第三十七話 不穏な情勢
「やあ、君たち。またまた大活躍だったみたいだね。Sランクモンスターの討伐おめでとう。」
シモンから早速お祝いの言葉を貰う。まだギルドに入っていないはずなのに情報が早い。
「あ、シモンさん。ありがとうございます。討伐できたのはSランク冒険者のスタークさんと、ダミアンさんのおかげですよ。ところで、何で知っているのですか?」
シンイチは気になって思わず聞いた。
「あれだけ大きな声でみんなが騒いでいたら、冒険者ギルドの外にいても聞こえてくるよ。それにしても、相変わらず君たちは謙虚だね。もっと誇ってよいと思うよ。漏れ聞こえる話の限りだとみんな活躍したみたいだし。」
笑いながら答えたシモンに対して、何だそういうことかと納得する。
「いえいえそんなことないです。ところで今日はおひとりですか。ライジングサンの他のメンバは?」
「うん、今日はギルドに報告に来ただけだからね。まだみんな体調が戻っていないこともあってね。。」
シモンの表情が一瞬曇り、すぐにことばを続けた。
「そうだ、うちのリーダーも気にかけていたから君たちにも注意喚起をしておこう。」
そう言って話し始めたシモンからもたらされた情報は、ニーアたちのお祭り気分を吹き飛ばすものだった。
Aランク冒険者パーティのライジングサンが襲撃に遭い、ケガの治療のため休養中であること、それが帝国の刺客によるものであるということ、一緒に訓練をしていたBランク冒険者パーティのうち、一組が姿を消した(おそらくは帝国側に連れ去られた)ことなどを聞いた。
「皆さんは無事なんですか?!」
「ああ、ケガ自体はかなり重症だったが、みんな一命はとりとめているよ。治癒魔法で回復はしたんだけどまだ違和感があるらしくてね。精神的な問題なのかもしれないが、すぐに無理をさせるのは良くないってことで、比較的怪我が軽くて後遺症もない俺が報告役って訳さ。」
そう言いながら肩をすくめる。少しでも明るく振舞おうとしているのを感じる。腕がちぎれたりすると魔法で回復して元通りつながっても、すぐに以前と同じように動かせるという訳にはいかないらしい。ライジングサンほどの実力者パーティがそこまでの大きな負傷をしたというのは恐ろしい話だった。
「帝国がこちらに仕掛けてくるためにいろいろ暗躍しているというのは聞いていましたが、、、こんな身近なところで起こっているなんて。。。僕らも気を付けたほうがいいですね。」
シンイチが深刻な顔で答えた。ニーアも腕を組み考え事をしているような姿でうなずいている。
「ああ、そうだな、危険を感じたらいち早く逃げることをお勧めするよ。相手はSSランク、俺たちではまともに相手にならなかったよ。たまたま通りかかった別のSSランク冒険者が助けてくれなかったら間違いなく今ここにいなかったよ。」
ついに出てきたか、SSランク冒険者。王様やギルマスから聞いていた魔王討伐後の世界で急成長してきた実力派の冒険者たち。Aランクを軽く倒すってそこまで別格なのか。ニーアはAランクとは実力が段違いというところに改めて恐怖を覚える。
「この件はセルディス王への報告を頼んでいる。俺たちがすぐに動けないからビースツガーディアンのメンバーに行ってもらった。きっと国としても何か手を打ってくれるだろう。抱えている勇者パーティを出陣させてくれると大いに助かるのだが。。いや、彼らでもSSランク冒険者は荷が重いかもしれない。」
うん、それな。とニーアは心の中で思った。こっちに回されても困るんだよな、、今はシンイチの育成に忙しいからそんな高位冒険者の相手をしている暇はないし。。他の勇者パーティメンバーもまだ目覚めてないだろうから、呼び出しがかかったらどうしようか。。
ニーアの葛藤をよそにシモンが話を続ける。
「俺たちはメンバー全員の回復次第、帝国との国境の町ヘルゲスに向かう予定だ。リハビリがてら魔物を狩りながらゆっくりって感じになるだろうけどね。君たちは何か決まった予定はあるのか?」
「私たちはもともと、隣のラニキス王国に行く予定だったわよ。ちょっと寄り道しているけど、用事もあるからね。」
ニーアは細かい説明は省き端的に目的地を説明した。
「ラニキス王国か、そう言えば噂話程度で聞いただけだが、ラニキス王国のどこかで魔族が現れたというのを聞いた。帝国も気になるが、そっちも気を付けてほしい。」
「魔族ですか、、。きついな。。」
シンイチが暗くなった。魔族との戦いでの悲劇は気持ちとしては吹っ切れているが、また厳しい戦いになることを予想されるためだ。
