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第三十話 気晴らし

スターク、ダミアンと別れた後、ニーア達はさらに森の奥へと進んでいった。10分ほど進んだとき、オクトパスウィードとポイゾナタイガーというモンスターの襲撃に遭った。

ポイゾナタイガーは先ほどスタークが巨大な斧の一投げで葬っていたモンスターで、オクトパスウィードとともに、スタークが言う大陸にいるモンスターと外見が同じだが強くなっている固有種というやつだ。

ポイゾナタイガーは、名前の通り毒を持つ虎で、牙と爪の攻撃を受けると強力な毒を受けてしまう。また、水属性の毒魔法を使うため間合いを取っていても気を抜くことができない。血にも毒があるため、致命的なダメージを与えても返り血を多く浴びてしまうと毒が浸透してこちらが死に至ることもあるため油断ができないモンスターである。

オクトパスウィードは巨大な人食草で、大陸に生息する通常種よりも攻撃パターンが多彩になっている。何本ものつたを出し、冒険者を捕まえようとしてくる。しかもそのつたに触れると麻痺をさせる粘液がついており、つかまらないように立ち回ることが求められる。また、大陸にいる個体と異なり風属性の魔法を繰り出してくる。

ここも結局、初見ではニーア頼りとなってしまい、シンイチは防御魔法を展開し、ユータとロザーティアを守っていた。ロザーティアはシンイチの後ろから中級氷属性魔法アイスストームで攻撃を仕掛けるも、モンスターの素早い身のこなしもあり命中させることができなかった。

「そんな亀みたいに守ってばかりじゃ倒せないわよ。」

「分かってるけど、、」

ニーアがほぼ単独で二体を討伐した後、いつものように反省会が開かれる。ようやく自信をつけてきたところで新たなモンスターに全く太刀打ちができず、気持ちがくじかれたようだ。

三人は口数少なく先ほどの戦いを思い出している。距離を取ってからの風属性の斬撃エアスラッシュと急に距離を詰めての通常の斬撃を使い分け、間合いを制することで翻弄していたニーアの動き。やるべきこととしては単純で理解できるが、相手モンスターの動きも早く、高いレベルでそれを行う必要があるため今のシンイチ達には実現不可能な戦術だった。

「まあ、いろいろな戦い方を試して自分たちに合った方法で倒せればよいと思うわ。次ね、次。」

そう言ってニーアは三人を励ましてあげる。戦闘経験で言うと圧倒的に自分が高いので、さすがに同じレベルでというのは無理だと分かっていた。逆にそんなに簡単に並ばれてしまうと、自分の勇者としてやってきた自信が揺らいでしまうというものだ。

そのあとも散策を続けオクトパスウィードと何回か再戦した。

時間もかなり経ち日暮れが近くなってきたため、少し開けた広場を見つけ、ここを今日のキャンプ地とすることに決めた。

「今日はちょっと訓練がてら、ここでキャンプしてバーベキューでもしましょうか。」

ニーアが提案した。

「え、海岸に戻ったほうが安全でよいのではないですか。」

「僕は構わないですけど、訓練って?」

ロザーティアは不安そうにしたが、ユータは問題なさそうに聞いた。安全よりもどんな訓練か興味を持ったようだ。シンイチが嫌な予感を察知したのか顔をしかめる。

「よくぞ聞いてくれました!今日は倒した針トカゲをバーベキューで食べたいと思います。味付けは塩のみよ。いつもお店で出てくるようなおいしいものしか食べてないと、いざサバイバルという時に食べられません、ってなっても困っちゃうからね。」

ユータとロザーティアは何だそんなことかという顔をしている、一方、シンイチはすごく嫌そうだ。

「どうしてもやらなきゃダメ?」

「駄目よ、訓練なんだから。ちゃんと食べたら、他のものも食べていいから。」

子供を諭すようにニーアが言う。

「わかったよ、、」

シンイチも観念して頷いた。


闇夜の中に焚火の火がぱちぱちと音を立てながら揺らめいている。当然周りに明かりはなく、火の回りに座っている4人の冒険者たち。

あたりに木々がその光に照らされて怪しく揺れている。知性のないモンスターは光を嫌うのでよっぽどのことがない限りは寄ってこないという。こうやって薪をしているとどうしても護衛任務を思い出してしまう。

針をすべてそぎ落とし、皮を剝いで血抜きをしたうえで、木に刺して焼く、非常に単純な調理方法である。こんがりと焼けた針トカゲを見つめながら、シンイチは手を出しかねていた。

「うん、おいしい。」

「シンイチさん、これなら全然普通のおかずとして食べられますよ。」

ユータとロザーティアがおいしそうにかじりついている。そんな二人を見てシンイチも逃げ道はないと観念した。そして恐る恐る噛みつく。

「あれ、確かにおいしい!鶏肉みたいな食感だね。」

思わず驚きの声が漏れた、ユータもロザーティアも異世界育ちだし、なんやかんや自分とはベースが違うため魔物の肉に耐性があるのだろうと考えていたが、地球育ちのシンイチでも普通においしく感じるものであった。

