第四十一話 新たなる旅路
朝食を食べながら話しの続きをする。パパからの細かい質問に答えることで一通りは理解してもらえたようだ。
「そうか、それで寝る前にあんな質問を。。よし、じゃあいっちょ、この世界を救ってやらんとな!」
メチャメチャ気合が入っている、、空回りしそうで心配なくらい。いつもとキャラが違うような。。
「簡単に言うけど、相手は魔族と国が相手なのよ。どうするって言うの?」
「そんなの、、気にせず悪いやつは片っ端からぶっ潰せばいいだろ!RPGってそういうもんじゃないか。」
あ、この人ダメかもしれない、ただの脳筋だ。。 ニーアは気付いてしまった。現実世界では、大手企業の研究職で頭使って難しいことやっているはずなのに、、ニーア自身もよく友達から脳筋と指摘されていたことを思い出しやっぱり私のパパだけのことはあると思うのであった。そんなニーアの不信感を感じ取ったのか、タカキが補足を始める。
「まあ、もう少し真面目に言うと、最初は話し合いを試みるのだろうな。それでも駄目ならという話だよ。」
「どうやって話し合うのよ?魔族も帝国の偉い人もそんな簡単に会えるものでもないわよ。」
「ん、そうなのか?魔族はともかく、普通にお城に行けば王様とかには会えるんじゃないのか?」
どうやら脳筋というよりゲーム脳のようだ。
「普通の一般人がほいほいと簡単に会えるわけないじゃん。さっきも言ったけど勇者だったってことは隠さないといけないんだから、セルディス王国以外の国から見たら私だって普通の一冒険者よ。」
「そっか、それなら仕方ないな。いずれにしても、既に帝国が他国侵略に向けての準備を始めているという状況はよろしくないな、何かしら対策を講じるべきだろう。その、藍が懇意にしている国、セルディス王国だっけ、そこのトップはその事実を知っているのかな?そういうハイレベルでのパスを使って他の国との共同戦線を張るってのも大事じゃないかと思うけどね。帝国への牽制、抑止力としては大切になるぞ。」
意外と政治的な観点でもの言うのね、と少しだけ心の中で見直した。そういや、三国志のゲームが好きで良くやっていたっけ。結局はゲームか、、と少しあきれつつも、大事なことは漫画とゲームで学んだとかつて父親が公言していたことを思い出したのだった。
「藍、大丈夫か?」
ついぼーっと考えていたので、パパから心配されたようだ。
「セルディスの王には、別のAランク冒険者パーティが報告しに行ってくれているわ。ただ、王都までの距離はここから数百キロあって、10日以上かかるから、まだ王様の耳には入っていないかも。。」
「なるほど、エスカレは実施されているが、まだ途中と、、仮に国のトップ同士で話ができたとして、連携できそうな国はあるんだろうか、この手の危機管理というやつはスピード重視の対応が必須なんだが。。セルディスの国王も話を聞いてすぐに動いてくれるといいが、、」
エスカレってなんだ?と思いながらも、ニーアは細かいことは突っ込まず話を進めることにする。
「私たちが戻ってセルディス王に伝えたほうが良いかしら?」
「うーん、難しいところだね。伝える側、つまりそのAランク冒険者パーティがそういう危機感を持った報告をするかにもよるんだよな。。」
「そこは心当たりがあるから確認してみたほうがいいわね。」
ニーアは再度シモンに確認しようと考えていた。
「オーケー、その確認結果次第で俺たちが向かうかも判断しようか。」
タカキも同意する。シンイチは会話に入って行けず黙って聞いている。体は大きくなっても中身は子供、ということを痛感し少し悔しくなる。
「次は各国間での連携ね。協力できそうな国については私でも説明できるからするね。」
そう言って地図を広げる。ニーアはすでにご飯を食べ終え食器も下げられていた。
「まず私たちがいるセルディス王国がここね。その中で、今いるのはここオスティアよ。北に帝国の領土が広がっていて、西の隣国のシュテイン共和国、そのシュテインと帝国に挟まれた位置にあるカプトル商業独立国家、この2か国とは同盟関係にあるわ。」
