第三十一話 冒険者狩り
ニーアたちがオラキ島で修行をしている間、港町オスティアから北西へ約200㎞、セルディス王国、ラニキス王国、ワシュローン帝国の3国の国境付近の山林にて、事件が起きていた。
「くそっ!お前らは一体何なんだ。何の目的があってこんなことを。」
Aランク冒険者パーティ、ライジングサンのリーダーのツォーガが叫ぶ。
「ふん、これから死にゆくお前たちが知る必要はないな。」
全身黒の装束をまとった集団のリーダらしき男がつぶやく。顔も目以外の部分は隠されていて、たとえ名の知られた人物だったとしても判別することは難しいだろう。
ツォーガは謎の黒装束の集団と対峙しながら必死に頭を働かせていた。冒険者としてやってきて、必ずしもいつも善人だったわけではない、そのため良く思われないこともあっただろう。しかし、こんな急に襲われるほど恨まれるような思い当たりはなかった。そして、この状況からの打開策も思い浮かんでいなかった。
先に逃がしたBランク冒険者パーティの「ピースシーザー」「フェアリーサークル」「エンハンスドスピアー」のみんなは大丈夫だろうか。他の追っ手がいなければよいが、、ツォーガは自分の身よりも、一緒に連れて来た他の冒険者パーティのメンバーの状況が気になった。
「くそっ、絶体絶命ってやつね、どうする、リーダー?」
パーティメンバーで唯一まだ動けるリンカがツォーガに尋ねた。
他の仲間のシモンとペドロは黒装束の攻撃を受けてすでに瀕死の状態で動けず、回復役のリューレンも気を失っているようだ。
敵は一人一人が手練れで、相手のリーダとおぼしき人物は確実にSランク冒険者以上の強さを持っていると感じた。敵は合計で10人いたが半分以上は他のBランク冒険者パーティを追いかけていき、4名ほどが残っていたはずだった。
「お前、他の奴らを背負って逃げることは可能か?」
ツォーガはリンカの質問に対して質問で返した。
「無茶言わないでよ、いかつい男を3人も担いで走れっての?担げても歩いて移動するくらいがやっとってところよ。それに奴らが見逃してくれるとはとても思えないわ。」
「だよなあ。じゃあ二人ならどうだ、その鍛えた体ならなんとか走れるだろ。ペドロとリューレンの3人で逃げろ、俺が何とかやつら全員を食い止める隙を作る。シモンにはあの世で謝っておくからよ。」
「リーダー、死ぬ気かよ!」
そう言った瞬間、リンカの体が吹っ飛ばされた。ツォーガは瞬間的に斧で防御したがゼロダメージとはいかなかった、身体に痛みが走る。斧を杖のようにして体を支え、何とか倒れるのを拒否する。隠れている敵の伏兵による土属性魔法ストーンキャノンがどこからか飛んできたようだ、作戦会議の時間ももらえないらしい。
「ぐはっ!」
よろつきながらも立ち上がるリンカ。どうやら今の一撃で内臓をやられたようだ、口から血を吐いている。身体が頑丈な上級拳闘士だけあって、致命傷は避けたようだが、あの状態ではもはや誰かを担いで逃げることすら叶わないだろう。ストーンキャノン自体は中級魔法だが、敵の魔力が強いためか上級魔法並みの威力に感じる。無詠唱でこの威力、ふと数日前の護衛任務で一緒に戦ったニーアとシンイチを思い出した。なんで今さら、とツォーガは自嘲ぎみになった。
黒装束のリーダーが近づいてきてツォーガを蹴り飛ばす、もはや抗うこともできずその場に転がった。リーダーの男がゆっくりと剣を構えた。
またあの技が来る、今の自分にはなすすべがない、、、ここまでか、ツォーガは覚悟を決め目をつぶった。
次の瞬間、剣撃のはじけるような音が響いた。まだ自分は生きているようだ、そう思いながらツォーガが目を開けると、一人の男が黒装束の者たちの前に立ちはだかっていた。ついさきほどまで目の前にいた敵のリーダが距離を取り、胸のあたりを手で押さえている。剣圧か何かで吹き飛ばしたのだろうか。
「どういうつもりか知らないが、冒険者同士の殺し合いはギルドの決まりで禁止されているはず。力比べというのであれば、もはや勝負はついている、これ以上やる必要はないだろう。」
