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第六十四話 終局

シュッタウの加勢に向かう途中、ニーアは遠くでの小さな爆発音を聞いた。シンイチとタカキがいた方向だ。何かあったのだろうかと不安に駆られるが、先ほど見たときは戦いが終わっていたように見えた。今は二人を信じるしかないと歩みを止めることはなかった。

シュッタウとジェイミーたちと合流し二人の姿を見た瞬間、ニーアとアトゥーサの顔色が変わった。

シュッタウの防具がボロボロになっており、全身傷だらけで立っているのがやっとという印象を受ける。ジェイミーのほうは負傷しているもののまだ大丈夫そうだ、シュッタウが集中して狙われていたのかもしれない。

「シュッタウ、ジェイミー!」

アトゥーサが大声を上げて駆け寄った。ジェイミーが二人の前に立ち、ニーアが二人に回復魔法をかける。

「おっと、援軍の登場か。やれやれ、ということはあいつら、へましたってことだな。」

リーダーのSランク冒険者が舌打ちをする。

「今回はそろそろ潮時か。まあ、けっこうな数の冒険者を戦闘不能に追い込んだし良しとするか。」

「良いんですか?まだ生き残っている奴がいますが。。あの二人もほとんど虫の息です。」

「ああ、あいつらがやられたってことはこっちの被害も小さくないだろう。それに、Aランク冒険者ばかりとはいえ、あいつらを倒した相手も加わって3対4じゃあこちらも分が悪い。あのフルアーマーの奴がせっかく痛めつけたやつを回復してやがる。続けるにはちょっと面倒な戦いになりそうだしな。」

Sランク冒険者がもう一人の冒険者にそう言った。

「了解です、ダンジョン脱出用アイテムはあります、他の奴ら向けに信号弾を出しておきます、それに気づいて各々脱出し始めるはずです、生き残っていれば、の話ですが。。」

「ああ、頼む。」

空に向かって小さな爆発を2回起こす魔法を打ち上げ、脱出用アイテムの使用を始めた。

「逃がすもんか!」

アトゥーサが三人を逃がすまいと距離と詰める。

「待って、アトゥーサ!罠よ!」

ニーアが急いで制止する。事実、話をしている間に土魔法を発動して地面に仕掛けていたのだった。アトゥーサの目の前で岩の針山がせせり出た、止まっていなければ大きなダメージは避けられなかっただろう。アトゥーサは驚いて、大きく距離をとった。

「ちっ、勘のいい奴だ、最後の土産にもう一人くらいと思ったが。まあいい、また会おう。俺の名はグースだ。」

そういうとグースと名乗ったSランク冒険者とそのお供のAランク冒険者の二人は姿を消した。

「狡猾な奴め、私を誘うためにわざと最後だらだらと話していたのね、、、」

アトゥーサは相手の柵に嵌まりそうなったことで少し気落ちしている。

敵の姿がなくなったことで、シュッタウの緊張の糸が切れほっとしたのかその場に崩れ落ちた。心配してアトゥーサが駆け寄る、ジェイミーが無言でシュッタウに肩を貸して立ち上がった。

「シュッタウ、ジェイミー、大丈夫?今からハイヒールウォータをかけるわ。」

ニーアが二人に本格的治療を始める、先ほどまでは敵がいて隙を見せられなかったため簡単な回復魔法しかできていなかった。

「ありがとうニーア。。」

暫く黙って治療を受けていたが、ジェイミーが再び話し始めた。

「私は悔しい、、手も足も出なかった。シュッタウに守ってもらってばかりでこんなに深手を負わせてしまった。自分はもっとできると思っていたのに。」

普段は強気なジェイミーだったが、静かな声でそう言った、目には涙が浮かんでいた。

「ジェイミー。」

普段とは異なったジェイミーの落ち込んだ姿を見て、アトゥーサもかける言葉が見つからない。

「まずは、治療が優先よ。ただ、シュッタウは闇の属性攻撃を受けて重傷だわ。私の治癒魔法ではちょっと治しきれないかも。シンイチかエレンさんが必要ね。エレンさんが光属性の魔法が使えればだけど。」

