第五十五話 エルフィリア大迷宮(2)
「いやー、こんな順調な攻略は初めてだなー。たった二日で30階層まで行くなんて今までなかったよね。」
30階層へ下りる階段近くに本日のキャンプ地を決め、みんなで夕食を食べている間、ジェイミーは上機嫌だった。自分の判断で決定したニーア達との合同攻略が成功だったことを示しているせいかもしれない。
「それはやっぱりニーアさんがお強いからね。」
アトゥーサが目を閉じながらニヤニヤして思い出し笑いを浮かべている。
いや、私、ほとんど何もやっていないし、とニーアは心の中で突っ込んだ。言葉に出さないのは、この人には何を言っても無駄かもしれないと直感的に感じたためだ。
幸い、29階層が屋外のように上空がひらけた階層だったので、いつものコテージ型マジックアイテムを使うことができた。
5人用のため部屋はまだ余っていたが、クワッドヴァルキリー全員分はなかったので、彼らには申し訳ないが自分たちのテントを使用してもらうことにした。二人一部屋でせまくてもよいならと提案したが、ジェミーがなれ合いは良くないとのことでしっかりと断ってきた。その横でアトゥーサが最後までコテージに泊まりたいと粘っていた。
「私はニーアさんの部屋の床で雑魚寝でもいいからー。」
そんな駄々をこねるアトゥーサだったが、最後はジェイミーとエレンに押さえつけられて自分たちのテントに引っ張って行かれたのだった。
コテージの個部屋に入って、タカキは一人悩んでいた。今日は何とかしのぐことができたが、明日からはさらに敵が強くなる。みんなの前ではレベルが上がってきたと喜んで見せたものの、まだまだ足を引っ張るのは目に見えていた。決してレベリングを怠けてきたわけではないが、いかんせん時間が足りなさすぎる。最初から近接戦闘をする気はなかったが、攻撃魔法で支援するにしても魔法の資質がないため威力が弱い。インフィニットビッグボアにはかすり傷をつけ気を引くくらいはできたが、敵が強くなると陽動にすらならないだろう。
「くっそ―、属性の加護はあるのにな。」
ニーアに言わせると属性の加護があっても資質と、魔法攻撃に適した職業に就かないと高威力の魔法は使えないらしい。より正確に言うと魔法の資質により魔力の上昇率が高くなることで魔法自体の威力が上がり、魔法職に就くことにより高レベルの魔法が使えるようになるとのことだ。魔法職に就くものが必ずしも魔法の資質がある訳ではないが、残念ながらタカキが慣れそうな魔法職は出てこなかった。
ニーアに進められて、加護属性の魔法は何とか初級魔法は習得したものの、魔法の資質がないことと、魔法職に就けなかったことで、この先の強化については完全に道が閉ざされた形となっている。
何か新しい武器が必要なのは明白だった。
「やっぱ、あれを早く仕上げないとな。」
ニーア達と約束して車を作るということで部品作りをする傍ら、現実世界で仕入れてきた情報でこちらの世界でも通用しうる攻撃となりうるものを制作していた。だが、レベルが高い敵にそれが通用するのかどうか。せめて自身に雷属性の加護があればレールガンを作りたかったと考えていた。タカキはとあるテレビアニメでその名前を聞いたことがあったが、現実でも研究開発が進んでおり、各国で試射もして実用に近づいていることをニュースで知った。それを受け、出来るだけ情報は仕入れてきたが、膨大な電力を賄う電源と弾丸を加速するための長い砲身が課題となり。雷属性持ちであれば電源問題は解消ができるのではと考えていた。砲身も魔法のご都合主義で何とかなるのではと期待していた(駄目ならば射程距離と威力とのトレードオフで、人が持てるギリギリの砲身を試行錯誤するしかない)。射程数百キロの高威力は魅力的だ。しかし、ニーアしか雷属性はないため、結局、実現しても一人で戦うことはできない。ニーアとの連携という形では夢は広がるが、今の最優先事項ではないだろう。仕方なく、一般兵器、つまり銃の作成に取り掛かっていた。ほぼ構想は出来ていたが、最終的な弾丸を飛ばす仕組みを火薬の燃焼により飛ばすか、炎属性魔法やあるいは他の魔法自体のエネルギーを使うかで迷っていた。前者だと、自身の魔力を使わないため自由に打てる、しかし火薬の材料調達が課題となる。一方、後者は火薬の心配はなくなるが、戦闘中にMP切れとなる恐れがある。
