第四話 会談
広間に場所を移しての話の続きを了承すると、王様以下、みな順番に退室していった。
それにより部屋の空気が少し涼しくなる。
サーシャ王女がいたずらっ子のような笑顔を浮かべ手を振って出て行く。慎一もつられて手を振っていた。
「サーシャ王女、かわいいでしょ。惚れちゃあ駄目よ、王族なんだから。」
「そ、そんなことわかってるよ。」
おどおどした反応は年齢が上がっている今も変わらない、精神年齢は変わっていないということだろう。そういうところはからかいがいがありかわいい弟のままだ、と藍はうれしく思うのだった。
部屋に残ったメイドが藍と慎一の着替えを出して、一礼をして部屋から出て行った。着替えを済ませて部屋を出ようとすると、扉の前に護衛の兵士が立っていた。こんなところを守らなくても誰も襲ってこないだろうにと思ったが、彼も仕事なのだと自分に言い聞かせた。少しドキッとした二人だったが、冷静に声をかける。
「お待たせしました、準備できました。」
藍の言葉にゆっくりと頷き、
「ではご案内します。」
と言って歩き始めた。
案内役だったかと藍は心の中で納得するも、この城の中は慣れているから自分一人でも謁見する広間に行けるのにと思ったりもした。
広間に向かう間、慎一は目に入るもの全てが新鮮といった感じで、周りをきょろきょろと見渡している。自分が初めて来たときもそうだっただろうかと藍も自身が最初に来た時のことを思い出そうとするがうまくいかない。数年前の話だし、そのあとこの世界で経験したことのインパクトが強すぎてほとんど覚えていなかった。
「あなたの名前は?」
藍は周りの光景は以前から見慣れていたので、案内している兵士に声をかけた。
「オルゼルスです。」
「見たことない顔ね、入隊してまだ日が浅いの?」
「はい、ちょうど勇者パーティの皆さまが眠りについた直後に近衛騎士団に入団しました。」
「そう、よろしくね。私は藍でこっちが慎一よ。ってもう知っているかな。」
「いえ、私はただの見張りでしたので、私などに、わざわざ自己紹介をありがとうございます。」
「いえいえ、いつもお勤めご苦労様です。案内もありがとね。」
「はい!」
冷静さは変わっていないが、気持ちオルゼルスと仲良くなれた気がする。慎一もそれを見てうれしくなり、自分もこっちの世界の人とコミュニケーションを取りたいと思ったのだった。
広間につくと、セルディス王が真ん中に座していて、その両隣にナサリー王妃とサーシャ王女が控えている。本来であれば片膝ついて話を聞くべきところだろうが、目覚めたばかりということでこちらの体調を配慮してくれたのか椅子が用意されていた。促されるままにそこに座ると、セルディス王が続きを話し始めた。
「君たち勇者パーティが、魔王を倒してから約2か月が経った。世界に平和がもたらされると期待していたのだが、ことはそう簡単にはいかなくてな。魔族の中でも魔王軍の側近だった残党、いわゆる魔貴族の残党との戦いが引き続き各地で続いておる。残党とは言え、それぞれ一刻を滅ぼせるほどの戦力を蓄えておってなかなか厄介なのだ。もちろん、魔王が生きていたときの侵攻と比べると全然ましだがな。ただ、魔王の強大な力による統率力が失われたせいか魔族側も一枚岩ではなくなってしまっている。中には人族と友好的な関係を築こうとしている者もいるという噂も聞くが、少なくともセルディス王国は今も魔族の侵攻にさらされているという状況なのじゃ。隣国も同じような状況と聞いている。」
「そんなことに、、、」
聞こえるか聞こえないかというような小さな声で藍がつぶやいた。いろいろと話が追い付けないのだけど、と藍は叫びたくなった。2か月?魔王討伐から2か月たっているってこと?その間ずっと寝込んでいたのか。よく餓死しなかったな。。
そんな藍の心情を知る由もなくセルディス王は話を続ける。
「昔は各国の王都に狙いを定め攻め込んできていたのが、今は人族の住んでいるところであれば構わず襲ってくるという状況となっていてな。主要な都市に攻めてくる魔物や魔族は王国軍が抑え討っているが、近隣の町や村までは手が回っておらん。ギルドを通して冒険者に依頼し討伐してもらっているが後手に回っているというのは否めないな。」
魔王、魔族というワードを聞いて、慎一はにわかにテンションが上がった。それでも王の御前ということで、平静を保ちおとなしくして話を聞いていた。慎一は藍をちらりと見て、ほんとに勇者なんだねというような目線を送ったが、気付いてか気づかなくてか相手にされなかった。仕方ないので、再びセルディス王の話に耳を傾ける。
「それと、これは魔族の話ではないのだが、我が国から魔王討伐の勇者を輩出したということをよく思わないものもいるようでな、魔族の侵攻に便乗して、我が国の弱体化を狙っているという情報もある。今のところは勇者が健在だと思わせているのもあって、表立って敵対してくるところはないが、我が国の北に位置するワシュローン帝国などは、水面下でかなり怪しい動きをしているようなのじゃ。隣国のシュテイン共和国や、カプトル商業独立国家と連携して対抗しようという話をしている。」
まだすべての状況を理解できていないが、自分たちが魔王を倒してもまだ戦いは終わっていないという点は認識し、少なからずショックだった。
