第五十二話 森林都市コールッシュ
村を出てから歩くこと数分、三人とも黙っていたがニーアが二人に声をかける。
「念のため確認だけど、次の目的地ってこっちの方向で合っているよね?」
「え、ああ、合っているぞ。ってそれ、分かってなくて進んでいたのか。」
「まあね、なんとなくこっちかなって感じで。」
既に数百メートルは歩いている。意外にもニーアは明るい声だった。
「あの王国軍の人に怒っているわけじゃないの?」
シンイチがズバリと直球で聞く。
おお、やるなシンイチ。こういうところは、素直さがいい方向に出ているといえるのか悩ましいが。。そんなことを考えながらタカキもニーアの答えを待つ。
「え、別に、大丈夫って言うから任せただけよ。だって、私たちの目的はあそこでモンスターの大群を抑えることじゃあないでしょ?タカキもそう言っていたじゃん。」
「お、おぅ、そうだな。昨日の夜話したばかりだもんな。」
確かにそう話したとはいえ、やはり目の前でモンスターが襲ってくるとなかなかそう気持ちを切り替えられるものではない。特に戦闘が始まってしまうと、アドレナリンが出まくっていたせいか形に見える勝利を求めたくなってしまう。そう考えると、ニーアは恐ろしいほど冷静だな、とタカキは思った。
一方のシンイチはやはり決着をつけたかったようで少し不満が残っていそうだ。まだまだ若いなと思うが仕方ない。こっちに来て体つきは大人びているが実際には小学生だ。感情による動機付けは若者の特権であり、自分を動かすエネルギー源にもなるだろうと思っている。
「シンイチ、さっきの氷属性の範囲魔法凄かったな。今度俺にも教えてくれよ。」
小声でシンイチに伝えてやると、少し不満そうだった顔が笑顔に変わった。
「オッケー、いいよ。今度二人で魔法の練習しようよ。少しでもニーアに追いつかないといけないし。」
その無邪気な顔につられ、タカキも笑みを浮かべて頷いた。モチベーションのコントロールはしてやらないとなと思ってのことだったが、ふと、純粋な強さでは二人に及ばない自分が親として出来ることを見つけたような気がした。
それから数日は、順調な旅路が続き、途中で遭遇した魔物を相手にタカキはブラックスライムのクロコの育成に勤しんでいた。
「お、よしよし、レベルが上がったな。順調だな。」
「タカキはまめねー。」
「まあな、子育てみたいなもんだよ。現実世界でもこっちの世界でも育児しないといけないんだから大変だよ。」
「スライム育てるのもいいけど自分も鍛えたほうがいいんじゃない。」
ニーアに皮肉を言われ、少しムッとしたタカキだったが、もっともなことを言っているため反論できない。それでもめげずに気を取り直し、クロコを鑑定してみると新しい能力が備わっていた。
「おお、物理耐性スキルのレベルが上がって、シールド擬態、装備品コーティングってのを覚えたみたいだな。」
「へー、どんなスキルなんだろ。ちょっと使ってみようよ。」
シンイチに言われ早速検証してみることにした。
検証の結果、どうやら名前の通りで、シールド擬態はクロコが盾のような形に変形して守ってくれるスキル(盾の大きさは任意だが、それによって相手の攻撃の貫通しやすさも変わる)で、装備品コーティングは武器や防具にくっついて覆うことにより、単純に防御力を上げたり、装備品を腐食させる系の攻撃を防ぐことができるというものであった。
「攻撃スキルじゃないけど、なかなか使えそうなスキルだね。」
「そうだな、攻撃だけが戦闘で役に立つわけじゃないからな。なんせうちには圧倒的な攻撃役はいるからなあ。」
そう言いながらニーアをちらりと見ると、シンイチも笑って頷いた。
「そういえば、ボアに吹き飛ばされた時も助けてくれたもんな。ありがとうな。」
タカキはクロコを抱きかかえ改めてお礼を言った、クロコもまんざらでもないというようにプルルッと震えたのだった。
また、この移動の間を利用して夜な夜な部品作りに没頭していた。現代チート無双を実現するための乗り物、つまり車を作るためである。1台の車を作るのに三万個という部品が必要と言われている。錬成スキルで作る場合、本来ねじで止める必要がある部分を一つの物体として作ることができるため、かなり部品数を減らせそうだということが分かった。それでも部品数は数百は超えるし、一つ一つの部品の構造が複雑になるため時間はかかりそうだった。しかし、プラモデル感覚で作れるため、楽しくてつい夜更かしをして作業に没頭してしまうタカキだった。
