第二十九話 Sランク
痩身ながら、巨大な斧を軽々と持った男が現れた。イケメンの金髪のロングヘアで長身のため、一見するとファッションモデルのような印象を受ける。
あの斧を軽々と扱っうことができるとは只者ではない、ニーアは直ちに警戒を強める。シンイチも何かを感じ取ったようだ。
「いやあ、申し訳ない。君たちのほうにモンスターを逃がしてしまったようだ、迷惑をかけたね。」
そう言って軽い感じで話しかけてきた。
ちょっとチャラそうな感じだな、とシンイチは思った。
「あら、気にしなくて大丈夫よ。いい修行になったわ。で、あなたはどちらさん?」
警戒態勢を取ったままニーアが言う。ああ、と気づいた感じでそのチャラそうな男は名乗り始めた。
「名乗るのが遅れたね、私は、スタークというものだ。」
そういうや否や、肩に担いでいた斧を突然あらぬ方向に投げつけた。一瞬で斧が見えなくなり、遠くの方でギェーとモンスターの絶命する声が聞こえた。そして、暫くして、巨大な斧が戻ってきてスタークと名乗るその男は片手でキャッチした。
「驚かせてすまないね、ちょっと厄介そうなモンスターが近づいてきていたから先に始末させてもらった。」
そう言ってさわやかな笑顔を浮かべた。いちいちキザなやつだなと思ったが、それほど嫌な感じがするほどではない。そう、この手の印象は程度の問題であることがほとんどである。あるいは、自分の親がたまにふざけてキザにふるまうことがあるため免疫があるとか?それにしても、あの斧、勝手に戻ってくるのはどういう仕組みなのか、、魔剣と同じ類だろうか? ニーアがそんなことを考えているとユータが横から割り込んで話し始めた。
「スタークさん!? Sランク冒険者「グランドストライカー」と呼ばれているあのスタークさんですか!?」
「ああ、いかにも。その呼び名は自分としてはどうかと思っているけどね。」
そう言ってスタークと呼ばれた男は苦笑いを浮かべる。
「お会いできて光栄です。僕は、Bランク冒険者のユータといいます。こちらは僕のパーティメンバのロザーティア、そしてAランク冒険者のニーアさん、とその仲間のシンイチさんです。」
そう言ってユータは握手をしてもらっていた。
ふうん、Sランク冒険者か、力、容姿全てを備える人っているのねとニーアは素直に感心し、ようやく警戒を解いた。
みんな順に挨拶をして、ニーアが最後に握手をしてよろしくというと、スタークがニコリと笑みを浮かべ応えた。
「なるほど、Aランク冒険者ですか、道理で見えないわけだ。。それにしてもシンイチ君といったかな、君はずいぶんと凄い素質を持っているようだ。」
ニーアはハッとして先ほど解いた警戒心を再び強めた。どうやら鑑定のスキル持ちのようだ。ニーア自身は妨害スキルがあるので、ステータスの詳細を見られるのを免れたようだ。
「ユータ、名乗る必要なんてないわ。勝手に人のステータスを盗み見るとはあまりいい趣味とは言えないわよ。」
ニーアが剣を構える。シンイチとロザーティアは驚き慌てて武器を構える。
「ニーアさん、まさか、スタークさんに限ってそんなことは。。。」
「一見、人が良さそうに見えるやつが悪人って話はよくあることよ。」
ニーアはスタークを睨みながら言う。
「いやいや、ごめんごめん、気を悪くさせてしまったら申し訳ない。君たちと敵対する気はないよ。勝手にステータスを見たことは謝るよ。ソロでやっている癖みたいなものでね、初めて会う相手は必ず「視る」ようにしているんだ。」
スタークが両手を上げて言い、さらに続ける。
「こんな世界だからわかるだろう?善人のふりをして、寝首を書いてくるような悪い奴が多いからね。しかもこの無人島にいるなんて、普通の人間ではないことは明らかだ。海賊の可能性もある。まあ、君たちの外見だとその可能性は低いと思ってはいたけどね。」
「ソロって言っている割にはもう一人いるようだけど?」
ニーアが警戒を解かずに尋ねた。
「ん、ああ。流石だね、この距離で気づくなんて。ちょっと待っててね。」
そういうと、空に向かって光魔法を数発撃ちあげた。どうやら集合の合図のようなもののようだ。
