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第十四話 護衛任務(2)

「すっげー、これがAランクか。」

「魔法剣士職の中でも最上位スキルの一つ、インフェルノスマッシュですか。初めて見ましたな。」

「昨日までのたどたどしい戦い方はなんだったんだ、実力を隠していたのか。」

周りの冒険者がざわついている。

シンイチが慌てて寄ってきた。

「ちょっとちょっと、ニーア!どうしたの急に。」

「いやあ、これまでの戦いがあまりにもいけてなかったから挽回しようと思ってさ、ストレス解消もかねて一発ね。冒険者の世界はなめられたら終わりだからね。」

「そうかもしれないけど、、それにしたって目立ちすぎだよ、勇者だってばれちゃうかもよ。」

「え、そう?大丈夫なはずよ、ちゃんとだれでも覚えられるスキルを選んで使ったから。」

実際、勇者しか使えないという固有スキルもあるため、冒険者ニーアの姿ではそれが制限となり使用ができないスキルや魔法もある。インフェルノスマッシュについては、少なくとも勇者固有スキルではなく、魔法剣士の剣技スキルの一つなので使用しても問題ないだろうという判断だった。

「それに、ちゃんと攻撃範囲内に味方がいないことも事前確認済みよ。」

得意げに言うニーアに対し、そういう問題ではないのだけど、、とシンイチはなおも不満そうな表情を浮かべている。

それを見てニーアも少しやりすぎたかなと思い始めた。たとえ勇者の固有スキルでなくても実際に使える人間がレアだと、同一人物と特定されかねない。

インフェルノスマッシュは高威力だが、少し溜めの時間が必要なため、通常の戦闘ではほとんど使うことがない。魔王との戦いでは高火力ということで需要があり、他のパーティメンバに時間を稼いでもらい使用したことがある。他にも単体で強かった敵には何度か使用した実績があるスキルであったが、他の冒険者に見られるような場面で使ったことはなかったはずだ。

だが、ニーアがそう思っているだけで見られている可能性もゼロではないため、そういう意味ではシンイチの懸念も一理あるかもしれない。よほどのことがない限りは人前では自重すべきだろうと反省した。


「なんだ、今のは?」

前方にいた、Aランク冒険者ライジングサンの副リーダ、シモンが声を上げた。

「おそらく、後ろにいるAランク冒険者がなにかやったんだろう。まあ、ソロでAランク冒険者やってるんだからあれくらいはやるよな。」

と隣にいたペドロが事もなげに言った。

「いや、逆にこの程度のモンスター相手にあんな大技を使わないといけないなんて大丈夫なのか。相手の力量を正しく測れないのか、あるいは、細かく立ち回るのは苦手で大技連発で力押しするタイプなのか。。」

リーダーのツォーガは腕組みをして少し考えこんでしまった。

「まあ、どっちにしろ、ちゃんと護衛任務の仕事をこなしてくれる分には問題ないだろ。」

ヒーラーのリューレンはあまり興味なさそうに言う。

ライジングサンのメンバー間でもニーアの残したインパクトについて評価が分かれていた。

「あまり気にしていなかったが、同じ護衛任務で背中を預けるものとして、正しく実力を把握しておく必要があるかもな。こいつらが片付いたら見に行ってみるか。よし、そうと決まればさっさとやろう。俺たちが引き付ける、シモン、ペドロ攻撃は任せるぞ。」

ツォーガがそう言うと、拳闘士のリンカとともに敵のヘイト集める。素早い動きで躱し、ポイズンワームの攻撃は当たらない。その間にペドロは承知したばかりに魔銃と呼ばれる武器を取り出し、次々とポイズンワームを打ち抜いていく。魔導士の杖の変形ともいえる武器で魔力を銃弾のように発射することができる。ペドロに打ち抜かれたポイズンワームをシモンが攻撃魔法でとどめを刺し次々と片づけていった。


ポイズンワームを片付けた後も、一緒に現れた小型モンスターを倒していく。ニーアのやらかし(?

