第六十九話 新たな出会い
「ふーっ、びっくりしたなあもう。いきなり王様に交渉を仕掛けるなんて。」
城を出るなり口を開いたのはシンイチだった。
「まったくだ、事前に聞いてなかったからハラハラしたぞ。」
「あはは、ごめんごめん。なんかいけそうな気がしたからついね。」
「そんな国の命運を握るような話を、いけそうな気がするとか簡単な感覚で話しちゃなんて、、」
シンイチもタカキもあきれ返っている。
「まあ、何はともあれ、ニーアは賭けに勝ったわけだ。次に合う時もまた仲間として一緒に戦えそうだな。」
ジェイミーが隣で安堵したような声で言った。クワッドヴァルキリーはラニキス王国のギルドに所属しているので、両国の共同戦線が確立されたことはつまり敵同士ではないことを意味する。
「そうですわね、私もニーアさんと敵にならずに済んでうれしくて感激です。」
「お前は別の意味でうれしいんだろ。」
ジェイミーに突っ込まれ、てへっと舌を出すアトゥーサ、謁見が終わっていつものアトゥーサに戻ったようだ。
そんな和んだやり取りをみて、こういったつながりは大事にしたいとニーアは改めて感じていた。
「そうね、また共闘する機会があったらよろしくね。今回、急造チームでも割とうまくできていたと思うから次はもっと連携が良くなると思うわ。勿論そんな戦争にならないことが一番なんだけどね。」
「そうだな、私たちはシュッタウの体が回復次第またエルフィリア大迷宮の最深層に挑戦するつもりだ。あるいはさっきのドラゴン討伐かな。」
「またニーアさんと一緒に旅をしたいですわ、ぜひ一緒にドラゴンを狩りに行きましょう!」
アトゥーサがニーアにすり寄りながら言う。ジェイミーも同意しているようだ。ニーアもアトゥーサを振り払いながらそうなるといいわねというようなことを言っている。
「それまでは私たちは個人の能力アップに努めるよ。お前たちも怠けず鍛錬しろよ。」
ジェイミーはそう言ってシンイチとタカキを見た。あまりニーアをあおらないでほしいなーと思いつつ、苦笑いを浮かべ黙ってうなずく二人だった。
「これからどうするんだ、セルディス王国に戻るのか。」
「そうね、いったんセルディスの国王に報告もしたいし。」
当初の目的であった、冒険者たちが帝国側につくことを阻止すべく地道な説得を継続し、さらには帝国の刺客を退けラニキス王国との共同戦線を合意させたということは、当初計画していた以上の成果といえるだろう。
謁見後の数日は王都エルフィリアでゆっくりと過ごしたあと、いよいよオスティアに戻ることにした。オスティアから手紙を出せば王都まで数日で届くはずだ。ラニキス王国から出すと国境を超えるためそこの検閲でどうしても時間がかかってしまう。そのため自分たちの脚でセルディス王国に入ってから手紙を出した方が速いだろうと考えたのであった。王都エルフィリアを出る前に、エルフの冒険者ユニテアと、獣人族のジェイニスにも挨拶をしていった。
「もう帰ってしまうのか、折角仲良くなれたのに残念だよ。また会いにきてほしいな。」
ユニテアがニーアと握手しながら言った。
「二人は今後どうするの?」
「仲間を募って冒険者を続けようと思っているわ。まずはジェイニスの体調が完全に回復してからとなるけどね。」
「そう、頑張ってね。力になれることがあったらいつでも呼んでね。」
「ありがとう、分かった、ニーアたちも気をつけて。」
ユニテアと別れエルフィリアの入口へ向かう途中、マジックアイテム屋の前を通るとカンナに出会った。
「あらタカキさん、ごきげんよう。最近見かけなったわね。」
「ああ、カンナさんどうも。しばらくの間エルフィリア大迷宮に潜っていて、今からセルディス王国に戻るところです。」
「あらそうなの、それは残念。そちらの方はお仲間かしら?」
「そうです、こちらがニーアで、こいつはシンイチです。」
タカキの紹介に二人とも会釈をする。ニーアは何か警戒しているような雰囲気で緊張感があった。
「ニーアさんとシンイチさんですかー。」
そういいながら二人をまじまじと見つめる。そのあと、タカキと二言三言会話を交わしたが、ニーアのあまり友好的ではない空気を感じ取ったのか、カンナは長く引き留めることなく失礼しますと挨拶だけすましお店のドアを開けて中に入ろうとする。入り際に最後タカキに向かって一言付け足した。
