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第三話 再会

「なんで慎一がここに?やっぱりこれは夢なの!?」

思わず声に出して言ってしまったが、もはや意味が分からない。

取り敢えず慎一をたたき起こすことにした。

「ん、アイちゃんどうしたの?今日は土曜日でしょ、お休みなんだからゆっくり寝させてよ。」

「それどころじゃないって、ちょっと起きてよ!」

そう言いながら何度も慎一の体をゆする。しばらく続けたところで目をこすりながら慎一がようやく体を起こした。

「もう、何なのさっきから、、うわっ!なにこれ!? こ、ここどこっ!?」

周りを見渡しながら、何が起きているか理解できず混乱している。

そりゃそうだよな。。ここがどこか知っている人でも気が動転するのに、ましてや知らん人はなおさらだろう。人が慌てているところを見ると逆に自分が冷静になれるというのは本当のようだ、自分の心が落ち着いていくのがわかる。

藍は少し冷静さを取り戻したところで、思い出したかのようにわき腹の傷を治療するため水属性の回復魔法、ヒールウォータ(Lv10)を使用してみた。

案の定、魔法が発動し、わき腹の傷痕がみるみる消えていく。


「ねえ、これって夢じゃないよね?どうなってんの?確か昨日は7月2日金曜日で、夜になってからちゃんと布団で寝ていたはずだけど。。」

慎一は必死に昨日のことを思い出しているようだ、日付については藍の認識とも合っている。ということはやはり現実世界に戻っていたのも本当のことだったと考えるべきだろう。

ベッドから起き上がりおろおろしている慎一に、そばにあった枕を投げてぶつけてやる。

「いてっ」

と言って慎一がこっちを見た。

改めて見ると外見が少し大人になっている、身長も伸びているようだ。

そうだった、どういう仕組みかわからないが、こっちの世界だと実世界の年齢に2~3才くらいの補正が入っているのだった。なので、私もこっちでは17才、立派な大人なのだ。

ほうほう、シンイチ君はなかなかイケメンに育っているね、さすが私の弟だ。

そんなことを考えていると、慎一も同じことを感じ取っていたようだ。

「なんかアイちゃん、いつもと雰囲気違うね。少し大人になっている?やっぱ夢なのかな?」

「夢だって言えたらいいんだけどねー。でもそうじゃないみたいなの、実はね。」

藍はこれまでの経緯を説明してあげる。

以前にもこちらの世界に来たことがあり、その時に魔王討伐を成し遂げ世界を救った勇者となったこと、ようやく現実世界に戻ったと思ったら病院で寝てたこと、そのあとの身体能力の変化などなど。

慎一は完全には信じられないといった微妙な表情を浮かべている。そりゃそうだろう、仕方ないよな。

「じゃあ、アイちゃんもしかしてめちゃくちゃ強いんじゃないの?」

「あ、そうだ、ステータスを見てみようか。」

現実世界でステータスを見た時にはかなり弱体化していたけど、異世界に戻ってきてどうなっているのか気になるところだ。

「ステータスオープン。」

ステータスウィンドウが開く、Lv100で他のパラメータも魔王を倒した時とほぼ同じである。

Lv99がMaxでカンストだったはずなのでLv100になっているのが少し気になるところではある。。

「よし、これなら大丈夫!前とほぼ同じに戻っているわね。あ、そういえば、慎一のステータスはどうなっているのかしら。ちょっとステータスオープンって言ってみてよ。」

「えー、分かったよ。ステータスオープン!」

不安な表情を浮かべながらも、素直に従ってくれた。

驚きの表情で空中を眺めているということはちゃんと表示されているということだろう。

「どんな感じ?読み上げてみてよ。鑑定スキル持ちだと他人のステータスも見えるのだけど、私持ってないんだよね。」

「んーとね、レベル1、HP25、MP0、力4、速さ2、守り5、魔力3、精神4 だって。

残念、レベル1か~、まあ最初だからしょうがないか~。あれ、年齢が14歳になっているよ。」

安心とガッカリが入り混じったような言い方である。

一方、それを聞いた藍はにわかに心配になった。今の強さだとEランク冒険者にすらなれるかどうかといったところだろう。せめてレベル30くらいまで上げてCランク冒険者にはしておかないといろいろと厳しそうだ。欲を言えばBランク冒険者(Lv60以上相当)だが、さすがに来たばかりでそこまでは望み過ぎだろう。