「今からこっちに来るように伝えたよ。普段ソロなのはその通りなんだけど、この島に来るにあたって、臨時のパーティを組んでいるんだ。」
そう言い終わるや否や。筋肉質の大柄な男が現れた。こちらはスタークとは対照的に短髪で容姿もハンサムとはいいがたく、良く言えば普通という感じだった。しかし、スタークよりもさらに身長が高く、かなり鍛えているであろう体は筋肉の鎧をまとったようで、全てを力でねじ伏せそうな迫力を感じさせる。
「どうした、スターク。こいつらは一体なんだ。」
ニーア達が戦闘態勢を取っているのを見て、それに対応するように警戒しながらゆっくりと距離を詰めながら大男が尋ねる。一瞬であの距離を移動して来るとはこの男も只者ではない。ニーアはさらに警戒を強める。
「やめるんだ、ダミアン。この人たちは敵じゃない。こちらが警戒させるようなことをしてしまったんだ。」
「そういういうことかよ、まったく、紛らわしいな。わーったよ。」
そいうと、戦闘態勢を解いた。
どうやら本当に敵対する気はないようだ。
ニーアもようやく警戒心を解いた。
「どうしても何か隠し事をしているって相手は経験上油断できなくてね。でも敵じゃなさそうってことは伝わったわ、くてよかったわ。」
「いや、賢明だと思うよ。僕もその考え方には同意だ。」
スタークが同意する。
「ダミアンって!ダブルエレメントマスターのあのダミアンさんですか?」
ユータがまたまた驚いた表情でつぶやいた。
「お、俺のことを知っているのか。まあ、有名人だからな俺は。」
「お二人とも超有名人ですよ!」
「おっ、そうか。スタークと俺、どっちが有名だ?」
ダミアンと呼ばれた大男が相好を崩しユータに聞いた。
「二人とも知らないわ。」
ニーアが横からそっけなく言う。ユータが驚き、慌ててフォローする。
「あの、ニーアさんは、暫くの間、冒険者として活動していなくて、最近の情勢に疎いんです。それでお二人のことは知らないのかと思います。なので気を悪くしないでください。」
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。」
スタークが笑顔で返す。
「ところで、ニーアさんは素顔は見せてくれないのかな?」
「そうね、申し訳ないけれど、初対面の人に見せるほどの素顔でもないのでこのままでお願いしておくわ。」
「ふっ、そうかい、それは残念だ。」
「僕たちですら見たことないですからね。」
ユータが口をはさむ。余計なことを、と思ったが、スタークもダミアンもそれほど気にしていないようなので許すことにした。
そのあと、お互いの状況を共有することとなり、スタークから話し始めた。スタークによると、二人ともさらなる強さを求めてこの島に来たようだ。威圧の上位スキル覇王のオーラというものを使ったところ、周辺数百メートルの範囲にいたモンスターがこぞって逃げ出したというのが先ほどのモンスターの大移動の原因だった。そして気配探知をしたところ、そのモンスターが倒されているのを察して、誰かいると判断し、こちらにやって来たという訳だった。
「お詫びのしるしといってはなんですが、一つ情報提供をしましょう。この島には巨大な二足歩行型のモンスターがいると言われています。私たちもそいつを狩りに来たのですが、2週間たっても未だ会えずじまいです。普段はあの山にいるらしいのですが。」
そういって東にそびえたつ島で一番大きい山々を指した。
「へー、強いの、そいつ?」
シンイチが興味を持った。
「ええ、Sランク冒険者がソロで倒せなかったようですから。力も早さもSランク冒険者以上らしいです。」
「それでSランク二人で来たって訳さ。」
「なるほど、それがギルドで聞いたSランクモンスターってことですかね。そんなのに出会ったらどうしよう。」
ロザーティアが不安そうに言う。
「既に知っていましたか。それならば山に登らなければ大丈夫だってこともご存じですかね。基本はあの二つ連なる山の中にこもって出てこないようなので。ただ、山の中には洞窟などもあって全ての範囲を捜索するのはなかなか難しいですね。そのモンスターも移動しているのかもしれない。」
「はい、教えていただきありがとうございます、山には近づかないようにしようという話はしていたので大丈夫そうですね。」
