第十七話 襲撃
モンスターとの連戦に次ぐ連戦で、みな疲労がたまっているようすだった。
「さすがに疲れたなー。」
「ああ、戦闘が多すぎだ。」
「だが、おかげで今回の任務はかなりのもうけになるぜ。まだ旅路の半分くらいだってのに、討伐したモンスターの素材だけでも二か月分以上稼いだぜ。早く任務を終えてパーっとやりたいな。」
そんな話をしながら、しばしのリラックスタイムを過ごしている、一部の魔法職の冒険者が火を起こし始めていた。
休憩を終えそろそろテントの設営を始めようかという時、ニーアは魔物探知スキルによりこれまでとは比較にならないほど強い魔物の気配を感じた。すぐに臨戦態勢を取った。シンイチもニーアのただならぬ雰囲気に本能的に何かを感じ取り構えた。他のAランク冒険者も数名は何かを察知しているようだ。
「何かくるわ!」
ニーアが叫ぶ、シンイチの表情にも緊張の色が走った。気が緩んでいたB、Cランク冒険者たちにも慌てて戦闘準備をし始める。
ドーン、という大きな爆発音が何度も響き、辺りに火の手が広がり始める。その火を乗り越えるようにして瞬く間にモンスターの大群がキャンプ地を取り囲んだ。
「おいおい、Bランクモンスターの中にAランクモンスターのギガントオークやベヒーモスまでいるじゃねえか」
ピースシーザーのカイヅが悲鳴に近い声を上げる。
「いや、正確には両方ともBランクモンスターだ。ただ、Bランクの中も上位種で、ソロ討伐ではなく、Bランク冒険者パーティで挑むのが必須、複数のパーティで組んでのレイドが推奨されていたはずだ。」
ライジングサンのペドロが冷静にコメントをしている。
セージも自身のパーティメンバーに声をかけた。
「疲労困憊のこのタイミングでこれだけのモンスターを相手にするのは骨が折れますな。ユータ、体力的に大丈夫ですか。」
「はい、疲れて動けないなんて言ってられないですよ。」
ユータの返答にセージが頷いた。
「俺たちAランク冒険者もいる、慌てず冷静に戦えば切り抜けるはずだ。」
ツォーガも周りのBランク冒険者達を落ち着かせる。その声で冒険者たちが落ち着きを取り戻そうとしたのもつかの間、モンスターの群れの中にひときわ体格の大きい魔物がゆっくりと歩いてくる。
「送り出したモンスターがすべてやられたからどんな奴がいるかと来てみたが、少しは楽しめそうかな。」ら、大したことなさそうだなぁ。」
オーガのような発達した筋肉質な体つきに、熊のような爪と体毛をまとったその魔物が言った。
低く太いその声にみな恐怖の感情を抱かずにはいられない。
「ひ、人の言葉を操れるということは中級魔族か!?」
ピースシーザーのカイヅが驚きの声を上げた。
「くっくっく、何も分かっていない。中級魔族ってのはこいつらのことさ。」
その言葉が合図であるかのように、コウモリのような羽がついた人型の魔物が2体、闇の中から姿を現した。
「アドベアニス様、皆殺しでよいですよね。」
「力の差がありすぎて相手の力量が分からないとは、人間はかわいそうだな。あまり大した経験値稼ぎにはならんかもしれんが、さっさと楽にしてやれ。」
それを聞いて2体の中級魔族が笑みを浮かべながら前に出てくる。
「くっ、こりゃ、、やばいな、あの言い方、あいつは中級魔族より上ってことなのか?」
カイヅがつぶやいた。
「おそらくは上級魔族だな、Sランク案件だぞ。中級魔族2匹ってのでもAランクでも十分厳しいってのに。。」
レオンが、緊張した面持ちで答えた。
「ふん、ランクランクと、縛られやがって、お前ら人間どもが勝手に作り出したランクで俺たち魔族の力を計りきれるとでも思っているのか。」
アドベアニスと呼ばれた魔物が少し興ざめといった表情を浮かべる。