おいしいと分かったとたん、シンイチも夢中でがっつき始めた。気が付くと、みんなで丸々一頭分を平らげていた。

「これは当たりね!ほら、シンイチ、食わず嫌いは良くなかったでしょ。」

「確かにそうだね、僕でもおいしく食べられるものがあってよかったよ。」

ニーアに得意げに言われて少し悔しかったが、認めざるを得ない。

「じゃあ次は、あの巨大ダンゴムシかしら。ポイゾナタイガーは毒の処理が面倒そうだからちょっとやめておくけど。」

「えー!あれはさすがに無理っ!」

「ふふふ、冗談よ。」

ニーアの言葉とともに、ユータとロザーティアも笑った。そしてそれにつられシンイチも笑顔を浮かべつつも冗談でよかったと心の中でホッとしたのであった。

食事の後、かたずけを済ませマジックアイテムのコテージに入る。この島に到着してから4人で使っているが、やはり快適である。上から見ると5角形の形をしているコテージで、中央にリビングがある。10畳のリビングにダイニングが併設、複数のシャワールームとトイレはセパレートで備え付けており、5角形の頂点に当たる位置に、一人用の寝室が備えられている。寝室は寝るだけ用なので3畳程度の広さだが、携帯型のコテージとはとても思えない充実した間取りである。

中央に位置するリビングのソファに座りながら、ユータは落ち着かずそわそわしていた。シンイチが向かいのソファに座りリラックスしている。

「シンイチさん、気にならないですか。今ニーアさんと、ロザーティアがシャワーを浴びているんですよ。普段の冒険時の野営の場合、気を張り詰めて見張りをしたりしなくてはならないので、こんなリラックスした状況になることはないのですが、落ち着いてしまうと逆に気になってしまって。。」

ユータが緊張の面持ちで言った。

「前もニーアから説明がありましたけど、認識阻害魔法と結界魔法がかけられているので、モンスターから発見される可能性は低いですし、仮に探知できても破壊はできないので安心ってことですよ。」

「いや、そういうことじゃなくて。。。」

「あー、なるほど。ユータさんは女性の裸に興味があるんですね。今までも同じパーティで一緒だったと思うんですが、ユータさんとロザーティアさん二人は付き合ったりしてないのですか。」

シンイチが冷やかす。それに対して、ユータは慌てて否定する。

「僕たちのパーティ、ブレイブファングは恋愛禁止でしたからあくまで戦友ですよ戦友。まあ、他の3人と比べて、僕とロザーティアは年が近かったのでそれなりに仲は良かったと思いますけど。」

ふーんというような表情でシンイチがニヤニヤしながらユータを見ている。反撃とばかりにユータが聞き返す。

「シンイチさんとニーアさんはどうなんですか。ニーアさんのことどう思っているんです?好きになったりしないのですか?」

えっ!?あまりの予想外の質問に気が動転してしまった。姉弟って言っていなかったっけ?そんな感情でニーアを見たことはないけど。。勿論、頼りになるし優しいしで、大好きではあるがあくまで姉として、冒険者としてである。

「うん、僕たちもあくまで戦友だよ。もちろんあの強さへのあこがれとか尊敬の気持ちはあるけどね。」

あまり余計なことは言わないほうが良いと思い、結局、当たり障りのない答えで姉弟であることは隠し通すことにした。

「何こそこそ話をしているの?シャワー上がったわよ。」

ドア越しにニーアの声が聞こえた。この修行中はユータやロザ―ティアに素顔を見せないようシャワー後は顔を見せないようそのまま自室にこもるようになっている。さすがにシャワーを浴びた後にフルフェイスを被りたくないというのは理解できる。

「い、いや、何でもないよ。じゃあ僕もシャワー浴びにいこーっと。」

動揺しながらシンイチが慌てて立ち上がる。普段なら何の気にもならないのだが、変な話をしたせいか、声が上ずってしまった。

「ぼ、僕もそうします。」

ユータもシンイチに続いて立ち上がる。二人いそいそとリビングを出て行った。

「ん、?へんなの。」

ニーアはリビングの中の慌てた様子の二人を見てきょとんとして見送るのであった。


ーーーーーーーーー

ニーア達と別れたスタークとダミアンは、再び来た道を戻り始めた。普段は特に会話も多くはなく、話をするにしてもスタークが話を切り出すのが通常だったが、緊張がようやく解けたのか、ダミアンがたまらず声をかける。

