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第五十三話 武力示威

開始の合図とともにシンイチとタカキでジェイミーという名の獣人族の女の子をめがけて攻撃を開始する。

相手は斧をメイン武器としており、一撃の威力が大きいが二人掛かりであれば手数では勝負できるはず、そう考えた上での作戦である。シンイチの槍術と体術で攻撃を繰り出し手数を稼ぐ、さらにそこにタカキは魔法で援護する。この数週間、モンスター相手に練習していた戦闘スタイルだったが対人戦となるとまた勝手が違ってくる。

それでも間合いをうまくとり、攻撃されない距離から魔法を繰り出していく。タカキの魔法では大きなダメージを当てられないまでも、多少のかすり傷をつけることと、気をそらすことくらいはできており、インフィニットビッグボアとの戦いが役に立っているようだ。ボアとは違い、人が相手なのでタカキが狙われないよう細心の注意が必要になるが、シンイチがうまくヘイト管理をして、隙をついてすかさず攻撃を仕掛けている。攻撃力もシンイチの方が高いため、シンイチを無視して遠くのタカキのみを狙いに行くという判断をさせなかったのも作戦が機能している要因だった。

「ふん、なかなかやるね、だが、この程度で私は負けないよ。」

ジェイミーがそう言うと突然反撃に転じ、両手持ちの大斧を振り回して攻撃を仕掛けた。静から動への切り替えの速さにシンイチは躱すことができない。しかし、なんとか槍と盾で守備一辺倒になることでうまく攻撃を捌くことができていた。

「ほう、あの小僧、若いわりになかなかクレバーな戦い方しやがる。いい指導者がついているな。」

見物に回ったドワーフ族の戦士がつぶやいた。

実際、盾の資質持ちで、かつ元々の守備力も高いシンイチだからこそ、Aランク冒険者の攻撃でも凌ぐことができていた。一方タカキは、クロコが覚えたスキル「装備品コーティング」により、防具の一部にまとわりつき、防御力を高めている。ジェイミーが無理をしてタカキに攻撃を仕掛けてきても、シンイチがジェイミーに追撃し攻撃力を弱めてくれることも手伝って、格上の攻撃であっても致命傷にならずに済んでいた。タカキとしてはシンイチの手助けを生かし、連続で攻撃を受けないような立ち回りを心掛け、それを実現することで長らく倒されずにいれるのであった。

暫くの間、有効な攻撃が繰り出せず我慢の展開を強いられていたが、シンイチは一撃を狙っていた。

そして、相手の攻撃してくるタイミングを利用してヴォールト・ムーンサルトを繰り出す。

「よしいった!」

そう思ったシンイチだったが、獣人の斧戦士は大きな斧を盾の替わりにして防御したのだった。

「初見で防がれたのは初めてだ、ニーアやビースツガーディアンのジライヤさんにだって当たったのに。」

「そんな大技が簡単に当たると思ったら大間違いだよ。」

とはいえ、ぎりぎりだった。ジェイミーは危険を感じ取ってとっさに急所を護ったという感じだ。

はったりをかましなんともないように装ったが、斧で防御した手が少ししびれている。直撃していたら結構なダメージを受けていただろう。自分の優位な戦局が変わっていたかもしれない。


