第六十六 逃避行
「ぐぁっ!いてて、おい、やめろ。」
「なんだお前は仲間か、邪魔をするなら容赦せんぞ。」
そこにさらに敵の仲間と思われる男たちが数名ほど入ってきた。普段着だったこともあり勇者アンナだということに気づいていないようだ。
別の男が槍のような長い棒で襲い掛かってきた。殺傷性はなく相手を制圧するのが目的の武器のようだ。人さらいの類だろうか?そんなことを考えながら槍のようなその攻撃に対し、腕をひねり上げていた男の体を盾にして防ぐ、そしてそのまま蹴り上げて二人まとめて吹き飛ばした。
「ちょっと、アンナさん。」
酒場のマスターが声をかける。
「修理費は後で払うわ、こいつらがね。」
「いや、そうじゃなくって、、、」
マスターが何か言いたそうだが気にせず、ふき飛ばしたすきに奪いとった長い棒でもう一人に向かっていく。
「ちょ、ちょっと待て、あんた、アンナって、まさか、、」
マスターに名前を呼ばれたことで相手にもピンと来たようだが容赦しない、言い終わらないうちに一突き入れる、その男は吹き飛んで気を失った。
更にあとから加わった援軍に対し、急接近して、武器を奪い取っては長剣、槍と次から次へと武器を持ち替えて相手を制圧していく。援軍で加わった男たちは必死に応戦するも、瞬く間に7人が地面に伏すことになった。
「ふん、複数で一人を囲んで痛めつけようなんて卑怯な奴等ね。」
周りの客も一気に酔いがさめてしまったたようだ。
「おい、あれが勇者アンナか、バトルマスターは伊達じゃねえな。」
「木のこん棒で、ミスリス製の防具の上からダメージを与えて相手を倒したぞ。」
「どんな武器でも扱えると聞いていたが、噂通りの動き、、やはり全てにおいて一流だな、というかバケモンだな。」
「へっ、騎士団の奴らざまーみろだ、いつもえらそーにしてっから。」
周りの冒険者たちが口々に話を始めた。もう追加の援軍は来なさそうだ。
「さ、もう大丈夫よ、あなた怪我はない?」
そういってカウンターに座っていたフードの男の方を向いて話しかけた。が、既にそこに男の姿はなかった。
「アンナさんが戦っている隙に急いで逃げだしていったよ、それを伝えようと思ったんだけど。。」
マスターがいなくなった男の代わりに答える。
「なんだ、そうなのか、お礼の一つくらいあってもよかったんじゃないって思うけど。」
そういって少し膨れた表情で倒れた椅子を起こし再びカウンター席に腰を掛けた。そんなアンナに心配そうな顔でマスターが再び声をかけた。
「アンナさんまずいよ、そいつら王国軍だぜ、第一騎士団だ。」
「えっ!?」
「ほら、鎧の肩の部分にセルディスの紋章が刻まれているだろう、それが証拠だよ。」
確かにマスターの言う通り、倒れている男の鎧にはセルディス王国の紋章が刻まれている。
「うそでしょ、じゃあさっきの男が悪者なの?あんな弱そうな子だったのに?」
「まあよくわからないですが、何か盗みを働いたとかケチな犯罪じゃないですかね。」
「でも、昨日お城の中で会った兵士たちはこんな鎧じゃなかったわよ。」
どうしてもアンナは認めたくないようだ。
「いや、近衛騎士団と、第一騎士団では装備が異なるんですよ、騎士団の規模も違いますからね。近衛騎士団はより精鋭が集められた舞台なので、人数は少ないですがさらに良い装備をつけているはずです。」
「なんで、早く言ってくれなかったのよ!」
マスターに八つ当たりするアンナ。
「いや、それも言おうとしたけど、アンナさんが聞く耳を持ってくれなかったんだよ。」
マスターは困惑した表情を浮かべた。
確かに反論できない、まずったなというような表情を浮かべ考え込んでしまった。
「さっすが勇者さまだ、怖いものなしだな。」
「サンキュー、すっきりしたぜ。」
悩むアンナの気持ちを知ってか知らずか周りの冒険者からヤジが飛んだ。冒険者と騎士団ってのはそりが合わないのか、好意的にとらえてくれた人が多かったようだ。
アンナがばつが悪そうに愛想笑いを浮かべる。
「まあ悩んでいてもしょうがない、何とかなるか。」
再び食事をしていると、さらに5名の騎士団兵士が酒場に入ってきた。最初に来た兵士のうちの一人が応援を呼びに行ったようだ。アンナは、降参といった形で両手を上げた。
