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第六十五 始動

「ふぁー、よく寝たっと、今何時くらいかな。」

その少女は、寝る前の状況をあまり思い出すことができなかった。周りを見渡したが、見慣れない調度品が並んでいる、かなり高価なもののように見える。

「あれ、ここはどこだったっけ?お城?ああ、そうだそうだ、セルディスのお城でみんなでお祝いをしたんだった。」

暫くベッドの上でじっとしていると、少しずつ記憶が蘇ってきた。もう、魔王を倒したから冒険は終わったんだ。そう思うと、解放されたという気分とともに、これから何をしたらいいのだろうという疑問が頭に浮かんでくる。さてどうしようか、さすがにもう眠たくないので、ご飯でも食べさせてもらおう、そう考えるとすごくお腹がすいてきた。ベッドのサイドテーブルにちょうどよさそうな洋服の一式がきれいにたたまれて置いてあったので着替えをすることにする。服を着替えるとき、ボタンをかける手元がおぼつかなく、すごく不思議な感じがした。着替えを終え部屋を出ようと扉に手をかけるが、固く閉じられたまま開かない。

「おかしいなー、外側から鍵がかかっているのかなぁ、でも一体何のために?」

扉を破壊して出ることも可能だったがドアの横に呼び鈴があるのを見つけたのでそれを鳴らす。

チリン、チリンと鈴の音が響き、隣の部屋の扉の開閉する音が聞こえた。そしてすぐに目の前の扉が開いた。

「アンナ様!よかった、お目覚めですか。」

メイドの格好をしたその女性が言った。

「うん、おはよー。今何時くらい?」

「今はもうすぐ昼時ですが、すぐに王様と謁見をしていただくことになるかと思います。」

「えーやだよー、お腹すいちゃったし。お昼ごはんのあとなら考えなくもないよ。」

「そういわれましても。。。」

どうしてよいかわからず困るメイド、そこへサーシャ王女が偶然通りかかった。

「あーっ!アンナだ、目覚めたんだね!よかったー。」

ダッシュでかけてきてそのまま抱きついた。

「うわぁ、サーシャ!おはよう、いきなりどうしたの?ちょっと寝坊しちゃったかな。」

「ちょっとじゃないわよ、半年以上のかなりの寝坊よ。ずっと目覚めないままで心配したんだから。」

「えっ、そうなの?」

サーシャから簡単に説明を受け、そこで初めて自分がどんな状況なのか理解する。仕方なく、ご飯は我慢して王様との謁見に向かうことにした。

謁見の間で王の前につくなりセルディス王が話し始めた。

「勇者アンナよ、よく目覚めた。サーシャから聞いたかもしれんが、実はそなたが寝ている間に8か月近くの月日が流れている。なお、アイについては半年ほど前に目覚めておる。今は帝国を止めるために奔走しているはずじゃ。」

アンナは王様より周辺国との関係やアイの行方など長々と話を聞かされた。寝起きに聞くには少々複雑な話である、とりあえず分かったふうな表情を取り繕って話を聞く。

アイか、私よりも2つ年下だったけど随分と大人びていたというか、まじめだったなと思い出した。そのせいで自分が不真面目に見えてしまうのが当時の不満だったっけ。

元気にしているかなと想いを馳せるとともに、帝国との戦争を止めるために奔走しているなんて相変わらずの真面目ちゃんだなと少しあきれてもいた。

「アイは分かったけど、他のメンバーはどうなったの?」

気になることを口にしてみる。

「うむ、まだ目覚めぬままじゃ。それぞれ別の部屋で寝ておるよ。だが、おぬしがこうして目覚めたことにより、アイだけが特別という訳ではなく、勇者パーティメンバーの皆が目覚める可能性が高まったと言っていいだろう。」

「そっかー、私二番目なんだね。」

そのあとも色々と長い話を聞かされうんざりしつつも、仮にも王様なので嫌な顔をするのを必死にこらえる、一時間ほど経って、長話もようやく終わりが見えてきた。

「アンナよ、おぬしは今後どうする予定じゃ。どこかに旅立つかね。それとも、ここで滞在しているでも構わないぞ。」

「うーん、まさにそれを悩んでいるところだったんだよね。しばらく王都にいて、少しぶらついてみてそれから決めてもいいかな。」

「勇者アンナよ仮にも王の御前であるぞ、その言葉遣いはいかがなものか。」

我慢しかねて大臣がたしなめる。まあ良いと大臣を収めるセルディス王、そしてアンナの顔を見てゆっくりと言った。

「アンナよ、わかった。焦ることはないゆっくりと決めるのがよかろう。アイも違う理由とは言え、目覚めてからしばらくは王都に滞在していたからのう。」

思い出すように優しい目をして遠くを見つめた。

「今頃、どうしているかな、元気にやっているとよいが。」

王との謁見を終え、昼ご飯を食べさせてもらう。軽く三,四人前くらいのボリュームがあったが、瞬く間に完食したのだった。

「やっぱコック長の料理はおいしいね。」

「ご満足いただけて光栄でございます。」

満足そうに食べ終わったアンナを見て、王室専属のコック長も笑顔を浮かべている。

ご飯の後、まだ眠っている、アストレア、トォーリィ、オスカーの様子を見せてもらった。

「ほれほれ、起きなさい。」

そういってトォーリィの頬をつんつん指で突っつくアンナ。側付きのメイドが大慌てだったが、ピクリとも微動だにしなかった。さらにいたずらがエスカレートしていき、アストレアの顔を見ると服の中に手を入れ何かを探っている。そして満足げに笑みを浮かべた、アストレアに対して何やら優越感を持ったようだ。メイドはどうしていいかわからずただおろおろするだけだった。

