第六十三話 戦局変転
倒した敵の冒険者たちをシンイチが闇属性魔法ブラックバインドで拘束していく。体の自由を奪うとともに相手の魔力も封じることができる魔法で、術者の魔力に対抗できる相手には効かないが、今の状態であればよほどのことがないと逃れることができない。全員を拘束し木に固定したあとマフレスとタカキとともにエレンのところへ向かった。
「エレン、お疲れ様。こっちは終わったよ。そっちはどう?」
「お疲れさま、凄いわ、よくやったわね。こっちは一通り全員が自分で動けるまでに回復することができたわ。でももちろん戦闘は無理よ、MP切れなどの影響もあるから完全回復するには数日の休養が必要ね。」
回復した冒険者たちが立ち上がってお辞儀をする、シンイチとタカキは回復したばかりなので無理せずにと言って逆に恐縮してしまった。
「それにしてもあなたたち、本当にすごいわ、四人もいたAランク冒険者をすべて倒してしまうなんて。私も加勢に行ければよかったんだけど、こっちはこっちでかなり傷が深い人が多かったから回復からなかなかおわらなくて。。」
申し訳なさそうに言うエレン。
「いやいや、大丈夫だよ。相手も最初油断してくれていたからね、そこで敵の人数を減らせたのが大きかったよ。さらにこっちにはAランク冒険者のマフレスさんも助っ人で来てくれたし。」
そういってシンイチはマフレスをエレンに紹介する。
「初めまして、マフレスと申します。Aランク冒険者パーティ、虹の橋 に所属しています。我々の仲間を救っていただきありがとうございます。」
そう言ってマフレスは深々とお辞儀をした。
「丁寧にどうも、私はエレンよ。ただ、お礼を言うのは全て片付いてからの方がいいわよ。」
そう言いながらちらっとニーアたちの方を見た。
つられて皆の視線がそちらの方に行く、激しい戦闘がまだ続いている。シュッタウとジェイミーは苦戦しており、ニーアとアトゥーサは互角かやや優勢に見えた。
「あれはヤバいな。」
タカキがつぶやいた、その戦いは遠目で見ていてもこれまで自分が体験してきたそれとは次元が違い過ぎることがわかる。
シンイチも同感だった。客観的に見るとニーアはこんなに強いのかと改めて姉の偉大さを感じたのだった。自分も随分と強くなったと実感していて、レベル的には以前よりも差が縮まっているはずだが、実力的には差が縮まっている気が全くしなかった。Sランク冒険者のスタークや、ダミアンと共闘した時もニーアの凄さを十分に感じていたが、今回のように対人戦だと何か別の凄みを感じさせるのであった。
「ま、今すぐ合流しても、こんな状態の私たちに手伝えることはないし、少し休憩しましょう。シンイチ君かタカキさん、マジックポーション余ってないかしら、私もうからっからで動けないわ。」
落ち着き払った声でエレンが言った。
「はい、これをどうぞ、中級が一本しかないので、全快とはならないと思いますけど大丈夫ですか。」
「あら、最後の一本なの?私がもらっちゃってあなたの分は大丈夫?」
「はい、まだ4割くらいは残ってます。父、いや、タカキは今の戦いで魔法はほとんど使っていないので大丈夫なはずです。」
まだ4割も!?エレンはちょっと信じられないというような表情になった。あれほど上級回復魔法を使用して、さらに戦闘中も魔法を随分と使っていたはずなのに。魔力総量が多いのか、回復速度が速いのかしら。エレンはマジックポーションを飲みながらいろいろと考えを巡らせた。
タカキはマジックポーションが切れたと聞き、早速錬成をしようとしていた。ところが、材料となる魔力草を切らしてしまっていた。
「あらら、原料をきらしてしまったか。鉱石だけじゃなく、薬草系も集めておくんだったなあ。」
Aランク冒険者ばかりの強いメンバーといるのでそれほど薬草を多く使うような状況にはならないだろうという思いもあったのかもしれない。何とか周りの強さに合わせるようにと攻撃力強化にばかり目が行ってしまっていたな、とタカキは心の中で反省した。。
遠くの方でタカキ達が座って話をしているような姿が目に入った。
どうやら向こうは終わったようだ。さすがね二人とも、今度はこっちが頑張らないと、ニーアは心の中でつぶやいた。
