第十六話 交流
他の冒険者の模擬戦が続いている中、ニーアの元に対戦相手のリンカがやってくる。
「参ったわ、あなた凄いわね。さっきはゆっくり挨拶もできなかったけど、私はリンカよ。ライジングサンのメンバーで拳闘士をやっているわ。さっき戦って分かっているかもしれないけれど体術をベースとするジョブね。」
「ありがとう、リンカ。あなたの攻撃も鋭かったわよ。連続突きも速くて何とかしのぎ切れたって 感じで、そのおかげで勝てたってとこかも。」
暫く雑談が続き、ニーアとリンカが友情を深めたようだ。会話がひと段落したところで、シ日の方を向いた。
「シンイチ、あなた、今度リンカに体術を教えてもらったら。凄く動きが速いし、技と技の間のつなぎ方も滑らかで勉強になると思うよ。」
「そんなこと言って、相手の都合も考えないと。」
シンイチが遠慮がちに断ろうとしたが、リンカは乗り気だった。
「あら、私は大歓迎。さっきの試合見ていたわよ、Aランク冒険者相手にいい動きしていたと思う。シンイチの戦闘スタイル面白いわね、どこかの流派なの?」
「いえ、独自です。あの、ご指導はまたの機会にということで。」
「へーそうなんだ、武器を使いつつ体術か、うちのパーティメンバーもできるようにならないかな。稽古はいつでもいいわよ、ビシバシ教えてあげちゃうよ。この護衛任務の道中でも、暇なときに気が向いたら声かけてね。」
「は、はあ。」
ニーアの模擬戦を見て、ライジングサン、ビースツガーディアンの両Aランク冒険者パーティメンバーにも大きな印象を植え付けた。
「おい、見たか。なぜあんな動きが、相手の次の行動の予測を正確にできる? なんかのスキルを使っているのか?!」
ビースツガーディアンのジライヤが興奮気味に叫んでいる。
「ああ、同じAランク冒険者同士の戦いとは思えないほどの差があったな。スキルを使っているようには見えなかった、おそらく戦闘経験の差が大きいのだろうな。」
レオンが冷静に分析する。
「まだまだ、本気を出してなさそうな印象を受けたぜ。しかし、Aランク冒険者同士なのに経験の差がそんなに大きいってことがあるのか!?」
「そうだな、一体どんな修羅場をくぐってきたのやら。あれに鍛えられていると考えると、先ほどの少年の冒険者ランクにそぐわない強さもうなずける。」
「うちのメンバーであれば大丈夫だよな?」
「さあな、俺でもどうかわからん、少なくとも今時点で確実勝てるという根拠はないな。」
「おいおい、マジかよ。」
レオンとジライヤが試合を見て感想を言い合っている。
「ちっ、気に食わねえ。あんな奴に負けるなんて、ライジングサンも腑抜けてんじゃねえのか。」
その二人の話を聞いてか聞かずか、タイガは相変わらず不機嫌そうにつぶやいた。一緒に護衛任務についている冒険者が強いということは、その分自分たちの負担が減り、任務成功率が高くなることを意味し、喜ばしいことである。それなのに、なぜそんなに不機嫌になるのか、タイガ自身もよくわからなかった。
他の冒険者同士での模擬戦はそのあとも続いていたが、ニーアの模擬戦後はいろいろなパーティのメンバが話しかけに来てくれた。二人の戦いに心を動かされたのか、特にDランクのシンイチがAランク冒険者相手にいい勝負をしたことが他のB, Cランク冒険者を奮い立たせたようだ。
そんな中でピースシーザーというBランク冒険者パーティに所属しているアキーヤとタケシン、そしてブレイブファングのユータは、シンイチよりも2,3歳程度年上だがほぼ同世代で話が合った。
「Aランク冒険者のジライヤさんを本気にさせるなんて凄いな。」
アキーヤが言うとタケシンも同調して黙ってうなずいている。
「最初の方はシンイチの方が攻め込んでいて、優勢だったよな。いつもどんな訓練をしているんだ、よかったら教えてくれないか。俺も早く強くなりたいんだ。」
ユータは食い気味に質問をしてくる。シンイチが普段の訓練内容を教えていると、ユータ達は言葉を失いそれは無理という表情を浮かべた、あまりの過酷さにひいてしまっている。
「そ、そうか。あんな化け物みたいな強さのAランク冒険者と毎日5,6時間模擬戦を続けていたらそりゃあ強くなるよな。」
「ちょっとそれは俺たちにはまねできそうもないや。」
ユータとシンイチがため息交じりに言った。
そこに初老といった感じの男性が近づいてきた。
「ユータ、強くなることに近道なんてないよ。いつも言っているように一つ一つ着実にだ。」
「あ、セージさん、はい、分かっています。それでも効率のいいやり方はないかと、参考にできるところなどあるんじゃないかなと思いまして。」
その初老の男はセージというブレイブファングのリーダーだった。
「シンイチ君と言ったか、その若さであれだけできるのは素晴らしい才能だ。だが、決して無理をしてはいけない。時には退くことも必要だ。」
「あ、はい。ありがとうございます、自分も姉、いや、ニーアにいつも言われてることですね。やはり冒険者の心構えとして重要なことなんですね、気を付けたいと思います。」
シンイチはいつも言われているため若干食傷気味だったが素直にお礼を言った。ニーアは心配性なのではといつも思っていたが、こうやって他の冒険者からも同じことを言われると身が引き締まる思いである。
セージは満足そうに頷いてさらに言葉を続けた。
「実は先日のモンスターとの戦いを少し見せてもらっていたんだ。あのときは魔法も使っていたね。あれが本来の戦闘スタイルなのかな。」
