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第五話 模擬戦

王族との謁見を終えた二人は、慎一の冒険者ギルドへの登録をしに行くことにした。今後を考えると何かとメリットが大きいためだ。

ただ今の慎一のレベルで行っても冒険者登録ができるかどうか、その点が少し不安なところである。


王宮内の訓練場の横を通過すると、王国軍第一騎士団が鍛錬中だった。ふと、アイの頭にアイデアが浮かんだ。兵士の訓練を見守っていた第一騎士団長のクロスウェルに声をかける。

「ねえ、クロスウェル、端っこの方でいいから訓練場を少し貸してもらえないかしら。」

「これは勇者アイ殿、お身体はもう大丈夫なのですか?!」


クロスウェルはその実力を買われ第一騎士団だけでなく近衛騎士団団長も兼任している。

この国の騎士団は第一から第九まであり、各騎士団は数千から数万の規模で編成されている。それぞれの騎士団の中でさらに部隊が細分化されており、斥候部隊、近接歩兵部隊、騎馬部隊、遠隔物理部隊、魔法部隊などがある(必ずしもすべての騎士団にすべての部隊が存在するわけではない)。第一騎士団は王都の守備、治安維持を担当しており、他の騎士団は各主要都市での守りを務めている。特に第一から第四騎士団は強力な軍隊で編成されており、第一騎士団の王都をはじめとして、帝国との国境沿いといった、隣国から攻められる危険が高い大都市を守っている。第五以下の騎士団は、有事の際に第二~第四騎士団の援軍に向かう役務を担っており、国内のいろいろな都市で転々としながら日々訓練をしているらしい。そして、それらとは別で王城を守護する近衛騎士団がいる(こちらは数百人の規模らしい)。

その近衛騎士団と、王都守護の第一騎士団の団長を兼任しているのがクロスウェルで、その統率力もさることながら、個としての戦力も騎士団のトップクラスであるのは間違いなかった。 というのがアイが持っているセルディス王国の軍事力の情報であった。


「アイ殿が目覚めたと聞いてほっとしました。訓練場を貸すのは全然かまいません、どうぞ自由に使ってください。何かトレーニングですか?」

「うん、ちょっと私の弟を鍛えてあげようと思ってね。」

そう言って少し離れている慎一を見た。慎一は話が聞こえていないようできょとんとしている。

「なるほど、それは良いですな。ところで、もし体調に問題がないのであれば、久しぶりに稽古をつけていただけないだろうか。」

クロスウェルは相変わらず真面目だな、しかも2か月寝たきりで目覚めたばかりの相手に稽古をつけてくれとかどんだけ空気が読めないんだ。。心の中でそう呆れつつも、自分の体の調子も知りたかったため久しぶりに剣を交えることにした。


「しょうがないわね。でも、こっちは身体がなまっているかもしれないから手加減してよね。」

そう言いながらも久々の戦闘ということで少しテンションが上がっているようだ。慎一を鍛えてからと思ったが、向こうもすでにやる気モードになってしまっているので先にクロスウェルとの模擬戦をすることになった。


勇者パーティに入りたてだったころは、アイが騎士団のメンバーに稽古をつけてもらう立場だったのだが、いつのころからか逆転して騎士団に教える立場になっていた。さらに魔王討伐の直前の頃には、勇者パーティの最後に加入したメンバーが騎士団の相手をする役目になっていて、それを遠めに眺めていたものだった。

自分の武器を使うのは大人げないかと考え、騎士団の稽古場にある練習用で刃の無い鉄剣を借りることにした。両手で剣を構え対峙する。

「アイちゃん頑張れ!」

慎一が無邪気に応援している。

審判として立ち会ってくれた副団長セーラが始めの合図を出した。


ウォームアップ代わりにと、クロスウェルが切り付けてくる、それを受け止めてつばぜり合いとなる。押し負けることはないが、こちらも押し切れない、力では互角のようだ。

以前は押し勝てたはずなのに、クロスウェルが強くなっている、あるいは、自分の2か月間のブランクのせいだろうかと藍は思った。身体強化スキルなどで能力開放をすれば力押しもできなくないだろうが、借り物の剣では耐久がもたず折れてしまう可能性が高い。

