第七十三話 友人(2)
普段からそんなに深く考えることはしていない、その場のノリと自分が楽しそうだなと思う方を選んで進んで生きてきたと思う。そんな自分のわがままで友達を振り回してきたことが多々あったのは自分でも認識している。時にはそれが原因で疎遠となってしまった子たちもいたかもしれない、それでも藍と珠莉はいつも私の思いを尊重してくれたし、時には厳しく制止してくれた。
自分の性格や振る舞い上、こんなことを口にして言うことはほとんどないけど、いつも二人には感謝している。わたしのわがままを聞いてくれて、受け入れてくれてありがとう。だから、たとえ藍のわがままでこっちの世界に連れてこられたとしても、気持ちは理解できるし、全然藍を恨む気にはならない。むしろ楽しそうな世界に連れてきてくれてよくやったとねぎらいたいくらいだ。この三人だったらどんな場所でも、どんな状況でも楽しみながら協力して切り抜けていけるはず。
古くからの付き合いを腐れ縁なんていうけど、全然腐っていないし、むしろ今においてもすごく新鮮で輝いている関係性だ。最近、この二人のためなら自分の考えを曲げてでも協力してあげたいと思えるようになった、自分も少し大人になったのかなと思える瞬間だ。いつまでも腐ることのないつながりでいたい、願わくば二人とも同じ思いだといいな。
こちらの世界に来て数日が経った。いつも三人で一緒に寝ていて毎日がお泊り会のようである。しかも見たことがないものばかりの世界で。でも、この何日かを過ごして真唯と珠莉には気になることがあった。こっちの生活にも慣れ始めたある日、真唯が思い立ったように話し始めた。
「ねえ、私たちってずっと、藍、ニーアにお金出してもらいっぱなしじゃない?宿代、ご飯、カフェ代とか、いろいろ遊ぶお金も。。ニーアの貯金を切り崩させちゃっているなって思って。せっかく私たちも少し大人化していることだし、私たちもお金を稼げるようになんか仕事して自分たちの使うお金は自分たちで稼げるようにしない?」
「私もそれ思っていた。」
珠莉も同意する。この数日でようやく異世界に慣れて元気を取り戻していた。
「そんなこと気にしないで、連れてきたの私だし。こっちの世界のお金たくさん持っていし、使うとこもそんなにないから二人分くらい余裕だよ。それにお金を稼ぐって何する気なの?なんか一緒に遊ぶ時間が減っちゃうのは嫌だな、、」
「ちっちっち、ニーア君違うよ。一緒に冒険者をやっていろんなクエストに挑戦だよ。そしたら三人一緒に過ごせて、しかもいろいろな冒険ができるじゃない。」
「えー、私は反対だよ。二人にはあまり危険なことをしてほしくないかなって。」
ニーアは不安しかないので反対する。
「私も冒険者はちょっと、、、パン屋さんとかそういうのを想像してた。。」
珠莉と真唯も一枚岩ではなさそうだ、あらかじめ認識合わせをしていたわけではなく、ほんとに思い付きでの発言だったようだ。
「でも、頼りっきりなのは気持ち的に嫌なの!」
「そうね、私たちはニーアに養ってもらう子供じゃないのよ。せっかく自由な世界に来たんだから自立できるように働いてみたい!」
珠莉が珍しく自己主張をした。
ニーアは腕を組んで考え込む。レベル的には私にとって子供のようなものなのだけど、と思ったが口には出さなかった。二人に危険な目に合わせないというパパとの約束もあったので、いろいろと理由をつけて反論したが二人の意志は固かった。
結局、二人に押し切られてお金を稼ぐために働くというという方針となった。
珠莉は飲食店、真唯は冒険者という方向と思っていたが、真唯の提案でいざというときに備えて三人で動けたほうが良いということでとりあえず冒険者登録だけでもしておこうという話となった。
「じゃあ、冒険者登録に当たって、まずは名前決めないとね。」
藍が勝手に話を進めている、待ってよ、私の心のケアはどうなっているの、冒険者ってどんな仕事をするの?なんか野蛮そうなイメージだけど私にできる?珠莉は心の中で叫び続けている。
「なんていう名前にしようかな。昔から言われているあだ名からマイマイにしようかな?」
真唯は相変わらずノリノリだ。
「うーん、カタツムリみたいじゃない。マインにしたらどうかしら。」
藍が言う。
「えー、そうかなぁ。気に入っているんだけどな、珠莉はどう思う?」
まだ心の整理が追い付いていないのにこっちに話を振ってきた。真唯はいつもこうだ。
「うん、それでいいんじゃないかしら。」
あまり深く考えずに投げやりに答えてしまった。
「それよりも、大丈夫かな。異世界って怖くない?さっきの見た?なんか大きい恐竜みたいの飛んでいたけど。冒険者ってあんなのを倒さないといけないんじゃないの?」
「え、ほんと。ドラゴンかなあ。こんな街中には来ないはずだけど。。まあ、鳥系の魔物じゃないかな、高ランクの冒険者がやっつけてくれるから大丈夫よ、それとも私たちで狩っちゃう?」
藍がのんきに応える。
そんなやり取りをしつつも結局、藍の説得により「マイン」に落ち着いた。
珠莉は3人同意見で「ジュリア」に決定した。
「大丈夫よジュリア、冒険者登録だけしたらちゃんとパン屋さんみたいなお店で働けるところ探しておくから。」
ニーアがそう言ったので、ジュリアもようやく前向きに頑張ろうと思えたのだった。
