。」
「私は、そんなこと、、、思ってないです。」
ジュリアは慌てて否定する。
「あら、そうなの?向こうもまんざらでもなさそうだったけど。あの若さでBランク冒険者なら、将来有望じゃない。先に手を付けておくのもありかもよ。」
横からもう一人の同僚のルーシュも会話に加わってきた。ニーアたちの会話もちょいちょい盗み聞きしていたらしい。
「でも、ニーアって子にビビってたからな、そこがちょっと問題かもね。」
「尻に敷かれるタイプってことでジュリアもそうすればいいだけじゃない?」
「それはそうと、お二人も若くしてBランク冒険者じゃないですか。」
ジュリアはユータの話題から逸らそうとして二人について話を振った。その言葉に二人は顔を見合わせる。
「私たちは半分引退しているようなもんだからね。」
「冒険者というよりは店に雇われている護衛ね。用心棒よ。」
二人の影のある表情から、なにか複雑な事情がありそうだと感じる。
「そうなんですね、」
「で、どうする気なの?」
「な、何の話ですか。。」
「もちろんさっきの有望株の話。ジュリアちゃん狙うんじゃないの?」
「別に狙ってなんかないです!」
またしても話を戻されてあせるジュリア、そのあとも仕事終了まで先輩方にいじられ続けたのだった。
「別に好きになったとかないし、、、ちょっといいかもくらい。。狙うとかも、、ない、、たぶん。。」
ぶつぶつと考えながら仕事からの帰り道の歩を進める。振り返ってみると、今まで自分が本当に人を好きになったことがないような気がしてくる。ニーアやジュリアと気になる異性の話をすることはもちろんあるが、いつも見た目が良くて無難な人を選んでいて、本気でその人と付き合いたいとかはあまり思ったことがなかった。このままだと、自分で相手を見つけられずに親の言いなりで結婚相手も決められてしまうのではとふと現実にかえる。いやいや、そんなことはないはず。自分もいつか好きな人ができて、その人といい感じになって、いずれは結婚、、、本当にそんな時が来るの?あの両親の気に入らない人だった時に説得できるのだろうか。
そんなことを考えると、気が重くなる。うるさく反対する人がいないこっちの世界で好きな人ができ、その人といい感じになるのは良いことかもしれない。たとえ一時的な逃避だと言われたとしても。
「おかえりー!」
宿に着くとニーアと、マインが待ってくれていた。ジュリアの悩みを知ってか知らずか明るく迎えてくれる。
「さ、ご飯行こ、ご飯。私お腹すいちゃったー。」
「ちょっとマイン、ジュリアも帰ってきてすぐだと大変じゃん、少し休んでからのほうがいいんじゃない。」
「ううん、私も大丈夫。すぐ行こうよ。」
いつもこの二人がいて安らぎを与えてくれるから仕事でつらいことがあっても頑張れるんだ。別に彼氏なんていなくても大丈夫じゃない!三人で夜ご飯を食べながら心からそう感じたのであった。
「ジュリアなんか嬉しそうだね、なんかいいことあった?」
「え、いや別に。ふふ。」
思わず表情に出ていたらしい。マインに指摘されて気づく。
「そういえば、ユータだけどクエストで遠征で、明日からオスティアを離れるみたい。ジュリアにもよろしくだって。」
「ふ、ふーん、そうなんだ。まあ、私には関係ないけど。」
ニーアからしばらく会えなくなると聞かされて少なからずショックを受けている自分に気づくジュリアであった。
数日後、ジュリアの仕事がお休みの日、三人で簡単なクエストを受けようと冒険者ギルドに来ていた。この流れもすっかりルーティンとなっている。
「これはどう?ゴブリン討伐だって。」
マインが一枚のクエスト依頼票を指さす。
「ゴブリンは数が多かったり巣があって上位種とかいることもあるからなかなか厄介なのよ。ほら、必要な冒険者ランクだってCランク以上じゃん。Eランクの二人には無理だよ。」
「そっか、ニーアが一緒でもダメか。」
先日のお休みのときのクエスト達成により、ジュリアもEランクに昇格することができていた。ニーアの補正でDランククエストまでは受注可能である。マインは今回それなりの任務をこなせればDランクに上がれることだろう。
クエスト選びをマインとニーアに任せてボーっとしていたジュリアは、二人の女の子に目が止まった。自分たちと同じようにクエストの依頼票を物色しているようだ。その時ふと目が合った。思わず会釈して慌てて目をそらす。自分たちと同じくらいの年齢だろうか。日本人っぽくはないがかわいい顔だったので気になってしまった。結局、良い依頼が見つからなかったのか何も受けずにそのまま出て行った。そんなことをしているうちにどうやら我々の受注するクエストが決まったようだ。近場の魔物狩りといつもの感じのクエストである。ただ、Dランクのクエストなのでちょっと難易度が高めのようだ。マインが意気揚々と受付を済ませ、冒険者ギルドを出た。
ギルドを出ると数十メートルほど離れたところで先ほどの女の子二人が一人の男ともめていた。
「ニーア、あれ!」