片手剣を構えて現れた人物に見覚えがあった、いや、知らない人はいないというくらいの有名人であった。その男は竜騎士の頂点、「エクセスドラゴンスレイヤー」、世界に10人もいないSSランク冒険者の一人カイネであった。その後ろにいたカイネの仲間が範囲凍結魔法を使ったようだ、敵の魔法使いが隠れていたと思われる場所が数か所、瞬時に凍り付いた。
「ゾーンオブフローズン、命までは取りませんが少し黙っててもらいましょうか。」
長い髪をなびかせた女性が言った。ツォーガは全く検知できなかったが敵の攻撃を察知して先手を打ったようだ。
「大丈夫ですか、すぐに回復します、あまり回復魔法は得意ではないですが。」
そういってツォーガのもとに来たのはカイネと同じ「スプリームオブスカイ」のメンバー、長い髪の女性はセリスだった。得意でないと言いつつも上級回復魔法を操り、ツォーガの体の痛みはすぐに引いてきた。
「すまない、ありがとう、もう大丈夫だ。あそこで気を失っているリューレンを先に回復してやってくれ、、あいつはヒーラなんだ、やつならみんなを治せるはず。」
「わかった。」
そう言い終わるや否や、セリスは瞬時にリューレンの近くに移動して治療をし始めた。空間移動魔法か?、流石SSランクの冒険者パーティは違うな。ツォーガはぼんやりとそんなことを考えた。体を起こし黒装束の男に視線を戻すと予想外の助っ人に戸惑っているようすだった。
「竜狩りにしか興味がないはずのお前たちがなぜここに。」
「お前に教える義務はないな。言ったはずだ、無抵抗の人間を痛めつけるのは好きではないと。」
黒装束のリーダーらしき男の問いにカイネが答える。何かに気づいた買値は言葉を続ける。
「そういうお前はダークネスリーパーのデイビスか。実力は折り紙付きだが、素行は良くないという噂だったがその通りのようだな。まだ、続けるというならば、一戦交えるしかないが、どうする?」
「ほう、俺たちだと見破ったか、流石だな。SSランク同士で戦うのは面白そうではあるが、まだ今じゃない。そっちのヒーラーも意識が戻ってみんな回復しそうだな。全てつぶすのはいささか面倒な作業になりそうだな。」
デイビスと呼ばれたリーダーらしき男は、カイネを前にしても気押されることもなく冷静に分析を始める。SSランク冒険者デイビス、ツォーガはその名前にも聞き覚えがあった。
「おい、あっちは終わったぜ。」
スプリームオブスカイのメンバー、ライオニールとアンガスがそういいながら暗闇から姿を現した。
「ふ、今回はここまでにしとこうか。また会おう。カイネよ。」
そういってデイビスは仲間に合図を送り黒装束の軍団は姿を消した。凍り付いていたはずの敵の魔法士もいつの間にか脱出していたようだ。
「セリスの領域凍結魔法からあの短時間で逃れるとは、敵もなかなかやるもんだな。」
カイネが感心したように言った。セリスは少し悔しそうだ。
それを聞いたツォーガは、助かったか、とようやくほっと息をついた。立ち上がり、改めてカイネ率いるスプリームオブスカイのメンバーに礼を言う。
「いやいや、気にしなくていい。たまたま通りかかって、奴らのやり方が気に入らなかっただけだ。最近、冒険者が消えるという噂があったけど、あいつらの仕業かもしれないな。」
カイネが腕を組んで考えに耽る。
「まさか、SSランク冒険者に襲撃されるとは思わなかった。それなりに腕に覚えはあるつもりだったが、まさかここまで何もできないとはな。。」
セリスに回復してもらったリューレンが意識を取り戻し、二人で手分けをしてみんなに回復魔法をかけていた。
ツォーガがさらに補足の状況説明を続ける。
「俺たちは、3つのBランク冒険者パーティと全体のレベル底上げのため、合同遠征としてこの森に来ていたんだ。急にどこからか奴らが現れて、帝国側へ着くように言ってきた。それを断ったらいきなり襲われたってわけだ。あまりに急だったから、勧誘と見せかけて、単に俺たちに恨みがあるやつらの襲撃かと思ったんだが、そういうわけではなさそうだ。SSランク冒険者に恨まれるような覚えはないからな。」