こりゃさすがにあとで鍛えてあげないと即死だな。

そんなことを頭の中で考えていたが、不意に、即死?と引っ掛かりを感じた。

そういえば死んだらどうなってしまうのだろう、と不安がよぎる。

そして、先ほど治したわき腹の傷跡が現実世界に戻った時にも残っていたことを思い出した。その例を考えると、こちらで死んでしまうと、現実に戻ったときにも何かしら影響があるのではないだろうか。いや、あると考えておくべきだろう。最悪の場合、戻れなくなるかもしれない、、慎重にことを運ぶべきだろう。

というか、再び現実に戻れるのかどうかも今の時点ではわからないのだけど。。。


そんなことを考え始めると気分が憂鬱になってしまいそうになる。

あー、やめやめ! 藍は頭の中で気持ちを切り替える。

ともかく、しばらくは手厚く保護しつつ成長させてあげる必要がありそうだ。魔王も倒したあとだし、そこまでの脅威はないと信じたいところである。

気を取り直して慎一のステータスについてさらに質問をしてみた。

「ちなみに、スキルとか加護はどうなっている?次のページにスライドさせてみて、スマホでスワイプするような感じで。」

言われた通りにシンイチが手を動かし、表示された内容を読み上げ始めた。

「えーとね、スキルと称号は無くて、格闘の資質、槍の資質、守り(盾)の資質、魔法の資質、火の加護、水の加護、土の加護、光の加護、闇の加護ってなっている。」

「ふ、ふーん、まあまあね。」

資質4個で加護5個持ちですって!?藍は心の中で叫び声を上げた。

この世界では資質、加護ともに1つでも持っているとかなりすごいとされている。合計で2,3個あると英雄クラスである。勇者になった私ですら合計5個なのに計9個ってどんなチート性能よ!

「アイちゃんどうしたの?なんか変なのあった?」

「いや、大丈夫よ。色々資質があってよかったわね。」

そう言いながら、必死に平静を装う。

「あ、そうだ、加護持ちはなかなかレアだから、変なことに利用されないように勝手に他の人について行っちゃあだめよ。」

「分かっているよ、子供じゃないんだから、、」

少し不満そうな顔をしたシンイチだったが、知らない世界ということも有り納得してくれたようだ。

素直でよろしい。まあ、まだまだレベルも低いし、私の手のひらで転がしてやるわ、と心の中でほくそ笑む藍であった。


「ところで、その指輪、慎一にもついているのね。」

慎一のチート性能に対する心の中の葛藤を悟られないように藍は話題を変えた。

藍の小指についているものと同じ指輪が慎一の右手中指にはまっている。

「あれ、ほんとだ、いつの間に、、?」

慎一に確認したところ、元の世界にいたときには藍の小指の指輪は見えていなかったようだ。だが、こちらに来た今は、慎一も藍の指輪が見えているとのことだった。金曜日の寝る前はすごく光っていた藍の指輪だったが、今は光が失われている。藍がそのことに気づいたのはもう少し後になってからであった。


