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第二十二話 再始動

亡くなった冒険者の弔いから一夜明けて、全体として少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。経験が豊富なBランク以上の冒険者パーティばかりということもあり、不測の事態においても冷静さを保っている。しかし、けが人の回復を待つ必要もあることからその場でのキャンプを2,3日延長することをよぎなくされた。

その間に、動けるメンバーを中心として、倒したモンスターの素材回収を進めた、中級魔族討伐や大量のBランクモンスターに襲撃されたことを冒険者ギルドに証明する必要があるためだ。上級魔族の襲撃は討伐できなかったため証明するものがないが、依頼者のオムニをはじめ、みなで証言することになった。

本来であれば自分たちの収入となり嬉々として素材回収する状況だが、大きな被害が出た後で、かつケガでまだ動けない人もいる状況ということもあり、作業は少人数で静かにゆっくりと進められた。ニーアは他のパーティ―のヒーラーとともに負傷した冒険者にヒールウォータで治癒を続け、シンイチは近くの森に入り薬草の採取をして回復薬づくりの手伝いに勤しんだ。モンスターや魔族との戦闘でヒーラーのMPもかなり消費していたため、回復魔法だけでなく回復薬も併用しての治療をする必要があったためだ。

「シンイチって言ったっけ?採取スキルは優秀だね、ぜひ回復薬を調合できる錬成スキルも鍛えるとよいと思うよ。そうしたらどこのパーティでも重宝されるような存在になれるぞ。」

「はあ、ありがとうございます、そうなんですね。」

Bランク冒険者パーティ ピースシーザーの副団長のティークェイにそういわれたのは、採取した薬草を三回目に渡しに行った時だった。薬師になる気はないのでシンイチは聞き流していたが、その後も何度か熱心に勧められたのだった。落ち込んでいるシンイチを元気づけようと気を遣ってくれていたのかもしれない、と気づいたのはかなり時間が経ってからだった。


予定外の日程の延長となり、まだ目的地までは数日かかることを考えると食糧が不足することが懸念される。そんなわけで食事を節約していこうとツォーガが提案した。レオンやオムニと相談したうえでの決断とのことだったが、ニーアはそれに反対し、自分のマジック収納ボックスに格納されている予備の食料を皆に提供し豪華な食事をふるまうと主張した。

「ニーアさん、すみませんね。持ち出しで食料を提供してくださって。」

本来、護衛任務中の食事は依頼主が負担するのが普通だったため、オムニが申し訳なさそうに言った。

「いいのよ、こんな暗い雰囲気になりそうな状況だからこそ、食事くらいは豪勢にしてみんなに元気を出してもいたいって思うのよね。ずっと収納ボックスに入れっぱなしになってたものなので気にしないでください、腐らせてももったいないですし。でも、残念ながらお酒は持っていないですけどね。」

マジック収納ボックスに入っている間は腐ることなどないのだが、恩着せがましくならないようあえてそのような言い方をする。

「いえいえ、お酒がなくても十分過ぎるほど贅沢な食事ですよ、大変助かります。おっしゃる通りですね、全体の士気が上向きそうです、私達は大事なことを見落とすところでした。」

オムニが並べられた料理を見ながら嬉しそうにしたその時、後ろからビースツガーディアンのジライヤが声をかけてきた。

「これも一緒に料理してくれ、みんなで食べよう。」

振り返って見ると、大きな猪を引っ張っている。タイガと一緒に急遽狩りに行ってきたとのことだった。食事を節約して残りの旅路を乗り切るということはしたくないという思いはニーアと同じだったようだ。

「おお、これはすごい大物ですね!ジライヤさん、タイガさんありがとうございます。」

再びオムニが嬉しそうにお礼を言った。

最終的には豪華な食事となり、生き残ったメンバーは空腹を我慢することなく、心行くまで食事を堪能することができたのだった。


滞在三日目にはニーアたちの懸命な治療のかいもあり、けが人も順調に回復し体制を立て直すことができた。十分すぎるほどの食事もあり、みんなの気持ちも切り替わり、雰囲気は良くなっているように感じる。もちろん、犠牲者が出たパーティとしては複雑な心境だろうが、それでも、全体としてこの任務は完遂するという意思を再形成するところまではできた。

その夜、食事の後にニーアはAランク冒険者パーティーのリーダーである、ツォーガ、レオンと話をしていた。模擬戦での戦闘技能や、上級魔族を一人で抑え込んだことで、すっかり実力を認められていた。いよいよ明日から旅を再開するということでその方針を決めるための話し合いをしたいとの申し出があり、ニーアも一緒に参加することになった。