「ただ、北東にあるラニキス王国とは同盟を結べていないの。セルディス王国としては、ラニキスにも同盟を持ちかけているようだけどなかなか良い返事がもらえないみたい。出来ればラニキスとも同盟関係を作って、そして西の大国オースターリア共和国とも同盟が結べると帝国への抑止力となると思うんだけど。。。んー、でもさすがにオースターリアとは難しいかな。。」
「意外と国の数が少ないんだな、他の大陸とかはないのか?帝国の北にも何かありそうだけど、ここは無人?」
地図を見ながら、説明を聞いて湧いた素直な質問をタカキはぶつける。
「帝国との戦況に影響を与えないから端折ったけど、シュテイン共和国と、オースターリア王国の間にいくつかの小国があるわね。ここは帝国の勢力を跳ね返せるほどの軍を持っていなくて他の大国に守ってもらっている形だから味方のはず。帝国の北には海をはさんで、魔族領の大陸があるわね、大陸と言っても、見ての通り帝国やセルディス王国があるワセラティア大陸よりはかなり小さいけど、、、確か、帝国領と同じくらいの大きさだったかしら。あとは、大陸から離れているから説明を端折ったけど、オースターリアよりさらに西に少し小さめの大陸があって5つの国が治めているわ。あと、セルディス王国のはるか東にもレフージョカとダニエストルって島国があるわ。島国って言っても日本の国土の4~5倍の広さはあるらしいけど。」
一通り聞いてタカキは腕組みをして考えていたがやがて口を開いた。
「なるほど、説明ありがとう。現時点ではオースターリアを味方に引き入れることができない限りはシュテイン、セルディス、カプトルの同盟を組んでも軍の規模としては帝国のほうが上ってことか。そうだとすると、こちらとしては軍以外の戦力、冒険者をどれだけ自勢力に取り込めるかがポイントだな。」
「そうね、けど、その点もさっき言った通りで、帝国に先手を打たれている感じだけど。。SSランク冒険者が既に二人、帝国側についているわね。Aランク冒険者パーティも10組前後は帝国に取り込まれていると聞いたわ。」
「因みに、オースターリアは難しいってことだったけど、ラニキスにはセルディス王国から使者は出しているのかな?」
「うん、うん、まさにそれなんだけど、セルディスとラニキスで同盟関係を結ぶってのは簡単じゃないから、使者は出ないと思うわ。歴史的に種族的な問題でいろいろ軋轢があるらしいわ。帝国はそこも分かっているから、あえてラニキスは放っておいていんじゃないかな。」
それを聞いてタカキは思わずうなってしまった。
「うーん、なるほどなぁ、なかなかうまくいかないもんだなあ。藍さあ、味方にできなくても少なくとも帝国側につかないように説得は出来ないのかねえ?この世界だと結構な有名人なんだろ?」
「そおねえ、どうかな、確かに勇者パーティのアイとしてであれば顔は売れてると思うけど説得に応じてくれるかは五分五分かなぁ。」
必ずしも、勇者が万人にとって好意の対象とは限らない、勇者が来るのが遅れて、大切な人を失った、故郷が魔王の軍勢に滅ぼされた、勇者と魔王軍との戦闘の余波で畑や家屋などが被害を受けたなどの理由で恨んでいる人もいると聞いたことがあった。
「そうか、、今後どうするかは決まっているのかい?」
「特に、今後の予定はないわ。基本自由にしていいとセルディスの王様からは言われているし。とはいえ、戦争は起こってほしくないから冒険者の説得はしてもいいかもとは思っているわね。この国にいる冒険者は基本的にお願いするまでもなくセルディスに味方する人が多いと思うから、ラニキス王国に行ってみようかなって思っていたの。ついでにラニキスの偉い人に会うチャンスがあれば私のほうからも同盟の説得かな。」
パパからも特に反対はなく、当面の目標はパパのレベルアップも兼ねて隣国のラニキス王国に行くこととなった。
ラニキス王国はセルディスと同盟関係は無いが、帝国と仲が良いわけでもなく、いわゆる中立国である。
とはいえ、もしもセルディス王国が落ちたら次にラニキスが狙われるのは明白なので決して帝国の味方をすることはないはずだ。
朝食後、ライジングサンのシモンにセルディス王への言づてをどのような温度感で頼んだかを確認しに行った。シモン曰く
「帝国がいつ攻め込んできてもおかしくない状況で一刻の猶予もない。至急、侵攻に対する準備をするように。」