日付が変わるまで悩んだ挙句、魔力での弾丸発射方法を選択し、錬金スキルでの組み立て、仕上げに取り掛かった。
結局夜明けまでかかってようやく完成させることができたのだった。
「できれば実戦で使う前に試しておきたかったけど、しょうがないか。」
完成した新たな武器を見つめながらタカキは呟いた。
着替えて自分の部屋から、リビングに出た。ニーアとシンイチが朝食の準備をしているところだった。
「おはよう、パパ。珍しく遅いね。」
ニーアこと藍が声をかけてきた。
「ああ、おはよう。いいのか、この世界ではタカキだぞ。」
「大丈夫、大丈夫。このコテージは完全防音だから、この中で話しをしている声は絶対外部に漏れないようになっているのよ。だから他の人を泊めていないときはいつも通りでいいんだよ。」
「いやーなかなか、ニーアって言いにくいんだよな。ついつい藍ちゃんって言いそうになるよ。」
シンイチもリラックスした様子で笑顔を浮かべている。思えば、こちらに来てすでに二週間近く経っているが、四六時中、冒険者のロールプレイをしている感じだったのでこういう家族の時間は久しぶりだった。ああ、やっぱりこういうのはいいな、とタカキは実感するのであった。
「これからは宿屋に泊まるのはやめて、毎日このコテージで泊まるのでもいいかもな。」
二人に向けて提案する。
「駄目だよ、こんなのを目立つところで使ったら。レアアイテムなんだから、変な奴らに狙われやすくなるよ。」
「ただでさえ、セルディスと帝国の状況が不安定で、帝国の刺客やらがうろうろしているんだから目立たないようにしないと。じゃないと、こうやって冒険者の引き込みの裏工作をしているのがばれていろいろ厄介ごとを持ちこんじゃう。」
子供たちから反対されてしまい、少なからずのショックを受けるタカキ。しかし、二人の言っていることは正論であったので言い返すこともできず、二人とも人として成長しているんだとかみしめた。気を取り直してはっぱをかける。
「今日からがいよいよ大変になって来るな。特に俺とシンイチにとっては!」
「そうだね、敵も強くなってくるし。今日からは藍ちゃんも本格的に一緒に戦ってくれんだよね。」
「そうね、戦うわよ。昨日までの戦いで、二人のレベルもだいぶ上がっているから、活躍期待しているからね。ところで、なんか目の下にクマできているけど、パパ、寝不足なの?」
「んー、いや、まあちょっとな。少しでもみんなの足を引っ張らないようどうしようか、といろいろと試行錯誤していたんだよ。まあ期待していてくれ。」
朝食後、クワッドヴァルキリーと合流して早速ダンジョン攻略を再開した。担当は変わらず、タカキ達が2階層攻略した後の1階層はクワッドヴァルキリーが攻略する形である。唯一の変更点はニーアもタカキ、シンイチのサポート的な戦い方ではなく積極的に前面に出始めたことである。モンスターのレベルも60を超えてきたため、さすがに修行のためといって二人だけにやらせるわけにはいかなくなっていた。二人だけで行けそうなときは任せつつ、危なくなりそうなときは瞬時に前衛として敵を切り刻んでいた。
「やっぱ、速いなニーアは。」
3人の戦いを眺めていたジェイミーが呟いた。それに対してエレンも相槌を打つ。