「ちっ、こいつらの意外と面倒だな。あれをやるか。」

ジェイミーがつぶやいた。

「なんかやってくるぞ、油断しないようにな。」

「うん、タカキもね。」

タカキとシンイチも気を引き締め直して構える。

「シルバートマホーク!」

そういうとジェイミーの左手に手斧が現れ、それをすかさずタカキめがけて投げ始めた。

「速い!」

シンイチがそう思った瞬間にはもうタカキに命中しており、タカキが大きく吹きとばされていた。

シンイチは血の気が引いたような気がした。自分が守ってあげないといけないはずなのに全く反応できなかった。。

「だ、大丈夫だ、、、」

吹きとばされた先の土煙の中からタカキの声がする。ほっとする間もなく、ジェイミーが間合いを詰めてシンイチに攻撃を仕掛けてきていた。

「しまっ、!」

必死に防御をするが、斧の攻撃の重さにこらえきれず、タカキほどではないがシンイチも吹き飛ばされる。

攻撃した感触を受けてジェイミーが違和感を感じ取った。シンイチが立ち上がる。

「おいおい、あれを受けても平気とかタフかよ。けっこう力入れたんだけどな。まあ、一回でダメなら何回もかな。」

そう言うと、ジェイミーは再び手斧を作りタカキをめがけて投げ、さらにもう一つシンイチに向かって投げた。

メインウエポンの両手持ち用の大きな斧を片手で操り攻撃をしつつ、土魔法で作ったトマホークで遠距離攻撃もこなす。遠近両距離に対応した攻撃特化の戦士であった。

「さすがはAランク冒険者だ、斧と言えばスタークさんを思い出すな。」

シンイチはオラキ島での修行の時に知り合ったSランク冒険者のスタークのことが頭に浮かんだ。巨大な斧を操り遠距離攻撃もこなす戦闘スタイルは似ている気がする。スタークと直接戦ったわけではないが、こんな感じだったのだろうか。きっと、さらに上を行くのだろう。そんな人に少しでも認められたのだから、この攻撃にも耐えられるはず、いや、耐えないといけない。

そんな想いを持って再びこちらから仕掛けていくが、Aランク冒険者の壁は二人掛かりでも厚かった。最初は優勢だったがすぐに対応されて押され始めていた。


ニーアはエルフ族と人族の二人を相手にしていた。さすがAランク冒険者ということで基本の戦闘能力は高く、エルフ族の方は魔法がメインの職業で、人族の方はある程度近接戦闘ができる形だ。

距離を詰めての接近戦を果敢に挑んでいたニーアだったが、優位に戦いを進めるも決めきれずにいた。

「二人は近接戦闘は得意な方じゃないように見えたんだけど。」

ニーアがそう言うと、

「まあね、でも全くできないかって言うとそうでもないのよね。」

軽装戦士といった風貌の人族が答える。

「あなたは思った以上に強い。だけど負けないように戦うことは可能なのよね。」


エルフ族が距離を取り、獣人族とシンイチ&タカキの戦闘状況を見て、ふふっと笑いながら言った。

「あなたが私たち二人の相手をして、足止めしている間に二人がかりでジェミーを倒すつもりだったんでしょうけど、残念でしたね。ジェイミーはAランクの中でも強い方ですから1対2でもそう簡単にはやられませんよ。」

「そうね、その作戦では駄目だったみたい。でも、私たちの狙いは違うわ。」

そういうと、ニーアは全能力を大幅に向上させるスキル、マイティ・ストレングスを発動する。MPを大量に消費し続けるこのスキルだが、今なら30分以上は持ちそうである。以前よりレベルアップしているということと、今日はこれが初戦闘でHP、MPともに充実しているというのも相まってスキル発動時間が伸びている。

「トルネードスラッシュ!」

風属性の魔法剣技により竜巻が2人を襲う。

「これは、確かにすごい威力ですが、凌げないってことはなくてよ。風属性は私も得意とするところ。」

エルフの少女が素早く防御魔法を展開し威力を相殺する、その瞬間、後ろから攻撃を受けた。重い一撃だった。振り返ると、先ほど目の前でスキルを発動していたニーアがそこにいる。

「う、嘘。速すぎるわ。魔法スキルとほぼ同時に距離を詰めての物理攻撃なんて。。」

「正確には剣技スキルなんだけどね。まあ、聞こえてないかな。」

一瞬で意識を刈り取っていた。ニーアは気を失ったエルフ族を床にそっ下ろしてあげた。

「へえ、凄いな。今のは一瞬見えなかった。。」

見学しているドワーフがつぶやいた。

ニーアとしては50点というところだった。本当はこの奇襲で二人とも倒せるのがベストだった。しかしエルフの少女が魔法に対する防御をしたことで、人族の女の子のほうはこちらの攻撃に備える余裕ができてしまったようだ。ダメージを与えたものの、倒すまでは至っていないだろう。少しの差とはいえ、エルフ族を先に攻撃したこともこの結果を生んだ一因だろう。

「うそっ!なんなのよ、今のは!?」

人族の女の子が何とか立ち上がった。どうやら自身に回復魔法をかけているようだ。先に人族のほうを攻撃して仕留めるべきだったか、ニーアは少し後悔したが、すぐに気を取りなおした。かなりダメージを与えているはずなので、このまま押しきっても問題ないだろうと考えたのである。すぐに距離を詰めて攻撃する。残った人族の女の子は両手持ちの剣が主武器だった。マイティストレングスで強化した攻撃を両手剣で防いでいるも、強化されたニーアのスピードについていけず徐々に有効打が入っていく、離れて距離を取ろうとする相手に対し、すかさず近距離からエンハンスドエアスラッシュを繰り出す。

