第三十二話 特訓完了
ブレイブファングの二人とのオラキ島での修行も終盤を迎えていた。ギルドから受けたクエストの素材獲得のためということを口実にして、十分な量を採取し終えても何度も山に少し足を踏み入れてはそこで遭遇するモンスターを狩り続ける、といった日々が10日ほど続けていた。
Sランク冒険者スタークの忠告通り、山嶺に出てくるモンスターは海岸付近の森林で出会うモンスターよりもワンランク上の強さだったが、戦いを重ねることで、ニーア抜きでも3人で力を合わせれば十分戦えるようになっていた。シンイチ個人の能力としても、Lvアップや魔法の習熟度の上昇によって魔法の威力が増大している。この辺のモンスターの弱点が火属性と闇属性だったこともあり、その二属性の使用頻度が高くなり、習熟度が飛躍的に伸びていた。
「なんか前よりも発動がスムーズになったし、魔力もうまく練れる気がする。」
「そうですね、シンイチさんは最初から威力がすごかったですけど、ここに来た最初よりも威力も発動速度も上がっていると思います。」
「それを言ったら、ロザ―ティアだってすごいですよ、連続発動可能回数が3倍以上になったじゃないですか。魔力の消費効率がかなり上がっているってことですよね。」
ロザーティアが肯定すると、シンイチもお返しとばかりにロザ―ティアを褒める。普段であれば一緒に話に加わり乗っかって行くユータも思わず苦笑いしてしまう褒め合いだった。
シンイチは体術にも磨きをかけ、体術の新スキルのニークラッシュプラスという膝蹴りとハイキックのコンビ技のスキルや、かかと落としとミドル/ローキックのコンビ技も習得した。
最初はいつものようになかなかシンイチ地たちの攻撃ダメージが通らなかったが、身体強化のバフをかけたユータとシンイチの物理攻撃、あるいはシンイチとロザーティアの魔法攻撃を同じポイントに集中し続けることにより突破口を見出した。最終的にはシンイチの魔法の威力が上がったことにより、魔法攻撃単体で外皮を削ることができるようになり、削れた部分にユータがとどめを刺すという必勝パターンが出来上がっていった。
ニーアは三人の戦いを見守っていたが、ある程度慣れてきて問題なさそうなってきたこともあり、見守る傍らで、さらに高みを目指すべく1対多という不利な状況に身を置いた戦いを続けていた。山嶺のモンスターであっても四、五体であればソロでも問題なく勝てるようになっており、剣術の基礎は上がっていることを実感できる。
「私もまだまだ強くなれそうね、自分の成長を実感できるってのはいいことだわ。」そんなことを考えながらモンスターを斬り続けていた。この山のモンスターは守備力が高く、仲間を呼び寄せ集団での戦闘を好むという特徴があり、主な種族としては大型の猿と黒色のダークワイバーンであった。これらのモンスターはニーアをもってしても通常の攻撃では刃が通らなかった。スキルを使用すれば斬れない堅さではないものの、修行のためと考え、遭えてスキルを使用せず、通常の攻撃でダメージが通らなくともひたすら剣を振り続け攻撃を続けた。
その結果、数日間繰り返しているうちに、ただひたすらに剣を振り続けることで余計な力が取れ、よどみのない斬撃を繰り出せるようになっていった。その剣撃を同じ個所に瞬時に5連撃叩き込む「クイーンクエカット」や、その発展形でさらに無の境地に達したときにのみ使用できるスキル「ゾーンオブモレキュラ」を習得していた。(分子レベルでの切断を可能とし、どんな固いものも切断することができる。習得したといっても、正確には戦いの中で数回使うことができたという程度で、使いたいときに使えるというスキルではない。)
「こんなスキルが習得できるなんて、身体強化に頼るのもよくないわね、勉強になったわ。」
独り言を言いながら、完全に自分のものにすべく反復練習を重ねていた。
クイーンクエカットはひとたび習得してしまえば、身体強化スキルとの併用ができそうだったが、ゾーンオブモレキュラは余計なことを考えていては発動できないため併用は難しそうだ。この10日間でも2回しか再現できず、いつでも使えるものではなかった。(もっとも、クイーンクエカットについても、ここのモンスターでは身体強化スキルを使用すると7連撃を同じ個所入れる前に斬れてしまうため試すことは出来なかった。。)
更に、他の対処法として、斬撃に光魔法をのせ光速の斬撃をまとめて放つことを可能とする「スターダストラッシュ」というスキルも習得し、それでもソロ討伐を可能なレベルに達していた。エアスラッシュの光属性版で、斬撃の速度・威力ともにエアスラッシュの完全上位互換のスキルといえる。しかし、魔力消費が大きいため、今のニーアが連続で使用できる回数は10回の連続攻撃までであった。それらを取得することで、一回り強くなることができ、またしても他の三人を呆れさせるニーアであった。
予定の日程を終え、下山し、海岸へと向かった。結局、スタークたちが追っていた、Sランクの巨大人型モンスターに出くわすことはかなわなかった。ユータとシンイチが修行で自信をつけたせいか、遭遇できなくて残念と言ったことを言っていたが、厨二の年頃にありがちなコメントだとニーアは聞き流していた。