「うん、確かに、、、でも私たちとやった時はあんなものじゃ無かったよね。」
「そうだね、正直、動きが見えなかったし。。」
その隣でニーアの動きに見とれていたアトゥーサも口を開いた。
「並の冒険者じゃないのは確かよね。数年前から名前は知っていたけど、当時はBランクだったし、直接は見たことなかったけど、ここまでの強さだとは思わなかった。」
エレンとジェイミーが話を続けるアトゥーサのほうを振り返る。
「この2年で強くなったのかな。あるいは魔王討伐後のレベル上限突破で急に強くなったとか。いったい何者なの、、あっ、まさか当時と中の人が入れ替わっているのでは!?はあー、兜の下の素顔が気になるわー。」
アトゥーサの思考が別の方向へ向き始めた、二人は苦笑しながらニーアパーティに目を戻した。相変わらずせわしくニーアがフォローに入っている。タカキの攻撃が敵にあまりダメージを与えていないようだ。
「バランスは悪くないと思うんだけど、やっぱあのおっさんが足引っ張っているよね。」
「うん、贔屓目に見てもそうだね。ニーアもあんなのさっさと見限って私たちのパーティに来ればいいのに。」
アトゥーサは何としても一緒のチームになりたいようだ。
「いやいや、きっとあいつにしかできない何かがあるんだよ。」
思うところがあったのか、シュッタウがタカキをフォローした。
「えー、そうかなー。」
アトゥーサはまだ納得できていないようで、不満そうな表情を浮かべた。ニーアが加わっていることもあり、危なげなく31,32階層を突破してクワッドヴァルキリーと交代となった。
「ふうー、やっと一息つけるね。」
シンイチがタカキに声をかける。タカキは早くもしんどそうで黙ってうなずいている。ようやく息を整えたのちに、何か言い始めた。
「いやあ、そろそろレベル的にしんどいな。ちょっと次の階層からこれを使わせてもらうわ。」
そういって懐から新しい武器を取り出した。
「おおー、何それ銃?凄い!」
シンイチが目を輝かせた。
「凄いだろ、昨日、徹夜して作ったんだ。弾丸は金属だけじゃなくて、鉱石なんかもいけるはず。ダイヤモンドみたいに金属より硬い鉱石がこっちの世界だと安価で手に入るかもしれない。
とりあえず、今は普通の金属弾しかないけど、ちょうどこれからレア鉱石の産地にいくところだろ。そこでまた、弾丸に加工できるレアな素材が手に入るかなって。」
「凄いけど、、銃なんて打ったことあるの?」
ニーアが不安そうな声で聞いた。
「ああ、あるぞ。昔、出張でハワイに行ったときにな。一日オフの日があってその時に銃の試し撃ちができるお店に行ったんだ。1万円くらいで、普通の銃とかライフルとかを撃たせてもらったかなあ。よく海外のドラマであるような射撃訓練場みたいなところで、20mくらい先に紙の的がつるされているのよ。でそれに向かって、試し打ちできるって訳よ。横の銃がチェーンでつながれて固定されている銃で、的以外の方向に向かないようになっていたんだよな。」
「仕事で行っているのに何やってたんだか。」
ニーアがあきれたと言ったような形でため息をついた。
「でもまあ、経験があるってのは大きいわね。期待しているわよ。」
「ああ、任せてくれ。と言いたいところだがかなり昔のことだしなあ。この銃ではまだ試射もできていない、ってのは若干の不安要素ではあるな。」
そんな会話をよそにシンイチの銃への興味は尽きなかった、新しいおもちゃを見つけたように、じっくりと眺めながら新しい活用方法を提案した。
「弾丸は魔石も行けるのかな。魔石に魔法を込めて打てばその魔法と同じ威力のものが出せるかもね。」
「おお、いいな、そのアイデア!」
すぐさま乗っかるタカキ、ニーアも渋々ながらも賛成した。