ジュリアが慌ててニーアに助けを求める。本当は自分がさっそうと助けたいところだが、危険な真似は禁止と口酸っぱくニーアに言われているため仕方がない。
ニーア一瞬にしてその男を制圧し追い払った。
「くそっ、覚えてやがれ。どうせお前らは逃げられねえんだ。」
捨て台詞を吐いて去っていった。
「大丈夫?どういった事情なの?」
二人の名前はリズとマリベルといい、姉妹冒険者らしい。
事情を聴くと、どうやら親が残した借金があり、このままでは奴隷落ちをしてしまうため、それを回避すべくお金を稼ぐことを画策しているとのことだった。
マインとジュリアは納得していなかったが、この世界には奴隷制度が確立しており、借金が返せないのであれば奴隷となるという点においては正当性が向こうにありそうだとニーアは理解した。しかも返済期限は昨日という状況だった。二人が逃げ出さないようにと監視をつけていたのだろう。ニーアは有無を言わさず撃退してしまったことを反省し、奴隷商のところに赴き謝罪をした。しかし、幸いなことに追っ手の雇い主である奴隷商は冷静に対応してくれた。
「こちらが雇ったものもちゃんと説明すればよかったのですが、無理に連れて行こうとしたようですね。誤解がとけて良かったです。」
交渉の結果、借金の返済期限を二週間猶予を与えてくれるとのことだった。その期限内に返済できなければ、今度こそ奴隷堕ちという条件を突き付けられた。元々の返済期限は既に過ぎているので反論の余地はなかった、むしろ先延ばしにしてくれるというのはまれなケースといえるだろう。
「私だってAランク冒険者に悪い印象を持たれたくはないですからね。」
そういってほほ笑んだ、どうやらその奴隷商はニーアのことを知っていたらしい。意外といいやつなのかもしれないとニーアは思った。本当はそんな義理もないはずなのにニーアの顔を立ててくれということだろう。マインとジュリアも予想と違って奴隷商という人間が親切であったことに驚きを覚えている。
「奴隷商って凄い悪い奴だと思っていたけど、意外と普通の人だったね。もっと、こう、目つきが悪くて、奴隷を鞭で叩いてばかりいるような感じを想像していたよ。」
奴隷商と別れてからのマインの最初の感想だった。それは偏見だと思いながらニーアはマインに、奴隷商はこちらの世界では普通の一職業として社会に認知されていることを説明した。ちゃんとした資格を持った奴隷商であれば、奴隷も手ひどく扱われることはない、彼らの商品を大切に扱うという精神は商人の基本姿勢である。ただ、買われた先でどうかというところまでは保証できないというのが実情だった。
借金返済までの猶予期間を貰ったにも関わらず、リズとマリベルは返せる当てもないため途方に暮れていた。
「ねえ、私たちも借金の返済を手伝えないかしら。」
そんな二人を見てジュリアが提案をした。いつになく真剣な面持ちである。ジュリアが自分から主張するのは珍しいとニーアは思った。
「いいわよ、でも、自分たちでお金を稼いで返すのが基本だからね、私たちはあくまでお手伝い。」
自分も同じ提案をしようと思っていたので乗ってあげることにした。マインも当然賛成である。
「でも、私たちにできるでしょうか。二週間で金貨200枚なんて。」
「ありきたりなことを言うと、やらないうちからできないと言わないことね。何事もやってみないと分からないでしょう。」
ニーアから痛いところをつかれ顔を見合わせるリズとマリベル。暫くの間沈黙が続く。
「分かりました、お三方もお手伝いしてくれるということですし、出来る限り頑張ってみます。」
リズがようやく笑顔になった。それにつられニーアも笑顔が浮かんだ。
正直なところ、ニーアの貯金をはたいて借金を一括返済することは可能であった。しかし、それでは二人のためにならないし、借金を肩代わりしたニーアの奴隷になると言いかねない。この先も生活が続くことを考えると、二人に自信と自立心を持ってもらうために自分たちで返済することが必要だろうという結論に至ったのだった。
リズ、マリベルと一緒に5人でパーティを組み、お金を貯めることになるのであった。
「よーし、じゃあ早速借金返済作戦を練ろう!」
マインがみんなに呼びかける。手っ取り早く稼ぐには高レベルクエストをいくつも達成することが一番だが、リズとマリベルもEランクということで今のみんなではそれはきつい。貴族や商人の護衛とかもはやトラウマレベルである。護衛任務のクエストを受注しないまでも効率よく稼ぐためには、いよいよ本格的にレベルアップをする必要があった。
相談の結果、ダンジョン探索をすることになった。相談といっても、ジュリアとマインはほとんどこちらの世界の経験がないため、ニーアの経験論からくる意見がほとんどだった。発掘品も出て、レベリングと副収入が見込める、さらにダンジョン内は外よりも時間の流れが速いため一日潜るだけでも数日分稼ぐことができるといったメリットをとうとうと述べ説得したのだった。ついでにダンジョン内で達成することができる採取系のクエストも抜かりなく受注する。
あれ、私なんでこんなにダンジョン推しているんだっけ、、?
