第二十四話 港町オスティア
護衛任務完了の翌日、ニーアとシンイチは朝早く目が覚めた。前日に早くに就寝したせいかもしれない。朝食まで時間があったので街の散策に向かう。港町オスティア、名前の通り海に面した港町で漁業と交易で栄えるセルディス王国第3の都市である。海沿いの町というのは独特の趣がある。現実世界の自分たちが住んでいるところも海が近いこともあり、建物の外見は全く異なるのだが少し懐かしさを感じていた。
「あーいいね、こういう静かで落ち着いた感じ。王都もよかったけど少し人が多かったから。。僕的にはこっちの方が好きかな。」
「そうね、海が近いから潮の香りもして落ち着くのよね。」
シンイチの感想にニーアも同調する。
「こんな静かな感じだけど、一応、セルディス王国の中でも5本の指には入るくらいの大きな都市だからね。」
「へー、これで?人が少ないのは朝早いからとしても、建物もそんなに大きな建物がないね。この辺はまだ街の中心じゃないとか?ニーアは前に来たことがあるの?」
「もちろん、来たことはあるわよ。まあでも、こんな落ち着いて散歩とかはしたことはなかったけどね。いつも旅の途中で補給や何かの報告をギルドにみたいな用事があるときばかりだったから、ゆっくり滞在ってのは新鮮ね。街の中心は確かにもう少し先だけど、そレほど大きく賑わっているって感じではないかも。」
朝もやがかかる中進んでいくと、朝市が出ており、そこで食料品から衣料雑貨まで様々なものが売られている。小腹がすいたことも有り、魚のかば焼きのようなものを買い二人食べながら散策をした。
「帰ったら朝ごはんなのに。」
とシンイチにたしなめられたニーアだったが、
「大丈夫、大丈夫、これくらい。朝飯前ってやつよ。」
と気にしていない様子だ。そして、ニーアが食べ始めると、その匂いに誘われて、結局、シンイチも我慢できずに購入してしまうのだった。
市場でぶらぶらと見て回っているとき、ニーアはふと何者かの視線を感じた。かなり遠くですぐに気配が消えてしまったこともあり追いかけて捕まえるのは簡単ではなさそうだ。殺気に満ちた感じでもなく、すぐに襲ってくるようなものではなかったので放っておくことにした。一旦、宿に戻って朝食を済ませた後、再び散策することにした。思いのほか二人での散歩が楽しく、興味をひかれたのだった。大きな通りから細い道へ入ると、朝早くから開いている小さな魔道具屋を見つけ、そこに入った。
「へえ、いろいろあるんだね。」
シンイチが店の売り物を見て感心する。
「そうね、私が持っているのは例えばコテージとか、マジック収納Boxも収納できるサイズからするとかなりレアな魔道具なのよ。手に入れるの苦労したんだから。」
へー、とシンイチが感心しながら聞いている。二人の会話が聞こえたのか店主が話しかけてきた。
「ようこそいらっしゃいませ、旅のお方でしょうか。少し話が聞こえてしまったのですが、マジック収納Boxをお持ちとはすばらしいですね。そちらのお兄さんはまだ持っていないようですが、いかがです?最近、一つ仕入れることができまして。」
町のお店に入ることは極めて珍しいわね、とニーアは思った。
通常はダンジョンの奥深くに眠る宝箱から手に入れたり、Sランクモンスターを倒した際にドロップしたりと、いずれにしてもかなり低確率なので普通の店に並ぶことはほぼない。
「Sランク冒険者さんが、もう持っているからと店に売りに来てくれたのですよ。」
こちらの疑問を察してか、店主が教えてくれる。
ニーアは以前の旅ですでに入手しており、収納可能な容量もほぼ無限に近いので、もう一つ別の収納Boxがいるかというと微妙であった。しかし、シンイチに持たせておけば、はぐれたときの回復や、予備の武器防具を入れて戦闘中に自由に出せると便利かもしれない。
「ちなみにおいくらかしkら?あと収納の容量ってどれくらい?」
アイが尋ねる。
「はい、価格は金貨50枚です。収納容量は正確ではないですが、2、3メートル四方くらいのサイズまでなら入ります。」
「ええっ!そんなに高いの!」
シンイチが隣で驚いて声を上げた。現実のお金に換算して計算している。金貨1枚が5万円くらいなので250万円だ。今までの日々のクエストの報酬では銅貨や銀貨を貰っていたところに金貨で50枚ときたのだからあわてるのも無理はない。
「んー、ちょっと高いわね。金貨30枚くらいにならない?私すでに持っているからそんなに必要ってわけでもないのよね。」