朝になると、決まってニーアに部品を渡しマジック収納Boxに格納を依頼する。収納容量が異常に大きいので助かっていた。
「なんか変なもの作ってるわね。眠そうだけど大丈夫?」
「え、ああ、大丈夫さ。ほら、元気、元気。」
ニーアに心配されてしまい、タカキは必死にとり繕うのだった。
数日間の移動ののちに、ラニキス大森林と呼ばれるうっそうと茂る森林の中に入り歩くこと数時間、ようやく、森林都市コールッシュに到着した。
町の中に入るやいなや、高層ビルのような高さの大きな木が何本もあり圧倒される光景が広がった。
「うわー、すごいね!この木の中で家のように住んでるんだね、リスみたいだよ。木の幹にいくつも窓みたいなものがが開いているよ。」
「小さい木にはツリーハウスみたいな感じで家が乗っかっているな。これこそ、ディスイズファンタジーって感じだな。」
タカキの言葉の通り、大きな木と木の隙間に小さな木がいくつも生えている。
そして、町の最奥部にせせり立つ巨大な岩山から流れる大きな滝が町全体に潤いをもたらしているようだ。
シンイチは街の独特の作りに驚きを隠せず、きょろきょろしている。タカキも先ほどまでの疲れも吹き飛んだように風景に見入っている。
ニーアは勇者パーティの時代にここに来たことはあったはずだが記憶が曖昧だった。そのため、ほとんど初見のような感動を覚えていた。
「きれいな街ねー。」
思わず感嘆の声が漏れる。
「ちょっと街の中を探検してみたいね。」
「それはいいけど、まずはやるべきことを先に終わらせてからね。」
「まずは宿を確保した方がいいんじゃないか。」
過去の経験からすぐに目的のパーティが見つかるとも限らないため、タカキの提案に皆が賛成し、宿屋に向かうこととなった。
どうやらそれぞれの大木で、冒険者ギルド関連の施設が入っている木、商業的な店が入っている木、宿泊施設、一般の居住区といった形で役目が決まっているらしい。
近くにいた街の住人に宿屋の場所を聞いた。一棟丸々宿泊施設という大きな木の根元に入り口がある。
大きな扉を開けると外見からは想像できない小綺麗なロビーが広がる。
フロントのカウンターにいた獣人族の受付係が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ、どういった御用でしょうか。」
「3名分の部屋を2週間ほど借りたいんだ、部屋は別々でも一緒でもいいけど空いているかな。」
初めての客でチェックアウトはないとなると、宿泊施設に泊まりに来る以外の理由があるのかと思ったが、そこは突っ込まないようにする。
説明によると本館と別館があるという。本館はこの大木の中の部屋に宿泊となり、別館だと周りにあった小さな木でできたツリーハウス一棟貸しになるとのことだ。周りに気兼ねすることなくゆっくりできる点を考慮して一棟貸しの別館を選択した。一泊当たり銀貨5枚(約25,000円)で、3人で泊まることを考えるとリーズナブルな価格設定である。
鍵を受け取り建物へ向かった、部屋に入るためには梯子で木を登る必要がある。高さ3mほどなのでそれほど大変ではない、むしろ秘密基地に乗り込むようなわくわく感すらあるとタカキは思った。
しかし、そんな童心を持つのはタカキだけで、二人には不満だったようだ。
「梯子じゃなくて階段にしてくれればよかったのにねー。」
「それなー、って感じ。私達はマジック収納持ちだからいいけど荷物持っていたら大変だよ。」
シンイチの不満にニーアも同調したが、確かにと思わないこともない。作るのは少し大変かもしれないが、UIが断然違う。やはりユーザーの使用感は大事だと思う。本館の方が新しいため人気だとフロントで聞いたが、こんなところに別館の不人気の理由があるのではと勘ぐってしまう。
タカキがそんなことを思案していると、後ろでニーアの声がした。
「ちょっと、早くドア開けてよ。」
「ああ、すまんすまん。ちょっと考え事をな。」
「どーせまた、技術者チックなこと考えていたんでしょう。」
「ん、いや、そんなことはないぞ。。」
あたらずとも遠からずという感じでドキッとしたが、技術観点ではなく、どっちかというとビジネス観点だよなと思い否定しておいた。
部屋に入ると、豪華さはないものの小綺麗にまとまっており、軽井沢のコテージに来たような雰囲気を感じさせる。リビングの他に寝室も3部屋あり一人づつ使うことができそうだ。
「へーいい感じね。」
「なんか、安心できるね。」
ニーアとシンイチも気に入ったようだ。導入部に難があるも、大きな問題とはならなさそうで一安心である。