)により、シンイチはすっかり緊張が解け、しかも昨日からの戦闘でだいぶ慣れてきたのか一人での立ち回りを思い出しつつあった。Bランクモンスターに苦戦したものの、勘を取り戻すにつれ体術と槍術を駆使して難なく討伐できるようになっていた、ニーアも複数のBランクモンスターを一度に相手をして難なく切り倒していった。最初は身体強化スキルを使用していたが、後半は通常の剣技だけで乗り切ることができた。

周りで戦っていた他の冒険者パーティはチームでモンスターを相手にするという形をとっていたのに対し、ニーアとシンイチのBランクモンスターをソロで討伐するというスタイルは少し異質に映っていた。

戦い方が安定してきたので、シンイチが一人でモンスターの相手をしている間、ニーアたちの前後の馬車を守っているB,Cランク冒険者パーティにヒールなど回復やバフをかけてあげたりと手助けもしてあげた。

「ありがとうな、助かるぜ。」

最初は懐疑的に見ていた他パーティのメンバーも、驚きとともにすぐに実力を認め、モンスター討伐後には尊敬と親しみを込めた丁寧な態度で接してくれるようになった。

「Aランク冒険者とは聞いていたけど、さすがだな。昨日はちょっと苦戦していたみたいだが。」

「あはは、昨日はちょっとね、、、久々の戦闘だったから。。」

「冒険者なのにモンスター討伐が久々ってことがあるのか?いや、まああまり深くは聞くまい。」

説明するのが面倒だったので、込み入って質問されることがなくほっとする。

「それにしても君は本当にDランクなのか?動きがCランクいや、Bランクといってもいいくらいだ。」

「ははは、ありがとうございます。なかなかランク上げをする時間が取れなくて。」

「それはいけねえ、さっさと任務をこなしてあげちまった方がいい、冒険者ランクが低いままだといろいろと不便なことがあるだろうからな。周りからの見え方とかな。」

「はあ、そうですね。」

同じ馬車で任務についていた、タフライブのリーダーのタサダキがシンイチにアドバイスを送る。

成長が速すぎて、ランクアップが追い付かないだけだがそれは黙っていることにした。実際、特訓が多すぎて、ランクアップに必要なギルドの任務数をこなすことができなかった。

ニーア達よりも前方、全体の中央辺りの馬車で警備をしていたAランク冒険者のライジングサンのメンバーもわざわざこちらに来てお褒めの言葉をいただいたが、どちらかというとどんなやつなのか様子を見に来た、という印象をニーアは受けた。それでも、シンイチには他のAランク冒険者が注目しているということでおだて、気分を乗せるようにしてあげるのであった。

因縁のあるビースツガーディアンは先頭の馬車で、今回は後ろの手助けに来ていなかったため、ニーアとシンイチの活躍には気付いていないようだった。


その後、何度かモンスターの襲来があったものの、勘を取り戻した二人は問題なく退けることができ、他のパーティも大きなけが人を出すこともなく、3日間と半日をかけて最初の経由地であるラスコ村に到着した。

ラスコ村は人口2000人くらいと村と呼ぶには大きめの規模といってよい。主に農業で生計を立てており、また、王都と他の町へのハブの役目をしているため、ある程度交易も盛んに行われている。オムニ商会も毎回この村でいくつかの物資を卸しているとのことで、今回も物資の取引のため丸一日滞在することとなる。

ニーアたち以外の冒険者は、村に着くなりみな酒場に向かっていった。

「じゃあな、お二人さん。また明日な。」

「二人とも、いい腕してたぜ!」

「明日以降もよろしく頼む。」

ニーアとシンイチは依頼人であるオムニ一行に誘いを受け、村で唯一のレストランへご飯を食べに行くことになった。主人であるオムニと、マイドという執事の4人での食事となった。