「あの、他のパーティメンバーは?」
着替える前に寝室で王が言いかけていた気がしたが、恐る恐る聞いてみる。
「そなたたちと同じように眠りについて目が覚めぬままじゃ。それぞれ別室にて、いつ目が覚めてもよいように専任の従者をつけて日々世話をしておる。」
やっぱりそうか、、一体なぜ。。考えてみるが当然ながら答えは分からない。
「ただ、これは極秘情報で頼む。先ほど言ったように、他国の侵攻の歯止めとするためにも勇者パーティは健在だという風に見える必要があるのでな。」
藍は頷きながらさらに尋ねる。
「その、眠っている原因って何なのか分かっているのでしょうか?」
「その点はまだはっきりしておらん、なぜそなただけが目覚めたのか、しかも血族を引き連れてということも含めてな。逆に何か心当たりはないか、勇者アイよ。」
元の世界に戻っていたという説明してもよかったが、他のパーティメンバーはおそらく元々こっちの世界の人だから、それには当てはまらないだろう。どうすれば戻ってこられたのかもわからないため、分からないと首を横に振った。何もないとだけいうのもそっけないので、少しだけ現実世界に戻ってきたことをオブラートに包み情報提供をすることにした。
「確信はないですが、その、寝ている間は精神が肉体と切り離されていたような感じがします。」
藍の返答に対してセルディス王はそうかとい短く言い、よくわからないという表情を浮かべたが、一方で一人が目覚めたことで、他の勇者パーティのメンバーも目覚める可能性があることが分かり希望はでてきたと語っていた。
王様との話はそこでいったん終了し、休憩することになった。客間に移りティータイムとなり、様々な情報交換をした。この2か月間は、魔王を倒した喜びと、勇者パーティのメンバーが眠りについてしまった悲しみが入り混じり、さらには無差別な魔族の襲撃に対応しと、戦いを指揮してきた王族や、騎士団の皆にとって激動の日々だったようだ。
王宮のみんなと一通り話をして席に戻ると、待っていたと言わんばかりにセルディス王が質問を投げかけてきた。
「さて、これからアイとシンイチはどうする気じゃ?何か予定はあるのか。」
藍は少し考えるそぶりを見せ、そして口を開いた。正直なところ、現状、特に決まった予定はない。ただ、慎一もいるので無理はできないという思いだけはあった。
「はい、許されるのであれば、冒険者として少し世界を広く見てきたいと思います。暫くはここセルディス王国の王都を拠点として、慎一のレベル上げに注力しようかと。ある程度めどが立ったら、隣のラニキス国を目指したいと思っています。もちろん道中は、残党の魔族の討伐も含めて冒険者のように活動するつもりです。」
「そうか、ずっと我がセルディス王国にいてくれると心強いが、、今の魔族侵攻であれば我が国の軍でも十分抑え込めるし、無理強いはできんな。むしろ、王国軍の手の届かない小さな街を救ってもらった方が世界全体を考えるとよいのだろう。」
セルディスは少し残念そうながらも藍に理解を示す。一方、サーシャ王女はさみしそうな表情を浮かべ横から割り込み懇願する。
「えー、やだよ、アイー!私と遊んでよ。遊びじゃなくてもいいから、せめて講師として魔法とか剣術を教えてよ、私一生懸命やるから。」
「サーシャよ、あまりわがままを言うものではない。アイはこれまでずっと世界のために尽くしてくれたのじゃ。魔王がいない今、いつまでも縛り付けるのは良くない。アイにも自分の人生を謳歌する権利があるのじゃ。」
本当によくできた王様である。改めて、この王国のもとで勇者として仕えられてよかったと思うのであった。
「しかし、アイよ、今後、冒険者として過ごす上で一つ頼みがある。できれば勇者ということを隠して行動してはくれんだろうか。他国、特にワシュローン帝国が変な気を起こさぬよう、勇者パーティは我がセルディス王国に健在だということにしておきたい。」
「わかりました、戦争の抑止力ということですね。それであれば自分が勇者アイだと気づかれないようにします。そうですね、ニーアと名乗り行動しようと思います。秘匿性を高めるためにも、このことは王宮の中でも一部の人以外には秘密にしてください。それと、この国に何かあったらすぐに駆け付けますのでいつでも呼んでくださいね。」
「うむ、気遣い感謝する、いろいろと面倒をかけてすまんな、改めて礼を言う。」
「いえいえ、気になさらずに。こちらも色々と優遇してもらっている部分はありますしお互い様ですよ。」
実は先ほど、セルディス王国の勲章をいただいていた。これを見せることで、国内では相手に対して絶大な信頼を得ることができ、物品購入時に割引を受けることができるとのことだ。
「そうだ、先ほど言ったように、暫くは王都周辺で慎一を鍛える予定だから、その間はサーシャ王女も訓練してあげるわよ。」
藍はサーシャ王女への配慮を見せ、サーシャ王女もそれを聞き少し明るい表情になった。
どうやらここがセルディス王国にとってメインの話だったらしく、そのあとは、王様以下大臣たちも安どの表情を浮かべて終始和やかな会話が続いた。慎一も緊張しながらもみんなと楽しそうに談笑しているのが見えた。




