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第四十話 父親

家に帰ると、パパが夕飯の支度をしていた。ママは今週も海外出張で不在である。昔の父親は何にもしなかったけどなとおじいちゃんのことを思い出して言っていたが、今の時代を反映していると言える。慎一はテレビで映画を見ている。むしろ、慎一がおじいちゃん化してふんぞり返っているようだ。

「ただいま、なんか手伝おうか?」

「おう、お帰り、遅かったな。手を洗っておいで。もうできるから、やることないならゆっくりしていていいよ。」

やることもないので、言われた通り慎一とテレビを見る。

かなり昔の作品で、宇宙人と少年が友達になり、宇宙人をかくまったがために大人に追われたり、大きなけがを負ったりと、紆余曲折を経て最後には宇宙人が星に帰るまで手伝うといったストーリである。慎一は真剣に見入っており、最後のお別れのシーンでは感動して涙を浮かべているようだ。照れ隠しであくびをしたことで涙が出たふりをしている、藍は特に気付いていないふりをした。

「感動して泣くことができるってことは恥ずかしいことじゃあない、相手の気持ちに共感できているから涙することができるんだ。他人への思いやりができるってことは素晴らしいことで大切なことだと思うよ。」

テーブルに夕食を並べながらパパが言う。

おお、折角私は気遣ってスルーしてあげたのに言うんかい!と心の中でパパに突っ込みを入れる。

確かに、慎一の相手への共感力は優秀である。藍は前回の護衛任務の悲劇を思い出した。その言葉に慎一は照れ臭そうに笑いながらうなずいていた。私が言っていたら、茶化す感じになってケンカになったかもしれないが、相手を不快にさせない言い方はさすが父親である。

そんな慎一を横目に藍はというと、明日からのことが頭から離れず考えて続けていた。一緒に映画を見ていたものの、それほど頭に入ってこなかった。

「人と宇宙人ですら仲良くなれるのにな。」

とつぶやいてみる。人と魔族、人と人、争いは絶えず悩みは尽きない。

そんな私を見て、親として何か思うところがあったのかパパが話しかけてくる。

「どうした、何か悩み事でもあるのか。」

「うん、ちょっとね。」

つれなく答える。

「人間関係とか?年頃だからいろいろありそうではあるな。」

「友達とは仲良いしそこは問題ないよ。」

「そうか、、子供が親を頼るのは当たり前のことなんだから、遠慮なんてする必要ないぞ。」

思春期の子供への対応の仕方を考慮しつつも、更に粘るパパ。どうしても話してほしいらしい。

しかたない、少しだけ話してあげようかと思い藍はボソリボソリと話し始めた。

「じゃあ、そうね、どうして人と人は争うのかしら。」

「ん? 随分とスケールの大きい悩みだな。何か譲れないものがあるときに争いってのは起こるんだろうな。その譲れなさの度合いは大小の差はあるにせよね。」

「そういう時ってどうしたらいいのかしら。」

「うまいこと折衷案がでて落としどころが見つかればいいんだけどね。誰もが満足するってことはないだろうね。」

「学校で友達とけんかしているのか?もし良かったら、具体的な内容を話してみなよ。そうしたらもっと良いアドバイスができるかも、何か役に立てるかもしれないよ。」

パパが食いついて離さないといった感じだ。普段であれば面倒くさいと感じるところだが、答えが出ずに悩んでいることもあり、少し心が楽になっていることに気づいた。藍はちょっと考えたのち、話してみることにした。

「うん、ありがとう。別に誰かとケンカとかしている訳じゃないよ。さっきも言ったけど友達とはとっても仲がいいし。しいて言うならグループ同士の争いに巻き込まれようとしてるって感じ?あとは、自分の責任の範疇を超えるような決断を求められる時ってどうしたらいいんだろうっていう話。ちょっとまだ抽象的かな?」

「うーん、そうだなあ、具体的な判断を求められる内容が分からないから一概にこれだというのは難しいが、究極的には他人に丸投げするか、自分で決めるかの2択になるのかな。もちろん自分で決めるにしても、いろいろな人の意見を聞いて決めるのと、自分だけで考えて決めるのは違うよね。むろんおすすめは前者だけどね。一方で、他人にゆだねる場合でも、その委ねる人を自分で選ぶのか、それともすでに何か既定路線があってそれにただ従うのか、というのでもまた状況が異なるだろうね。」

うーむ、思ったよりまともなことを言うな、さすがは父親。いざという時は頼りになるのかもしれないと父を見直した藍であった。

「ありがと、すぐに話せるようになると思うからちょっと待って。」

「そうか?何度も言うけど親に遠慮すんなよ。よし、じゃあご飯にしよう。」


夕食後、いつも通りに勉強や身支度をすましているうちに、就寝の時間となった。勉強しながらも、やはり向こうの世界が気になってあまり効率よくはかどらなかった。慎一には先に寝ていてと伝えておいた。布団に入るときにパパがふといつもとの違いに気づいたようだ。