「くそっ。ダブルクロスシールド。」

必死に両手剣での防御スキルを繰り出しエアスラッシュの斬撃を防ぐがその瞬間、再度背後からの攻撃を受けた。たまらず倒れこんだ。

「ふう、これで残り一人。」

ニーアはマイティストレングスを解いた。固有スキル使用中にさらに他のスキルを使用したので一気にMPを消費してしまった。5分くらいしか経っていないが、あと残り10分ほどしか使えないだろう。

「やっぱ燃費悪いな、この技は。。。」

ふいに、何かが飛んでくるのを感じた、剣でそれをはじく。土魔法で具現化された投擲用の斧であった。

振り返ると、タカキが遠くで倒れている。シンイチもまだ立っているものの、かなりダメージを負っているようだ。

「大丈夫?待たせたわね、こっちは終わったわよ。」

ニーアがシンイチのそばに来て声をかけた。

「うん、何とかギリギリだね。最初はうまくしのいでいたんだけど。。魔法で具現化した斧を投げ始めて、それですぐにタカキはやられちゃったよ。」

「さっき飛んできたあれか。」

「あんなに大きな斧を片手で扱いつつも、投げ斧もコントロールもいいんだよ。それでも両手で大きな斧を扱う時よりは攻撃力や速度は下がっているみたいだけど、、遠近攻撃同時なんて反則だよね。」

シンイチが悔しそうに言った。

「こっちも闇魔法スキルで相手のHPを吸収しつつだましだましやっていたけど、ジリ貧って感じだったよ。」

「あの相手に、よく時間を稼いでくれたわね、結構やられたけどまあ仕方ないわよ。さすがはAランクってところね。でもここからはそうはいかないわ、あとは私に任せて。シンイチは引き続き闇魔法で体力を回復しつつ、相手の体力を削って頂戴。先に少し回復魔法で回復してからでもいいけど。」

「りょーかい、大丈夫、攻撃しながら回復していく。」

シンイチの目に光が戻ってきた。二人が相手との距離を詰め、再び、近距離での打ち合いが始まった。ニーアの作戦通り、ニーアの攻撃に押されて獣人族の斧戦士の攻撃がほとんどシンイチに来なくなった。そしてシンイチが闇属性槍術スキル、アブソープションスラッシュで、体力を奪っていく。あっという間に形勢が逆転した。その時、見学に回っていたドワーフから声がかかった。


「ようし、そこまでだ。この試合は俺たちの負けだな。」

「そんな、私はまだやれる!」

獣人族の斧戦士が抗議するも聞き入れられなかった。

戦いが終わり、急いで、ケガをしたみんなを回復する。ニーアはエリアヒールウォータでみなを回復していく。タカキもいつの間にか元気になっていて調合したエンハンスドポーションを皆に配って回っていた。どうやら気絶したふりをして、こっそりポーションで回復していたようだ。それにより全員の体力を回復することができた。回復したところでドワーフの男が話を再開した。

「仲間の回復サンキューな。今回は負けたが、もう一回やったら俺たちが勝つぜ。なんでかはわかるよな、俺が出るからさ。」

確かに実力的にはこのドワーフがずぬけているのだった。

実は戦いの前にタカキの鑑定スキルによりクワッドヴァルキリーのメンバーの能力値を把握していたのだった。


ドワーフ:Lv 110、  獣人族:Lv 103、  エルフ族:Lv 92、  人族:Lv 91


そして、レベルの低い二人をニーアに集める作戦で、開始早々シンイチとタカキ二人がかりで獣人族に攻撃を仕掛けていたのだった。一番強い相手に二人で耐えられるかという賭けだったが、見事に勝つことができた。相手のステータスが分かる鑑定持ちのタカキがいたからこそできた作戦である。

しかし、このドワーフが出てくると、ニーアがドワーフ一人に止められてしまい、残りの2人であの斧戦士+もう1名相手にしなくてはいけなくなる。格上相手の2対2では間違いなく勝てない。ニーアはそんなシミュレーションを頭の中でしていた。