今のところ互角以上の戦いができているが、少しずつ押されていると感じていた。アトゥーサのスタミナ切れである。戦闘開始から1時間近くは経とうかという状況である、近接での対人戦は予想以上に疲労が速い。魔物が相手であれば陰に隠れて休憩だったり、タンクに攻撃を集めてその間に回復だったり、視界を奪ってということもできるのだが、相手が人間でかつ数的優位性もない状況だとなかなかそういった展開にはならない。下手にこっちが隠れると、せっかく助けた冒険者たちが再び狙われ人質にされる可能性もある。あるいは疲弊したシンイチやタカキが攻められる可能性だってあった。それだけは絶対に防がなくてはいけない。ニーアはそのような考えのもと、他の人に危害が及ばないよう立ち回り攻め続けていた。人間が相手ということで、やはり無意識のうちに致命傷を与えないような攻撃の組み立てになっているということもあった。アトゥーサも対人戦での生死のやり取りは慣れていないようだ。逆に相手は対人戦になれていて、相手の嫌がる攻撃を熟知していて、確実にその攻撃を実行してきていた。
「アトゥーサ、大丈夫?」
「はい、思ったよりもきついですわ。でもせっかくのニーアさんとのコンビですもの、こんなところとでへこたれるわけにはまいりません。」
モチベーションは少しおかしいが、素晴らしい気力である。あきれ半分、感心半分といった感じでニーアは覚悟を決めた。
「聞いてアトゥーサ。私が隙を作るわ。その隙をついてあなたが勝負を決めて。まずは一人よ、一気に決めようとしなくていい、一人づつ確実に倒すわよ。」
「わ、私がですか?!、、、分かりましたわ、よろしくお願いします!」
早速、ニーアが攻撃を仕掛ける。三人のうちの一人に攻撃の比率を多くする、他の二人からの反撃を受けるが気にせず攻め続ける。ある程度のダメージは織り込まないといけないと考えていた。ニーアの装備している全身鎧は優秀な性能で斬撃には強いが、相手の武器の性能も高くノーダメージとはいかない、特に大槌を持った相手の攻撃が厄介だった。
「くっ!」
振り下ろした大槌の一撃を躱しきれず片手で受け止める、身体に重みが痛みとなって走った。相手も手ごたえありと感じ取ったかニヤリと笑みを浮かべる。しかし、ニーアはその一瞬の気のゆるみを見逃さなかった。風属性上級魔法ストーンキャノンを放ち大槌使いを吹き飛ばした。そして狙っていた相手への攻撃の勢いをさらに強める。
おとりとは思えないほどの速度での連続攻撃で、相手も必死に攻撃をしのいでいる。
「俺ががら空きだ。」
残りの一人がニーアに攻撃を仕掛けるのとほぼ同時のタイミングで、ニーアの攻撃の陰からアトゥーサの剣技スキル、アーマーブレイカーを直撃させたことにより相手の鎧が破壊されかなりのダメージを与えた。その間もニーアは攻撃の手を休めることなく、ダブルスラッシュからのライトニングスラッシュ、水属性魔法ウォータボールを放っていく。さらにアトゥーサが剣技スキル、クロススラッシュをヒットさせ一人目を戦闘不能に追い込んだ。ニーアは先ほどの攻撃をかわしきれず、腕から出血していた。高性能の鎧を貫通してダメージを与えたようだ。それを気にすることなくすぐさま反転し、もう一方の敵に切りかった。流水というスキルによって、動きに無駄がなく非常になめらかな連続攻撃の移行を可能としている。相手は必死にガードをするが追い付かない。おとりの攻撃のはずが相手を削りつつあった。ニーアの攻撃の速度がそれほどまでに上がっている証拠である。
「くそっ、防ぎきれないか。だが防具でもダメージが減らせている分致命傷にはならずにしのげそうだ。」
マラックはそう考えていた。しかし次の瞬間、またも死角からアトゥーサが切り込んできた。
マラックは不意を突かれたもののしっかりと武器でガードをしている。しかし、アトゥーサはガードを気にせず。その上から攻撃を繰り出していく。
「残念だったわね。私の狙いは最初っからその武器よ!」
剣技スキル、ウエポンブレイカーを発動することによって相手の武器が粉々に砕けたのだった。ここで勝負があった、マラックは諦めたように膝立ちで両手を頭の上で組んだ。
先ほど吹き飛ばした大槌使いが近づいてくるのが見えた。
「ダンカ!俺のことはいい。あとはお前に任せる。」