その時、コンコン、というノックとともにドアが開き、メイド服を着た女性が顔をのぞかせた。うつむきながら部屋に入ってきてふと顔を上げる、そして藍と目が合った。

「失礼しました!アイ様、お目覚めになられたのですね、少々お待ちください。」

そういうと、驚き慌てふためいてドアを閉めて走り去っていった。

何をそんなに驚いているのかと、二人とも不思議に思ったが、考えても分からないので、そのまま今後どうしていくか話をする。

暫くすると、遠くから騒がしく声が聞こえてきた。

かなりの人数がいるようだ、徐々に近づいてくる。そしてドアが開かれた。

先頭に立っている、セルディス王国の国王ターヒル・セルディスが嬉しそうに声をかけてきた。

「勇者アイよ、目覚めたか、本当によかった。魔王を倒したことで今生の別れとなるかもと思っていたが、意外と早いお戻りでしたな。」

続いて、王妃や王女も部屋に入ってきた。藍にとっては懐かしい顔ぶれである。さらに、宰相や護衛の騎士などがなだれ込み、十数名が部屋の中に納まった。それでもまだ人が入れる余裕がある広い部屋である。

「アイ様!またこうしてお話することができて大変うれしく思います。」

王女が目に涙を浮かべてうれしそうな笑みを浮かべ抱きついてくる。藍と同じくらいの年齢のはずだが、普段はとても大人びている印象だ。しかし、再会を喜ぶその顔は年相応に見えた。

「サーシャ王女、私も大変うれしく思っています。」

魔王討伐の祝勝会翌日の挨拶にしてはずいぶんと大げさだなと思いつつも、王族に失礼があってはならないため丁寧に返答する。

かしこまった藍を見て、慎一が普段とのギャップからこいつ誰?というような視線を向けている。しかし、この場は無視を決め込むことにした。

「サーシャ、はしたないですよ。王女としての節度を保ってください。アイ様、よくぞご無事で。ところで、その、そちらの方はどなたですの?」

ナサリー王妃が慎一を見ながら恐る恐る尋ねてくる。

「ああ、紹介が遅れました。こちらは私の弟の慎一といいます。なぜかわからないのですが、気付いたら一緒にこちらにいたのです。」

「まあ、なんと!勇者様の血を引く一族の方だったのですね。それはたいへん失礼しました。」

ナサリー王妃が頭を下げ、周囲がざわつく、そして、みな王妃に倣った。王族や国の偉い人達に頭を下げられるのはなんとも居心地が悪い。

「あ、そんな頭を下げないでください、何の問題もありません。それと、私の家族といっても、まだレベル1なのでとっても弱いですよ。」

慌てて、藍がフォローを入れる、変に期待されてもかわいそうだと考えて、藍なりのやさしさのつもりだったが、慎一は不満そうな表情だ。

挨拶を促すように肘で突っついてやると、気付いてくれたようで挨拶を述べた。

「初めまして、皆様。突然の来訪失礼いたします、慎一と申します。姉がお世話になっております。」

この辺の臨機応変さが羨ましい。いきなり見知らぬ場所に来て、心の準備もままならない状態で急に王様に謁見させられてもその場に適した挨拶ができる、小学生とは思えない処世術のうまさである(この世界では、見かけ上は若干年を取り、中学生くらいになっているのだろうが、それでも年不相応だと思う)。

「うむ、よろしくなシンイチよ。我々はそなたの姉、アイ殿に世界を救ってもらった身だ。そんな英雄の親族であるそなたを歓迎しない訳がないぞ。」

一息ついて、セルディス王が話を続ける。

「勇者パーティの中で目覚めたのはそなたたちが最初だ。実はな、あの日以来、君たちが帰ってきて祝勝会をした日のことだが、、いろいろと調査隊を派遣し調べさせたところ、分かったことがある。」

「あれ、私達ってそんなに眠っていたのですか?たくさん飲み食いしたからですかね。」

藍の質問に、セルディス王は周りを見回して答える。

「そのあたりも含めて説明したいのだが、ずっとこの場で話すというのも落ち着かんので、広間に来てくれんかね。アイ殿とシンイチ殿の話も聞きたいしな。」

確かに、決して狭くはない部屋だけれども、20名近くの人が集まって長いこと話をするにはさすがに手狭であった。しかも王族をずっと立たせたままというのもあまりよろしくはないだろう。

「気付かず大変失礼をしました、では、広間で続きをお願いします。」


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