第六十話 開戦
そこは少し開けた草原となっており、ジェイミーの言った通り、何人もの冒険者が倒れている。辺り一面に広がる血だまりと漂う血の匂い、シンイチは思わず身震いをしてしまう。その悲惨な状況を見て瞬時にニーアが指示を飛ばした。
「シンイチとエレンはけが人の回復をお願い。タカキも錬成でポーションくらいは作れるはずだから一緒に手伝ってあげて。」
「りょーかい、こんなことだったら、上級ポーションを作れるようになっておくんだったな。。」
タカキも惨状のひどさに顔をしかめながら回復作業に取り掛かった。
「シンイチ、言わなくても分かっているかもしれないけど、回復中も警戒は怠らないでね。二人を守ってあげてよ。こっちも人数的に不利な状況だから、そっちの手助けをできるかわからないわ。」
シンイチは黙ってうなずいた。相変わらず無茶なことを要求してくるなと思ったが、ニーアはできないことは言わない。つまり自分にはその力があるという裏付けととらえることもできる。視界に入る中では回復すべきは16人、いや、既にこと切れている人もいるようだ。その事実に心がぎゅっと締め付けられる。気をしっかり持て!さらに犠牲者を出さないようにしないと!心の中で自分に言い聞かせシンイチは救護のために走り始めた。
「おや、新しいお客さんかな、ちょっと待っててくれるかな、すぐ終わらせるから。」
ニーア達メインアタッカーのチームが近づくと、リーダーらしき男がこちらを見て言った。血で赤く染まった大地の上で不敵な笑みを浮かべている。そしてその前には立てなくなって息をするのもやっとという感じでボロボロに傷ついた四人の冒険者たち。かなりの攻撃を受けたというのは明白である。
「悪いな、俺たちはそんなに我慢強くないんでね、割り込ませてもらうぜ。」
その男に対してシュッタウは間髪入れず言い返した。
普段は冷静な男が、珍しく怒っているようだ。アトゥーサは横目でシュッタウを見ながら思った。
「ほう、それはどういう意味かな。」
「くだらない、もめごとはさっさと済ませて、先に進みたいってことさ。」
そう言いながら傷だらけの冒険者達の前に出た。
「ま、待ってください、こいつらとてつもなく、強い。我々も加勢させてもらいます。大勢で戦えばきっと。」
四人の冒険者の一人が言った。
「その体で何ができる、死ぬ気か、無理をしないで休んでいろ、命は大切にするんだ。君たちの状況を見れば奴らが強いことはわかるさ。だが、それでも俺たちは止まる訳にはいかない。幸い、心強い助っ人もいることだしな。」
「しかし、、、」
なおも食い下がろうとする冒険者達をシュッタウは無理やり後ろに下がらせる。
「はーい、皆さんこっちですよ。」
アトゥーサはが傷ついた四人をニーア達の後ろまで下がらせた。敵の冒険者と四人の冒険者の間に入った形となった。
「ふん、正義の味方気取りか、やめておけ。俺たちSランクパーティーの真紅の牙を知らないとはとんだ田舎者よなあ。」
「知ってる?」
ニーアが小声でジェイミーに聞いた。ジェイミーは小さく頷き、
「あまりいいうわさは聞かないけど実力は確かだって言う話だよ。帝国側についたってかなり有名な話だったけど。。?」
と言った。
「そ、そうよね、もちろん知っているわ。」
ニーアは慌ててごまかした。
シュッタウも当然知っている。
「ああ、知っているぜ、お前がグースか。Sランクパーティといってもお前ひとりがSランクのなんちゃってSランクパーティだろ。」
シュッタウが相手を挑発する。
「え、そうなの!?」
ニーアが驚いて思わず声に出してしまった。
「そうはいっても他のメンバーも全員Aランクで実力的には私たちと同じくらいのはずよ。いや、人数的には向こうのほうが有利ね。」
ジェイミーがじろっと横目でにらみながら、ニーアの心を見透かすように説明をしてくれた。
まあ、そうよね。さすがにこの人数全員がSランクだと戦うというのは無理があるだろうし。。
今度は声には出さずに自分の心の中だけで抑え込むことができた。
確かに自分たち三人も、ニーアがAランクだが、シンイチとタカキがBとCランクで、自分たちがAランク冒険者パーティと名乗ったら、エセAランクパーティと呼ばれてしまうかもしれないと腑に落ちたのだった。もう少し二人のランクアップについては真面目に考えるべきだろうか、とニーアは思った。
「俺たちの名前を知ってもビビらないのは褒めてあげよう。せいぜい、俺たちを楽しませてくれよ。」
「お前たちの期待に応える気は更々ないな。」
シュッタウとグースがやり取りしている間に、ニーアは後ろに下がった4人の冒険者たちにエリアヒールウォーターをかけ回復をしてあげる。
そして、「今、あっちで3人があなたたちの仲間の治療をしているわ。もし動けるなら彼らを手助けしてくれるかしら。」
とタカキ達がいる方を指した。エルフィリア大迷宮のこの階層まで到達しているのだから弱いということはないはずだが、どれくらいの力かもわからず、いきなり連携を取るのも難しい。負傷も完全には癒えていないという状態では足手まといになりかねない。という判断だった。