すかさず値切りにかかるニーア。昔の冒険者時代の経験から得たもので、この世界では基本的に足元を見てくる人が多いので、なじみの店でない限り、値切る前提での価格となっている。そんなニーアを見て、またまたシンイチは驚きの表情を浮かべている。現実世界で値切ることなどないので、そんな姉の姿を見て驚くのは無理のない話であった。
数分間の交渉の末、金貨40枚でマジック収納Boxにサクリファイストーンという魔道具をつけてくれた。所持する人が致命傷を受けたときに一度身代わりになってくれるというものである。高レベルのアイと一緒に行動を共にする以上、シンイチは常に格上の相手と戦うリスクと直面する。そのため、万が一の時に備えておこうというアイの考えであった。こちらも通常だと金貨5枚は下らない代物である。
その他に、魔法を一つ保存しいつでも発現できる魔道具、ストアドマジック(消耗品)をいくつかつけてくれた。
「今後ともごひいきに!」
店主はご機嫌のようだ、よっぽどマジック収納Boxが売れなかったのだろう。上客を捕まえたと思ったのかもしれない。それこそ、上級ランクの冒険者じゃないと、金貨4,50枚を出すのは難しいし、そういった冒険者はたいてい既にマジック収納Boxを持っているものである。
より収納サイズが大きければ買い替え需要があったかもしれないが、それほど大きくないという点も値引き交渉の助けとなっていただろう。。
店を出た後で、はい、とシンイチに渡す。
「いいの?あんな高いもの買って。しかも2,3メートル四方ってそんなに大きくないよね。ニーアのマジック収納Boxはほぼ無限に入るんでしょ?」
シンイチがが驚きながらに尋ねる。
「まあ、私のはちょっと特別なのよ。シンイチも持っておいた方が絶対便利だから。2、3メートル四方くらいの大きさでも使い方次第なのよ、いろいろ考えてみてよ。」
勇者パーティの仲間の戦闘における使い方を教えてあげようかとも思ったがまだその域は早いかと思い直し黙っていることにした。
マジック収納Boxを買ったあと、別の道具屋や武器・防具屋をいくつかはしごし、収納Boxに入れるものを買いそろえた。一通り見繕ろったころには昼を過ぎていたため、レストランに入り昼食をとることにする。海鮮のチャーハンのようなものを食べた。
「んー!めっちゃうまい!」
シンイチが感激しながら夢中で食べている。米がこちらの世界にもあるのはとてもありがたいのだが、魚介類を生で食べる習慣はないためお寿司が恋しくなるのであった。お米を食べる習慣があるということも、実はニーアがセルディス王国を拠点としていた裏の理由の一つであった。
昼食の後、ブレイブファングのユータとの約束通り、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドに入ると中に人だかりができておりざわついていた。その中心にいたのはビースツガーディアンのメンバーだった。昨日までの護衛任務で倒したモンスターの素材引き取りをしているようだ。ミノタウロス、キングリザードン、オーガなど大型モンスターの素材が豊富でそれぞれ十数体、そしてなんといっても目玉は中級魔族の素材だろう。なかなか討伐されないため、市場に出回ることはほとんどないが、魔力を帯びた革が良い防具素材となる。みな興味津々といった形でレオンたちが出す素材をのぞき見している。その人込みをくぐり抜け、ギルドのカウンターに到着したニーアは素材引き取りの手続きを始めた。ニーアに気づいたレオンが声をかけてきた。
「ああ、君たちか。我々と同じように素材の買い取りかな。」
「ええ、まあね。それと待ち合わせをしているのよ。」
ニーアはそう答えながら、シンイチと二人で討伐した分の魔物素材をマジック収納Boxから出し始めた。大型モンスターなどの素材は持っているが、上級魔族には逃げられたので残念ながら今回は目玉となるような素材は持っていなかった。
討伐した素材の買い取り金額計算を待っていると、ライジングサンのメンバーもギルドに入ってきて、ニーアとシンイチの姿を確認するなり、ツォーガがレオンと何か小声で相談を始めた。そして、突如、演説を始めたのだった。
「おい、みんな聞いてくれ。今回、魔族の襲撃を防ぎ、ビースツガーディアンも偉業を達成することができたが、正直、わたしたちだけでは魔族の襲撃を跳ね返すことはかなわなかっただろう。やり遂げられたのは、そこにいるニーアとシンイチの助けがあったおかげなんだ。シンイチは守りに、回復に、攻撃にとまさにありとあらゆる面でわたしたちの、いや、全てのパーティのフォローをしてくれた。シンイチがいなければ我々のパーティは体力と魔力切れで、討伐はおろか生きて帰れなかった可能性すらあると思っている。」
