第七十一話 お泊り会
多佳棋が新しい職場で自己紹介をしていたころ、藍は友達の真唯、珠莉、亜美の三人とお泊り会の話で盛り上がっていた。
「ヤバ! 週末、チョー楽しみなんだけど。」
「みんなで買い出し行って夜食用のお菓子買おうよ。」
真唯と亜美が月曜日の朝一からテンション高めに話しかけてくる。
今週末はいよいよ以前から話を進めていたお泊り会だ。真唯が毎日のように、お泊り会楽しみだねとか、何して遊ぼうかなど話をしてくるものだから、サブリミナル効果的に藍自身も楽しみになってきた。いや、自分から発信はしていなかったが元々楽しみにしていたというべきだろう。真唯と珠莉とは保育園のころからの仲良しだ。
「うちのお父さんが車出してくれるって言っているから、みんなのうちにお迎えに行くよ。最近物騒だし。」
珠莉が会話に加わってきてすてきな提案をしてくれた。先週から発生している通り魔事件はまだ解決していない。被害者が二桁を超えたとニュースで伝えられており、県をまたいで発生している。藍たちが住んでいる地区の隣の区でも発生していて、夜に一人で友達の家まで行くのは不安があるのは確かであった。
「珠莉、ナイス!ていうかありがとう、マジ神。」
真唯が相変わらずのテンションの高さで反応し、亜美と藍も続いてお礼を言った。
表向きは仲良し女子4人でのお泊り会だが、実は、藍には裏の目的があった。お泊り会の日はちょうど金曜日、指輪の光が貯まっているのである。これまで自分の他に2人(パパと、慎一)までは一緒に異世界に行くことができたが、
1.家族以外の他の人もつれていくことが可能なのか、
2.可能ならば、3人以上を一緒に連れていくことができるのか
というところを検証しようと思っている。
水曜日の夜、習い事のダンスを終えて家に帰るとママが帰ってきていて晩御飯の支度をしていた。パパは何か仕事のトラブルとかで宿泊での出張となってしまったらしい、日曜日以来、顔を見ていない。今まで急に泊りでの出張なんてなかったので少し心配だが、今はそれよりも週末のお泊り会である。慎一も今週は週末異世界活動はお休みということを聞いてガッカリしていた。かわいそうだが仕方がない、家族の愛や絆も大事だが、思春期の友情はさらに優先されるのだ。
そんなことを考えながら過ごしていると、翌日の木曜日の夜、パパから電話が来た。
「藍、元気か。すまんな仕事が立て込んでいてなかなか連絡できなくて。この電話もすぐに切らないといけないんだ。」
なんだか小声で、内緒話をしているような話し方だった。藍も思わず小声で返す。
「分かった、こっちは大丈夫よ。シンイチも元気にしている。ママがいるから大丈夫だよ。」
「そうか、それならよかった。」
「今週末は珠莉ちゃんのおうちでお泊り会なんだ。だから、一緒に向こうには行けないからね。」
「そっか、残念だが了解、正直、俺も金曜の夜に帰れるかまだわからんしな。でも藍ちゃんは強制的に行くことになるんだよなぁ、、くれぐれも気を付けて行動してくれよ。決して無理はするなよ。あと、変な男に引っかかってついていくなよ。」
「うん、うん、わかってるって。私が一番ベテランだからみんなを守ってあげなきゃいけないし。パパや慎一のときみたいに厳しく鍛えることもしないよ。基本は町の中だけで過ごすことになると思う。もちろん、変な奴が近づいてきたら制圧するよ。」
はたから聞いているととてもお泊り会に行く前の会話には聞こえない。お泊り会は金、土曜日なので、多佳棋も藍たちが向こうの世界に行くという理解で話をしている。父親の身としては、本当はいかせたくないところだ。しかも他の友達も連れて行ってしまう可能性があるというのも悩ましいところだ。本来は、向こうの親にも説明してちゃんと許可を得るという、段階を踏むべきかもしれないが、こんなこと(異世界に連れていく)を説明したところで頭がおかしいのかと思われるのが関の山だろう。
そのため、他の子のレベルに合わせて無理のない範囲で冒険すること、命がけで他の子を守ることを約束させるくらいしかできなかったが、それでも親としては不安が絶えることはなかった。
お泊り会当日、日が沈みかけた夕方、藍が泊りの支度を終えて待っていると珠莉たち三人が家のチャイムを鳴らした。珠莉の家から一番離れていたこともあり、藍の家が一番最後だったようだ。
「やっほー、お待たせ!」
ドアを開けると真唯を先頭に後ろに珠莉と亜美が並んでいた。私服姿の三人を見るのは久しぶりだ。
「ううん、全然。わざわざ迎えに来てくれてありがとね。」
荷物を抱えた藍と慎一、ママで出迎える。
「お邪魔してごめんなさいね、お母さんにもお礼を言ってね。」
ママがそう言って、珠莉にお辞儀をしている。珠莉も恐縮しながら応対している。そのまま、玄関を出て車の運転席で待っている珠莉の父親に挨拶をしに行った。
「アイちゃんだけいいなー、、、」
慎一がぼそりとつぶやく。
「えー、しんちゃん寂しいの? 一人だと寂しくて寝れない?お姉さんたちと一緒に泊まるー?」