「ここのお代は私が持ちますから、好きなだけ食べてください。二人とも素晴らしい活躍だったと聞きました。」

「そんな大した活躍でもなかったですが、ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます。」

丁寧にお礼を述べる。こういった場合、変に遠慮せず、素直に受け入れるのもこの世界における礼儀ということを勇者時代の旅で学んでいた。

「すみませんが、事情があってこの兜は取れないので、失礼なのは承知な上でこのままでいただきます。」

ニーアがフルフェイスを脱げないことを詫びると、オムニは特に気にする様子ないようだ。

「いえいえ、かまいませんよ。冒険者さんはみなさんいろいろな事情を抱えていると思いますので。」

と事もなげに言った。

最初はどんなことを話そうか緊張していたシンイチだったが、さすがは商売人という感じで、オムニ達がうまく話題を振ってくれたおかげで緊張もすぐにほぐれていった。

「おいしー、野菜が新鮮、シャキシャキしているわね。」

「このお肉の味付けもいいね、照り焼きみたいな味でめっちゃ好み。」

この3日間は他の冒険者に合わせて質素な料理を食べていたせいもあり、新鮮な料理を食べ、二人のテンションもつい上がってしまう。それを優しい目で眺めていた依頼主のオムニ・ファルビスが口を開いた。

「ふふ、お二人を見ているととてもBランクモンスターを倒す冒険者には見えないくらいお若いですね。私にもあなたたちと同じくらい、いや、年はもう少し上かな、息子がいましてね、つい手を差し伸べたくなるのです。」

「そうなんですか、息子さん、今は家にいるのですか?」

「いえ、冒険者になるといって2年前に家を出て行ったきりです。やんちゃな盛りというか、末っ子だったので甘やかしすぎましたかね。親の言うことを聞かず出て行ってしまいました。一応、定期的に妻のもとに手紙が来ているらしいので、無事でいるようなのですが。」

「そうなんですね、それは心配でしょうね、心中お察しします。」

「でも、生きているならそれでいいんじゃないですか。やりたくないことやらされても、うまくいかないだろうし。」

シンイチが横から急に口をはさむ。

「ちょっと。」

ニーアが空気を読みなさいとばかりに慌てて制するが、オムニさんが笑顔でうなずいている。

「いえ、シンイチさんの言う通りですね。本人がやりたいことをやらせてあげるのが一番なのかもしれませんね。今頃どこで何をしているやら、、、お二人は今後色々と旅を続けるのですか?もしもオムニ・アントニオという名前の冒険者と会うことがあればよろしくお伝えください。」

「はい、そうですね。会うことができたらお父さんが心配していたと伝えます。」

シンイチの返事にうなずきながらもオムニは少し寂しそうな表情を浮かべる。オムニさんは本当は自分の事業を継いでほしいのだろうとニーアは思った。

「せっかくの食事の場がしんみりするのは良くないですな、さあさあ、どんどん食べましょう。」

そのあとも、商売の話、家族の話などで盛り上がった。オムニさんは一代で商会を立ち上げ、セルディス王国内でも有数の規模まで商会を大きくしたやり手であった。商会はセルディス王国内にとどまらず色々な国に支店を出すまでとなっており、その過程を支え続けてきた家族たち、3人の姉妹が各国の支店をうまく切り盛りしているとのことだ。

すっかり酔いつぶれたオムニさんをみなで介抱しようとしたが、執事のマイドさんがあとは引き取るとのことでその場はお開きとなった。

「旦那様がこんなに楽しそうにお食事をするのは久しぶりでした。少し飲み過ぎたようです。シンイチさんとの会話で、自分の息子と食事しているように錯覚したのかもしれませんね。」

酔いつぶれたオムニを担いで、去り際にマイドが言った。


「さ、私達も宿に行きましょう。」

ニーアの声で二人も歩き始める。

オムニの後ろ姿を見てシンイチは父親の多佳棋を思いだし、少しだけ郷愁の念に駆られるのであった。

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