「魔王が倒されたというのにこんなにたくさん魔物が出るなんて。。噂には聞いていたけどひどいありさまなのね。」

ニーアが切り出すとレオンが頷いた。

「ああ、魔王がいなくなったことで、魔族を抑制するものがなくなったからね。魔族内での派閥争いのようなものが起きている、という話もある。」

「そんな、、、じゃあ、わた、いや、勇者パーティが魔王を討伐したのは、余計ないことだったのかしら。」

「うーん、俺的にはもうかるから今の状況はありがたかったけどな。狙われることが多くなった一般の市民にはたまったもんじゃないかもな。」

ツォーガがのんきに言った。

「いやいや、そんなことはないさ。魔王が魔族を統制していたのは、人族に大きな戦いを仕掛けるために兵隊を減らさないようにしていたからって話だろう。そんな戦いが起こっていたら国の一つや二つは滅んでいてもおかしくなかっただろうさ。それを食い止めたんだから、やっぱり勇者パーティーは人々のために偉業を成し遂げたといえると思うぜ。そこまで一般の市民は理解していないかもしれないけどな。」

とレオンがフォローした。

「そう、ですよね。。」

ニーアがつぶやいた。レオンの言う通り魔王は人族を滅ぼし世界を支配する準備をしているとかねてから言われていた。魔王と対峙した時もその質問をぶつけてみたが否定はしていなかった。だが、今の人が魔族に襲われやすくなっているという現実を目の当たりにすると魔王討伐が正しいことだったのか自信を持てなくなることもまた事実であった。

「まあ、そんなことを気にする前に、まずは、オムニさんの依頼をしっかりこなすことを考えないとな。」

ツォーガが気を取り直すように呼びかける。その言葉にはほかの二人とも同意だった。

「もう一回、同じレベルの襲撃が来たらかなりつらいな。みんなの傷は癒えたとはいえ、今回の襲撃でかなりの犠牲が出てしまった。残ったBランク冒険者パーティも人数が減っているし、魔法系職業のメンバーのMPも完全回復しきっていないやつがほとんどだ、戦いの中でレベルアップしている者がいるとは言ってもやはり全体として戦力が落ちているのは間違いないだろう。」

レオンが言う。

「ああ、そうだな。この二日間休んだおかげで多少はましになっているだろうけど、あれだけ極限状態で魔法を酷使すると、完全回復には1週間はかかるだろうな。」

「そうね、私も体力は8、9割くらい、MPはまだ6,7割くらいの回復具合ってところかしら。」

体中が筋肉痛のように張りが残っている程度で、魔力の方は完全回復とはいかなくとも特に問題なさそうだ。

「それでも十分回復が早い方だ。大体、ニーアは回復魔法を使ってみんなを治療していたんだろ。」

ツォーガが呆れ気味に言った。

「もしも次に同じようなことが起きたら、長期戦になるのは、得策じゃない。先に雑魚をせん滅しておいたほうがいいかもしれない。」

レオンが提案する。ツォーガは頷きながら続ける。

「それで行くとして、誰が先鋒を務めるか、だな。」

「じゃあ私とシンイチで先に雑魚を倒して回ってもいいわよ。守るだけなら人数が多い方がいいだろうし。離れたところで広範囲の魔法を打ち込めば早いと思うからね。」

「この間のあれか。」

ツォーガが苦笑いする。雑魚モンスターにインフェルノスマッシュをぶちかましたのを思い出したようだ。ニーアもえへへとフルフェイスの中で愛想笑いを浮かべた。

「そうだな、それが一番早いし確実だろう。もしもモンスターの数が多ければうちのジライヤも加わらせろう。その間に俺たちが大物の相手をしておく。他のBランク冒険者はオムニたちを守りつつ打ち漏らしを狩るって感じだな。俺たちだけで倒せれば言うことなしだが、倒せなくとも粘ることくらいはできるだろう。で、ニーアたちが戻ってきてから一気に攻勢に転じて、一緒に倒すって寸法だな。ニーアたちには負担をかけてしまうかもしれないが、いいのか?」

「わたしはOKよ。」

レオンの問いにニーアも同調した。ツォーガも隣でうなずいた。

さらにレオンは続けて提案をした。

「あとは馬車の配置なのだが、今までのように長く伸びて移動すると、護衛する人数が減っている今の状態ではどうしても対応しきれない部分がでてきてしまう。そこをどうにかしたいと考えている。荷物を少し詰めて積んでもらい、運搬の馬車を減らす。冒険者が乗っていた馬車も減らす。これで馬車の数を1/3くらいは減らせるはず。そうやってコンパクトにすることにより、前後の連携を取りやすくしたい。」