「はい、じゃあ、魔石渡しておくね。ただし、夢中になり過ぎてダンジョンの攻略中なのを忘れないでよ。いつっ魔物がこっちに襲ってくるかもわからないんだから加工に気を取られ過ぎないように。」
ニーアの忠告を分かった分かったと頷き、タカキは魔石を受け取り早速錬成スキルで加工を始めた。弾丸の形状に加工された魔石が出来上がった。
「よし、いい出来だ。では、これに魔法を込めると、ファイアボール!」
加工し終わった魔石の弾丸に初級火属性魔法のファイヤボールを込めた。どうやらうまくいったようだ。
「よしと、シンイチ、お前の中での最強の魔法を詰め込んでくれよ。」
そういうとタカキはシンイチに弾丸の形状に加工済みの空の魔石を投げて渡した。
「おっけーいいよ。」
弾丸の形に変わった魔石を受け取り、握りしめた魔石に向けて目を瞑って早速魔法を使い始めた。しかし、魔法を使っている途中で魔石がはじけるようにして砕け散った。
「あれ、なんか間違えたかな、失敗しちゃったよ?」
「あー、たぶんだけど、封入しようとした魔法の規模が大きすぎてその魔石のサイズに納まりきらなかったんじゃない。そんな強い魔法じゃなくてもう少し威力の小さい魔法くらいにしてみたら?」
見かねたニーアが横から助け舟を出した。
そのアドバイス通りに中級魔法を使うシンイチ、今度はうまくいったようだ。
「よっしゃぁ、ナイスシンイチ!あと何個か頼むぜ。ニーアも、ほれ。」
タカキが調子に乗って頼みまくっている。みんなの生存率を高めるためには仕方ないと思いニーアも協力してあげることにした。
「シンイチ、あんまりMPを消費しすぎないでね。次の階層に行ったらまたすぐ戦いだから。あくまで本筋はそっちだからね。」
再びニーアからの注意喚起。
「分かってるって。中級魔法10発くらいなら全然平気だと思うよ、自然治癒の範囲だね。」
結局、シンイチが闇、火、土の3属性、ニーアが光、水、雷の3属性を担当し、一つの属性につき5発づつで計18発分の弾丸を作成した。
「よし、これで金属弾と合わせて300発ちょっとか、魔法弾は切り札とするかな。次の階層から試し打ちをしてみよう。」
ご機嫌なタカキを横目で見ながら、シンイチが追加のコメントをした。
「自分で作ればいいのに、中級魔法ならもう使えるようになっているんじゃやない。」
「いや、すまんなシンイチ。確かにその通りなんだが、俺とシンイチ、ニーアとじゃあ、MPの絶対量と回復速度が全然違うんだよ。弾丸に加工する錬成の時も銃を撃つ時もMP消費するからなるべく温存しておきたいと思ってさ、」
「そっか、まあそれなら仕方ないね。」
元々、不満があっての発言だったわけでもなかったので、シンイチもすぐに納得した。
そんなことをしている間にも前方ではクワッドヴァルキリーが33階層の攻略を順調に進めていた。2時間ほどかかってようやく34階層へ下りる階段の前に来た。
「ふあー、結構時間かかっちゃったねえ。まだ3階層しか攻略できていないのにもうお昼だよ。」
アトゥーサがため息交じりに言った。
「仕方ないさ、ここからは敵も強くなる。大事なのは無駄に体力を消費しないことだ。短時間で進んで行っても後半体力、MPが残っていません、じゃ話にならない。時間がかかってもなるべく温存して行くぞ。」
シュッタウが全員に向けて改めて方針を確認する。アトゥーサも納得して真面目な顔でうなずいた。
「さて、次の階層は君たちだが、まだいけるかな?」
ニーアたちのほうに顔を向けて聞いた。勿論、といわんばかりに大きくうなずく3人。
「ふふっ、そういうと思ったが一応確認さ。きびしそうになったら無理せず言ってくれ。ここからはいつでも総力戦で行く覚悟だ。」
「ありがとう、厳しそうなときはお願いするわ。」
リーダーとはこういうものなのだろうか、細やかな心遣いがありがたいなと、ニーアは心底思うのであった。