「なるほど、あいつらは帝国の手先ってことか。帝国の囲い込みのうわさは聞いていたが、冒険者の取り込み活動はこんな形で行われていたのか。」
カイネは、一人呟いて再び考え込んだ。
「しかし、断ったら殺そうとするとは、、、少しでも帝国の敵となりそうなものは事前に排除するということか。。。気に入らないな、俺たちも一応帝国の冒険者ギルド所属だが、考え直した方がよさそうだな。」
それを聞いていたSランクの特級竜騎士ライオニールが口をはさんだ。
「所属のギルドは特にこだわりはないんで、どこの国でも構わんぜ。どこに所属してようと竜は狩れるだろうからな。それよりも、ツォーガと言ったか、さっき、3つの冒険者パーティって言っていたよな?俺たちが助けたのは2つだけだったぜ。」
「ああ、俺たち一人ずつ敵を二人倒して、1グループずつを助けたんだ。」
アンガスも同調する。
みなの視線がライオニールに集まり、沈黙が流れ重い空気となった。各々が状況を察していた。
「殺されたとは限らないだろ、帝国に服従したのかもしれない。」
重い空気を破るようにツォーガが声を発する。
「まあ、確かにそうだな、でもそれが良いとは限らないぜ。今度は敵として現れたら戦わなきゃいけない。」
回復したシモンが近づきながら言った。それに対してツォーガは頷いた。
「ああそうだな。まあ、その時はその時で考えるしかないさ。そうならないことを祈るけどな。ところであんたたちはセルディス王国側についてくれるってことでいいのか。セルディス王国とシュテイン共和国で同盟を組みワシュローン帝国に対抗するつもりらしい。」
カイネに尋ねた。
「いや、俺たちは今回は中立だ。手助けしてやりたいのはやまやまだが、魔族と手を組みそうな竜族を狩らなければならない。ここに来たのもそういう竜族がいるって情報を聞いてきたからなんだが、どうやらガセネタだったようだ。」
「まじか、そっちはそっちで大変そうだな。まあ、そのガセネタのおかげで俺たちは命拾いしたわけだ。こないだ、上級魔族に襲われてひどい目にあったばかりだから、俺たちは暫く魔族関連は遠慮したいところだな。」
「へー、上級魔族に襲われて生きているなんてさすがはAランク冒険者といったところか、大したものじゃない。」
セリスが褒める。
「まあ、俺たちだけだったら厳しかっただろうな。だが、心強い仲間がいたから何とかなったという感じだな。」
ツォーガは褒められてまんざらでもなさそうにしながら答える。
「ほう、そんな奴がいたのか。お前たちにそこまで言わせるとは相当の手練れだな。」
「そうだな、あいつらも帝国のやつらに襲われてないといいが。。流石にSSランク冒険者が相手だと分が悪いだろうし。。」
ツォーガが心配そうに顔をしかめる。
「ま、せいぜいそいつらをしっかりと仲間に引き込んで、王国側の戦力を整えておくんだな。」
カイネはそういうと踵を返した。
「こっちが早く片付いたら、手を貸してやらんこともないがあまり期待はするな。」
そう言いながら片手を振り上げ、立ち去って行った。
「リーダー、私達、助かったんだね。」
リンカは、か細い声で言った。
「ああ、SSランク冒険者はレベルが違うな。。敵にしても味方にしても。。」
シモンも今回の件はかなり堪えたようだ。ペドロはショックの余りか、回復してからも全然しゃべっていない。
「仕方ない、今の俺たちの立ち位置がはっきりしたってこととだろう。生きてさえいればまだ成長できるさ。まずは、他のみんなと合流しよう。」
ツォーガが慰めるように、あるいは自分に言い聞かせるように言った。
その後、ツォーガ達一行は、森を抜け他の冒険者パーティと合流した。
そこにはBランク冒険者パーティ、ピースシーザーとフェアリーサークルが待っており、エンハンスドスピアーのメンバーの姿はなかった。