少し押し込んでから一気に下がり距離をとる。再び正対し、互いにすきをうかがう。

そして、再びクロスウェルが動いた。

鋭い突きを繰り出し、藍がそれを薙ぎ払ったところ、払われた勢いを利用してそのまま切り付けてくる。藍はそれも紙一重の見切りでかわした。

「ブランクがあるとは思えない、さすがですね。」

「ふふ、ありがと!」

激しいやり取りの中でクロスウェルが声をかけ、藍もそれに応える。

さらにクロスウェルの突きが来る、さっきと同じかと思いきや今度は三段突き、さらに連続して十字切り、ダブルスラッシュと次々と剣技スキルを繰り出してきた。息をつかせぬ連続攻撃で、実に数分に及ぶラッシュとなった。

それを全て捌ききったところで、今度はアイが反撃に転じ、エアスラッシュを放った。空気を切り裂くことで真空波を飛ばす剣技で、風属性の剣技スキルのため、風の加護持ちのアイにはピッタリの技だ。この刃の無い訓練用の剣で繰り出したスキルであれば、万が一直撃しても致命傷になることはないはず。クロスウェルが、エアスラッシュを剣で受ける。間髪入れずアイは連続でエアスラッシュを繰り出す。クロスウェルが我慢できなくなって横に躱した瞬間を見逃さず、縮地で素早く距離を詰め切りかかる。クロスウェルはそれにギリギリで反応するも、別の方向から来た斬撃を食らい、チェックメイト。実は前もって逃げる位置を予測しそこに速度が遅めのエアスラッシュを飛ばしていたのだった。あとは気付かれないよう間を詰めて自分の攻撃に集中させるようにし、エアスラッシュが直撃するまで待っていたのだった。


「参りました、さすがですね。スタミナ切れを起こしたつもりはないのですが。連続のエアスラッシュを躱さずに我慢して受け続けるべきでしたかね。」

「そうね、まあ、それならそれでまた別の手を考えていたけどね。躱すのなら見えてなくても全てかわさないとね。とはいえ、私もぎりぎりだったわ、あなたも腕を上げたのね。」

「はい、これでも最近はレベルも90まで上がり、Aランク冒険者ともいい勝負ができるようになってきています。しかし、アイ殿にはやはり勝てませんでしたか。見えないものまで躱せ、はかなり無茶な要求ですね。」

そう言って二人笑った。無事に勝つことができた、とはいえ、一週間、現実世界で普通の生活を送っていたせいか、ブランクを感じる。修行のやり直しが必要だな。。そんなことを考えながら皆が見ている場所まで戻ると、観戦していた慎一が興奮している。やはり男子は剣と魔法の世界に憧れがあるのだろうか、目をキラキラさせてアイを見ている。これまでの人生でここまで弟から賞賛と尊敬のまなざしを受け取ったことはなかっただろう。私が始めてこの世界に来たときは慣れるのにかなり時間がかかったのだけどなあー、知り合いがいるという安心感も影響しているかもしれない、とアイは考えていた。


「さて、次はだれかやる?」

たいてい一人で終わらないことを理解しているアイは次の相手を募集した。

「アイ様、次は私とも模擬戦をお願いします!」

そう言って手を上げたのはサーシャ王女であった。いつの間にか見に来ていたらしい。サーシャ王女はクロスウェル団長ほどではないものの、その辺のBランク冒険者並みには強いため快く相手をしてあげた。今度は半分くらいの力で捌ききることができ、王女のレイピアが手から離れアイの鉄剣の先がサーシャ王女の目の前に突き付けられた。

「さすがですわ、参りました。。」

「サーシャ王女、今のまま訓練に励めばもっと強くなれると思います。もっとも、王女様がそこまで強くなる必要が有るかはわかりませんが。」

アイはそう言って笑う。サーシャ王女も笑顔を浮かべた。

「王族たるもの、ただ守られるだけでなく自らも民を守る力を身につけることが必要、というお父様の言葉ですわ。」

サーシャ王女の言葉に、アイもうなずく。最初の団長との模擬戦で、少しずつ体が動きを思い出してきたようだ、我ながら危なげない戦いだったとアイはほっとする。その後も希望する近衛騎士および第一騎士団の騎士を相手に次々と模擬戦を行い、全て倒していった。思いがけずちょうど良いリハビリとなった。