「なんか、こんなに反応がないと死んでいるみたいだね。」

素直というか、空気を読まないというか、思ったことをすぐに口にしてしまうのはアンナらしいところでもある。

「ア、アンナ様!そんな縁起でもないことを言ってはいけません。アンナ様も同じような状態だったのですから。」

さすがにメイドもアンナの言動をたしなめた。

「えへ、ごめんね。悪気はなかったんだけどさー。つい、ね。そっか、私もこんなだったのか。じゃあ私もアイに胸を触られていたのかなぁ。」

よけいなことを言ってアストレアにもよく怒られたっけと心の中で反省した。

パーティメンバーの顔も見れて満足したところで、お城を出て町を散策することにした。自分の装備品を受け取りマジック収納Boxに入れる。着替えた服はもらってよいとのことだったのでそのまま城を跡にした。

宿を確保してチェックインを済ませ、それから数日間は、のんびりと街を散策して過ごした。魔王軍との戦いで王都もかなり建物の被害が出ていたはずだが、既に9割がた復興していて、見たことがない建物がいくつもできている。その立ち直りの早さに驚くとともに、それだけ長く眠っていたということだと改めて実感したのであった。

様変わりした町の様子を眺めつつ、暫くの間はまったりとするつもりでいたが、そうもいっていられない事態に巻き込まれることとなる。


休息の日々を過ごしていたある日の夕方、繁華街へ向かったアンナはとある酒場に入った。昔、良く通った店で、やかましい店内は今も冒険者であふれていた。

「いやーいいね、この感じ、凄く久しぶりな感じ。マスター、飲み物一つと、料理は適当に見繕ってくれる?」

カウンター席に座りカウンター越しの男に注文をした。

「へい、いらっしゃい!って勇者アンナ様!?」

びっくりしたマスターの声に、周りの冒険者が注目する。にわかに周りがざわつき始めた。

「おい、勇者様だぜ。」

「あれが、全ての武具を極めるというバトルマスター、マルチプルウエポンといわれるアンナか。意外と小さいな。」

「なんで一人なんだ、勇者って三人パーティじゃなかったか。」

「いや、ちげーよ。五人パーティで、そのうちの美女三人がトリニティエースじゃねえか。」

ふむふむ、美女三人か、分かっているね、チラチラこっちを見てくるのは許してやろう。小さいといったやつは許さん、顔は覚えたぞ。聞き耳を立ててそんなことを考えながら、ざわつく周囲をよそにアンナは食事を始めた。

「マスター、最近は変わったことない?」

食事をしながらカウンターの向こうにいる店主に話しかける。自覚はないが、8か月ぶりということでやはり人と話をしたいのだろう。いや、直近8か月に起こったことが何もわからないのでそこを少しでも補完したいという気持ちからかもしれない。

「最近ですか、そうですね。帝国との戦争が近いんじゃないかって話でもちきりですね。冒険者もそれに備えて、力をつけようとするもの、巻き込まれないように他国に逃げていくもの様々ですわ。他の国に逃げても、いずれは帝国との戦いに巻き込まれることには変わらないと思うんですけどね。」

「なるほどねー、でもセルディス王国が勝てば、帝国の他国侵略も止まるんじゃない?」

「え、確かにそうですが。セルディス王国に最初に攻め込むと決まったわけじゃないですからね。そういう意味ではどこにいても危険は一緒なのかなってことですよ。」

「あー、確かにそうだね。それならセルディスが一番よさそうだよね、王国直轄の軍隊も強力だし。」

「それだけ強力な軍隊を持ってるってことで、逆に帝国から目の敵されやすいんじゃないですかね。」

「それじゃ、さっきのどこにいても危険って話と矛盾しているじゃない。」

「えっ、あ、たしかにそうですね。ハハハ、これは一本取られましたね、一杯おごるので勘弁してください。」

「いやー、そんなつもりじゃなかったんだけどな。でもありがと、じゃあ、いただいておこうかな。」

戦闘スタイルから脳筋キャラで通っているが、意外と論理的なアンナであった。また、このように町の人とざっくばらんに打ち解けやすいのもアンナの特技でもあった。そのあともいくつか近況を教えてもらった。

勇者パーティのメンバーと一緒に酒場に来ても、他の客や店員と積極的にコミュニケーションしようとしなかったしなー。ま、アイはしようとしていたみたいだったけど、緊張しいだっただけなのかな。私が入ってからは、徐々に慣れて話せるようになってきたみたいだし、かわいかったなぁ、あの頃のアイは。

昔のことを思い出して、思わずニヤニヤしてしまう。

そんなことを考えていると、隣にボロボロのフードをかぶった男が座った。何かに追われているのか、そわそわしながら後ろを気にしている。すると、1分も経たないうちに酒場の入り口のドアが勢いよく開けられた。いかにも悪人といった顔の男が3人、店の中に入ってきた。一丁前に、装備はかなりよさそうなものをつけていた。きれいに磨きこまれたミスリス製だろうか、みな同じ装備でそろえている。

あくどいことをやって整えた装備に違いない、アンナの直感がそう叫んでいた。

彼らは、ボロボロの身なりの男の前に立ち、威嚇するように言った。

「おい、見つけたぞ、もう逃がさんぞ。」

そういってその男の肩に手を伸ばした瞬間だった。アンナが立ち上がって、その手をつかむ、そしてそのまま腕をひねり上げた。

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