「そうね、いいと思うわ、明日オムニさんに提案してみましょう。」

本当は自分のマジック収納Boxに入れればもっとコンパクトになる、と提案しようかと思ったが、さすがに一冒険者の懐に荷物を入れるというのは不安だろうと考え、思いとどまった。

「よし、編成や、戦闘時の立ち回りはそれで決まりだな。みんなへの通達は明日の朝でいいよな。じゃあ明日に備えて早く寝ようぜ。」

ツォーガがそう言って立ち上がった。

レオンも立ち上がったが、不意にニーアのほうを振り返り声をかける。

「シンイチ君には本当に助けられた、改めて礼を言いたい。この護衛任務の開始前に無礼な振る舞いをしたことも謝罪させてくれ。」

ニーアはゆっくりと頷きながら応える。

「そうね、任務前の態度は気に入らなかったけど、謝罪を受け入れるわ。モンスターの襲撃に対して、協力し合うのはお互い様じゃない、だから気にしないで。」

「ふっ、そう言ってもらえるとありがたい。うちのタイガは口は悪いがシンイチのことは既に認めているようだ。ちょっと素直じゃないところがあるというか、、とにかく悪気はないんだ。あいつにもちゃんと言って態度は改めさせるよ。」

「そうなの、いわゆるツンデレさんってことかしらね。」

「ん、何だ、つん・・?」

「いやいや、こっちの話よ。」

独り言のつもりが聞こえてしまったかとニーアは苦笑する。もう少し可愛げがあればいいんだけど、あんなゴリゴリのいかつい冒険者でツンデられても、と思わず吹き出しそうになった。

「すでに気付いているかもしれないが、彼の、シンイチ君の純粋さは、強さであり、弱点でもある。壊れないよう我々のような周りの人間が守ってあげなければいけない。」

「ええ、分かっているわ。戦いの後、シンイチのケアをしてくれてありがとう。」

ニーアは深々と頭を下げた。

「いやいや、お礼を言っているのはこっちだぜ。」

レオンは笑いながら去っていった。


次の日朝から、ようやく次の目的地に向けて出発した。

お互い負傷者の手当てでバタバタしていたこともあり、ニーアはシンイチのことが心配になり声をかけた。

「気分はどう?大丈夫?」

「うん、ありがとう。ショックが残っていないというとウソになるけど何とか、、俺、頑張るよ。」

「そっか、あまり無理はしないでね。現実世界と比べるとこの世界は身体的にもつらいけど、それ以上に精神的にきついはず。いかに私たちの世界が平和かってことよね。」

「そうだね。人が亡くなるところをこんな目の前で見ることになるなんて、普通に生活していたらないよね。でも、現実世界でも紛争とかやっている国があるよなって思ったんだ。日本に生まれたってだけで、それって結構甘えなのかもと思ったりして。すぐには慣れないと思うけど、これからはそういう面に関しても覚悟を持って戦って行くよ。」

なんとも頼もしい言葉だと思った、ニーアが思っているよりも、シンイチは精神的にかなり成長しているのかもしれない。そんなことを考えているとシンイチが質問をしてきた。

「ねえ、ただ座っているだけじゃなくてなんか修行ってできないかな?前に教えてくれた歩きながら魔法を発動しておくのもいいのだけど、なんかもう慣れちゃって。これよりももう少し負荷が強いことができるといいのだけど。こうしている間でも少しでも強くなれないかなって思ってさ。」

「んー、前も言った通り、基本的に私たちは護衛の任務中だから、こうやって待っているときも常に万全の状態にしておかなきゃいけないのだけど。。。そもそもMPはまだ回復しきっていないんじゃないの?」

「え、もうとっくに完全回復しているよ。」

「あ、そうなの、私ですらまだ完全じゃないってのに、回復能力も高いわね。じゃあこんなのはどうかしら。魔法を属性ごとに順に発動していくの。もちろん攻撃魔法じゃなくて、こんな感じ。」