マラックが大槌使いに声をかける。
「くそっ、負けだ、負けだ。あいつの連続攻撃を凌ぐのに集中したせいで、スキルを読み切るのが遅れたか、殺せよ。」
ニーアが待ってと言いかけたが遅かった、アトゥーサが剣を振り下ろした。
「アトゥーサ、、、」
「ニーアさん、安心してください、殺していないです、平打ちで気絶させただけですよ。」
ほっと胸をなでおろすニーア、平打ちとは剣の側面、平らな部分で当てたということだ。両刃であるアトゥーサの大剣ではみねうちとはならないので、平らな面で打撃を与える必要が有った。
ほっとした様子のニーアを見て、アトゥーサも安心させようと説明した。
「私だって無抵抗の人を殺すの嫌ですよ。でも、油断させておいて、ってこともあるかもしれないので念のため眠ってもらったのです。」
「そうね、アトゥーサ。あなたの選択は正しいと思うわ。」
ニーアも同意であった。
「さて、あなたはどうするのかしら。」
アトゥーサが得意気にダンカに向かって言った。
「・・・」
ダンカは無言で大槌を振り下ろしてくる、しかし何の工夫もなく、他のメンバーからの援護がない状態でニーアもアトゥーサも簡単にそれをかわし、反撃する。スピードで二人が圧倒したためアトゥーサの攻撃により両腕をやられすぐに戦闘不能となった。死なない程度に回復してやり、例によってアトゥーサにより気絶させられる。
「やっと片付きました、あとは向こうがどうかですね。」
そういってアトゥーサはシュッタウとジェイミーの方に目を向けた。
「戦闘中にだいぶ距離が離れてしまったわね、問題なければいいけど。。アトゥーサ、加勢に行こうと思うけど、あなたはまだ大丈夫?」
「えーっと、はい、ニーアさんとならどこまでも!」
「・・・」
苦笑いを浮かべるニーア、しかしすぐさま真面目な顔に戻った。
「相手はSランクの格上が相手よ。ちょっとでも不安があるなら行かない方がいいわ。私だって余裕があるかわからない、次はあなたを助けることができるとは限らないし。」
「ニーアさん、私だってこう見えてもAランクの冒険者ですよ。自分のことは自分でできます。」
「いざという時は捨て置いていただいてかまいません、覚悟はできています。それに、私は、同じパーティの仲間を見捨てることはできません。ニーアさんにまかせっきりなんてありえない。」
「アトゥーサ、、分かったわ、一緒に行きましょう。」
「ありがとうございます!ニーアさん。」
二人でシュッタウたちが戦っているほうへ向かって走り出すのであった。走り出しざまにニーアがアトゥーサの顔をみて言った。
「アトゥーサ、あなたって、意外とまともなのね。少し誤解していたかも。」
「えっ!?ニーアさん今まで私をどういう目で見てたんですかー。」
いやいや、今までの言動を見ていたらしょうがないでしょう、と思ったがそれはアトゥーサ本人には言わず心にとどめたのであった。
「やっぱり気になるよ、僕はいこうと思う。」
暫く休憩してニーアたちの戦いを見守っていたシンイチ達だったが、途中からばらけてちりじりとなり、目視できる場所から離れてしまっていた。そして急に静かになったのだった。
「私も行きます、連れて行ってください。」
エレンも続いた。
「私たちのことは心配せず、ここは任せてください。」
マフレスが仲間の心配をするシンイチとエレンの気持ちを汲み取りそう言った。
「分かった、じゃあそうしよう、俺もいくよ。」
仕方ないという形で、タカキも立ち上がった。
その時だった、最初にシンイチが倒した短剣使いがシンイチめがけてナイフを投げつけた。
「危ない!」
タカキがとっさにシンイチを突き飛ばし押しのけた。しかし、タカキ自身はよけきれずナイフが突き刺さった。その瞬間大きな爆発が起きる。ダートが投げたナイフには柄の部分に火薬が仕掛けられており、ナイフが何かに刺さると、その衝撃で爆発するという仕掛けが施されていた。タカキが煙の中で倒れこんだ。
「タカキー!」
シンイチは大声で叫びタカキに近づき回復魔法をかける。
「こいつ、まだそんなこと!」
マフレスが素早くダートを抑え込みそのまま意識を刈り取った。
一瞬の出来事に周りにいた者たちは、ただただ呆然と立ち尽くすだけだった。




