第六十二話 連携(2)
「援護射撃だと?」
そういい終わるやいなや、長剣使いのバルツァの腕を何かがかすめた。振り返るとタカキが例の遠距離武器を構えている。
「くそっ、なんなんだあれは。」
バルツァは慌てて身を低くしてシンイチからも距離を取った。
タカキは構えていた銃を下ろし一人呟いた。
「外したか、さすがに距離が遠かったかな。銃の威力は申し分ないんだけどな。」
敵の冒険者が身を低くしたため、これ以上狙いを付けるのは難しそうだ。
「一撃で決めればヒーローだったのになあ。。せっかくの異世界だってのに中年にはちょっとばかりシビアだねぇ。」
先ほどのシンイチが正拳突きから放った炎属性の遠距離攻撃のおかげで、タカキが戦っていた相手の隙を作り倒すことができたため、そのお返しをと思ったのだが、そう簡単にはいかなかった。
高速で近づく炎属性攻撃に気を取られその炎を躱そうとタカキから視線を外した瞬間を見逃さず、銃を取り出し近距離から連射したのだった。顔や心臓を打ち抜くのはさすがに抵抗があったため、手足を中心に狙ったが、戦闘不能に追い込むには十分だった。
結果論だが、相手としてはシンイチの炎を躱すべきではなく、ダメージを受けてもそのままタカキへの攻撃に集中して押し切ろうとするべきだったのだろう。目の前の相手に隙を与えることにより炎属性攻撃よりも大きなダメージを負うこととなった。そもそもこの弱そうなおっさんにここまでの火力があると思っていなかったのかもしれない。自分も先ほど目の前の敵に集中せずマフレスに向けて援護射撃をしていたが、一歩間違えば同じようにやられていた可能性がある。そう考えるとタカキは恐ろしくなり身震いをしてしまうのであった。
ただし、今はまだ反省をしている場合ではない、まだ戦いは終わってはいないのだ。
タカキはそう思いなおし、顔を上げ、シンイチと対峙している敵に狙いを定めるのであった。
あっという間に追い込まれたバルツァは動揺を隠せないでいた。
「なぜだ、俺たちのほうが人数が多く、冒険者ランクも上で、全てにおいて有利な状況だったはずだ。それが今や、人数が二人減って、こっちが完全に不利な状況になっているとは、完全に想定外だ。」
バルツァはシンイチと距離を取り考えを巡らせている。援護射撃も気にしてそちらからも死角になるように立ち回っているが、遮蔽物が少ないため完全に隠れるのは無理だろう。いったんボスの方へ合流するか、いや、さすがにそれをさせてはくれないだろう。あのおっさんのよくわからない遠距離攻撃の格好の的になってしまう。1対2よりは2対3の方がましか、いったんサマジと合流した方が良いか。バルツァは頭の中でそんなことを考え、すぐに実行に移した。何度か例の物理遠距離攻撃が飛んできたが運よく避けることができた。
奇しくも、同じようにシンイチとの合流を考えていたマフレスだったが、サマジの斧の破壊力抜群の攻撃をかわすので精一杯となっており、なかなか合流に至っていなかった。
「合流する前にやられてしまうとシャレにならないな。」
肩で息をしながら必死にしのぐ。もうしばらく防戦一方でこちらから攻撃していない気がする。
そこに、敵の剣使いが合流してきた。シンイチも同じように加わる。
「大丈夫ですか、マフレスさん。」
「ありがとう、助かったよ。大丈夫といいたいところだけど、私には分が悪い相手のようだ。」
「分かりました、僕がこっちを相手します。マフレスさんはあの長剣の相手をお願いします。あと、定期的にタカキが遠距離からの銃撃で援護してくれますので、敵に隙ができるはずです。そこを逃さず行きましょう。」
シンイチはそう言いながらヒールライトでマフレスを回復する。前回にするほどの時間的余裕はないが少しは楽になるだろう。
「了解、分かった。何から何まで手伝ってもらって申し訳ないな。」
「いえいえ、困っているときはお互い様ですよ。」
シンイチとマフレスが即席の作戦会議をしている間、斧使いのサマジとバルツァも同じように話をしていた。勿論、その間も目線はお互いに敵から外すことはなかった。
「おい、サマジ、ガジンの奴もやられたぜ。」