「確かにそうかもしれないわね、でも最初の試合は私たちの勝ちよ。つまりあなたたちには約束を履行する義務があるわ。」

「ああ、そうだな。そこは否定しないよ。だからお前たちを信じるよ、帝国側にはつかないさ。それでいいだろう。」

「ええ、ありがとう。一応、今の状況は説明させてもらうけど、そう言ってくれるとうれしいわ。」

「ああ、そういえばちゃんとした自己紹介もまだだったな、俺はシュッタウ、物理タンク系でグラディエータって職業だ。」

シュッタウの言葉を皮切りにお互いに自己紹介をしていく。

「ありがとう、私は斧戦士のジェイミー、このパーティのリーダよ。あなたたち強かったわ。正直負けるとは思っていないかったもの。」

「私はエレン、見ての通りエルフ族よ。でも人族への偏見はないつもりよ。よろしくね。」

「私はアトゥーサ、あっという間にやられちゃって見せ場を作れなくてちょっと残念。。よろしく。」

エレンとアトゥーサがそれぞれ挨拶をする。

「ありがと、私はニーア、こっちはシンイチとタカキよ。」

ニーアがシンイチとタカキを合わせてメンバー紹介をした。シンイチとタカキも紹介に合わせてペコリとお辞儀をする。

「ニーアって剣姫ニーア!?全身鎧で謎の冒険者っていう噂は聞いていたけどあなただったのね!」

アトゥーサが興奮気味に言った。

「え、ええ。そうだけど、、私ってそんなに有名だったかしら?」

急な喰いつきに驚くニーア。

「色々聞いているわ、上級魔族の撃退とか、Sランクモンスター討伐とか。あなた、今、最も熱い冒険者の一人よ。あー、記念撮影しておきたいわー。」

「ちょっとアトゥーサ!」

「ごめんね、この子冒険者マニアで、他の冒険者の活躍とかの情報をギルドで集めて盛り上がる趣味があるのよ。」

「あ、ああ、そうなのね。」

エルフ族エレンの説明にニーアが若干引き気味で答えた。

「僕は?僕、シンイチって言うんだけど。」

「は? 誰あなた、聞いたことないわね。」

アトゥーサが冷たく言い放つ。

「そして、同性の冒険者への興味が異常に高いのよねえ。」

エレンがあきれた様子で付け加えた。しょんぼりするシンイチを横目に、アトゥーサはさらにまくしたてる。

「でもやっぱ、トリニティエースは至宝よね。私たちもあんな風になりたくてパーティ組んだのよ。いつかお会いしたいわ。」

うっとりとして空を見つめている、どうやら自分一人の世界に入り始めてしまったようだ。

「そして私の名前もアから始まるから、いずれは一緒にパーティ組んでクワトロエースね。」

「おい、我々のパーティー見捨てる気満々やないか。」

妄想の世界に張り込んでしまったアトゥーサに対し、ジェイミーが突っ込んだ。

なんかピザの名前みたいなパーティ名になっているぞと思いながら、これは絶対に自分の正体をばらすわけにはいかないなと考えるニーアであった。

そんな、妄想にふけるアトゥーサはさておき、ニーアが改めて帝国の動きについて現状の説明を始めた。



時は少しさかのぼり、獣魔貴族ベライグ領地。

三獣士長の一人、エルファンスは焦っていた。作戦の指揮および実行を任せた中級魔族との連絡が途絶えてから既に一週間が経っている。あと数日もすれば侵攻が始まるという報告を受けて以来、何の連絡もない状態だった。

「くそっ、一体どうなっている。ベライグ様の報告までに何とかしなくては。」

いらいらしながら自室に戻ろうとしたとき、運悪くアドベアニスと出くわした。何か嫌味を言われるかと構えたがアドベアニスからは一言だけだった。

「行くのか。」

「ああ、俺はお前のように失敗はしない。これまでも何度も帳尻を合わせ、最後には勝利を収めているからな。」

その後、しばしの間、お互いに無言になった。

「そうか、じゃあな。我が主ベライグ様のためにせいぜいがんばれよ。」

「ふん。言われるまでもない。」

そう言ってエルファンスは去っていった。アドベアニスにとって、これが、エルファンスの姿を見る最後となった。数か月後、エルファンスが、人族のSランク冒険者によって討たれたという話を聞くことになる。

「仲間のはずなんだが、なんだろな。何の感情も湧きやしねえ。魔族ってのはそんなもんか、俺は何を言ってるんだ。」

エルファンスの訃報を聞き、思わず独り言がこぼれる。

「やっぱ、どんな醜態をさらしても生きているのが勝ちだよなあ。」

自分の中に新たな価値観が芽生えつつあることにまだ自覚はしていなかった。

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