海岸に着くと、人が二人座っていた、近づいてみると案の定、スタークとダミアンだった。怪我をしているようで周りの砂には血がしみ込んでいる。
「大丈夫ですか。」
シンイチが駆け寄った。
「いやあ、シンイチ君か。なんとかね。」
「今回復します。」
そういうとヒールライトをかける。アイも一緒に回復魔法で治療をしていった。ダミアンは魔力切れが深刻で、身体的な傷は癒えたが、頭を押さえまだ辛そうにしていた。マジックポーションを3本空けてようやく起き上がれるくらいまで回復することができた。
「ありがとう、助かったよ。自然治癒するまでここでじっとしていないといけないかと思っていたけど、おかげで、早く帰れそうだ。」
スタークが笑顔を取り戻して言った。
「そうですか、それならよかったです。その傷は例の巨大人型モンスターですか?」
ニーアが聞いた。
「ああ、予想以上だったよ。もう少しというところまで追いつめたと思ったのだけど、そこから狂化が始まってね、第二形態というかもはや人型ではないモンスターに変化し始めたんだ。今までそんな情報がなかったからてっきり終わりだと思ったんだけどね。そこからは他のモンスターを呼ぶわで、もう乱戦状態になってしまって、、最後は何とかダミアンの転移魔法で逃れてきたってわけさ。君たちにも手伝ってもらえばよかったよ。」
「周りのモンスターにも狂化のバフがかかっていたな。通常時に遭遇して戦ったときよりさらに凶暴さが増して、体力、速さ、攻撃力と全て上がっている感じだった。あーくそっ、しんどかったな。」
ダミアンが補足する。
先ほどの勇ましい会話をしていたユータとシンイチも不安そうな表情になっている。Sランク冒険者二人掛かりでもボロボロになって撤退しなければならないほどの強さだと分かり、遭わなくてよかったというところだろう。
「そんな危険なモンスターを放置しておいていいのでしょうか。ギルドに報告して討伐隊とか組むべきでは。」
ロザ―ティアが心配そうに進言する。
「うーん、そうだねぇ。ここは無人島だからね。しかもあの山に入らなければ襲われないということも分かっている。その点だけ報告して、注意を促すくらいでいいんじゃないかな。」
スタークがさらに続ける。
「今の情勢を考えても、無人島に大きな戦力を割いている場合じゃないだろう。国と国のいざこざで色々ときな臭い話もあるからね。」
「確かにそうですね、ではスタークさんの案でお任せします。」
ロザ―ティアとユータも納得して頷いた。
「ちなみに君たちは帝国との戦争が始まったらどうするの?」
スタークが突然話題を変えた。
「私たちはセルディス王国のギルドに所属の冒険者なので、もちろんセルディス王国に加勢しますよ。スタークさんたちは?」
「僕はそうだねえ、国からの正式な依頼があって、かつ手が空いていればセルディス王国の加勢をするかな。少なくとも帝国に加勢はしないつもりだよ。」
「俺は中立だな、お前たちの理論で言うと俺はオースターリア王国の所属だからな。まあ、スタークと同じく、帝国に加勢する気はないから安心しろ。」
「そうですか、それなら敵対することはなさそうですね、よかった。」
ニーアがほっと胸をなでおろす。
「ふふふ、僕たちも君たちと戦わなくて済むのはありがたいね。」
スタークも同意した。
「仲間だということが分かったところで、ニーアさんの素顔を見せてくれたりはしないかな?」
「それはちょっと、、あまり顔に自信がないので勘弁してください。」
いきなりなにぶっこんできてんだこの人は、とスタークにイラっとしつつもニーアは冷静を装った。
「さて、私たちそろそろ島を出ますけど、スタークさんたちはどうします?もしよければ、一緒に乗っていきますか?定員5人の船なのでちょっと狭いかもしれませんが。」
「僕らも船は持っているのだけど、今の状態で動力源の魔力を充填するのは、正直ちょっときついかな。よければ僕らの船を引っ張るか押して行ってもらえないだろうか。そうしたら居住区空間は自分たちのところを使えるから狭くはならないよ。代わりに船旅が少し長くなるかもしれないけど。」
「みんなどうかしら、それでいい?」
ニーアが他の三人に聞いた。三人とも問題ないという形でうなずいている。
「じゃあそれでいきましょう。でも、船ってどうやってつなげるのかしら。」
「その点は大丈夫だ、俺たちの船に船同士をつなげる道具がある。」
ダミアンがそう言うと立ち上がり、マジック収納Boxから船を出し着岸させた。ダミアンもマジック収納Box持ちかとシンイチは感心する。ニーアも船を出すと、ダミアンが手慣れた作業で船を連結させ、その間にシンイチが魔力を充填しほどなく出航となった。
「やっと、この島ともお別れか。」
「訓練がかなりきつかったけど、充実感がありましたね。自分でも強くなれた実感があります。こんなふうに思えるのって初めてかもしれません。」
「うん、これもニーアさんのおかげだ、これから二人でもやっていけるという自信が少し出たよ。」
「でも、回復ができる仲間は探しましょうね。」
ユータとロザーティアの会話を聞きながら、きつい修行から解放感は同感だなと思うとともに、家に帰るまでが遠足(修行?)だよという言葉がなぜか浮かんできた。