「ああ、そのようだな。こっちは楽だと思ったんだがな。」
「奴らを下のランクだと考えない方がいい。確かに個々の技術では未熟なところがあるが、連携がやたらうまい。攻撃力だけ見たら、Aランクのそれと大きく変わらんだろう。遠距離からの攻撃もあるから気をつけろ、どういう原理かわからんが、かなりの速度で、あれを貰うとかなりのダメージを負うことになる、ガジンはあれにやられたよ。」
「ああ、分かってる。俺もあのおっさんの遠距離攻撃を数発貰ったよ。かすっただけだが直撃していたら危なかった。それにしても二人とも手負いで2対3とはな、ここが俺たちの墓場になるかもしれねえな。これだけ強い奴とやり合って死ねるなら悔いはないけどな。」
「へへっ、そうだな、いざとなったら一人くらいは道連れにしてやるさ。」
そういってお互いに敵に向かって走り出す。
バルツァはシンイチに、サマジはマフレス剣を交えようとしたその時だった。シンイチとマフレスがクロスして入れ替わって切りかかってきた。バルツァとマフレス、サマジとシンイチという構図になって戦闘再開となった。しかも、バルツァとしてはなるべく2対3と思っていたのが、タカキの遠距離射撃での誘導もあり徐々に二つの戦っている場所が離れていく。うまいこと分断されちまってるなと内心思いながらも、今は目の前の奴を倒すことに集中するしかないかとバルツァは考えを改めた。
バルツァの長剣での攻撃を受けるマフレスは、一撃の重さは斧よりはましになったものの、その分繰り出される手数が増えて、こちらが一回攻撃すると二回分の反撃が来るという状況で、相手のスピードに圧倒されていた。
くっ、シンイチ君はこのスピードに対抗していたのか、どっちの相手をしても僕は足を引っ張っているだけじゃないか。何とかここは食い止めなくては。そう思いながらマフレスは必死に剣技を繰り出していた。
一方、シンイチは戦う相手が次々と変わったことで、少し心情に変化が生まれていた。最初の短剣使いは相手の冒険者を人と思わずただ狩る対象としか見ておらず、見下したような笑みを浮かべていたので気に入らなかったが、先ほどの長剣使い、そして今戦っている斧使いは一人の武芸者としての自分を試すかのように真剣な顔つきで戦っていた。長剣使いで感じていたその思いはこの斧使いと対峙することで確信に変わった。相手の思いに応えるようにシンイチも身体強化した上で、槍術と体術をぶつけていった。拮抗した戦いをしているものの、腕力的には相手が強く、戦闘経験の差も大きく追い詰められていく。
シンイチはいったん距離を取り、土属性の中級魔法アースキャノンを放つ。しかしそれを難なく躱すサマジ。それでもかまわず連続で攻撃するシンイチ、それにより高さ数メートルの大きな石壁がいくつか
できた。
「おいおい、なんだその雑な魔法は、そんなあからさまなもん食らうかよ。自棄にでもなったか。」
サマジは魔法発動のスキを突きすかさず大斧での打ち下ろしで反撃する。シンイチはそれも予測済みで躱しながら右足の膝辺りにローキックをお見舞いする。氷属性を付与したおまけつきである。相手の動きが少し遅くなる、その間にまた距離を取った。サマジは凍り付いた右足を引きずりながら
「ふふ、あんたは何も分かっていない。教えてあげるよ、今の土魔法の意味を。一つはあんたを逃がさないため、もう一つはあんたの仲間のバルツァだったっけ、あいつを倒すためさ。」
「はっ、馬鹿な何言ってやがる。あんな魔法でバルツァがやられるはずがない、」
その瞬間、キン!キン!という金属音が壁から聞こえた。
サマジが叫んだ。
「おい、バルツァどうした?」
しかし、反応がない。動揺するサマジ。暫くの沈黙の後、何者かの言葉がその沈黙を破る。
「お前の相棒なら終わったよ。」
さっきまでサマジの相手をしていたはずのマフレスだった、岩の壁から現れてシンイチの隣に来た。
「馬鹿な、お前ごときにやられたというのか!?あの遠距離攻撃だって、気を付けていれば躱すことくらいはできたはずだ。」
「跳弾、てってやつさ、知らないかな、まあ、銃もない世界だから知らなくてもしょうがないだろうがね。」