「おい、スターク。どういうことだ。あんなのがいるなんて聞いてねえぞ。ニーアと言ったか、あれでSランクじゃねえのか。」

「同感だね。僕らが追い払った魔物を押し付けた形になってしまっていたから、、敵対しなくて本当に良かった。」

スタークが冷静に返答する。

「ああ、他の3人は大したことなさそうだからまあ、戦いになっても負けはしないだろうがな。本気で戦っていたら俺たちも無傷では済まなかっただろうな。」

ダミアンは先ほど出会った4人の冒険者たちを思い出しながら言った。

「大したことはないといったが、ニーア以外の3人に関しても、まだ若いけど、みんな、伸びしろありそうなやつらばっかりだったな。」

「うん、そうだね。逆に、先に他の仲間をやってしまったら、僕らのほうが危なかったかもしれない。リミッターが外れるというのかな。。他を生かさず殺さずで、守らなきゃいけないような状況にして、足を引っ張らせる。その中で先にニーアを倒すってのが、現実的な戦い方かな。」

「そこまでかよ、Sランク冒険者二人でも後れを取るってのか?ずいぶんと冷静というか慎重な分析だな。」

ダミアンが少し納得がいかないという表情で言う。

「確かに、身体的能力だけで言ったら、俺たちのほうが上だろうけど、何か、内に秘めたものというか、得体のしれない何かを隠し持っているって感じがしたんだ。」

「なるほどな、言わんとすることは分かる。全身鎧で身を包んで秘密を持ってますって感じだったしなあ。」

「うん、まあそこじゃないんだけど、、、とにかく不思議な感じだった。自分より強いものでも負けないと思わせる何かがある感じだ。あの雰囲気はおそらくは勇者の称号を持つものの何かじゃないかな。正しいかはわからないけどね。」

「仮面をかぶっているからわからなかったけど、勇者パーティの一人ってことか。つーことは、アイか、アストレア、アンナのうちの誰かってことか。」

「そうだね、いわゆるトリニティエースの一人だね。あくまで、その可能性があるんじゃないかって話だけどね。魔王討伐の後、王国でゆっくり静養いるって言われているけど、最近はあまり詳細を聞かなかったよね。」

「もしもそうだとすると、勇者パーティ様が魔王を倒した後でなんでこんな辺鄙な島に来てるんだろうな。」

「もちろん、全然違う人かもしれない。最近は冒険者の成長が著しいからね。僕らの知らない若手が台頭しているのかもしれないし。」

「そっちの方がありそうだけどな、Sランク以上の冒険者もどんどん増えているしな。最近の冒険者のパワーバランスがおかしいぜ。まあ、それと同じように魔族側も強くなってきているって話だが。。」

更に、スタークが続けた。

「まあ、魔族に対抗するために強くなるってのが今回の修行の目的でもあるからね。話を戻すと、僕は、それに加えて、シンイチ君に非常に興味を持ったよ。最初、こっそり鑑定スキルで彼のステータスをのぞき見させてもらった。ニーアのステータスは認識妨害か何かのスキルか魔法を使っていたようで残念ながら見れなかった、、シンイチ君の魔法の資質、何属性あったと思う? 5属性だよ、自分の目を疑ったよ。」

「はあ!?馬鹿な、俺ですら3属性だぞ!見間違いじゃないのか?」

ダミアンの言葉にスタークは首を振った。

「そもそもあいつはタンクじゃないのか、槍を持って盾も構えていたぞ。てっきり重騎士とかそういう類かと思っていたぜ。」

ダミアンがさらに声を荒げる。

「うん、だからなおさら気になったんだ。君と同じタイプだよ。スタイルは槍使いのタンクなのかもしれない、でも絶対魔法も使えるはずだ。簡単に倒れない魔法使いほど厄介なものはないからね。」

「う、なるほど、そうか。俺と同じタイプか。。それは、ちょっとおもしろそうだなぁ。今度会ったら稽古でもつけてやろうか。」

ダミアンは気を取り直して楽しそうに言った。

「君がそんなことを言うなんて珍しいね。いいのかい?君よりも強くなってしまうかもしれないよ。」

スタークも楽しそうに返す。

「ああ、俺の女になる予定のニーアの仲間だしな。手厚く保護するってもんよ。冒険者としてやっていくなら強い奴は一人でも多い方がいいさ、魔王は倒されたと言ってもまだまだ魔族の脅威は依然残っているからな。」

「へえ、そんな高尚なこと考えているんだね。それよりも、あの告白は本気だったの?初対面で告白とか、不審者以外の何物でもないと思うよ。ちょっと無理なんじゃない、諦めたほうがいいと思うよ。」

スタークが冷めた目でダミアンを見ながら言った。

「へっ、馬鹿いえ、まだ出合ったばかりで始まってもいないというのに諦めるとかないだろ。さっきお前が言っていたようにもしも勇者パーティの一人だとすると、俺の女を見る目はかなりのもんだろ。そういうお前こそなんだよ、便乗してきやがって。あれは完全に冷やかしだよな。」

「はは、さてどうかな。また会えるといいね、もちろん味方としてだけど。」

そんな会話をしながら二人は再び山を登っていった。


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