ニーアの水属性魔法はレベル10であるものの、属性効果は相性がある。通常のけがや体力的な回復はどの属性の回復魔法でも可能だが、属性攻撃で受けた影響は反対の属性でないと治療できないものもある(例えば炎での攻撃を受けてやけどのような症状だと水属性や氷属性での治療が効果的となる)。

ジェイミーの止血が完了し、ある程度回復したところでアトゥーサとジェイミーがシュッタウの両肩を担ぎシンイチ達のところへ向かうことにした。その間もニーアは三人の前に立ち後ろ向きで歩きながらシュッタウの治療を続けた。

暫くその状態で歩き続けたが、ニーアが治療を止めた。

「とりあえずだけどこんなものかしら。まだ油断はできないけど通常の外傷は治したから、これ以上は私のハイヒールウォータでは回復しない、光属性魔法での治療が必要ね。」

「ありがとう、ニーア。私の体力は回復したわ。あとはシュッタウさえ元気になってくれれば。」

肩を担ぎながら、隣で意識のないシュッタウを見つめた。

「ええ、とはいえあなたも闇属性攻撃を受けているんでしょうから、念のため治療は受けてね。」

「分かったわ。」

「私も治癒魔法を覚えておけばよかったわ。」

アトゥーサがぼそりといった。

「そんなに気を落とすことはないわ、アトゥーサ。誰にだって役目ってのがあるもの。普通、1パーティに回復役なんて一人いれば十分だもの。」

ニーアが慰める。

「それよりも、私が弱かったのが原因よ、私がもっと強かったら、シュッタウもこんなに深手を負うこともなかった。」

思い出したように悔しそうな顔をするジェイミー。

「私達がもっと早く合流出来ていたらって考えると私ももっと強くならなきゃいけないわね。」

アトゥーサも思い直した。

「でも、他の冒険者パーティを守りながら、Sランクを追い返すことができたんだから、被害としては少ない方だと思うわ。」

ニーアが二人を元気づけるように言った。そしてさらに言葉を続けた。

「でも、こんな大変なことになるなんて申しわけなかったわね。結果的にあなたたちのダンジョンの最深階層踏破という目的の邪魔をしてしまった。。私たちの冒険者の説得のためにこんな戦いに巻き込んでしまって、、本当にごめんなさい。」

ニーアが深々と頭を下げる。

「何言ってるんだ、ニーア!私たちは本当に感謝しているよ。ここまでこれたのも君たちのおかげよ。自分たちがまだまだ実力不足というのは痛感したけど、今回のダンジョン攻略をしている中で、前より強くなっていることは実感している。人助けだって私たちの判断で、協力するって決めたんだ、君たちのせいじゃない。」

「そうですよ、ニーアさん!ニーアさんたちのせいってことはないです!私たち単独で潜っていたとしてもきっと同じ場面に出くわして同じように救いの手を差し伸べたでしょうし、むしろ戦力的に不利になっていたからもっとひどい状況になっていたかもしれない。」

ジェイミーとアトゥーサがそれぞれフォローする。

「ありがと。」

二人の言葉に頷きながら、ニーアもようやく肩の荷が下りた気分になった。だが、最終的に何の気後れもないようにするためにはシュッタウをしっかり回復させないといけない。シンイチ、あんたが頼りよと思いながら歩を進めていった。


シンイチをかばって爆弾付きナイフの攻撃を受けたタカキは、出血とやけどがひどい状態だった。

更にナイフには毒が塗布されていたようでかなり苦しんでいる。

「僕のせいだ、最初の短剣使いを倒して油断があったのかもしれない。」

拘束魔法が破られることを想定していなかったことを反省しながら、シンイチはヒールライトで治療をし続けている。こちらも体力的には回復させることができるが、やけどと毒の治療ができていない状態だった。しかし、シンイチには属性的な治療に関する知識がなかったため、ひたすらヒールライトをかけ続けるしかなかった。

