第二十話 決着
戦況が少し落ち着き、心に余裕ができたところで、シンイチは森の奥に消えたニーアの戦いがどうなっているか気になっていた。
先ほど、レオンには、こっちは大丈夫だからニーアを助けてやれと言われたばかりだ。
魔王すら倒したという勇者パーティのメンバーだったニーアが負けるところはなかなか想像できないが、相手はAランク冒険者たちでさえ恐れおののく上級魔族である。一人で戦うのはさすがに厳しいかもしれない、、、と不安が募っていた。
そんな不安を抱えながら、ニーア達がいなくなった方へ向かって森の中を走っていると、数分してようやく遠目にニーアの姿を発見した。まだ戦闘は続いているようで、上級魔族と激しい戦いを続けている。魔族のほうはボロボロでかなりのダメージを負っているように見える。ニーアの方も鎧が一部破損しており戦いの激しさを物語っていた。
少し距離を取って対峙していたが、互いに間合いを詰め再び接近戦になると思った瞬間、魔族が全身から針のようなものを飛ばし、ニーアを攻撃した。しかし、ニーアはとてつもない速さの体裁きと剣裁きですべてかわし切った。おそらく身体強化スキルか何かだと思ったが、人間とは思えないえげつない動きだとシンイチは思った。次の瞬間には斬ったのかよくわからないが、上級魔族が吹き飛ばされ岩壁に叩きつけられていた。もはや勝負がきまったかのように見える。
勝利を確信したのかニーアもスキルの使用を止め、動きが普通のスピードに戻っている。
ニーアが1歩、2歩と近づいたとき、魔族は周辺を暗闇に包む魔法を使用し、自身とニーアをその闇の中に包んだ。魔法の射程距離なのか、認識している対象が範囲なのかわからないが、幸いシンイチのところまではその魔法の効果は及んでいない。その闇の空間の上に高くジャンプをした魔族が現れた。そして空中で極大闇炎魔法の詠唱をしているようだ。膨大な魔力が急速に練られていく。さすがのニーアもこれを直撃しては無事では済まないかもしれない、そんな不安に駆られる魔力量であった。
「ヘルフレア!」
魔族がニーアいるであろう闇に包まれた空間をめがけて魔法を発射する。その直前にシンイチもニーアを救うべく飛び出しており、走りながら光魔法シャイニングボールを上級魔族に向かって放っていた。シャイニングボールの命中により魔族の詠唱が少し乱れ、練り上げられた魔力が少し発散したことが感じ取れた。これで魔法の威力を減少させることができたはずだ。さらに走りながら先ほどのシオンから教えてもらった通り、敵の極大魔法をめがけ、連続でシャイニングボールを発射する。だがこちらは、敵の魔法の威力が大きすぎて妨害の効果があったのかわからなかった。そのままニーアに向かっていく、まずい、間に合わない。そうシンイチが思ったとき、
「エンハンスドエアスラッシュ!」
ニーアの声とともに闇に包まれた空間に直撃寸前まで来ていた闇魔法「ヘルフレア」の黒炎が切り裂かれ消滅した。ニーアを包んでいた闇も切り裂かれ霧散していった。
エアスラッシュの上位スキルを繰り出し魔法を相殺したようだ。さらにエアスラッシュを数発放ち魔族を迎撃する、全て命中し、魔族は着地もできずに落下した。
ニーアは走って近づいて来たシンイチの方を向いた。
「危ないところっぽかったからさ。みんなを助けてやれって言われたけど、ニーアの手助けをしてはいけない、とは言われてないし。。」
シンイチは慌てていい訳っぽく説明をした。
「ふふ、生意気ね。でも、ありがと!」
怒られるかとも思ったが、それなりに消耗しているようで、お礼を言われてしまった。やはりそんな簡単に行く相手ではなかったということだろう。手助けした自分の選択が間違いではなかったとシンイチは感じていた。
「にしても、ニーアって魔法も切り裂けるんだ、ちょっとやばいね。。」
ニーアの強さを認識していたつもりだったが改めて、規格外だと感じ思わず口に出た。
「まあ、魔法剣士だからね。普通の物理の剣術だけだと厳しいと思うけど、さっきのスキルも半分は魔法みたいなもんだし、魔法と魔法ならぶつかるでしょ。」
なるほど、と納得するも普通の人ではそんな簡単にできることではないのだろうと感覚的に思う。
「もしかして、手助け、要らなかった?」
「ん、いやそんなことないわよ。魔法の威力を弱めてくれたから私自身のダメージもないし、助かったよ。」
兜の中の目が優しく笑っている。
「さ、とりあえず今度こそしっかりと終わらせましょう。」
そう言って上級魔族アドベニスの方を向いた。
「くそっ、なんなんだお前は!」
「ただの、Aランク冒険者よ。今度こそもう終わりかしら。」
先ほどのヘルフレアが奥の手だったらしく、それが無効化されたことで動揺が隠せないようだ。さらなる抵抗を見せる気配はない。
ニーアが間合いを詰め、剣を構えた。
シンイチはハッとして、思わずニーアの前に立った。
「待ってよ、ニーア。 もう勝負はついたんだし、何も殺さなくても。」
「ちょっと、シンイチ、何言っているの?魔族なのよ、このまま逃がしたらまた人間を襲うにきまっているわ。倒せるときに倒さないと、被害を受けるのは一般の市民なの。」
「そんな、何か理由があるのかもしれないし。。何か話し合えば解決できるかもしれないよ。」
「ふっ、小僧、とんだ甘ちゃんだな。俺が人間を狩るのは経験値稼ぎだ。俺たち魔族は人間を狩ることでレベルアップし強くなれる、お前たちがモンスターを狩って強くなるのと同じようにな。それ以上の理由なんてないさ、今倒しておかないと後悔するぞ。」
「ほら、シンイチ聞いたでしょ、自分が強くなるためには、人間を犠牲にしてもいいと思っている、こいつらはそんな考えなの、分かり合うなんて無理だわ。」
「でも、、」
その時、森のほうからニーアめがけて魔法攻撃が飛んできた。距離をとってかわすニーア。
1体の中級魔族が姿を現し、アドベアニスの近くに来た。あとを追ってライジングサンのメンバーもやってきた。
「アドベアニス様、一旦、退きましょう。」
動けないアドベアニスを抱え大きくジャンプする。
「逃がすか!」
ペドロが三連魔弾という、剣の先から魔法の弾を銃のように発射する。
しかし、一瞬早く中級魔族が転移魔法を唱え、二人の姿が消えた。
「ちっ、だめだったか!」
ペドロが悔しがっている。
「まあ、こちらもギリギリだったから退けられてよしとしよう。」
サブリーダーのシモンがなだめる。
「そうね、別に敵をせん滅することが目的じゃないし、、そういえば、オムニさんたちは無事なの?」
「ああ、こっちに来る前にツォーガ団長が確認した、問題ない。」
「それなら良かったわ、あくまで私たちの任務は雇い主の護衛なのだから。他の戦況も確認しにいかないと。」
ニーアも同調しみんなで急いできた方向に戻っていく。しかし、ニーアとしてはとどめを刺しておきたかったというのが本音だった。さっきのアドベアニスの話が本当だとすると、魔族は人間を倒すことで成長する、そのために今後も人間を襲い続けるだろうし、次はさらに強くなっていて確実に勝てる保証もないのだ。
手分けして、ほかの冒険者パーティのフォローに回り、Aランク冒険者たちの助けにより、全ての戦いを終わらせることができた。ビースツガーディアンは中級魔族を討伐したようだ。しかし、戦いを終え全員が集まった時に笑顔はなかった。