全員の相手を終え、ようやく慎一を鍛える番となった。

冒険者ライセンスをもらうためにはギルド職員との模擬戦の試験に合格する必要がある、それに向けての特訓をしようという訳である。

アイは鉄の剣から木剣に持ち替え、慎一にも同じものを渡した。互いに木剣を構える。

「さあ、慎一!どこからでもいいからかかっておいで!」

アイが焚きつける。慎一はさっきまで見ていた模擬戦で精神が高揚していたようで、すぐに飛びかかってきた。

大振りだが、なかなか悪くない太刀筋である。

「てやっ!」

何度も切りかかってくるが、アイはそれを軽くいなす。

「ほらほら、隙だらけだよ」

軽くトン、トンと木剣を体に当ててやる。根性物の少年漫画であればここでボコボコにされ、そこからはい上がって強くなるパターンかもしれないが、かわいい弟を傷つけるなんてアイにはできなかった。

「くっそぉ。」

全く攻撃を当てることができず、とても悔しそうだ。

レベル差を考えたら仕方ないのだが。。そんなことを考えていて、ふと、先ほど聞いたステータスの資質の話を思い出した。

「そうだ、剣じゃなくて槍にしたら。あと、資質はなんだっけ、盾?」

あれ?槍と盾って共存できるのだろうか。。基本的には片手剣に盾ってイメージがあるけど槍は両手で扱うものだからどうするのだろう。

「ま、まあ、最初だし槍だけでいいんじゃない。」

一旦戦いを止め、鉄槍を渡す。槍なんて使ったことないよとぶつぶつ文句を言いつつ構える。

現実の世界じゃ剣も使ったことはないでしょうと思ったが、あえて突っ込むことはしない。

槍に持ち替えた慎一は突き主体で攻めてきた。突きの鋭さはいい感じ、剣の時より速い。

とはいえ突きだけの単調な攻撃、これではどうしようもない。

「突きだけじゃなくて、他にはないの!?」

「うるさいなぁ!」

怒りに任せて今度は槍を振り回してくる。

うーん、逆効果だったか、リーチが長い分、剣の時より振りの速度が落ちている。

速く振り回すにはコツが必要なのだが、槍全体を振り回そうとするとかなりの筋力が必要となり、今のレベルではスピードが落ちてしまっている。


基礎から教え込むしかないか、、、槍は専門ではないけど槍術はMaxレベルの10に対して、レベル5はあったはずなので基礎的な部分は教えることはできるだろうだろう(ちなみにアイの剣術レベルはMaxとなっている)。

それでも慎一は諦めずに攻撃を仕掛けてきており、動きが少し良くなっているような気もする。

とりあえず、一回終わらせるかと薙ぎ下ろしてきた攻撃を見切りで躱し、慎一の胴体に一撃入れようとした。その瞬間、慎一の体が宙を浮き、アイの剣をかわす。ちょうど棒高跳びのように槍を支点として飛び上がった形である。そのまま一回転してかかとを落としを繰り出してきた。

予想外の技に思わず左腕でかかと落としをガードする。レベル差があるためダメージはないものの、アイとしては一本取られた気分だ。少しむきになってしまいガードした腕で大きく振りほどき慎一の体を吹き飛ばす、そしてそのまま距離を詰め横腹に一撃を食らわせた。

前言撤回だ、やはりスパルタ方式で行くことになりそうである。


「痛ったぁ!」

転がって悶絶する慎一。周りで見ていた皆が驚いた。

そりゃそうだろう、ここまでの慎一との模擬戦を通して軽く当てるだけか、剣先を喉元に突きつけるだけだったのが、急にクリーンヒットさせたのだから。その前の騎士団メンバーとの模擬戦においてもクロスウェルを除いて全て寸止めで制している。

もちろん手加減はしたが、おなかのあたりをみると、木剣が当たったところが真っ赤になって腫れている。ヒールをかけてやると腫れが引き、痛みもないとのことで、大事には至ってなさそうだ。このレベル差だったら骨が折れていてもおかしくなかったが、守りの加護のおかげだろうか。