血は止まったようだが、一向に具合がよくなる様子がなく、苦しそうにしている。

「シンイチさん、少し休んだ方が良いのでは。これ以上は良くならないと思います。」

エレンが忠告するも、シンイチはそれを気に留めることなく回復魔法をかけ続けていた。しばらくして、シンイチは顔をしかめた、頭痛がひどくなってきたのだ。これがMP切れの予兆だろうか、今まで経験したことがないものだった。しかし今はそんなことを言ってはいられない、一刻も早く父を救わなくてはいけない。シンイチはその思いだけで必死に回復魔法をかけ続ける。

そこにニーアたちがようやく到着し、異変に気付いた。

「どうしたの?!」

ニーアの問いかけにエレンが説明する。シンイチが必死にずっと回復魔法をかけ続けていて魔力欠乏が近いこと、それでもタカキが依然として目を覚まさないこと。

タカキを見ると、確かに外見上の傷は既に見えなくなっている。まだ、間に合うだろうか。ニーアはシンイチの横にしゃがみ優しく言う。

「シンイチ、ヒール系の回復魔法だけでじゃ治らないことだってあるのよ。タカキは毒かなにかの症状だわ。ごめんね私がもっとちゃんと教えておくべきだった。治療、代わるわね。。キュアウォータ。」

数分間、治療を続けるニーア。

「お願い、間に合って。」

やがて、ようやく苦しそうなタカキの顔が安らかになった。そして、タカキがようやく目を開いた。

「パパ、大丈夫?なんであんな無茶を。」

シンイチが泣きそうな顔でタカキに尋ねた。タカキは弱弱しくもはっきりと答える。

「親として子を守るのは当然のことだ、たとえ純粋な強さとしてのパラメータが低くてもな。お前たちが無事でよかった、、あとは任せたぞ。」

「いやだよ、死なないで!」

再び必死に回復魔法をかけるシンイチ、その腕の中で静かに目を閉じるタカキ。

「タカキ、眠っちゃダメ!」

ニーアも必死に体を揺さぶった。


すると、うるさそうに眼を開けるタカキ。

「もう大丈夫だよ、あれだけたくさんのヒールをかけられたらな。ただ、昨日寝てないから寝不足で眠いんだよ。それだけだから寝かせてくれ、死なないから安心しろ。」

ニーアは、今朝のコテージでタカキの寝不足そうな表情を思い出し、合点がいった。

シンイチは心配して損したと少し怒っているようだ、タカキは早速目を閉じて寝始めている。それでも、タカキが無事でほっとする二人、だが、まだ仕事は残っている、ニーアは一瞬緩んだ表情を再び引き締めた。

「シンイチ、まだ終わっていないわ。あなたにはもうひと頑張りしてもらう必要が有るの。シュッタウが重傷なのよ。応急処置として私のヒールウォータで回復したけど。闇属性のダメージで体を蝕まれている、このままじゃ危ないわ。闇属性は光属性じゃないと治癒できない、あなたのヒールライトじゃないと治せないのよ。やってくれるわね。」

「シンイチさん、もうやめてください。すでに限界ですよ。」

エレンが横から口をはさんだ。シンイチが頭を押さえながらタカキを回復し続ける姿を見ていたため、限界に近いというのを理解していた。

シンイチはエレンをぐいと押しのけ首を振った。

「もちろんやるよ、これ以上親しい人を失うのは嫌だからね。」

「シンイチさん。。。ありがとうございます。」

エレンの目から涙がこぼれた。


ニーア達が、エルフィリア大迷宮でワシュローン帝国の刺客と死闘を繰り広げている最中、セルディス王国でもある変化が起こっていた。その日は、大迷宮の戦いからさかのぼること10日前のことであった。

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