真唯が冷やかし気味に煽っている。幼馴染のため真唯は慎一に対して昔からこんな感じだ。
「こ、子ども扱いするな!誰が行くか。」
慎一が怒って反論する。そのあとも真唯が二言三言と慎一をからかっていた、ぐいぐいと攻めてくる姉の友人に慎一もタジタジである。
慎一はみんなとお泊まり会をしたいんじゃなくて、向こうの世界に行けないのが悔しいんだろうな、と思いながら藍はやり取りを眺めていた。
珠莉の家についた後は、すぐに夜ご飯となった。珠莉のママがカレーライスとサラダ準備してくれていた。メニューとしてはシンプルだが、トッピングが豊富でソーセージや卵、から揚げ、メンチカツにチーズとより取り見取りである。
「すごっ、お店のカレーみたい! うん、おいしっ! カレー、最高だね。」
真唯が言うと
「そうだね、私は何乗せよっかな♪」
「私も大好き、てか、カレー嫌いな人なんていなんじゃない。」
亜美と藍も同調する。
「私はもっと辛い方がいいけど。お母さん、あれある?」
珠莉は辛めが好きなようだ。辛くなるスパイスを母親から受け取り追加で振りかけている。
「みんなたくさん食べてね。」
珠莉のお母さんが優しく言った。
「ありがとうございます、いただきます。」
「いや、もういただいているし。」
藍の真唯へのつっこみでみなが笑った。
夕食後、お風呂の時間という頃に真唯が突然提案をしてきた。
「ねえみんなで一緒に入ろうよ。」
「ちょっと、うちのお風呂に4人は無理だよ。」
「私も無理、シャワー派だし。」
「えー、やだやだ、一緒に入りたいよ。」
珠莉と亜美が反対するも意に介さず、真唯のわがままがさく裂し、結局、近くの銭湯に行くこととなった。友達と一緒に大きなお風呂に入るというのは修学旅行のようで真唯でなくともうきうきしてしまう。再び珠莉のお父さんに車で送ってもらう。車で5分ほどのところにあり歩けない距離ではないが、念のためというやつだ。
「お風呂から出たら連絡して、また迎えに来るよ。」
「うん、ありがとう。」
そういって珠莉のお父さんは家に戻っていった。
「珠莉のパパめっちゃ優しくない?うちのパパだったら絶対にあんなことしてくれないよ。」
藍が笑いながら言った。
「うん、ちょっとうちの親、過保護なとこあるよね。」
珠莉が苦笑いを浮かべる。それでも、物騒な世の中だしあれだけ大切にされるのはありがたいことに間違いないと藍もフォローを入れる。
お風呂に入ると、運よく他のお客がおらず貸し切り状態だった。
「ちょっと、真唯触らないで!」
「いいじゃん、減るもんじゃないし。珠莉の肌きれいねー。」
「亜美もさすが陸部だけあって、身体めっちゃ引き締まっているし。」
「じろじろ見ないでよ!」
浴槽での真唯のセクハラまがいのやり取りを見て苦笑するしかなかった。他のお客がいなかったのも真唯の悪ふざけを助長してしまったに違いない。
銭湯から帰ってきてからは珠莉の部屋で女子バナで盛り上がる。クラスのだれがかっこいいとか、誰と誰が付き合っているとか女子が集まるとするような定番の話である。藍も誰がいいかと迫られたが、適当にごまかして回答を逃れていた。
自分一人の部屋いいなと羨ましく思ったが、それだと一人で異世界に行かなくてはいけなくなるので、それはそれでちょっと寂しいかもしれない。おしゃべりを十分に堪能した後、みんな眠りについた。さあ、ここからが私の実験の開始だ、藍は早速行動を起こした。珠莉は自分のベッド、他3人が床に敷いた布団なのでなかなか手をつなぐのが難しい。。ベッドに一番近い位置に藍が寝る形になったため、珠莉と反対の隣に寝ている真唯とは手がつなげそうだ。しかし、真唯の横にいる亜美の手をつなぐのは難しそうだ。しかも、亜美は寝相が悪く、真唯とは反対の方向にころがってしまっている。仕方がないので、真唯の私と手をつなぐ反対の手を亜美とつなげることにした。関節的にはつながっているので行けるのではという都合の良い考えに望みを託すのである。
意外と最初の小さなことで苦労をしていることに気づく。こんなことだったら、事情を話して、手をつないで寝てもらえばよかったかな、でも信じてもらえないよね。。変な趣味があると思われても嫌だし。。
そうして悪戦苦闘しつつも準備を終え、藍もようやく眠りについた。
目が覚めると、見覚えのある異世界の宿屋の天井が見えた。隣には、真唯と珠莉がいる。
やった、検証1.は成功だ、そんな予感はしていたが、家族でなくても問題なさそうだ。検証2.は、、残念ながら駄目だったようだ。亜美の姿はなく二人だけがこちらに来たようだ。まあ、そう都合よくはいかないか。やっぱり、私の手と直接つながっている必要があるのかも?そうなると、放射線状に寝てもらって中心で手をつなげばもっと大人数で来ることができるだろうか、あるいは手じゃなくて足とかをつかんでもらうとか?などと考えたが、そんな状態で寝るのは現実的じゃないなと思い直した。
それはさておき、仲良しの二人とどんな冒険をしよう。二人が目を覚ますのが待ちきれず、うきうきしてしまうアイであった。