少しくつろいでから、冒険者ギルドに向かった。
受付カウンターにいるギルド職員に早速聞いてみる。
「クワッドヴァルキリーですか、確かにそのパーティでしたら来ていますね。昨日までこの街に滞在していて、これから迷宮探索に向かうって言っていましたよ。」
詳しく話を聞くと、彼らが目指す迷宮はレベルが高く、かなりの高難度らしい。今のニーア達三人のレベルでは、迷宮に入った後では追いつくことが難しくなるかもしれない。そう考え、急いで追いかけることにした。シンイチは街の見物ができずがっかりしている。
「これが終わったらゆっくり見物しましょ。」
ニーアに励まされてようやく気を取り直した。
3時間ほど走り続けてようやくそれらしい冒険者パーティに追いつくことができた。向こうは特に急いで移動していたわけではないので助けられた形だ。ずっと走り続けていたにも関わらず疲労を感じないのは非常に助かるなとタカキは感じていた。ここ数週間ほど冒険者ランクを上げるために頑張って修行をしたかいがあったというものだ。
追いつくやいなや、シンイチが声をかけた。
「あのー、すみません。ちょっと待ってください、クワッドヴァルキリーの皆さんでよいですか?」
「ん、そうだけど何か?」
長身の獣人族の子が答えた、立ち振る舞いからするとリーダーのようだ。
「ちょっとお話を聞いてほしいのですが、少し時間を貰えないですか。」
「ふん、なんだい話ってのは、私達も暇って訳じゃないんだけどね。」
そこでシンイチは事の経緯を説明し、セルディス王国側についてほしい旨お願いをした。
「私たちにとってのメリットが見えないね。帝国のほうが優勢って聞くし、帝国に着いたほうが、勝ち馬に乗りやすいんじゃないのかい。」
「でも帝国は負けますよ。」
シンイチは負けずに言い返す。
「根拠が薄いね、なぜ帝国が負けると言い切れる、騎士団の戦力だけを見ても3倍くらいの差はあるって聞くよ。」
「確かに軍隊の兵力だけで見ればワシュローン帝国にかなわないかもしれませんが、優秀な冒険者が何人もこっちについています。例えばSランク冒険者のスタークやダミアン、あとはAランクだとライジングサンとかビースツガーディアン。」
「へえ、確かになかなかのメンツだね。でもそれをすぐに信じられるほど私たちもお人よしじゃなんでね。適当なウソを言ってうまいこと利用しようとしているだけかもしれない。」
「そんな!」
シンイチが反論しようとしたが、タカキがそれを制した、向こうの言うことももっともで何か証明しないと信じてもらえないだろう。冒険者にはそれくらいの猜疑心は必要である。反論する代わりに提案を促した。
「では、どうすれば信じてくれるかな?」
「そうだな、お前たちの力を示してもらおうか。我々が協力するに足る力を持っているか。」
いやな予感、、、ニーアは心の中で思った。
「私たちと勝負して勝ったら、話を聞いてあげるよ。」
「じゃあ、1対1で決めましょう。」
ニーアが提案すると、
「駄目だ、我々はパーティメンバーの連携でAランク冒険者としての本領を発揮する。やるのはあくまで団体戦だよ。」
やはり駄目か、、、相手はAランク冒険者、こっちは自分がAランクであるものの、他の二人はCランクとDランク、シンイチもタカキも平均的なC,Dランクよりは上であると確信を持って言えるが、Aランクにどこまで通じるかというと難しい、普通であれば勝てるはずがない。つまりはそもそも話を聞く気がないということなのだろう。どこまでできるだろうか、、不安な気持ちがニーアを包む。
「ちょっとジェイミー!」
「勝手に決めないでよ、今はダンジョン攻略が優先でしょ。」
エルフと人族の冒険者が、獣人族の子に抗議をしている。お互いの主張を言い合い争っている。その間にタカキはそっとニーアに近づき二言、三言、言葉を交わす。ニーアは固い表情のまま無言で頷いた。
「リーダーの私が決めたんだから文句はないだろう。何も殺し合いをするわけでもないんだし。」
結局、ジェイミーと呼ばれている獣人族の意見で落ち着いたようだ。
ニーアたちにとっても目的を達成するためには選択の余地はなかった。向こうは4人パーティだが、こちらの人数に合わせて3対3の模擬戦を行うこととなった。数少ないプラス材料としては相手のエース格と思われる男性ドワーフが見学に回ったことだろう。
「さあ、始めようか。」
三人同士で対峙する、見学に回ったドワーフが開始の合図を出した。
「それでは、始めい!」