という形で報告するようにビースツガーディアンのレオンに依頼したとのことなので危機感は伝わるはずである。
ラニキス王国に旅出つ前に、パパの身支度を整え、ギルドでの冒険者登録を済ませる。
最初は少し修行をしてからが良いかとも思ったが、本人が自信がありそうだったのとシンイチとは違い大人だということから、すぐに試験を受けてもらった。
試験官との模擬戦は死闘であったが、持ち前の運動センスでなんとか乗りきったのであった。
「いやあ、けっこう緊張したなぁ。普段から身体を動かしておいて良かった。まあ、でも余裕だったな。」
そう言って笑顔で戻ってきたが、告げられたFランクでの合格という結果にはかなりショックを受けていたようだ。結局、体のキレが悪いとモンスターの攻撃をかわせないため(武器や盾で受けるしかない)、想定以上の攻撃力を受けて死亡リスクが高まると判定される傾向がある。モンスターの攻撃を受け止めきれなくなる、ということを過去の先人たちが身をもって体験しこのような採点基準があるのである。確かにパパは試験官の攻撃をほとんど躱せず、剣で受けるか、体の入れ替えで当たるところをずらすことで、ダメージを最小限に留めるようにすることが多かった。
「なんで最低ランク、、普通、異世界から来たらチート能力とか便利なスキルを授かってるんじゃないのか。。」
「まあ、ギリギリでも合格して良かったじゃない。これですぐに旅立つことができるわ。試験に落ちて冒険者になれていなかったら、国境超えるときの身元証明がとても面倒になるところだったから、どうしようかなと思っていたのよ。そういえばステータスも後で確認してみないとね。」
「やっぱり俺も、もう少し鍛えてからのほうが良かったかな。」
「シンイチの時はそうしたんだけどね、心配だったし。まあ、パパは大人だし大丈夫かなって。」
ニーアが笑いながら言い訳をする。
「鍛え直してから再度試験を受けて、ってなると数日ロスしちゃうしね。とりあえず冒険者になってしまえば、あとから私が鍛えてあげるわよ。」
それを聞いて、パパは納得して頷いていたが、シンイチはニーアが鍛えると聞き戦慄を覚えたのであった。
「あ、あと、ついでにジョブ特性も見てもらいましょ。」
そう言いながらギルドの受付職員に依頼をして、パパのジョブ適性を見てもらう。
「あら、珍しいですね、テイマー、錬金術師、忍者といったところが適正と出ています。」
うーん、攻撃型のジョブじゃないな、いまいちかも。強いて言うなら忍者だろうか、隠密行動で帝国のアレコレを調べてもらうのもいいかもしれない。
「やったぜ、じゃテイマーでお願いします!」
ニーアがそんなことを横で考えていると、勝手にパパがギルドの受付嬢に無邪気に伝えている。さっきまでFランクで落ち込んでいたとは思えない立ち直りようである。
そんなにあっさりと決めないでと言おうとしたが、もう時すでに遅しでそのまま登録されてしまった。セカンドジョブも錬金術師になっている。
「ああ、忍者の隠密スキルが。。」
ニーアががっかりしていたが、本人は意に介さずという感じだった。
「自分自身のの戦闘能力が高くなくても、テイマーで伝説級のモンスターを従えて無双とか、錬金スキルで無双とかもあるかな。そっち路線で行くか。」
さすがは一流企業のサラリーマンというべきか、どうやら、キャリアプラン(自身の育成方針)はしっかりと立てているようだ。
登録名もシンイチと同じく本名での登録としてタカキとした。
「俺のことはタカさん、タカキさんと呼んでくれ。まあ、呼び捨てでもいいよ。家族ってのがばれると人質に取られたりとかよくないことがあるかもしれないからパパはなしにしよう。藍、いや、ニーアの戦闘能力が制限されることになると厄介だからな。」
なるほど、確かに一理あると、ニーアとシンイチも納得した。二人のこともそれぞれ冒険者名で呼ぶことで認識を合わせた。
ようやく旅の支度を終えてオスティアを出た。思えばこの街にも長らくお世話になった。ここでもSランク冒険者のスタークさんやダニエルさんなど素敵な出会いがあった(正確にはオラキ島でだが。。)。そんな感慨を覚えつつも、皆長期間のクエストに出ているようで、残念ながら出発前のお別れの挨拶をすることは叶わなかった。