ニーアは魔族退治も旅の目的の一つという認識だったが、前回みたいに上級魔族と中級魔族の複数を相手にするとなると、シンイチと二人だけでは厳しいだろうと感じていた。自分たちのほかにAランク冒険者パーティが二組もいたにもかかわらず完勝とはいかなかった。シンイチも今回の特訓でかなり強くなったが、もっとニーア自身としても力をつけないといけないだろう。
「私たちも、予定は変えるつもりはないけど、慎重に行動するように心がけるわ。」
そんな話を聞いてすぐに何か対策が思いつくわけもなく、今はそのように言うのが精いっぱいだった。
「そうか、分かった。帝国がまだ冒険者狩りをしているということは、本格的に仕掛けてくるまでにはもう少し時間があるかもしれない。戦力を削っている段階で攻め込んでくるというのもおかしな話だからな。だがくれぐれも気を付けてくれ。ラニキス王国は帝国とは中立の立場だから、帝国派の人間も国内に潜入しやすく、色々と仕掛けやすいかもしれない。」
「はい、ありがとうございます、シモンさん。」
シンイチがお礼を言った。
「ユータとロザーティアはどうするの?」
「僕たちはここに残ります。まだ、ブレイブファングとしても再始動中ということもあって、まずはメンバー補充が第一だと思っていますので、近場で狩りをしつつって形で考えてます。でも、もしも戦争が始まったら急いで国境都市ヘルゲスに駆けつけますので。」
ニーアの問いにユータが答える。自分たちで考えて決めた方針ということが分かってニーアとしてもうれしくなった。シモンも二人の考えを尊重してくれる。
「ああ、わかった、その時はよろしく頼む。二人とも、ちょっと見ないうちに随分と強くなったようだな。」
「はい、なんせ師匠がスパルタなもので。」
ユータ、ロザーティアはニーアをちらりと見て照れたように笑った。それを見て、シモンも笑った。
みんなと別れ、自分たちの宿に戻る。
「はぁ、冒険者狩りだなんて大変なことになっているね。」
部屋に入るなり、シンイチがテンション低めに話しかける。
「そうね、しかもAランク冒険者がやられたってのが、インパクトが大きいわね。SSランク冒険者か、、王都で話は聞いていたけど、実際ヤバそうよね。さらにはラニキスには魔族の話もあるみたいだし。。」
兜を外し髪を振りほどきながらニーアが言う。いつもながら一瞬知らない人に見えるためシンイチはドキッとしてしまう。
知っている人が大けがをしたと聞いて神妙な面持ちになっている、いつも笑顔のニーアに陰りがあったことも他人に見えた要因の一つとなっていたかもしれない。
元気を出そうとシンイチが無理矢理に話題を変えた。
「それにしてもみんなの飲みっぷりすごかったね。」
ニーアもようやく苦笑を浮かべる。
「あれだから大人ってやつはって感じよね。うちのパパはあんな感じじゃないのに。」
「そうだね、パパはお酒よりも甘いものの方が好きだもんね。」
とニーアは不意に父親のことを思いだした。甘党のため、夜ご飯の後、よく3人でアイスクリームを食べていたことが浮かび、そろそろおうちが恋しくなってきた。それを聞いてシンイチも急に家族のことを思い出してしまったようだ。私もシンイチもまだまだ子供だ、そう痛感するひと時であった。
「帝国と戦争になっちゃうのかな、いやだね。」
「そうね。私たちどうしたらいいのかしらね。モンスター相手なら特に考えなくてよかったのだけど、相手が人間となるとね。。」
答えが出ない問いをしているのは分かっている。お世話になったセルディス王国に味方するつもりという点は決定事項だが、人を殺す覚悟ができているかというと微妙なところだ。ましてや、こちらの世界の経験が浅いシンイチはなおさらだろう。
そろそろこっち世界での滞在も時間切れのはずだ。久しぶりにパパの作る焼うどんが食べたいなと思いながら眠りについたのであった。
シンイチ:Lv51→59、HP 525→605、MP 425→465、力 146→162、速さ 144→160、守り 206→214、魔力 220→260、精神 127→143。火魔法 Lv4→Lv5、水魔法 Lv3、土魔法 Lv3→Lv4 、光魔法 Lv4→Lv5、風魔法 Lv1、闇魔法 Lv1→Lv4
ニーア:Lv100→109、HP 1000→1090、MP 550→604、力 270→315、速さ 200→272、守り 140→185、魔力 350→413、精神 240→276、
火魔法 Lv5、水魔法 Lv10、風魔法 Lv10、雷魔法 Lv8、光魔法 Lv5