「悪かったわよ、だって、仕方ないじゃない。あなたたちの方が悪人に見えたんだから。」
「勇者アンナよ、あなたのこれまでの功績に免じて、拘束するようなことはしない。明日改めて話を聞かせてもらいたい。どちらに滞在か教えてもらえますかな、明朝迎えに行きますので。」
「はいはい、すみません、分かりましたよ。止まっているのはセルドグランディアですよ。」
宿泊しているホテル名を告げるとようやく解放され、その日は解散となった。流石にそのあと飲み食いをする気にはなれず宿に戻り大人しく過ごすことにした。
「はあ、明日は取り調べかぁ。ついてないなあ、、それにしてもあの子なんであんな王国騎士に追われていたのかしら。まあ、明日の取り調べのときに聞いてみればいいか。」
早朝、予告通りお迎えが来て取り調べのため王宮に連れていかれ、王宮内の騎士団詰め所でこってりと絞られたのであった。
「次からはこんなことないようにしてくださいよ。」
そう言って昼近くになってようやく解放されたのだった。
「やっと終わったー、朝から何時間もきっついなー。」
伸びをするアンナのもとに第一騎士団副団長のセーラが声をかける。
「取り調べはこれで終わりですが、アストレア様が用があるとのことでした。」
「え、アストレア目が覚めたの!?」
「ええ、アンナ様が目覚めた次の日に、オスカー様、トォーリィ様もお目覚めです。」
「そ、そう、それは良かったわね。あの、アストレアどんな感じだった?」
「そうですね、最初は普通でしたが、途中からちょっと不機嫌そうではありましたね。」
うーん、不機嫌にする心当たりがあるな、あのメイドがしゃべったんだな、と心の中で舌打ちをした。
その時扉が勢いよく開き、アストレアが現れた。
「アンナ!あなた、私たちが眠っている間にいろいろといたずらしたようね、お付きのメイドさんから聞いたわよ。」
「わぁ、アストレア久しぶり。じゃあ私はこれで。」
そう言ってするりと隙間を抜けて逃げていく。
「待ちなさいアンナ!話はまだ始まってすらいないわよ。」
「えーやだよ、長くなりそうだし。そうだアストレア、牛乳飲むと胸が大きくなるらしいよ。」
「!!!、、あなた、やっぱり私が寝ている間に。。。」
思わず怒りに任せて魔法を使おうとするアストレア。
城が破壊されてしまうとセーラが必死に止めたので、魔法はこらえてアンナを追いかけていった。
「はぁ、しばらくは王都も賑やかになりそうね。」
そう言ってセーラはため息をついた。暫くするとアストレアが戻ってきた。どうやら、身体能力はアンナの方が上だったためそのまま巻かれてしまったようだ。
「全く、アンナったら信じらんない。次合ったときは許さないんだから。。」
そう言いながらセーラの方を見たアストレアの視線が顔よりも下に向いている気がしたが、あえて指摘はしまいとアストレアは思った。
その取り調べの日からほどなくして、アンナは王都を発った。目的はアストレアの怒りのほとぼりが冷めるまで少し距離を置こうと思ったのと、こんな状況に陥る原因となったあの少年を探すためである。騎士団に聞いたときには何か王国にとって不利益となることをしでかしたらしいが詳細は教えてもらえなかった。特に見つけて何かしようという明確なものはなかったが、文句の一つでも言ってやろうというくらいの軽い気持ちである、どうせ王都を発って旅に出るならば、目的があったほうがいいくらいの感覚である。手掛かりはほとんどなかったので、まずは西へ向かうことにした。別に間違っていてもよかった、反対方向は王国軍が探してくれる、いや、反対方向だけでなく全方位で捜索しているので、アンナがどちらへ向かおうと影響はないのかもしれない。
ただ、アイと同じ方向へ行くのがはばかられたというのもあって反対方向の西を選んだのかもしれない。アイに会った際に、あのような事件を起こして王都を出たなんて説明をしたくはないという気持ちがなかったかと嘘になる。あまりにも恥ずかしかったので、あの少年のようにフードをかぶって町を出たほどである。こっそりと乗り合いの馬車に乗せてもらい揺られていた。
この一連の出来事はのちに勇者アンナの乱心とちまたで語り継がれることとなる。そして、アンナの運命を大きく動かすきっかけとなるのであった。