そういって、手のひらを上に向け、水球を作り出し、そのあとすぐに光の玉、小さな竜巻、そして雷魔法としては小さな静電場を作った。

「こうやって交互に練習することで魔法発動時間の短縮と、魔法の具現化の訓練になるわ。」

「ありがとう。やってみる!」

シンイチの目にも少し光が戻ったようだ。

「あんまりやりすぎて疲れないようにね。モンスターの襲撃時に疲れて使い物になりませんだとシャレにならないからね。」

「うん、わかっているって。」

そう言いながらすでに没頭し始めているようだ。

こうしているほうが気が紛れて先の戦いのショックを引きずらずいいかもしれない、立ち直って前向きになっているのはポジティブに捉えよう。シンイチの姿を見てニーアはそんなことを考えていた。


幸いにして、その後は特に大きな襲撃もなく、二日後には次の目的地であるビスク村に到着した。

こぢんまりとした村ということもあって、翌日にはすぐ出発となる。

アイは自由時間になってから、村の外に出て剣を構えた。シンイチは宿で休んでいる。

「今よりさらに強くなるにはどうしたらよいのだろう。」

思わず口にしてしまう、中段に構え剣先を見つめながら考えるが答えが出ない。このままモンスターと戦い続けていれば強くなっていけるだろうか。今と同じことをしていても、能力としては上がらないような不安に駆られ、強くなるには今の自分には何かが足りない気がしていた。何か新しく強力なスキルでも覚えることができたら、もう少しシンイチも安全に戦えるかもしれない。。


シンイチほど深刻ではないが、ニーアとしても上級魔族のアドベアニスに時間をかけすぎたせいで、全体の手助けに入るのが遅れてしまったという思いもあった。

一時間ほど剣を振ったが何かをつかめるわけでもなく徒労に終わってしまった。

「スランプかしらねー、いや、こんなもんかな。」

とつぶやいて宿に戻っていった。すぐに何か強くなれるとは思っていなかったのでそこまで落ち込むことはない、今は少しでもあがくしかないという思いであった。


宿の部屋に戻り、兜を外しているとシンイチが嬉しそうに話しかけてきた。

「ねえねえ、見てよ。闇魔法も使えるようになったよ!」

そう言いながら手のひらの上にある黒い雲のような塊を見せた。

「へえ、凄い!よく会得できたわね。」

「うん、実はこないだの戦いで魔族から闇魔法の攻撃を受けて、それで感覚がつかめたんだよね。」

「えっ!魔法攻撃を受けたの?そんなの聞いていないわよ、どこに受けたの?大丈夫なの?」

ニーアがおろおろしながらシンイチの体を調べ始めた。

「この通り大丈夫だって、心配しないで。」

シンイチが笑いながら言う。

「心配するに決まってるじゃない! 状態異常にする魔法もあるんだから。」

ニーアがちょっと怒ったような顔で答えた。一通りシンイチの体を見て特に問題なさそうなのが分かったのでようやく安心した表情になった。

「今度、戦いのときに実際に使ってみよっと。覚えた闇属性魔法は相手の体力を奪うことができるんだよ。これで疲れることがなくなるんじゃないかな。」

いかにも楽しみといった表情で無邪気に話している。相手から奪う量より多くのダメージを受けたら、体力も減って魔法の発動どころじゃなくなるだろうにと思ったが、折角期限よさそうにしているので黙っておいた。


次の日の朝早く、滞りなく準備を終え再び出発した。

道中は穏やかなもので、小型・中型サイズのCランクモンスターの襲撃が2,3度あったものの、魔族のような強敵との遭遇はなく、平和な旅程となった。シンイチもその中の戦いで早速闇属性魔法を試し、周りのメンバーを驚かせていた。相手から体力を奪って回復できるなんて、よく考えたら結構なチート魔法である。但し、まだ闇属性魔法を覚えたてでレベルが低く、それほど多くの体力を奪えるわけではない。それでも、軽い傷などはすぐに回復できてしまうようだ。シンイチの魔力が上がり、魔法の習熟度も上がってきた際には本当に疲れ知らずの戦士になれるかもしれない。ニーアは、闇属性魔法のレベルを早く上げるためにも積極的に使うようシンイチにアドバイスをしてあげた。一方でニーア自身も、新しいスキルの習得に向けて襲ってきたモンスターを練習台としていろいろ試してみた。しかし、何も得ることなく、数日ののちに無事に護衛任務の最終目的地である港町オスティアに到着することとなった。当初の予定から3日遅れでの到着であった。


シンイチ:

Lv 40→51、HP 415→525、MP 370→425、力124→146、速さ122→144)、守り195→206、魔力165→220、精神105→127。 火魔法Lv3→Lv4、水魔法Lv3、土魔法Lv3、光魔法Lv3→Lv4、風魔法Lv1、闇魔法Lv1

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