冒険者試験を受けるため、そこから数日は特訓の日々となった。シンイチやタカキを鍛えてきたので勝手はわかっている。三回目の育成ともなると慣れたもので、ニーアが弱らせたモンスターを倒すことで効率的にレベルアップさせ、並行して毎日数時間の対人の戦闘訓練も実施した。タカキの時のことを思い出し攻撃を回避することに重点を置いた。二人ともLv10を超え、ようやくニーアからのOKが出て、冒険者ギルドに登録に行く。二人とも緊張していたせいか練習通りの動きではなかったが、なんとか合格しFランク冒険者となることができた。
「無理すんなよ。お前らは有望な新人冒険者なんだからな。」
試験官にそう言って励まされたが、二人ともへこんでいた。もっとできると思っていたようだ。
「大丈夫よ、これから実戦で経験を積んでいけば。二人とも有望だって言われていたじゃない、あれはあながち嘘じゃないわよ。」
職業鑑定をしてもらった結果、マインは魔術師(見習い)、ジュリアは神官(見習い)となった。それほどレア職業ではなく異世界転移の恩恵を受けているかは微妙なようだった。(見習い)というのは一体どんな能力や特徴があるのかニーアにもよくわからない。マインは悔しそうにしながらも前向きだったが、ジュリアは少し落ち込んでいるようだった。
「もっと特別な何かになれるかもって、期待した自分が恥ずかしいよ。」
「大丈夫、私がしっかり教育するし。」
シンイチは私が育てた、という自負もあり、このまま二人を意気消沈させっぱなしにするわけにはいかないという、妙な責任感とやる気が芽生えていた。
早速、いくつかのFランククエストを受託し町の外へ出て雑魚モンスターを狩ってみる。人間相手でないと、意外と二人とも度胸はあるようで簡単に倒していった。マインは魔術師ということで魔法主体のはずだが、まだ魔法が使えないため杖で殴るという原始的な攻撃だった。しかもえげつないことにバットのように両手で持ってフルスイングするという、ちょっとあれな戦闘スタイルだった。いずれ、撲殺の~とか返り血の~といった変な通り名がつかないといいけどとニーアは変なことを考えていた。しかし、Lv11で「魔術の淵源」という自身のMPを回復できるスキルを覚えた。魔法が使えるようになって、このスキル自体のレベルも上がれば、無限に魔法が打てる可能性がある。そのためにも何とか魔法を覚えさせないといけない。一方のジュリアはセンスがあって少し教えただけでウォーターボールの魔法と、ヒール、ウォーターシールドを覚え、相手との距離を取りつつうまく攻撃してスマートな戦いを展開していた。ジュリアはLv11で「聖女の祈り」というスキルを覚え、味方の体力を回復できるのはとても便利であった。今は少し疲労が回復する程度だが、今後スキルレベルが上がってくると回復の量も大きくなるのだろう。もう少しレベルが上がったら魔法の属性の種類を増やす特訓をしてあげよう。炎が聞かない敵もいるだろうし、敵の属性攻撃で水のシールドでは防げないものもあるからである。
「この間の試験官との試合は何だったんだ。。」
ニーアはつぶやいた、二人が自信喪失しているのではというのは杞憂で済みそうだ。冒険者登録とそのあとの憂さ晴らし(?)を終え、宿に戻った。
「二人ともお疲れ様!晴れて冒険者に慣れてよかった、おめでとう!明日からどうするか決めないとね。」
「ニーアのおかげだよー、ありがとう! 私は断然冒険者かな、今日の試験のあとの狩りも楽しかったし。」
「そういうと思ったわよ、でもちゃんと魔法を覚えないとねー。職業からすると力よりも魔力のほうが上がりやすいはずだからね。」
ニーアのアドバイスにオッケーとうなずくマイン。
「ジュリアはどうする?」
ニーアの問いかけに少し考えてから口を開く。
「うん、私ニーアが見つけてくれたお店で働いてみるよ。いつも親に言われたことに従ってきたから、自分で決断するのって初めてなの。だから失敗してもいいから最初の自分の考えを大切にしてみようかなって。」
「うんうん、いいよ。じゃあ明日からでお願いしておくね。パン屋で募集がなくて、食堂になっちゃったけど。。」
「ありがとう、申し込みお願いね。別にパン屋にこだわりはなくて店員さんをやってみたかったから食堂でも全然希望通りだよ。でも、ファミレスとかを想像していたから、初めて働く場所が異世界の食堂とは思ってなかったけどね。」
「私たち、毎日食べに行くからね! あと辛かったらいつでもやめていいからね。あの食堂の店主ちょっと怖そうだったし。」
マインがちょっと失礼なことを言ったが、店主はいい人なのは間違いない。実はニーアは二人の特訓の合間にジュリアが働けそうな店を探していていた。残念ながら希望のパン屋は見つからなかったが、未経験でも雇ってくれるという食堂と話をつけていたのだった。そこは以前護衛任務でつながりのあるオムニ商会系列ということで、店主がオムニさんに連絡を取ってくれ、ニーアの名前を聞いて採用してくれることになったわけである。
翌日からジュリアは別行動で、マインとニーア二人で冒険者ギルドに向かう。それほど強くないモンスターの盗伐と薬草採取のクエストを見繕った。
「ありがとう、私のわがままに付き合ってくれて。」
ふいにマインにお礼を言われてびっくりするニーア。
「なんで?私も一緒に冒険できてうれしいよ。みんなバラバラで過ごすより全然いいって。ジュリアも、たまには外に引っ張り出して三人でクエスト受けようね。でも、何度も言うけど危険なクエストはダメだからね。」
そう言ってフルフェイスの奥からにっこり笑う目をのぞかせるニーアを見て、マインも思わず笑みがこぼれた。そして、黙ってニーアの腕に抱きつき歩き始める。
「さ、じゃあ安全なクエストのこなし方をしっかりと指導してもらわないとね、よろしく頼むぜぃ、ニーア先生!」