アイはごめんねと言いつつアドバイスをしてあげる。

「意表をついたいい攻撃だったけどまだまだね。槍は、大きく振り回すんじゃなくて、切っ先部分だけで薙ぎ払わないと隙が大きくなってしまうわよ。」

「うーん、それは理解したけどめちゃくちゃ痛かったんだけど。。。でもなんか体がスーっと軽くなるような感じがする。回復魔法のおかげかな?」

「あら、そう、じゃあレベル上がったのかもね。ステータス確認してみなよ。」

慎一はいわれるがままにすステータスウィンドウを開いた。

「あ、ほんとだ!もうレベル4になってる!しかもスキル【ヴォールト・ムーンサルト】ってのを覚えているよ。」

ふむ、さっきの技が【ヴォールト・ムーンサルト】か。あまり聞いたことがない技ね、固有技なのだろうか?さすがは槍の資質持ちといったところか。スキルを覚えるのが早くてうらやましい。。

慎一に確認してもらったところ、やはり固有スキルのようだった。

ちょうどいいのでスキルについて少し説明をしておくことにした。


「スキルの中には、一般スキルと固有スキルってのがあって、一般スキルは通常のレベルアップとその武器の習熟度が上達していくことで覚えていくわ。そのスキルを使用するに必要な力とか素早さとかがレベルアップによって満たされたときに覚えるって感じね。勿論その武器の習熟レベルも関係しているわよ。槍で言うと二段突きとか、薙ぎ払いとかが代表的な初級スキルね。慎一は槍の資質持ちだから、一般スキルを覚えるのに必要なステータスの能力値は一般の人より少なくて済むはずよ。だから、資質持ちの武器を鍛えたほうが効率がいいってことね。もちろん気分転換がてらにでも他の武器を使えるようになっておくことも悪くないわよ。戦う地形によっては射程の長い武器が使いづらいところとか出てくる可能性もあるからね。」

慎一はうんうんと頷きながら、真剣に聞いている。アイはシンイチ真面目な姿勢に満足し話を続ける。

「次に、固有スキルだけど、個人だったり、ジョブだったり特殊な武器に依存するもので、例えば、竜騎士のダイブ系のスキルはジョブ固有のスキルね。さっきの模擬戦で使ったなんとかムーンサルトだっけ、あれはおそらくシンイチ個人に紐づく固有スキルだと思うわ。固有スキルのジョブと個人でも覚え方に差があって、ジョブの固有スキルはそのジョブで習熟していけば覚えることができるけど、個人の固有スキルはレベルに関係なく、その人自身が自分の経験や能力で編み出す必要が有るわ。もちろん、レベルが上がると各種身体能力が上がるから、固有スキルを体現しやすくなるってのはあると思うけど。」

「なるほどね、とりあえずレベルアップしておけばいいってことだよね。じゃあ、もう少しやろう!」

アイの説明を聞いて、慎一はがぜんやる気を出した様子である。そのあと数回の模擬戦をこなし、レベルも10まで上げることができた。アイとのレベル差が大きいので、経験値が多く貰えることですぐにレベルアップしていくのだろう。

何度か模擬戦をこなす中で分かったのは、どうやら慎一は体術と槍術を組み合わせたスタイルが合っているようだ。とは言っても体術は蹴りばかりである。

槍を持っているから仕方がないのかもしれないが、槍を上に投げつけてその間にラッシュ攻撃を仕掛ける「メテオラッシュ」という固有スキルを覚えた時も、ラッシュ時は両手が空いているのにも関わらず蹴りばかりだった。拳での打撃攻撃を加えて試してもらったが、拳での打撃を混ぜるとバランスが悪くなり明らかにラッシュのスピードが下がる。何か制約があるのかもしれない。

また、上に投げた槍についても、最初こそアイをめがけて飛んできたが、それ以降は全く別の場所に突き刺さっていた。おそらく、魔力での槍の操作、体術での落下地点への誘導などが必要なのだろうが、まだそこまでのコントロールできる能力が備わっていないという印象である。

最後はシンイチがへとへとになっていたため、その日の訓練は終わりとなった。


シンイチ:Lv1→8、HP25→105、MP0→64、力4→28、速さ2→26、守り5→37、魔力3→27、精神4→36


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