「いえ、何が本来のスタイルかというと微妙なところです。正直なところ、まだ探り探りって感じで、一番いい戦闘スタイルを見つけようとしているところですね。」
「なんと!? そうなのか。あれだけの動きができて、まだ手探りとは。将来が末恐ろしいというか、楽しみですな。それならぜひ、魔法特化にすることをお勧めしたい。私の尊敬する魔法使いは、魔法はもちろん超一流で、物理攻撃もできる万能型なのです。いまやSランクの冒険者になって活躍している。君ならそれに近いところに行けるのではないかと思っているよ。詠唱無しで発動までの速度も速いし、そもそも威力の面では魔力の密度が高いのか、やはり属性の濃度が、、」
何やらスイッチが入ったらしく、魔法への熱い思いを語り始めた。シンイチはそれに対してもいやな顔一つすることなくアドバイスとして受け止めている。セージと同じパーティのユータは、どうやら毎度のことらしく少しあきれ顔をして、少し距離を置いていた。30分ほど話をしてセージも満足したのか、立ち上がって他のメンバーと話に行ってしまった。
「シンイチ、ごめんな。うちのリーダー、魔法のことになるとちょっと熱くなるタイプで、、」
セージが立ち去った後、ユータが小声で言った。シンイチは問題ないという風に首を振る、実際、もっと落ち着いていろいろ話を聞いてみたいと思っていた。
ここまでの護衛任務でのモンスターとの戦闘でレベルが45まで上がっており、少なからずシンイチも自分が強くなっている実感を得ていた。しかし、この日の模擬戦で勝てなかったことやセージからの魔法に関する知識などにより、まだまだ自分に足りないものが多く、もっと上を目指さなくてはいけないということを知る良い機会となった。
その後3日間は毎日3,4度のモンスターの襲撃に遭いながらも、難なく退けていった。シンイチは余裕があるときは他の馬車のところへ行きアキーヤ、タケシンと組んでモンスター討伐を行っていた。
「今のコンビネーション良かったですね。」
シンイチがおとりとなりモンスターの攻撃を受け止めたすきをついてタケシンとアキーヤが横から攻撃をするといったオーソドックスな戦い方だったが、さすがにBランク冒険者だけあって二人とも息を合わせるのがうまく、数回の戦闘だけですぐに揃うことができた。
また、ユータともコンビを組み戦闘をしたり、セージのところでは魔法について教えてもらったりもした。
「二つの属性を合わせることで別の属性を作り出すということを知っているかね。例えば、土と、火で溶岩のようなものを作ったり、風と水の属性で嵐のような状態を起こしたりとかだね。どちらかの属性だけだと効果なくても両方合わさると効果が出るモンスターもいる。例えば鳥系のモンスターは水、風それぞれ単独の属性だとそれほど効果が大きくないが、合わせた属性だとダメージを与えやすくなったりする。」
「そうか、水でぬれた羽だと重くなって飛びにくくなる、そこに強い風属性の攻撃が来ると対応ができなくなるってことですね。」
シンイチの反応にセージも満足そうに頷いた。
シンイチにとってもこの数日間は程よい強さのモンスターとの戦闘が続き効果的な修行の場となっている。先日のAランク冒険者ジライヤとの模擬戦での負けが慢心を戒めるいいアンカーとなっている。
そんなシンイチを見ながらその成長に満足をしつつも、ニーアは次第にモンスターの襲撃の勢いが増してくる状況に違和感を感じていた。
「なんで、こんなにモンスターの襲撃が多いのかしら。マイドさん、普段からこんな感じですか。」
ニーアは執事のマイドに尋ねる。依頼主であるオムニとその執事であるマイドはニーア達とすっかり仲良くなり、気晴らしにと一日一回はニーアたちの馬車に話をしに来るようになっていた。
「そうですね、いつもより多い気もしますが。皆さん強く、大きな損害なく撃退できているので問題ないでしょう。」
特に不安はないといった感じで笑顔で答えた。
「はあ、そうだといいのですが、、」
そう言われるとニーアとしてもそれ以上踏み込んで聞きにくくなる。
「これくらいのほうがちょうどいいぜ、たくさん稼げてありがたい限りだぜ。」
前方の馬車を警護していたBランク冒険者パーティ、ピースシーザーのリーダー、カイヅが馬車の隣で話を聞いており、横から口をはさんだ。この状況を喜んでいるようだ。
確かに今のところ問題はないが、、いやな予感は解消していないが、みんなが喜んでいて、特段大きな問題が出ていない現状ではそれ以上不安をあおるようなことはできなくなった。
少し離れた場所で、同じようなことを思っている者もいた。ビースツガーディアンのリーダ―、レオンである。
「タイガ、お前、この任務前も受けていたよな。こんなにモンスターと遭遇していたか?」
「あー、? 確かに任務を受けたかもしれないが覚えてねえな。いや、そういわれるとこんなに忙しかった印象はないかもな。」
「そうだよな。。。 スタンピードというにはモンスターの数が少なすぎるか。」
スタンピードとは大量のモンスターが発生して押し寄せるさまで、その数は数千、数万という規模にも及ぶため、今回の遭遇数の比ではない。
「何もないといいが、、」
それでもレオンもニーアと同じように何か不穏なものを感じ取っていた。
そのあとも何度も襲撃があり、モンスターとの戦闘が激しくなる中でも問題なく討伐し、ようやく今日のキャンプ予定地に到着したのだった。