少し回復して動けるようになった4人は、分かったと言ってシンイチ達がいるほうへ走り出した。
「あ、ちょっと。」
ニーアが再び声をかける。足を止めて振り返る冒険者達。
「シンイチ、、あっちにいる男の子の冒険者なんだけど、全力でやりなさいって言づてを頼めるかしら。」
「ああ、わかった。」
よくわからないがとりあえずという形でうなずき、再び向こうの方へ走り始めた。
その動きを見た相手方も何かしら指示を出したようだ、10人のうち4名がシンイチ達の方へ向かい出す。手負いの冒険者たちを戦う人数に入れないとすると、向こうは3対4、こっちは4対6と、予想していた通り数的優位を作られた状況となった。
改めて6人の敵と対峙して、一筋縄ではいかないことを瞬時に感じ取った。相手も分かっているようで、リーダーのSランク冒険者グースをはじめとして主力級をこちらに残し、Aランクの中でも力量が下のメンバーを向こうに行かせたようだ、こちらの戦力バランスをしっかり分析できている証拠である。だが、それもニーアの想定内で、その状況だからこそシンイチ達の戦いにも勝機があると考えていた。
「さあて、一応ダメもとで聞くが、帝国側につく気はないかね?どこの誰かわからんが、なかなか強そうだ。俺たちとしても優秀な冒険者を失うのはつらいんだよ。」
「ふん、思ってもないことを。俺たちはAランクパーティのクワッドヴァルキリーだ。帝国側の人間がこそこそと何していやがる。」
「いやなに、単なるリクルート活動さ。クワッドヴァルキリーは聞いたことがあるね。だが、所詮はAランク、俺たちに勝てると思っているのかい。」
こちらとしても穏便に済ませたいところではあるが、何の罪もない冒険者たちを何人も傷つけているのは許せなかった。
「それはやってみないと分からないさ、冒険者ランクだけが勝負を決めると思ったら大間違いだ。」
「確かにね。だが、総合的にAランクよりも強いからSランクに位置付けられているのまた事実だよ。無駄な抵抗はやめて帝国に忠誠を誓うんだ、今ならまだ、命は助けてあげてもいいよ、少し痛い目は見てもらうけどね。」
「たとえ俺たちがそうしても、他の冒険者は助からないんだろう。」
「彼らは死んでもらう必要があるね、こちらの優しい勧誘に対して何度も首を縦に振らなかったわけだから。そして、我々の活動の目撃者は消えてもらわないと。」
「答えは決まってる、Noよ。今すぐ帝国と手を切って自分たちの罪を償うというなら許してあげないでもないわ。」
怒りを押し殺してニーアが言った。
「フハハハ、数的優位があるのに降伏しろだと?笑わせるな。所詮、お前たちもさっきのやつらと同じって訳だな。」
グースの口調が急に変わる、そろそろこのやり取りに嫌気がさしているのかもしれない。
「こいつらは話すだけ無駄だよ、ニーア。」
ジェイミーがニーアに諭す。シュッタウも黙っている、同意ということだろう。本来、人の勧誘よりも人を傷つけることが好きでこの活動をしているという印象を受けた。
「じゃあやるしかないわね、ジェイミーはシュッタウと、アトゥーサは私とコンビで行くわよ。」
「ああ、オーケーだ。」
「はぁ、ニーアさんとコンビだなんて光栄ですわ。頑張ります!」
アトゥーサがそう言い終わらないうちに、相手のAランクの二人が切りかかってきた。それを素早くかわして反撃するもガードされる。想定内ではあったものの、シュッタウたちとうまく分断されてしまったようだ。最初は2対2での戦いにしてくれるのかと思いきや隙をついて3人目が切りかかってくる。ニーアはアトゥーサをかばってその攻撃を剣で防いだ。
「ニーアさんすみません!」
「大丈夫よ、」
そう言いながら反撃を繰り出すも、最初に攻撃に入った冒険者がフォローに回りそれを防いだ。Sランクのグースはシュッタウとジェイミーの方へ行ったようで、こっちは少し楽なはずだが、やはり3対2では守勢に回りがちであった。今度はニーアから攻撃を仕掛ける、エアスラッシュを連続で繰り出し一人の動きを止め、その間に残りの二人をアトゥーサとともに攻め立てる。アトゥーサが一人引き受けることで1対1の状況を作り出すことができるが、やはり時間が足りず、距離を取られるとエアスラッシュで動きを止めていた冒険者が加勢に来てしまう。再び距離を取ってのにらみ合いからの仕掛け、それに対する対応、その隙をついた追撃といった形での応酬が繰り広げられる。このままではらちが明かない、何かきっかけが必要だとニーアは思った。自分一人であれば、マイティストレングスのスキルでスピードとパワーを強化してごり押しするという手も使えなくはないが、アトゥーサが速さについてこれず置いてきぼりになってしまうのと、まだSランクの敵が控えている状況で、なるべく手の内を明かしたくはなかった。ニーアは漠然と突破口となりそうなものがないかと考えていた。