レオンの演説に周りの聴衆がおおっ驚きと尊敬のまなざしでシンイチを見る。
「俺たちもシンイチに助けられたぜ!」
「私たちのところもよ!」
それらの声の主は、一緒に旅をしたBランク冒険者パーティのタフライブのタサダキとフェアリーサークルのテリアであった。
今度はツォーガが口を開いた。
「そしてなんといっても、そこにいるニーアは上級魔族を一人で抑え込んで、俺たちが中級魔族と戦うことに集中できる状況を作り出してくれた!最後に横やりが入って逃げられてしまったが、上級魔族を圧倒していたんだ。」
ツォーガに続いて、さらにレオンも続く。
「正直、彼女は上級魔族より恐ろしい存在かもしれないね。まあ、それは冗談だが、彼女は味方にいると、この上なく心強い存在だよ。わたしたちはこの二人に感謝の意を表して中級魔族の素材を譲りたいと思う。」
こんなに褒められると聞いているこちらが恥ずかしくなるくらいだ。
しかし、魔族討伐で場のテンションが上がっているせいか、そのような見方をする者がいないようだ。うぉーという怒号と歓声がギルド内に響き、皆が大興奮で二人の若き冒険者を讃えている。
「シンイチどうだ、受け取ってくれるか。」
シンイチの前に立ちレオンが尋ねる。
「でも、レオンさんたちの大事な報酬じゃないですか?」
「いやいや、中級魔族以外の素材は売却済みで、他のモンスターも大量に狩っていたから、暫くは遊んで暮らせるくらいは稼がせてもらったよ。」
レオンが答えた。ニーアの顔を窺うようにしてみるシンイチ、フルフェイスの奥でニーアの目は笑っていた。
「はい、ありがとうございます。では受け取らせていただきます。これで僕の防具を強化させてもらいたいと思います!」
力強く宣言するシンイチ。
「ああ、使ってくれ。良い防具になると思うよ。あと、昨日はあいさつできなくて済まなかった。君たちがいろいろな人とのあいさつで大変そうだと思ったので遠慮させてもらった。どうせすぐ会えると思っていたからね。」
そういうことだったか、とニーアは納得した。同行したほぼすべての人たちと丁寧なあいさつをしていたので、かなりの時間がかかったのは確かだ。
レオンの言葉を横で聞いていたタイガは、ふんっ、と不満そうに鼻を鳴らした。
「これで貸し借りは無しだ。せいぜいいい防具を作って死なないように備えることだな。お前みたいな馬鹿正直な奴はめったにいないからな、だまされて早死にしがちだ。」
相変わらずのツンデレが発動しているようだ、笑いをこらえるのに必死になる。
きつい言い方だが気にかけてくれているということは、伝わってくるので安心したのだった。
しばらくして一連のセレモニー(?)が終わり、ようやく人もはけてギルド内もいつもの日常を取り戻した。
その間にギルド職員による計算も終わり報酬を受け取った。護衛の報酬の銀貨40枚と、モンスター討伐の素材買取で金貨15枚となった。クエスト報酬より討伐報酬が段違い大きい。これでも、とどめを他のパーティに任せたりしていたので本来貰える金額よりも少なくなっているほうだ。さらに今回のクエスト達成でシンイチがCランク冒険者に昇格することができた。依頼主のオムニさんからギルドに名前指定で頑張ってくれたという報告があったようだ。
嬉しそうにほくほくしているシンイチを横目に、ニーアは周りを見渡し隅のテーブルにブレイブファングの副団長のユータの姿を見つけた。シンイチの手を引っ張っていき、そのテーブルの席に着いた。
「ごめんね、待たせたわね。」
「いえ、大丈夫です。それにしても凄い人気でしたね。実際、ニーアさん、シンイチさんには僕らも助けられましたので、ツォーガさんやレオンさんと同じ気持ちでしたけど。」
「そお?みんなで協力したおかげじゃない。誰かが特別ってことはないと思うわよ、冒険者同士お互い様じゃない。」
ニーアの言葉にシンイチも何度もうなずいた。
「それで相談って、どんな話かしら?」
「はい、今回の戦いで僕たちのパーティは2人の仲間をセージとアラタカを失いました。今後どうしていこうかと残ったメンバで話をしようとしているのですが、Aランク冒険者であるニーアさんのアドバイスをいただけたらと思いまして。」