その間、ニーアは気配を抑えじっと観察をしていた。周りのモンスターは30体程度、今の護衛パーティの戦力は、Aランク冒険者パーティは自分とシンイチのパーティを含めて3(実際はシンイチがDランクなのでDランク冒険者パーティというべきかもしれない)、Bランク冒険者パーティは5、Cランクは2である。連日の戦闘に続き、今日だけで5回襲撃を受けて連戦で消耗した状態で、魔族3体とBランクモンスターの群れという状況はかなりキツい。魔族以外のモンスターについても、大型サイズのモンスターが複数体混じっており、決して雑魚とは言えない状況である。
突然、上級魔族が大きな咆哮を上げた。
「うぐっ、こ、これは。」
「う、動けない。」
Bランク冒険者のセージ、ユータの体が咆哮に硬直し動けなくなっている。
「スタンの状態異常か。」
リューレンが叫んだ、他の冒険者も状態異常にかかっているようだ。Aランク冒険者たちはさすがというべきかスタンを受けずに動けている。
「リューレン、治せるか?」
「ああ、だがこの人数を治すのは時間がかかりそうだ。」
「そうか、頼む、時間は稼ぐ。」
ツォーガは首をパキパキと鳴らし前に出た。シモンも並ぶ。
「ほう、何人かはやれる奴がいるようだな。動けないやつはさっさとやっちまえ。」
アドベアニスと呼ばれた魔族が指示を出す。中級魔族の2体が黙ってうなずく。次の瞬間、素早く移動し、動けないBランク冒険者の首を狩りに行く。
キーン! という高い金属音が響く。
もう一つのAランク冒険者パーティ、ビースツガーディアンのレオンとタイガがそれぞれ中級魔族の攻撃を受け止めた。
「ふん、それなら数で押しつぶすまでだ。あと何人動けるかな」
アドベアニスの言葉にレオンとツォーガに焦りの色が浮かぶ。
「エリアキュアウォーター!」
ニーアが水属性の範囲状態異常回復魔法をかける。
「おお、身体が動きますな。」
「ニーアさんありがとう。」
Bランク冒険者たちのスタンが解ける。
「ちっ、めんどくせーやつがいるな。」
アドベアニスがニーアを見た。
「シンイチ、動けるね?」
アドべアニスの視線を無視して、シンイチに確認、黙ってうなずくシンイチ。ニーアはそれを見て覚悟を決めた。どうせ逃がしてはもらえなさそうだ。
「ツォーガさん、ライジングサンで中級魔族1体をお願いします。ビースツガーディアンでもう一体を。ほかのパーティは周りの魔物の討伐とオムニさんたちを守って。」
ニーアがみんなに指示を出した。
「オーケー引き受けるぜ、剣姫の命令とあっちゃ断れねえな。お前ら気合い入れろよ。」
「ビースツガーディアンも引き受けた。」
それぞれのパーティのリーダであるツォーガとレオンが快諾してくれた。
「なんで俺たちがあんな奴の指示を受けなきゃいけねえんだ、気に食わねえな。」
「タイガ、そんなことを言っている場合じゃないぞ、みんなで力を合わせないと乗り切れない局面だ。」
「あー、くそっ、わーったよ。」
リーダーのレオンにたしなめられ、タイガも渋々ながらも了承したようだ。
レオンとツォーガの指示によりB、Cランク冒険者パーティが半円上に位置し、中心にいるオムニたちを守るような布陣を取ることになる。
皆の瞳に闘志が戻ったように見える、これならすぐにやられることはないだろう。
改めてシンイチの方を向いて声をかける。
「シンイチ、あなたはまだやれるわね。」
「うん、大丈夫だと思うけど。」
「あなたは遊軍として自由に動いて、他のパーティの危ないところを手助けしてあげて。遠慮はいらないから、魔法も体術も槍術も全て出しきるつもりで思いっきりやりなさい。」
今までにない真剣な声だ、シンイチは思わずその迫力に気圧された。
「りょ、了解、ニーア! でもあの一番強そうなやつは、、、?」
「あいつは、、、わたしがやる!」