ロザーティアが安心したように言う。
「何言ってんだよ、行くでしょう!強い奴と戦うために来たんだから。」
ユータが横から口をはさんだ。うーん悩ましいところだ。ユータの言うこともその通りだが、さすがにSランク冒険者が勝てなかった相手に、A~Bランク冒険者パーティの我々が勝てるだろうかというと不安がある。ニーアは心の中で逡巡した。あまりに強すぎる相手だとレベルアップ以前の問題だ。
「ふふ、ユータ君、威勢がいいね。だが命は大切にしたほうがいいよ。あの山はそいつだけでなく、通常出会うモンスターもこの辺の森とは違って、ワンランク上のものが出てくる。冒険者は自己責任だから無理に止める気はないが、くれぐれも気を付けてね。」
「もう一つついでに教えてくれない?この辺は珍しい魔物が多くて、黒いスライムと、針ネズミみたいなトカゲ、あと巨大なダンゴムシくらいなのだけど、もう少し奥に行けば他の魔物も出てくるのかしら?あと、こんな植物を探しているのだけどどの辺にあるか知らない?」
ニーアはどさくさに紛れてクエストで受注した採取素材の場所を聞いた。
「ああ、モンスターはそうだね、もう少し奥に行けば山まで行かずとも出てくるものが変わってくるよ。さっき斧を投げて倒した奴なんかは比較的強いほうかな。修行にはちょうどいいかもしれないね、とは言ってもAランク冒険者のニーアにはちょっと物足りないかもしれないがね。見た目は大陸にいるのと似ているものでも、ステータスが格段に高いから油断はしないことだ。まあ、あの数を退けているからそれほど心配はないかな。因みに山には登らないみたいだけど、山だとまた一段上のモンスターが出てくるよ、どちらかというと大型モンスターだね。」
「ふうん、そうなのね。」
「あと、素材採取に関しては、細かい場所まではわからないけど極霊草と、エクセスフラワーはあの山の中で見たことはあるね。」
「あらそう、ありがとう。じゃあ、やっぱり山に入らざるを得ないわね。」
ニーアがユータとロザーティアを見て笑いながら言った。
「そうか、我々も一旦下山しただけだからまた山に行くと思うよ。あと1週間くらい入るつもりだ。何かあったらお互い助け合えるといいね。」
ふむ、どこまでもさわやかな人だ。私よりもよっぽど勇者っぽいのではないだろうか、とニーアは思った。
「じゃあ、僕たちはそろそろここで。」
スタークが背を向け立ち去ろうとしたとき、ふいにダミアンが言った。
「おい、ニーアとか言ったか。俺の女にならねえか?」
「冗談でしょう、ごめんだわ。私には仲間がいるし。」
突然の告白にニーアは驚きながら返事をする。
「ふっ、そうか残念だな。俺の女になれば、仲間も一緒に面倒見てやるぜ。まあ、今スグじゃなくても構わないぜ。気が変わったらいつでも教えてくれ。」
「じゃあ、僕も立候補しておこうかな。候補として考えておいてよ。」
つられて、スタークも求愛をしてきた。ダミアンがお前もかよという表情で少し嫌そうだ。
(実際は仮面で見えないが)顔を赤らめて黙っているニーアを残し、二人は去っていった。
「ふあー、びっくりしました。まさか、Sランク冒険者のお二人がパーティを組んでいるなんて、Sランクモンスターを狩りに来ていると聞いて納得です。やっぱり目標が高いですね。しかもニーアさんがお二人から告白されるなんて、、凄いです!」
ロザーティア感激しながら第一声をあげた。
「ふん、あんなやついやよ、私のタイプではないわね。まあ、悪い奴ではなさそうだったけど。大体、初対面でしかも素顔も分からない人に告白とかする?普通。」
「でも顔が分からないのに告白してきたってことは本当に内面を見ての告白なんじゃないですか?」
「そんな内面が分かるほど会話もしてないでしょう。」
ニーアは相変わらず、不機嫌そうだ。
「うーん、確かに言われてみればそうですね。。でもでも、どうですか、スタークさんなんて結構かっこよかったじゃないですか。」
「顔はね、でも性格はどうかしらね。あんな軽い感じで乗って来るなんで色々と遊んでいるに決まっているわ。」
ユータとシンイチの男二人は黙って女子のコイバナを聞いているしかなかった。