ダンジョンはいい思い出がないから避けたいはずだったんだけど。。自分で言い出したとはいえ、ニーアは憂鬱になった。
しかし、これから挑戦するダンジョンは最深階層は30階で難易度もBとそれほど高くないため何とかなるはずだ、そして二週間くらいで現実世界に戻る時期になることもあり、二人との冒険の締めのイベントとしてちょうどいい感じになるのではとニーアは計算していた。
レストランでニーアとあった翌日、Bランク冒険者パーティ、ブレイブファングのユータとロザーティアは、Aランク冒険者パーティビースツガーディアンのメンバーと目的地へ向かって歩いていた。指名での合同クエストの依頼があり、自分たちの成長のためにも即決でOKの返事をしていた。
「すまないな、いきなり声をかけさせてもらって。ギルドで人を集めるのだと時間がかかってしまうので直接声をかけさせてもらった。最近、活躍しているBランク冒険者パーティと聞いてたのでね。もちろんオスティアのギルドマスターには話は通している、闇クエストってわけじゃないから安心してくれ。」
「は、はあ。でも僕たちで大丈夫ですか。」
ユータが緊張した面持ちで尋ねる。ビースツガーディアンとはオムニ商会の護衛任務のとき以来だが、向こうは自分たちのことを覚えていない様な口調である。隣にいるロザ―ティアも不安そうに話を聞いている。
「ああ、大丈夫さ。というか、むしろ君たちにも無関係ってわけじゃない。確か、ニーアと一緒にオラキ島で修業していたんだよな。」
「はい、ニーアさんは師匠というか、いろいろと教えてもらったり鍛えてもらったりでお世話になっています。」
「それなら十分参加の義務があるな。なぜならこの件はもともとニーアが持ってきた案件だからな。」
やはり前のことは覚えていないらしい。ニーアたちとオラキ島から帰る際にSランクモンスターを倒したことで自分たちの名が売れ始め、その流れで声をかけてくれたようだ。リーダのレオンの話によると、数日前に怪しい組織を調べてほしいとニーアから依頼があり、その調査を終え本格的にその組織の解体が必要という結論になり、今回のクエストにつながっているようだ。
「結構、大変そうなクエストですね。僕らだけで大丈夫なんですか。」
「ああ、決して簡単な任務ではないな。だが、低ランク冒険者の数を集めれば何とかなるというものでもない。気配を察知するとトカゲのしっぽ切りのように下っ端を残して消えてしまうらしい。だから少数精鋭で挑む必要があるんだ。もう一組Aランク冒険者パーティに声をかけていて、そいつらも頼りになるから大丈夫だろう。合流は一週間後だ。君たちに求めるのは二つのAランク冒険者パーティの連携をスムーズにいくような連絡役だ。向こうは二人パーティだからどちらかというと彼らの手助けの場面が多くなるかもしれない。もちろん君たち単独で動いてもらうような場面では、個別での敵の撃破も求めるけどね。」
「何となくですが、役割はわかりました。ちなみにこの任務はニーアさんは誘っていないんですね。」
「本当は、仕事を持ってきた本人にやらせたいところなんだけどね。二人の仲間が、まだレベルが低くて目が離せないって状況だからこの任務には荷が重いってことで断られたよ。」
「あいつ、俺たちに面倒ごとを押し付けやがって、ふざけたやつだ。」
前を歩いているタイガが憤っている。ユータはなんだか自分も怒られそうでドキっとしたが、幸いこちらに飛び火することはなさそうだった。
そうか、確かにジュリアさんたちがいるから無理か。シンイチさんも今は遠くに行っていると聞いたので、参加は難しいだろう。ある意味、ニーアの代わりに声をかけられたようなものかおしれない。周りはAランク冒険者パーティばかりで本来であれば格上の任務なのだろうが、ニーアさんにお世話になった恩を返すためにも頑張らないとな。ユータはそう考えて自らを奮い立たせるのだった。