いつの間にか近くに来てきたタカキが姿を現して言った。
「私が撃った銃弾が、シンイチの作ったアースキャノンの壁にぶつかり跳ね返った弾を受けたのさ。確かに視界に入っているところから撃たれたものは躱せたようだけど、跳ね返って死角から来たものはどうしようもなかったようだ。まあ、狙いもつけられないからかなり打ち込ませてもらったがね。そんなわけで、すまないが急所を外せているかどうかも分からない。」
「実はアースキャノンと一緒にを強化魔法を発動しておいたんだ、タカキの銃弾でも破壊されないようにアースキャノンの岩そのものに強化をしてね。魔法で精製したものに強化魔法が作用するのかわからなくてぶっつけだったけど、うまくいってよかったよ。」
シンイチが付け加える。
二人の説明を理解したのかどうかは分からないが、バルツァが倒されたということは理解したようだ。斧を下におろし何か考えているようだ。
「できれば降伏してほしいんだが。」
「へっ、誰がするかよ。」
「そうか、残念だ。」
そういい終わらないうちにタカキはサマジの右手を打ち抜いた。
「ぐあっ!」
持っていた武器を落とし、顔をしかめるバルツァ。
「すまんな、こっちも命がけでね、手加減はできないのさ。」
「くそ、ここまでか。だが俺一人では逝かんぞ、ぬうぁ!」
最後の力を振り絞り、バルツァは残った左手で落とした大きな斧を拾い、タカキに向けて振り投げた。しかし、シンイチによってその斧は防がれ、次の瞬間、横からのマフレスの攻撃を受けた。
「ふっ、見事だ。」
そういって、バルツァは倒れた。
タカキは構えていた銃を下ろす。いざとなれば打ち抜くつもりだったがその必要はなかったようだ。そっと目を閉じ振り返った、これが戦争ということなんだと改めて実感させられる。実際にはまだ戦争は始まっていないが、向こうの刺客が送り込まれをれを返り討ちにしたのだからすぐにではないにしろ、衝突はされられないだろう。だが、シンイチの、息子の前で弱気なところを見せるわけにはいかなかった。
「最後は3対1でちょっと卑怯だったかな。」
無理やりに笑顔を作り、二人に話しかけた。シンイチは悲しそうな顔をしながらも首を横に振った。マフレスが神妙な顔つきで穏やかな声で言う。
「タカキさん、戦いである以上、卑怯も何もないですよ。相手もタカキさんの降伏勧告を拒否した時からこうなることは予測していたはずです。降伏して、牢獄での生活を経て、処罰されるよりも、冒険者として戦いの中で散りたかったのでしょう。」
マフレスの言葉を聞きながら、タカキもそうであってほしいと願わずにはいられなかった。それを聞いて、シンイチが声を震わせながら言った。
「やっぱり、許せないよ。今戦った相手は、勇敢な冒険者だった。なのに、こんな形で命を落とさなきゃならないなんて。冒険者同士を対立するような状況を作り出している帝国は絶対に許せないよ。」
「ああ、そうだな。とりあえず、生け捕りにしたやつもいるからそいつらを何とかしよう。あと、お前もだいぶ魔法も使って消耗しただろう。少し休憩した方がいい。」
「ニーアたちの方へ加勢に行かなくていいの?」
「あいつらなら大丈夫だろう。」
タカキがシンイチの肩に手を置き、優しい声で言った。黙ってうなずくシンイチ。場の空気がなんだかしんみりとしてしまった。そんなしめった空気を吹き飛ばそうと、シンイチの肩を叩きながらタカキが明るい声で言う。
「ようし、そんな許せない帝国は俺たちがめっためたにぶっ潰してやらないとな。」
「あれ、まずは戦争回避の道を探るんじゃなかったの?」
シンイチがきょとんとして聞き返す。
「そのために冒険者の説得ということでここに来ているわけだし。」
「えっ、それは、その通りだ。。。」
顔を見合わせる二人、そのやり取りを眺めるマフレス。みな無言になった。
「ふっふっふ、タカキ言っていることがめちゃくちゃだよ。」
シンイチは堪え切れず笑い出してしまう。それにつられて、マフレスも笑顔になる、タカキはほっとした表情を浮かべた。
こんな殺伐とした戦いの後だというのにこの人達はやさしさに溢れている、と感じずにはいられないマフレスであった。