「道中気を付けて帰ってください、タカキさんやっぱり日本の方なんですね。」
「!!!」
三人が一斉に反応する。
「ちょっと!カンナさん!」
タカキがドアを開けようとノブに手をかけるが、すでにカギがかかっていて開きそうもない。仕方なく諦めてまた歩き始めた。
「いるんだろうとは思っていたが、俺たち以外で初めての地球人だな。シンイチの名前で日本人だって判断したのかな。」
「そうね、勇者パーティ時代も含めて長く旅をしてきたけど私も初めて会ったわ。何となく不思議な雰囲気を感じて警戒したけど、まさか同郷だったとはね。」
「でも、敵じゃないんじゃない?もしもそうだったら、のんきに会話だけで終わるはずないし。」
「まあ、確かにそれはそうだな。だが今後の状況次第ではわからないかもな。今は様子を探っているだけかもしれないし。まあ、次に来た時にまた会いにくるとしようか、敵対することがないことを祈りつつ。またドラゴン討伐しに来るって話なったし、それほど遠くない未来にまたラニキス王国に来るよな。」
「戦争が始まらなければね。」
カンナの存在は非常に気になるものの、今すぐどうにかすることもできないという結論となりそのまま王都エルフィリアを出発することにした。
エルフィリアを出てオスティアから来たときに通ってきた森を再び抜けていく。その道中でタカキはエンシェントホークをテイムすることができた。銃が使えるようになったことで、飛んでいるエンシェントホークであろうと狙いをつけやすく、ダメージを重ねるのは容易になっていた。撃ち落として弱らせたところでテイムする、1回目で簡単に成功することができた。つい数週間前は全くテイムできなかったのが嘘のようである。
「おおー、やったぜ!クロコについて二匹目の仲間をゲットだ。早速空を飛んでみようかな。」
「いいな、僕もテイマーになればよかった。。」
うれしそうにはしゃいでいるタカキ、クロコも仲間ができて心なしか嬉しそうに揺れている。その姿を見てシンイチはうらやましそうにしていた。
「まあ、そういうな。触らせてあげるからかわいがってくれよ。俺は自分自身が強力な職業じゃないから仕方なくって面があるんだぞ。俺からしたら、強い戦闘職の二人のほうがうらやましいよ。」
そう言ってシンイチをなだめながらエンシェントホークを撫でさせてあげる。シンイチもようやく笑顔になった。そのあと、タカキは肩にとまったエンシェントホークに自分を持ち上げて空を飛ぶように命令を出してみた。しかし、一生懸命持ち上げようとしているのだが、一向に持ち上がる気配はなかった。
「全然だめだね。」
「あれー、なんでだ?人位は簡単に持ち上げるくらい力がある魔物じゃないのか?」
「仲間にしたからレベル下がったんじゃないの。テイムすると普通はレベル1からになるから」
ニーアがようやく助け舟を出した。そう言われてタカキはハッとして鑑定スキルを使用する。確かにレベル1だった。そして名前がないことに気づいた。
「そっか、ある程度強くなって力が上がらないと無理ってことか、確かにそりゃあそうだわな。あと、お前に名前を付けてやらないとな。」
肩にとまっているエンシェントホークの喉を撫でながらタカキが考える。
「エンシェントホークっていうくらいだから鷹だよね?なんかかっこいい名前にしようよ。」
「うーん、なかなか難しいな、エースとかどうだろう?」
「えっ!?意外とましかな、こないだのスライムのクロコの件があったから。」
シンイチはそれなりの評価を与えたようだ。
「ひどいな、クロコだってとってもいい名前だろ!」
タカキが苦笑する。
「んー、ちょっとかわいさが足りなくない?ピーちゃんとかはどう?」
ニーアが対案をだしたが、その提案に対してタカキとシンイチから猛反対のつっこみがあり、結局、エースに落ちついたのだった。
その後、オスティアに着くまでエースのレベル上げに励みレベル10まで上昇したものの、タカキが空に昇ることはなかった。経験値稼ぎで少し寄り道をしたこともあり通常よりも日数はかかったものの無事に国境に到達し久しぶりのセルディス王国への帰還を果たしたのだった。そのまま港町オスティアに向かい、特に何事もなく到着となった。