「あれ、今日は藍ちゃんが真ん中なのか、珍しいな。いつもは慎一が真ん中なのに。」

「えへへ、たまにはパパの横で寝ようかなと思ってさ。」

「そか、まだそんな子供みたいな一面も残っているんだな。」

「パパって、私たちから頼られたらうれしい?それが自分の人生にかかわるような大きなことだとしても?」

最後の確認の意味で質問をする。

「そうだな、大変って思うこともあるだろうけど、やっぱり子供から頼りにされるのはうれしいことだと思うよ。」

笑いながらそう言うと、そのまま眠りについた。それほど重要な質問とはとらえていなさそうな反応である。

まあ、そりゃそうか。藍は最後まで迷っていたが、最後の答えを聞いてついに決断した。

巻き込んでごめんねと思いつつパパと慎一の手を握り眠りについたのであった。


今日は久々に熟睡したな、普段は何となく疲れが残っている感じがするものだが身体が軽い、数年若返ったような感覚だ。久しぶりに12時前に寝たのが良かったのだろうか。ん、なんか布団の感触がいつもと違う。

今何時だろうと時計替わりのスマホを手探りで探すが見つからない。多佳棋は仕方なく眼を開き体を起こすと、そこは見たことの無いホテルの一室のようだった。隣のベッドには誰かが寝ており、そのさらに向こう隣のベッドも膨らんでいるということは誰かいるのだろう。

夢にしてはずいぶんとリアルな造りだった。立ち上がり部屋の中を調べてみるがテレビも冷蔵庫も無い、きれいで豪華な作りの割にサービスの質はあまり良くなさそうだ、といったことを考えていた。ふと、窓の外を眺めると海が見え、そこには中世ヨーロッパで活躍したようなガレオン船が何隻も停泊している。窓に近づきもう少し周りの景色を見てみると、日本のそれとはかけ離れた建築様式の建物が並んでいた。

おいおい、マジかよ。嘘だろ?夢?じゃないのか、、しばし外の景色に見とれながら考える。この壁を触った感触、外から吹き入れる風の匂い、何をとってもリアルすぎる。まさか、これがラノベで流行りの異世界転移ってやつか?

そんなことを考えていると藍と慎一が目を覚まして起き上がってきた。どうやら隣のベッドにいたのは二人だったようだ。

「ごめんね、昨日の言葉に甘えて、パパを巻き込んじゃった。」

藍が申し訳なさそうに言った。昨日の言葉、、すぐには理解が追い付かなかったが、ようやく、頼られるとうれしいって話だと思考が追い付いた。

しゃべっている藍のほうを見ると、髪の毛の色が変わってほぼ金髪といっていいほどの明るい色になっていて、不良になったのかとドキッとしてしまう。そして、慎一とともに二人ともなんだか少し大人びている気がした。

「やっぱりこれは夢に違いない、俺疲れてるんだな。。」

驚きと戸惑いで少し混乱気味の父親を見て、すぐさま藍が説明を始めた。

「ここは、私が前に救った異世界なの、夢じゃないのよ。すぐに理解してもらうのは難しいかもしれないけど。」

そう言って藍はパパにこの世界の仕組みを伝える。さらに現実に戻った後でも上がったレベルが(十分の一なるものの)反映されることや、週一回こちらに来れるといったシステム的なことも。

パパは藍の説明を聞いて必死に理解しようと努めているようだ。そして数分の沈黙ののちにようやく言葉を絞り出す。

「凄いな、お前達、こんなのを隠してたとは、、、しかも勇者アイか、いや今は冒険者ニーアなのか。あとその髪は一体。。。」

「ああ、この髪の色は魔法で色を変えただけだよ。直ぐに勇者とばれないようにするための一種の変装だね。勇者とばれると色々動きにくいところがあるから。」

そういうとすぐさま元の姿に戻って見せた。それを見てパパも少し安心したようだ。そしてまたしばらく黙っている、やっぱ悪いことをしたかなとニーアが思い始めたその時、パパが再び話し出した。

「そうか、、、ずりーじゃん!もっと早く誘えよ。レベルの差がついちゃって、俺が一番弱いじゃねーか。」

目を輝かせている、どうやら思ったよりもノリノリのようだ。巻き込んで申し訳ないというより、早く誘わなかったことを申し訳ないと思わないといけないようである。

「いいな、設定がいい。まるでド○クエみたいな感じだな。とは言え、こちらでの怪我が現実世界にも影響するとなると、二人に無茶な真似をさせるわけにはいかないな。といっても一番弱いのは俺か。。」

考え込むパパにさらに今の時事を説明する。魔王の手から平和を取り戻したばかりのこの世界に、残った魔族の侵攻で民衆の生活が危険にさらされていること、ワシュローン帝国が他国を侵略しようと準備をしてして、他国の冒険者の引き抜き、虐殺をが行われていること、将来的な戦争が起こりそうな状況、私たちたかがいち冒険者として何が出来るのかということに悩んでいるということについても話をした。

「なるほどな、、、うーむ、、、とりあえず腹が減らないか? 朝ごはん食べたいなーって思ったんだが、、」

「大事なことを相談しているのに最初の言葉がそれ? 何かいい案出してくれると思ったのに、、まあ、いいわ、宿の食堂に行きましょう。」

順応が速いなと感心するような、呆れるようなといった感じでニーアは部屋のドアに向かった。

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